しりとり
01
ある秋の、高校生の、男女2人のお話。
「なあ」
「何かしら」
「どうして、冬でも半袖短パンの選手っているんだろうな」
「……知らないわよ」
「なんかもう引くに引けなくなったっていうか。ここまで来たら貫こうとしてるのか」
「さあ?家を出る時は長袖長ズボンなのに、来る途中までで寒さで縮んでしまうからじゃないかしら」
眼を見開き叫ぶ。
「それだ!!!!!!」
「いや、絶対に違うし、そういう反応されると私が真面目に言ってるような感じでとても恥ずかしいのだけれど」
「まあ、ユニフォームも生き物だからな」
「急に反応に困るまとめに入らないでくれないかしら」
「真面目なことを言うと、冬に半袖短パンだろうが、別に興味ないんだけどな」
「私の恥じらいを犠牲にしたというのに良くそんなことが言えるわね」
「そんなことより、バス、何時に来るんだよ」
時刻表を眺めながら。
「仕方ないじゃない。今日は休日ダイヤで、あと30分は待たないといけないのだから」
「じゃあしりとりしようぜ」
「急に?急展開じゃない?さっきの事務的な質問から、どうして急にレクリエーション始まるのかしら」
02
「じゃあ俺からな」
「はあ……」
なかば諦め。
「ジョーイ・バートン」
「……」
「……」
「ほら、ジョーイ・バートン」
「………カッサーノ」
「…ルーニー」
「んー、イブラかなー」
「ひとついいかしら」
「ん?なんだよ」
「しりとり……よね?」
「ん、しりとり」
「初めのジョーイ・バートンで、ゲームセットなのだけれど」
「……」
「しかもなぜか『サッカー界の悪童列挙ゲーム』になっているし」
「……」
「……」
「天才!」
「違うわよね。絶対途中で軌道修正入ったわよね」
「んーまあいいんじゃないか」
「まー…別にいいのだけれど」
「それよりお前さ、好きな奴とかいんの?」
03
「!!!」
「ん?」
「き、急に何を言っているのかしら!!」
「別に急でもないだろ」
「急よ!!それはその……」
「なんだよ、教えてくれないのかよ」
「い、いえ、その、なんというか、あまりにも急で準備が……」
「は?まあいいや、じゃあ俺から言うわ」
「え???」
「俺が好きなのは……」
「待って待って待って待って待って!!!!」
「え?なんだよ」
「やっぱり急じゃない?こういうのはもっと、ちゃんと…」
「なんだよ『ちゃんと』って。応援歌か?」
「違うわよ」
「別に言うくらいタダだろ?」
「えっと、まあ、そうだけれど…いやタダでは無いというか……」
「じゃあ言うわ。俺が好きなのは……」
04
バス停に、バスが1台、やってきた。
「おい、バス来たぞ」
「え?え?今日って……ごめんなさい、時間を見間違ってたわ…」
「なんだよ。まあいいっか。ラッキーラッキー」
「続きはその……今度、今度でいいからまた教えてよ……」
「ん?あー、まあいいけど」
「(そんなに、一番好きな悪童サッカー選手が聞きたかったのか)」
「(あ!でも2人だったし逆に今がチャンスだったのかも……)」
バスは、2人を乗せて、次のバス停へと向かう。