蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【真瀬】Jリーグ 第9節 ヴィッセル神戸 vs ベガルタ仙台 (1-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ神戸戦のゲーム分析。試練の果てに見える世界。何が起きても不思議ではない世界で、挑戦を続けるベガルタ仙台とそのサポーターたち。幾千もの立ち塞がる壁に、立ち止まることなく挑み続ける。圧倒的な個人差を見せつけて来るヴィッセル神戸に、ひとりの青年が、空を切り裂き滑空する。試練と勝利と。それでも戦いは続いていく。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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  ベガルタは、前節に続き4-2-3-1。右ウィングには真瀬、右セントラルMFには浜崎が入る形。4-4-2系の守備から攻撃へと繋いでいくのがキーだと言える。

 神戸は、3-4-2-1。他の試合では、4-3-3や5-3-2を採用しているが、サンペールを中央センターバックに据え山口とイニエスタで2センターを組んだ。エースの古橋はケガのため不在。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

左右非対称のビルドアップ

  ベガルタのビルドアップは、2CB+2CMFのボックス型。LBの蜂須賀が深めの位置を取って、ボックス型+1を取る形。ただ、RBの柳は、ビルドアップの初期段階から高い位置を取る。これまでのベガルタのビルドアップでは、フルバックが深めの位置をとり、センターバックセントラルMFと連携してビルドアップを担当していた。カウンター予防と相手のプレッシングを引き出す狙いもあったのだと考えられる。ただしこの試合では、RBの柳が明らかに高い位置、しかも本来フルバックが担当するワイドレーンではなく、ひとつ内側のハーフレーンに立っていたのが印象的だった。

 そんなこんなで、左右非対称のビルドアップなのだけれど、ある意味右サイドが異質だったと解釈するべきと思える。神戸のブロックは5-4-1。山口が関口をカバーするので5-1-3-1とも取れるような形で対抗型を組んだ。本来、対面するはずの柳が自分の背中にいるのだから、左シャドーに入った郷家にとっては頭を使う状況になったと思う。しきりに背後を確認するために首を振ったり、前半の飲水後は明らかに柳を意識したディフェンスにシフトしていた。こうして、まずは噛み合わせのところで先制パンチを食らわしたベガルタ仙台。特にセンターバックはその恩恵を受け、時間とスペースができていたのだけれど、そんなボール保持攻撃で準備していたのは、右サイドのローテーションだった。

 

偽ウィング真瀬とファントム柳を支えるCMF浜崎

 ハーフレーンで高い位置を取る柳に合わせるように、右ウィングの真瀬は低めの位置へ落ちる。また、CMFの浜崎が右センターバックの吉野の横へドロップ。神戸の1トップ横のプレッシャーがかかりにくいエリアでボールを受ける。こうなると、RB柳とRW真瀬で相手サイドハーフポジションに入る郷家に対して、どちらにつくのか選択を迫るダブルパンチを食らわすことになる。加えて、CMFの浜崎が目の前でボールを持つのにプレッシャーをかけづらい状況を創り出した。浜崎のポジションには、RCBの吉野が入るケースもあった。

 噛み合わせという構造的な部分で時間とスペースを捻出し、その時間を使ってローテーションで右サイド全体の時間とスペースをコントロールすることに成功したベガルタ仙台。神戸の5-4-1がハイプレス系ではなかったことも要因としてあるのだけれど、いずれにしても、自分たちが持っている時間とスペースの拡大策を取ったのは、ゲームを進めていくうえでも重要だ。ボールの進行方向、ロストポイントも管理できるので、いわゆるトランジションのコントロールも可能になる。

図1

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 神戸としても、この状況をそのまま放置せず、落ちるRW真瀬に対してWBの酒井が縦迎撃する対抗手を見せる。ベガルタも、その対応手に対して柳がカットアウトで酒井の背後のスペースを突くなど、織り込み済みといった具合だった。もちろん、左センターバックヴェルマーレンがカバーするのだけれど、サイドに引っ張り出せれば、神戸ゴール前にはアンカーに入ることの多いサンペールとRCBのダンクレー、逆サイドのWBのみになる。こうなると困るからか、神戸の横スライドはかなり早かった気がするし、縦迎撃に呼応して横のスペースを埋める動きは、5バック系のディフェスの定石型だ。一方の仙台も、右サイドの一点突破だけでなく、相手が右サイドに寄っているならと、アンカー椎橋を経由して、逆サイドの守備が薄い地点からの攻撃へ切り替えていた。2、3度、左サイドでアウトナンバーを作って数的優位にオフェンス出来ていたのは、偶然ではない気がする。気がするだけ。

 5バック系、特に5-4-1の痛点は、「まあファイナルラインに5人いるし、ハーフラインも4人いるから足りるでしょ」という心理的『優位性』にある。実際、縦にも横にも同サイドにDFを割けば、当然逆サイドでは足りなくなってくるし、そもそも自分を「シャドー(FW)」だと思っているサイドハーフ役のプレスバックやファイナルラインをカバーする意識は総じて低い。これは、選手どうこうより、攻撃系の選手を採用しているのだから、不思議なことでは無い。神戸としても、もっと押し込む展開を望んでいたのだと予想されるのだけれど、右サイドエリア全体をコントロールされるとは思っていなかったのかもしれない。そういう文脈において、「右フルバック」ができる真瀬、柳、浜崎を起用したのは、もちろんコンディション面もあると思うのだけれど、非常に戦術的な意図を感じる起用になる。前後のポジションが変わっても苦にしない、ボールを奪われた瞬間にオリジナルポジションを離れていても対応できるなど、攻守表裏一体の策だと思える。

 

ボール非保持時

前線4人のボール非保持守備

  ベガルタのボール非保持守備は、4-4-1-1ブロックを組んだ。対する神戸は、3-4-2-1。2セントラルMFのうち、山口は深い位置、イニエスタが高い位置を取る。ベガルタは、アタッキングMFの関口が深い位置の山口をカバー。センターFWの長沢と協力してアンカーロールをカバーする形。その長沢は、相手CBへプレッシャーをかけ、サイド限定と設定を行うプレッシング一番槍になるいつもの形。両ウィングは、前線からプレッシングをかけず、ブロックを維持したまま「奪わず奪う守備」の構えを見せる。特に、RWに入った真瀬は、WBへのパスコースを残しつつ(といってもパスカットに入れる立ち位置)、中央へボールを入れさせるような立ち位置で守備。左利きのヴェルマーレンの左足側をカバーして、彼から良いボールが出ないようカバーする形。中央へのパスを怖がってサイドに出させれば大成功。ボールがサイドへ移動している間に動いてプレッシャーをかければ真瀬としては良い。ボールを持たず、真瀬がヴェルマーレンに、駆け引きを仕掛けた。

 一方のLW西村は、真瀬と少し異なり相手CBの正面、右利きダンクレーの右足正面に立って、まずはハーフレーンに縦パスを入れさせない守備を取る。サイドに出れば、自分の走力でカバーできると踏んでの立ち位置のようにも見える。真瀬が駆け引きを仕掛けて、ベガルタが守備網を張る中央へのパスを誘導する立ち位置だとすれば、西村の中央へのパスを完全拒否。「サイド?出たら潰しに行くわ」と言わんばかりの立ち位置で面白かった。ボールを奪えばカウンターの急先鋒にもなるし、西村としてもなるべく中央に近いエリアで立ってたいという狙いもあるのかもしれない。多分。

図2

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 全体の守り方としては、WBへのプレッシングを両フルバックも実行していた。その背後のカバーを左ならCMF椎橋、右ならCB吉野が担当。ただ、右サイドは、真瀬がカバーしたりプレスバックすることで、柳がその間を埋めたりもしていた。なるべくCBには中央で守っていてほしいという意思かもしれない。

 

神戸の対応手と4-4-2中央封鎖型守備

 神戸の攻撃にも変化点がある。前半の飲水後に、3バックの中央CBであるサンペールが一列上がってアンカーになるフォアリベロ、バルトラロールで対抗してきた。ベガルタの2FWのプレッシャーを分散させる狙いだと思う。また、ヴェルマーレンも逆サイドへのサイドチェンジキックを増やして、ブロックの大外から攻撃するように変化をつけてきた。ただ、そのどちらの対応手にもベガルタは対応手を用意していた。ひとつは、サンペールのフォアリベロに対して、関口と長沢で対応すること。特に関口がサンペールの利き足をディフェスし、外されても長沢が同じようにディフェスに入るのでアンカー経由での攻撃は不発に終わった。もうひとつのヴェルマーレンのサイドチェンジキックも、受け手はWBの西だけれど、この日LBに入ったのが蜂須賀。簡単にはやられなかった。こうして、自分たちの狙いと相手の狙いをきちんと整理して、その対応についても読んで準備してきた痕がよく見られた前半だった。

 ただし、ひとつの懸念だったのが、時折通るセントラルMF背後に刺される縦パスをベガルタとしては気にしていた。縦パスとサイドへの展開(インサイドアウト)のパス2本で、プレッシャーを無効化される危険性があった。後半、先制したベガルタはそこに手を入れる。4-4-2の守備をよりぺナ幅中央3レーン(インサイドレーン)重視の守備へとシフトした。よって、相手WBに時間とスペースを使われることを許容。その代わりに、神戸が最終的に使いたいエリアであるインサイドレーンを封鎖した。こうなると神戸としても崩すのが難しくなり、サイドを変えるがなかなか守備の束が解けなかった。サイドチェンジされるとブロックは下がるので、必然的にベガルタのブロックラインはローブロックを強いられることに。おそらくこの日はそれを○としていた可能性が高い。最低でも1-0で勝利することを目標としていた可能性は十分に考えられる。マリノス戦以上に、相手に合わせる、試合をクローズさせる意思を感じた。

 神戸としても、ブロック外からのバックドアカット(裏抜け)があれば、ベガルタにとっても慌てる状況になっていたかもしれない。失点シーンは、蜂須賀の上空を通されバックドアカットが決まっている。古橋がいたら……と考えたら恐ろしい。向かいのホーム、ノエスタのピッチ、こんなところにいるはずもないのに。最後は、5-3-2で逃げ切ったベガルタ仙台。やはり、とにかく勝ちをもぎ取ろうとした試合、判断だったのだと思う。やっていることは正しいとはいえ、選手の士気に関わるような敗戦続きだったので、木山さんとしてもチーム全体の士気低下を危惧していたのかもしれない。その辺りの危機察知はさすがだなと思う。 

 

考察

4-2-3-1の攻守について

 最大の武器であるジャメがいない、中盤やファイナルラインのメンバーも変わるなかで、いわゆる相手の中盤をカバーする対抗策として4-2-3-1というのはひとつの最適解なのかもしれない。攻撃となれば、ウィングというよりボールを持つという意識も高いように見える。守備については言わずもがなだけれど、片方が守備意識の高い選手が入れば、高いレベルで機能していきそうにも感じる。いずれにせよ、あまりフォーメーションそのものに意味は無さそうだし、どちらかというと、ウィングの守備の方が肝な気がする。気がするだけ。ウィングがどういう守備をするかで、4-3-3なのか4-2-3-1なのかが変わってくるのだと思う。

 

ゴール前で何度か失点していたはず

 ドウグラスがまだフィットしていない感を抜きしても、何本か決定機を外してもらえたのも事実。フィンク監督が言うように、今日「は」ベガルタがチャンスをものにして、相手のミスに助けられたとも言える。これまで各チームのストライカーにことごとく得点を許しているが、この試合も古橋がいなかったから助かったという節はあるのだと思う。思うけれど、それでいいのか?というのはまた別の話である。やはり、4-4ブロックだと、大外が空いて来る。空いたエリアをどうカバーするのか、クロスを上げられてもどう対応するのかは、まだま詰めないといけない。いけないし、これで得点が決まらず失点していれば、「両ゴール前」が弱いチームになってしまう。せめてどちらかは確実に強いチームになってほしいし、これまでは相手ゴール前でのアプローチだったのだから、自ゴール前もできると思う。もちろん、いろんな手札や引き出しがある木山さんだから、こうして書けるのである。(恐れるな!全力で!は最後の魔法にしましょう笑)

 

おわりに

 敗北は人を強くするが、勝利は人を美しくする。まあこれは僕の持論でしかないのだけれど、強さも美しさも、そのどちらも欠けてもいけない。強くなければ守れない、美しくなければ惹かれない。シンプルだ。だから何度も敗けて、何度も勝っていくことが大切で、この試合の勝利でまた一歩、ベガルタ仙台のサッカーは美しくなった。これまでの敗北を糧に。強く、美しく。そうやって、魅力的なサッカーと呼ばれるものは、出来上がっていくんだろうと、醜くも美しい世界の端っこから、応援しています。最高に、強く美しい君たちへ。 報われて、救われてよかった。

 

「ひとにできて、きみだけにできないなんてこと、あるもんか」こう言ったのは、ドラえもんだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

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silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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