蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【雷鳴】Jリーグ 第10節 横浜FC vs ベガルタ仙台 (2-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ横浜FC戦のゲーム分析。横浜連戦。決戦の三ツ沢。ともに勝利が無い者同士、すべてを投げうってでも掴み取りたいものがある。雨のピッチに流れるのは、涙か、汗か、血か。水が滴る。試合開始の笛が吹かれる。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

似た者同士。狙い撃ちされる左フルバック

  仙台、横浜FCともに4-4-2を採用したこのゲーム。オリジナルのポジションからは大きく離れず、非常に固い入りをしている両者。今季、リーグ戦で勝ちの無い者同士、持たざる者の戦いで入ったと言える。序盤からボールを持ってゲームを進めたのはホームチーム。2CB+2CMFのボックス型ビルドアップに、両フルバックがワイドにポジションを取る。パスルートは、バックラインからフルバックにボールが入るサイド迂回ルートを選択。フルバックがボールを持つと、前線4人のアタッカーがオフボールランで、仙台ファイナルラインの背後を突くようなランニングを見せる。横浜FCのボール保持攻撃は、バックラインがボールを持っても大きな動きでポジションを崩すようなことはせず、リスクの少ないサイドからのボールで一気呵成にかかる形だった。

 一方の仙台。おなじみの必殺十八番4-4-2ゾーナルブロッキングで、裏街道をひた走る相手を封殺しにかかる。FWが相手CMFを基準にミドルからローブロックを組むのはいつもの形。特に右サイドは鉄壁の陣形で、右ウィング加藤千尋の縦切り、FW赤﨑の横切り、CMF上原、CB吉野、フルバック真瀬による中央カバーの多段守備陣形は何重にも防御陣形を張り巡らした要塞と化す。仙台は、中央から右サイドが特に固いので、横浜FCとしても無理攻めからのカウンターを警戒して突っ込んでいけなくなる。2人のCMFが仙台DFを避けるかのように、FW西村、赤﨑の横にポジション移動。ボックス型から歪な台形型ビルドアップになり、バックラインに余計なプラス2を作った。結果として困るのは前線の枚数が不足する決定力不足の正体的なやつだ。

 しかし、仙台も完璧ではなかったのが、左サイドだ。ボールを持っても、横浜FCの右サイド部隊に手を焼くことになる。横浜FCは、4-4-2のDFだけれど、ボールがサイドに入ると人意識強く、マンツー気味でDFを実行。右WG小川のスプリント能力をフルで発揮する形で、仙台左フルバックのタカチョーに圧をかける。左WGの氣田がレーン被りだったり、オフボールで相手を引っ張り出すランを繰り出せないことで、「人につくんだからサイドまで連れてってしまおうぜラン」という定石が無く、左サイドでのロストが非常に多くなった。ヘルプに来る松下にも相手がついてくるのでなおさら大渋滞といった悪循環に。幸い、バンダナをつけて髪が風で凄いことになっているFW、誰だっけか、足の速い、えっと、そうジャーメインなんとか、ジャーメイン良か。彼のセカンドプレスがプアで、平岡や松下にも少し時間ができたけれど、渡邉とポジションを変えられると、もう窒息状態だった。

 

耐えながら掴んだ伏線と両翼のダブル投入

 ちなみに左サイドは、ボールを持っていない時も難しい状態に晒され続けた。横浜FCは、右サイドでボールを持ってボールを回すと、逆サイドに展開。氣田のプレスバックを間に合わせず、タカチョーのところで1on1を仕掛ける。これは仙台とも似た形で、同サイドアタックを途中で止め、逆サイドに開けるオープンスペースで相手フルバックと1on1を作ろうとする。人が集まって詰まったところを打開する術がないからなのか、狙ってやっているのかは分からない。ただ、松下から真瀬へのロングキックの展開に、菅井直樹角田誠からのキックを思い出したりする自分がいるんだ。

 そんなこんなで、仙台としては攻撃面ではやはり難しい展開になっていた。ひとつの光明が、CMF松下のドロップによるCBと3on-lineを作ったところ。人意識の強い横浜FCとしては、FW対CBだったり、WG対フルバックの二項対立の方が単純だし、分かりやすい構図になる。そこで小さなズレを作ったのが松下のドロップだった。横浜FC右ウィング小川のスプリント能力を逆手にとって、CB-フルバック間にドロップした松下が、彼のプレッシャーを受け取る。こうなると、タカチョーがプレッシャーから解放され、氣田、FW赤﨑にも背後を突くスペースができる。小さなズレが大きなズレを作ることになる。

 後半開始から、CMF松下が左CB平岡の横にドロップし始める。おそらくハーフタイムでの立ち位置修正が入ったのだと思う。右はCB吉野、左はCMF松下が担当。ターゲットは、相手4-4-2の両翼、WGだ。翼をもがれた鳥は、羽ばたくことはできない。残念ながら我々が良く知るところだ。横浜FCがフリーズする。なぜなら自分の担当が聞いている場所にいない。次の指示を待つ状態に。この間に仙台は、真瀬、蜂須賀の両フルバックがワイドに高い位置を取る。そして、オッティ、マルティノスの両ウィングのダブル投入が決まる。

 この両翼が、相手ファイナルラインの背後に抜けるオフボールラン、ハーフレーンへのレーンチェンジを繰り出す。ワイドに張るフルバックとの連携で、相手ウィングに戦術的負荷を与える。『ダブルパンチ』だ。しかも吉野や松下がボールを持ってドライブしようものなら、その許容量はリミットブレイクする。このあたりから仙台がボールを握る時間とスペースができる。横浜FCとしては、ワイドはワイドが担当、中央は中央が担当とすることで人意識を再整理して対応。ただし、前線からのプレッシング、中盤からの押し上げが難しく、仙台が相手陣でのプレー時間が増えた要因のひとつとなった気がする。気がするだけ。いや、そうだと思う。だから、2失点目が余計だと言いたいんだ。

 

それでも雨中を闘い続けた者たちへ

 押し込む時間が増えていくなかで、セットプレーで同点まで食らいつく仙台。扉をこじ開けた西村拓真に、土壇場で同点にまで追いついたのは執念ともいえる。ボールをゴールを奪い取るんだと、最後まで戦い続けた。もっと理屈を詰められる気がする。気がするだけ。ただまあ、こういう氣、超えろ、の部分が消えかけていたなけなしの野心に少しばかりの燃料をくべたりするから、サッカーってのは分からないんだ。

 

考察

 お互い勝っていないなかで、同じ4-4-2にで難しいゲームだったと思う。特に攻撃面は、もともともっと攻撃的にふるまいたい理想のなかで無残にも散って、残ったのは切なさだけというのもまた、似ていた気がする。ただし、4-4-2のゾーナル守備において一日の長があったのは仙台だったか。横浜FCは相手陣内で前線からのプレッシングが成立する展開なら一発ドカンがありそう。春先の仙台だったら餌食だったかもしれないけれど、これも巡り合わせ。逆に仙台は、ポイントを競り合うカウンター型のチームの精神をすり減らせそう。でも逆に持たせられて精神がすり減るかもしれない。そんな組み合わせ、噛み合わせが歪な両者が拠り所にしたのはセットプレーでしたとさ。あと手拍子による後押し。あれが雨で消えかけた灯を青く静かに燃え盛らせた。

 

おわりに

 そこにあったのは、ミニ・ユアスタだった。突破力のある選手でイケイケ。CKでレッツゴー。これだよ。仙台を、ユアスタを、ベガルタ仙台を長年支え続けているゲームメイカーは。ボールを持つと縦に速く、早く攻めるのが今のベガルタ仙台。良いか悪いかは分からない。分からないけれど、これが血なのかもしれない。

 

「薬になれなきゃ毒になれ。でなきゃあんたはただの水だ」こう言ったのは、神原遠江だ。