W字型、M字型
「あと、センターバックが2人ということであれば、セントラルハーフ3人のW字型もありますよね。」
「そうね。特に、アンカーがいる4-3-3のチームが採用することがあるわね。」
「それもそのままの形ってこと?」
「ええ。ボックス型との違いは、3人いるセントラルハーフへのパスコースが多いこと。つまり、無暗にプレスをかければ、簡単に背後を取られてしまうということね。」
「しかも、アンカーポジションの選手がフォワードとセントラルハーフの間のスペースを使うわけですから、セントラルハーフもなかなかプレスをかけにくいって感じですよね。」
「前に前にプレスをかければ背後を取られてしまう。だからといってプレッシャーをかけなければ、ウィングやセンターフォワードの選手にボールが通る。まるで、突撃するだけ突撃して、肝心なことはお留守の八乙女さんのようね。」
「誰がカルロス・テベスよ!」
「ファン的にはそれで良いのではないかしら?」
「いやでもやっぱり、センターバックは2人、セントラルハーフは2人がいいわ!」
英国面。
こだわりと言うべきか。
「まあ、あなたのその、頑なにイギリス人ハーフ金髪キャラを守ろうとする主張は素直に褒めてあげるのだけれど、一応受け流しておいてあげるわ。」
「あんたこそ、ボール持ってないと死んじゃう部類みたいな、毒舌で斜に構えるキャラなんとかなんないの!それに流すな!3人だとどうもややこしいだけよ!」
「あら?あなたレベルになると、3人の関係性にすらついてこれないということね。残念ながら。」
「あーだから、八乙女先輩は、正妻戦争で敗北するんですね。お疲れ様でしたー。一応、それなりの景品は、用意していますよ。……ま、残念賞のポケットティッシュですが。涙ぐらいは拭けるでしょう?」
怖い怖い。
不敵に嗤う。
「だーーーーーーーーーれが負けたですって!!!それに聞いたことない戦争起こしてんじゃないわよ!!!」
「そうよ、東照宮さん。こんな跳ね返り金髪突撃女でも目上なのだから、敬った方があとあと面倒にならないと思うわ。それと私、平和的解決を迎えたいわ。」
「なによ宮城野原 詩!その朝廷ポジションから高見の見物してんじゃないわよ!」
「そうですよ宮城野原先輩。八乙女先輩を敬うかどうかは、後々の議論に回すとして、先輩の資源の独占は、控えていただきたいですね。限りある貴重な方なんですから。」
あいつはなんだ。
石油か何かなのか。
「そんな、あなたにぴったりなのは、アンカーがディフェンスラインに降りて3バック化してセントラルハーフ2人が中央に残るM字型かしらね。まあ、3バックになるけれど八十八乙女さん。」
「だ・か・ら・!!!他人の名前で遊ぶな!!!どんだけ数多くなってのよ!!!」
「あら、ごめんなさい、九九乙女さん。」
「か、掛け算!?」
「センターバック2人に、セントラルハーフ1人で合計3人ですが、今度はセントラルハーフが2人のパターンですね、M字型。」
「ええ。さっきの逆丁字型の場合、アンカーポジションに1人セントラルハーフがいるのだけれど、プレスのやり方によっては、アンカーへのパスコースを消しながらボールホルダーにプレッシャーをかけることができるわ。」
「そ、そんな恐ろしいことができるの…。実質、1人で2人を守っているようなものじゃない。」
「まあ、あながち間違っていませんよ八乙女先輩。プレスの基本は、相手のパスコースを切りながらですから。でなければ、背後を取られてしまう。」
「それをもう一人のセントラルハーフがいることで、パスコースを作って解消するのよ。」
「場合によっては、3バック化した両脇が2トップ脇のスペースを使うこともできる…。これも、二段構えですね。ピッチ全体で見れば、ビルドアップ隊5人、前線5人のW-Mシステムとも呼ばれるやり方ですね。」
「そうね。まあ、それについては今はいいわ。とにかく、このビルドアップというものは、こうやってプレスのやり方や形によっても変化するし、ボールをどう前進させたいのかによっても変わってくるものなのよ。」
「でも、空いてたら前線にボール放り込めばいんでしょ?」
身もふたもない。
たしかにそう。
「そ、そうね…」
「まあそうですね。」
「やっぱりフットボールって、正確で精密で緻密な、殴り合いね。」
言いえて妙。
「今日一番、いえ、人生で一番あなたに共感した瞬間よ八乙女さん。見直してあげるわ。」
「べ、別に良いことを言うために言ったわけじゃ、な、ないんだから!サッカーってやっぱり面白いなって思っただけよ…!」
「うわー、ベッタベタのツンデレですねー。僕、憧れちゃいますー。」
「あんたはねえ!もっと先輩を褒めるべきよ!!!」
サッカー与太話女子会は、もう少し続く。
人物紹介
宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタクなのは隠している。観る将。重力少女。
黒髪、肩ぐらいまで伸びた髪は変わらず。
八乙女・ヴィクトリア・李七 (やおとめ・ヴィクトリア・りな)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。
サッカーオタク。見る将。マンチェスター・ユナイテッドファン。金色少女。
金髪ツインテール。 赤いリボンは変わらず。
東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)
仙台市内の学校(神杉高校)に通う高校生。2年生
サッカーオタク。観る将。不敵少女。
高身長。一人称が僕。髪は肩ぐらいまで伸び始める。