蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【行けども獣道獅子よ虎よと吠え】Jリーグ 第31節 柏レイソル vs ベガルタ仙台 (1-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ柏レイソル戦のゲーム分析。この日も勝ち点を争う一戦。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

柏の難しさ

 仙台は、残留を争う清水、徳島に連敗と厳しい戦いが続いた。今シーズン、課題となっている得点までの形作り、攻撃方法は、いまだに模索が続いている。そんななか、途中加入の富樫がゴールを挙げていることは、仙台にとって希望の星になっている。一方の柏。前節まで3連敗。仙台との勝ち点差は開いているが、このまま順位を後退するような状況は避けたいはずだ。そんな一戦。

 仙台はいつもの4-4-2。対する柏は、椎橋をアンカーとした4-3-3でセット。ボール保持時には椎橋が左CB横へドロップしてバック3化。ウィングがハーフスペースを使うことで3-4-2-1へと攻撃陣形を変える。仙台の4-4-2の痛点である、「FW横」「WG横」「SB-CB間」を活用する狙いであり、4-3-3の攻撃陣形としては定石型である。

 アンカーとして、いや、実質的には左CBとして陣形変更のタクトを握ったのは元仙台の椎橋。そして、左ハーフスペースを鬼活用したのもまた、元仙台の椎橋。柏の攻撃の要諦を担うのが元仙台戦士とは、なかなかに感傷的ではないか。

 ただし、柏として難しかったのは、椎橋が左CBのポジションからどうゲームを作っていくのかがあまり見えてこなかったことか。彼の特徴である、縦に刺すパスというのは、一撃で2ラインを無効化する必殺技である。ただしそれは、中央、センターサークルでこそ発揮されるべき技であり、バックラインのポジションとなると、もう少し長いボール、逆サイドへのサイドチェンジキックやファイナルライン背後へのボールが重要になってくる。柏のサイドチェンジは、ボールがもう少し前進したタイミング、仙台の4-4-2が仙台陣1/3でリトリートしたタイミングで、ボールサイドと逆サイドへの大きな展開が主であった。

 また、武藤が前半で負傷したのも柏にとっては痛かった。ハーフスペースからタッチライン平行のラン、パラレラで後方からボールを引き出す術は彼の真骨頂であり、対面するSB真瀬に問題を起こそうとしていた。いろんな意味で、柏の攻撃は分かりやすかった。3-4-2-1攻撃、サイドチェンジ、クロス。ただ、3-2ビルドがそれほど仙台にダメージが少なかったことと、武藤の交代が前半尾を引いたと思える。前半途中から椎橋は、オリジナルであるMFのポジションを取り、3-2から2-2のビルドアップに変わった。2人のMFが仙台のFW背後でポジションを取ることでCBに時間を作ろうとした。

 

お互いの陣形変更の決着

 仙台としては、前半に富樫のゴールで先制し精神的には優位に立っていたはずだ。柏は独力で打開できる力を持った選手がいる。そこへの警戒も非常に高かった。仙台のボール回収地点が自陣深かったが、松下を中心としてポゼッションで時間を作る。ゆっくり攻めるというやつだ。これまで赤﨑が9.5番として、MFタスクをこなしていたが、ある程度そこを松下に任せ、富樫に近いポジションを維持しようとしていた。攻撃時間自体は少ないが、まったくないのではなく、逆に言えば確実にあるのでそのなかでどう攻撃するか、コントロールしようかという意思を感じた。

 後半になると、柏は左CB福森を中心としたエリアめがけてロングボール攻撃を開始する。仙台の左サイドは、SBタカチョー、CMF松下と、ボール保持時、攻撃時に力を発揮するタイプがいて「高いボール」「フィジカル」が勝負になった時、どうなるのか?というのは試合前から気になっていた。ただ、試合が始まると柏もそこを重点的に攻めるわけでもなく、問題ないかのように思えた。

 でも後半は見逃してくれず。仙台の対抗型としても、富樫、松下の負傷交代もあるけれど、平岡を投入して3バックで人数かけて守るというものだった。タイミング、策としてはある程度有効なものだと思えた。少なくとも悪手とは言えない。ただ、3バックのマークズレ、WBが高い位置までプレッシングに行かず後方待機がメインだったことで、MFラインの背後でボールを持たれるようなシーンが増えた。その結果が失点だったのだけれど、準備はしていたはずだが…というのが率直な感想だ。

 

考察

 最終スコアは1-1ドロー。前半終了間際に関口が放った一撃をビッグセーブで防がれたのが、仙台としてはラストチャンスだったし、それが決まってあとはのらりくらりと守れていたらと思うと惜しいなと感じる。柏とはよく似たチームという印象を持ったが、FWのプレスバック意識は仙台の方が高かったし、ゴールへ向かう意識、シュート意識というのは柏の方が高かったのように見えた。内向的というわけではないと思うけれど、加入して日の浅い富樫のオフボールには常にゴールが意識されているように見える。あとは真瀬。

 なんというか、言葉にするのは難しいけれど、守ろう守ろう間違えないよう間違えないようと思えば思うほど、身体は固くなるし固くなればミスが起きやすくなる。間違えないようにって思ってたのにミスしてしまった!となるとますます身体が硬直する悪循環。そもそもチャレンジできる回数が少ないからなのだけれど、サッカーは自分のプレーでミスをミスでなくすることができる良いスポーツだ。「ミスじゃなくなっただろ」「上手くなればミスしなくなる」。こんなメンタリティでプレーしてくれたらと願っている。

 

おわりに

 勝ち点3を取らなければ、我々に未来は、無い。

 

「俺は明日がほしい」こう言ったのは、ルルーシュランペルージだ。

 

Firefly

01

蛍が一匹、夜空を飛んでゆく。

その光は弱弱しく、消えそうであった。

僕は、その光を追いかけて、両の手に収めようとした。

その瞬間、蛍の光は大きく光り輝き、辺りを照らし始めた。

女の子がいた。

彼女は、じっと、僕を見つめていた。

蛍の光越しに。

黒い目が、まるで夜のようで、僕を飲み込んでいく。

光は消え、再び、闇の世界が訪れる。

それでも彼女は、僕を見つめていた。

ある夏の、物語である。

 

02

夏。

絵に描いたような、日本の夏。

僕は普段通り学校へと通う。

高校生。

ただの、日本の高校生。

普段と違うのは、僕の隣に、席が出来たこと。

その正体は、8時30分のチャイムで始まる朝礼で表した。

 

神田ひかり。

彼女はそう紹介された。

転校生だ。

ハッとするほど凛として、しゃんとしていた。

そんな印象をもった。

長い髪を束ねたポニーテールを揺らしながら、教室にあるたったひとつの空席へ歩き着席した。

 

休み時間は彼女への質問タイムとなった。

好きな食べ物、入りたい部活、趣味とかとかとか。

喧噪であまり聞く気にもならなかった。

結局、彼女とは一言も会話せず、その日は終わった。

あまり自分からは話しかけないタイプなのか。

でも転校初日だし。

こんなものか。

 

03

彼女は、あっという間に帰宅する。

部活にも入らないようだ。

どうやら怪我していて、運動ができないらしい。

かといって文化系の素質も無いみたいな話を昼休み中に女子たちと会話していた。

切れ目の彼女には、弓道が似合うとかバスケが良いとか、勝手なことを言っていた連中も「仕方ないね」で一蹴された。

 

僕は個人的にせいせいしていた。

自分たちの都合だったり、仲間を作りたいエゴで転校したての女子ひとりを囲おうとする行為がどうも好きになれなかったからだ。

そのころから、僕は神田に興味を持ち始めた。

聞かれたら答えてはいるが、どこかベールに包まれているような感覚がある。

何か重大なことは、話していないように思えた。

 

帰り際、僕はようやく謎の転校生と会話することができた。

「神田」

「……何?」

「えっと…」

話しかけたのは自分なのに、口ごもってしまった。

すべてを弾き返さんとばかりに、見えない壁みたいなものが目の前に立ち塞がったように思えた。

「えっと、僕は千鳥ヶ淵千鳥ヶ淵レン。隣の席なのに、自己紹介がまだだったなって」

「そう…親切にありがとう」

……

会話下手である。

とりあえず何か話そうと思って声をかけた手前、これ以上特にない。

でも彼女もまた、会話を進めようとしていない。

問われたら答える。

やっぱりそうなんだと思う。

「何か困ったことがあれば言ってよ。隣の席だし、手伝えることがあれば協力するから」

「ありがとう」

そう言って、神田は立ち上がった。

「じゃあ。また明日」

「ああ、また明日」

神田が教室を後にした。

 

04

僕にはひとつ趣味がある。

それは、僕の家の近くを流れる川に、毎年夏になると蛍が飛びまわるのを眺めることだ。

趣味というか、毎年の恒例行事だと言っていい。

幼いころに、父から蛍という存在を教えてもらって以来、蛍鑑賞が僕の毎年の楽しみのひとつとなっている。

非常に小さな、せせらぎと言うべきその小川に、無数の蛍が飛びまわり、その光で埋め尽くされる光景は何にも代えがたい。

「じゃあ僕もそろそろ帰るわ」

「おう。じゃあな。今夜も見に行ってみるのか?」

「うん。そうする。多分、今日も見れないと思うけど」

「まあ、毎年見れてるんだから、待ってたら見れるよきっと」

「そうだな」

どういうわけか、今年はその光景がまだ見れていない。

例年であれば、その姿をみかけ、辺りを星空にしてしまうのだが、今年にいたってはただの一匹すら飛んでいない。

いつしか僕は焦っていた。

見逃してしまったのではないか、蛍たちが絶滅してしまったのではないか、と。

だから毎晩、それこそ夜な夜な小川周辺を徘徊している。

生物部での活動だって、その研究報告がひとつだ。

みんなは大丈夫って言うけれど、僕は内心穏やかではない。

 

夏特有の陽の長さも終わり、すっかりと夜がやってきた。

僕は、スマホを片手に、夜の世界へと消えていく。

 

05

小川までは歩いて数分。

でもその数分が、とても長く感じる。

早く到着したいが、昨日と同じだったらと思うと、早く行きたくないとも思った。

それでもいつも見慣れた光景が、すぐ眼下に広がった。

ただ静かに、虫たちが鳴き、せせらぎの音が、ここが大自然のなかであることを証明していた。

帰ろう。

また明日来て、確認しよう。

なかばすがるように、明日に期待を持たせた。

その時。

目の端に、光る何かが見えた。

僕はその方向へ急いで向かった。

 

蛍が一匹、夜空を飛んでいた。

その光は弱弱しく、消えそうであった。

僕は、なんとかして、両手にその光を収めようとした。

その瞬間、蛍の光が大きく光った。

そして、闇夜の世界を照らし出した。

そこには見慣れた女の子がいた。

いや、最近見慣れた、と言うべきだろう。

彼女は、じっと、僕を見つめている。

気づくと大きくなっていた光は消え、今度は夜が大きく広がっていた。

それでも彼女は、僕を見つめていた。

 

「神田?」

彼女は黙っている。

「おい神田だろ?どうしてこんなところに」

「ち」

「ち?」

千鳥ヶ淵…君…」

「そうだよ」

「何?」

「何はこっちのセリフだよ。僕は家が近くて、ここで蛍を観察してるんだ」

「蛍?」

「そう。今年はまだ見れてなくて、心配してるんだ。あと千鳥ヶ淵でいいよ。君付けはいらない」

「そう」

だから神田こそ何してるんだと言いそうになったが、僕は彼女の重大な何かを知ってしまった。

神田はスポーツウェアを身にまとっている。

怪我で運動できないはずの神田が。

そして、足元に何かがある。

ボール。

サッカーボールだ。

「神田…お前…」

「誰にも言わないで」

「…え?」

「お願い。私と千鳥ヶ淵だけの秘密にして」

「…え?え?」

まさか、運動、サッカーバリバリにできることを隠したいってことか。

「私、元サッカー部だったの。でも試合中に怪我をして、もうサッカーできないって言われて。それが嫌でこうしてリハビリ練習しているの」

意味が分からなかった。

サッカー部?怪我?できない?

それって引退ってことじゃ。

 

「私、絶対に諦めたくないの」

 

蛍が一匹飛んでいる。

「だから、誰にも言わないって約束して」

その微かな光はたしかに蛍の光だ。

「必ず復活するから」

僕の、僕たちの夏が始まった。

 

 

 

 

黒松華憐に花束を。 #4

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01

黒松華蓮が何かをやっている。

教室の隅で。

遠巻きに覗いているが、よく見えない。

しっかりと、この夏も暑い。

それでも黒松華蓮はいつもと変わらない。

変わらず凛として、涼しげでいる。

そう、そんな風に見える。

 

何かを終えた彼女は顔を上げ、周りを見渡す。

そして、俺を見つけ、席を立ちあがる。

こちらへ向かって歩いてきて、きっとこう言い放つだろう。

「長町」

たったひとこと、俺の名前を呼ぶ。

「なんだ黒松」

俺はこうこたえる。

それが、俺と黒松華蓮のはじまりである。

 

02

「黒ユニ?」

「そう」

「限定ユニのことか?」

うんうん。

と頷く。

「……この前ユニ買ったろ?」

「うん……」

「また2万とかするぜ。バイトでもしないと無理だろ」

「うん」

そう言うと、スマホを見せてきた。

「え?」

そこには、着ぐるみバイトの求人ページだった。

スーパーで、風船をくばるやつだ。

「なあ黒松」

「?」

あまりにその殺人的な広告に、俺はついに殺害予告でもされているのかとさえ思った。

「こんな暑いのに、わざわざ着ぐるみなんか着なくてもいいじゃないか?」

「そうなんだけどな…でもな…その…」

良く見ると、なるほど。

「……『仙台レオン公式マスコット、レオン君と一緒に風船をくばってもらいます』ね…」

「レオン君に会えるんだぞ」

それがなんだと言うのか。

週末スタジアムへ行けば、嫌と言うほど目に入るクラブマスコット。

そいつとクソ暑い中働かなくてもいいだろ。

「黒松。わざわざ一緒に働かなくても、スーパーへ行って会えばいいじゃないか」

「!!」

重大なことに気づいたかのようなリアクションだ。

同時に、ちょっと気負ったかのような反応に、俺が返す言葉は少ない。

そもそもバイトの目的は、ユニを買うんじゃなかったのか?

というか、それはある意味口実だったと、遅まきながら気づいた。

仕方ない。

「はいはい。一緒に行ってやるから。それでいいだろ?」

うんうん!

と、見るからに嬉しそうにする黒松華蓮。

こうして、クラブマスコットを見に、スーパーへ行くことになった。

 

03

市内某所。

某スーパー、エオン〇〇店。

俺たちは、休日の貴重な時間を使って、きぐるみ…いや、クラブマスコットを見にやってきた。

黒松華蓮はもちろんいる。

2時間前に到着する気合の入れようで、しかも少し緊張しているようだ。

「黒松」

「!」

「驚きすぎだろ…」

「長町は、緊張しないのか?」

「しないよ。マスコットに緊張するって、どういうことだよ」

「だって、あのレオン君だぞ。私はレオン君が好きなんだ。緊張だってする」

好きだから、緊張する。

まるでアイドルに会うかのような発言だ。

 

アイドル―――

でもレオン君は、いつもサポーター席の最前列で、俺達にまざってアップ中に檄を飛ばしている。

こんな平和な休日のスーパーが、あいつの戦場じゃない。

あいつも一緒に戦っていて、戦友なんだ。

俺たちの心が折れそうなときも、多くは語らないが、姿勢で、態度で、支えてくれた。

あいつは、クラブにかかわるすべての人間の、サポーターなんだ。

そんなレオン君を、あいつらは、あの時あんな風に……

「長町?」

「…ああ、いや、ごめん、少しぼーっとしてた」

「もうすぐやってくるぞ」

もうはちきれんばかりのうれしさで、顔をいっぱいに埋め尽くしている黒松華蓮がそこにいた。

そして、渦中の男がやってきた。

 

04

レオン君がやってきた。

元ネタはライオン。

碧の獅子、の異名をもつ、仙台レオンの公式クラブマスコットだ。

当たり前だが、キッズたちに風船を渡している。

いつも通り。

スタジアムで、戦闘態勢に入る前の彼は、コンコースでああやって愛想を振りまいている。

そこへ混じる高校生2名。

なんていうか、すごく恥ずかしい。

1人、2人と順番に渡され、ついに、黒松華蓮の番がやってきた。

彼女は今にも倒れそうなな勢いだったが、さすがに彼の前になると、その瞬間を味わおうと必死に立っていた。

風船を渡され、ぽんぽんと頭をたたかれると、黒松華蓮のすべてがはじけきった。

心底よかったなと、俺は思うのであった。

それで、次は俺の番。

 

―――レオン君が、ホワイトボードを取り出した。

彼のコミュニケーション方法のひとつであるボード芸。

多くは語らないが、彼がボードを出したってことは、すごく大事な時なんだって、俺たちは知っていた。

真っ新なボードに、文字を書き連ねる。

一体、何を書いているんだ。

 

俺は、長い間、休眠していた緊張を味わった。

動悸を感じる。

ドクドクと、俺の鼓膜は自分の心臓の音で埋め尽くされた。

身体全体が心臓のように思えた。

とても大事な儀式を、俺は目の前で見ている。

感覚がそう伝える。

そして同時に、思い出したくない、忘却の檻へと詰め込んだそれが、眼を覚まそうとしているのを感じた。

俺はいまにも、心臓が爆発して、全身の血液をまき散らすんじゃないかと感じた。

マッキーが、止まった。

ボードを俺に見せる。

 

『元気だった?またスタジアムで会おうぜ」

 

俺は、その文章から、目が離せなくなった。

俺は、いったい、何を見ているんだ。

お前はなんで、なんで、俺を覚えてるんだ。

どうして、俺なんかを。

どうして。

お前さえも裏切った俺を。

 

「……ッ…どうして!」

声にならなかった。

でも、お前は、右手でグーのポーズをとった。

 

風船くばりは続く。

また1人、2人と、風船を渡していく。

何人もの子どもたちが集まったそのイベントで、ボードを出したのは、唯一、俺だけだった。

俺だけだった。

 

05

帰り道。

恍惚としていた黒松華蓮も、我に返りつつある。

「長町」

……

俺は、あの出来事で頭が支配されていた。

「レオン君が見せたのって、何が書いてあったんだ?」

当然の疑問だった。

でも、俺も分からない。

俺がサポーターを辞めたのが小学5年の時。

あいつはそれまでずっと俺のことを覚えていたってのか。

「長町?」

「……昔、レオン君が叩かれたことがあって、俺、スタジアムで直接あいつに言ったんだ」

「?」

「『元気出せよ!またスタジアムで会おうぜ!』って」

「そんなことがあったのか…」

「でもそのあと、俺もサポを辞めちまって、その約束、破ったんだ」

「……」

「俺は…本当に最低な奴だと思う」

黒松華蓮は言った。

いつも通り、唐突に。

 

「じゃあ、レオン君はずっと、長町のことを待ってるんだな」

そう。

「―――スタジアムで」

待ってるんだ。

 

夏の夕暮れ。

まだ太陽は、輝きを放っている。

その暑さを取るかのように風が、珍しく吹いている。

あいつは、ずっと待っている。

2万人分の1人のサポーターの帰りを。

ずっと。ずっと。

俺はいつでもサポーターを辞められる。

選手だって、監督だって、クラブを、チームを辞められる。

でもレオン君は?

新しくやってくる者たちを迎え入れ、旅立つ者たちを激励する。

そして、離れていった者たちを待っている。

あいつは、あそこで、ずっと、あいつであり続ける。

ずっと。

仙台が、ある限り。

 

「うらやましいな。誰かが自分の帰りを待っててくれるなんて。それが応援するチームのマスコットだなんて」

うらやましいなぁ…と染みるようにつぶやく黒松華蓮。

彼女にとっては、スタジアムへ行くのに、十分すぎる理由なのかもしれない。

 

俺に、

とっても。

 

登場人物

黒松華蓮 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、スタジアム観戦。

長町花江 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、特になし。

 

youtu.be

 

 

 

【鏡に映る自分は本当に自分だろうか】Jリーグ 第29節 清水エスパルス vs ベガルタ仙台 (2-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ清水エスパルス戦のゲーム分析。この日も勝ち点を争う一戦。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

似て非なる両チーム

 清水は、4-4-2からセントラルMFセンターバック横へドロップ。CMF松岡がアンカーになる3-1ビルドアップ。アンカー松岡の横をウィングがドロップして、仙台FW-WGライン上を使う。

 仙台FWによる1stプレッシャーラインは松岡によってピン留めされている。さらに、バック3に対しても、清水のウィングがドロップしてCMF化するため、WGがFWと一緒に前線からプレッシングをかけづらい状況となった。

 ワイドに高い位置を取るサイドバックに、蜂須賀、タカチョーの両サイドバックが引っ張り出されると、その背後を清水のFWが突く。そんな攻撃の狙いだった。仙台としては、清水のウィングとサイドバックの『ダブルパンチ』で、ボールを前進させられてしまう。4バックが我慢して後方待機でDFするか、両CBがサイドまでカバーする我慢の展開になる。

 仙台のボール回収地点は、自陣が多くなるが、清水のサイドバックが高い位置を取るためボール奪取後のポジティブトランジションではサイドバック背後へ縦に速い攻撃を見せる。西村、カルドーゾがカットアウトで広いスペースを使う。

 32分の蜂須賀のプレーへの対応、サイドバック片山のプレーが仙台とのDFの仕方の違い。仙台であれば、ボールホルダーであるワイドのサイドバックのプレー時間を制限するために、サイドバックが迎撃をする。

 一方このシーン、片山は後方待機のため蜂須賀にはプレー時間がある。しかし、CBとSBとでカルドーゾを挟み、両CBで西村を挟むようなポジションを取り、蜂須賀のパスが出たあとの対応に備えている。とにかく選手のプレー時間そのものを制限したい仙台と、時間的な猶予は与えても、選択肢、タイミングを制限するのが清水のDFのやり方になる。いわゆるゾーナルDFである。カルドーゾにボールが入ったが、マークマンのCBと片山とでサンド。カルドーゾにプレーさせなかった。

 「ハーフウェイラインにいるサイドバックなんてプレー選択肢が少ない」というのは、定説であるのだけれど(だから偽サイドバックなんてものが生まれ中央にポジショニングさせて選択肢を増やすやり方が出て来ていて)、清水はそれが分かっているかのようなDF方法である。ホルダーになったワイドのサイドバックのプレー時間を制限するか、しないのか。たったといえば言葉が過ぎるのだけれど、たったそれだけの違いで、その後に起きるプレーが変わってくる。

 仙台と清水の攻撃方法というのは非常に似ていた。3-1ビルドアップ、ワイドのサイドバック、ウィングのドロップによるCMF化。ただ、サイドバックがオンボールとなると、両チームが見える景色は変わっていた。ファイナルサードを清水は4バックで守っているのであれば、仙台が2バックで守っている。そんなイメージだ。後半、3バックにしてその帳尻合わせを強化したのも、自然な采配に思える。また、フィジカルコンディションで疲労が蓄積して、Qちゃんがファウルトラブルを発生させたのもまた、自然だったのかもしれない。

 

考察

 後半スタートから変えた3-4-2-1を失点直後から変更できたら、一秒ごとに世界線を越えられたかもしれない。このDFのやり方でを貫くのであれば、頑なに4-4-2を続けたのはカウンター時のFWの攻撃力くらいしか理由が見当たらなさそう。でも背に腹は代えられず、いや我慢できずに3-4-2-1へ後半から変更したのであれば、2失点目のあとのアタッカー大量投入というのも、ソリューションはさておき今あるリソースを全部投入してそのネガティブ(攻撃に人数を割きたいが自陣深くのDFで帳尻も合わせたい贅沢プレミアムセット)を解消しようとしたとも言える。今からやれることは少ない。新しいことを差し込む時間的資源もない。だからやってきたことを貫くこと、継続することが、最も重要なことになる。でもなんだろうな、DFが行く行かない、ラインを上げる下げるなどのDFの細かい部分で景色を変える術、武器、手札を持っておきたかったよなあ、持ち合わせないのかなあ、この試合では表現できなかっただけなのかなあ、と思う気がする。思う気がするだけ。

 

おわりに

 勝ち点3を取らなければ、我々に未来は、無い。今日はこの文章の元ネタで締めよう。

 

「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来は無い」こう言ったのは、碇ゲンドウだ。

 

黒松華憐に花束を。 #3

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01

そんなこんなで、スポーツショップにいる。

しかも、サッカーコーナーにいる。

この俺が。

この、というのは、元サッカーファンの俺が、という意味であるし文脈である。

ではなぜ。

それは当然。

黒松華蓮が、その理由だ。

 

「長町」

彼女は、礼儀正しい。

ある意味。

必ず、俺に何かを訪ねる時に、俺の名前を呼ぶ。

「なんだ黒松」

そういえば、俺達ってお互いを苗字で呼び合っているな。

まあ別に、なんでも良いんだが。

「こんなのはどうだろう」

そう言って、彼女が俺に見せてきたのは、カナリア軍団のユニだった。

「いいんじゃないか」

そんな禅問答をすでに2、3度繰り返している。

 

元はと言えば、彼女がろくにスポーツショップに入れず、付き添いで行ってやると安易に約束してしまったのが原因ではあるのだが。

まさかファッションショーにまで付き合うことになるとは。

「あまり……似合っていないか?私は結構、イケてると思ったのだが…」

「いや…似合う似合わないってことじゃなくて、黒松がブラジル好きならそれ買えばいいんじゃないか?」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんじゃないの」

改めて問われるとたしかに、正直好きなクラブのユニしか買った経験が無い。

ユニから入ったわけじゃない。

そういう入り方もあるのか。

だから似合ってるとか、ユニが気に入ったとかで、クラブと接点を持つという選択。

分からんでもない。

けれど、俺はそれが正しいのかは分からない。

まずは、クラブがあって、チームだろ。

俺達がサポートするべきは。

 

いや。

もう、そういうことを考えるのは必要ない。

今の俺にとっては。

「黒松が好きなユニとか無いのか?似合ってたり、有名だったりしても、それを着たいと思えなければ意味ないだろ?」

「たしかに」

そう言うと黒松はうーむと悩むような素振りを見せた。

……私の…好きな…ユニ……

黒松華蓮は何かを呟くと、またユニフォームの山へと駆けていった。

 

02

黒松華蓮がスマホを凝視している。

何やらI Tubeの動画を見ているようだ。

「何見てるんだ?」

ビクッと驚くように黒松華蓮がこっちを見る。

ふふふ。

奇襲成功。

「……動画を見ている」

「だろうな」

「……」

「何の動画を見ているんだ?」

「I Tuberの動画を見ている」

いわゆる、動画配信者の動画ってわけだ。

「へー、黒松もそういうの見るんだ」

そういうのというのは、こんな俗なものを見るんだという意味だ。

黒松華蓮にとっては、無縁なものにも思えたが。

「私だって、結構、動画を見るんだぞ」

黒松華蓮は、少し拗ねたように俺に反論してきた。

「ごめんごめん。意外だったからさ」

「む……」

明らかに拗ねている。

まずい。

「ほんとにごめんって。それで、動画ってどんな内容なんだ?」

「サッカーだな」

「へー……」

俺の興味が一瞬にして失せた。

なんだよサッカーかよ。

よりによって。

いや、黒松華蓮のことだから、それはそうか。

「最寄り駅からスタジアムまで歩きながら、街のことを紹介したり、スタジアムグルメ?の実食レビューとかもあるんだ。結構面白いぞ」

「…そうなんだ」

「あえて家からスタジアムまで歩いて行くチャレンジ企画とかもあって、2時間もかけてスタジアムまで行ったりして面白いなって」

たしかにI Tuberっぽい。

「それでも試合になると、あんなに声だしたり跳んで喜んだりして、疲れてるのにまた歩いて家まで帰ったりして。ほんと、面白いなって」

「そんな企画あると、動画見てても飽きないし面白いよな」

 

「いや違うんだ長町」

「え?何が?」

「私は、『サッカー』が面白いなって」

「サッカーが……?」

「そんなになってるのに、疲れを忘れさせるくらいに夢中になれるものなんだって」

……

「すごく、すごく良いなって」

「そうか」

俺は、知っている。

勝った日の帰り道、どんなに遠いアウェイスタジアムからの帰り道でも、楽しくて足は軽くていつまでもスタジアムで体感した、ふわふわとした夢の続きを感じられる。

逆に負けると、いつも通い慣れているホームスタジアムから家までの道が、永遠にも思えるほど遠くに感じる。

スタジアムで纏ってきた感情をそのまま、家のソファにまで持ち込む感覚、微かに残る芝の匂い、それらに包まれながら、俺は眠りへとつく。

俺は、知っている。

それが、『夢中』なんだって。

知っている。

 

03

黒松華蓮がユニの山から下山してきた。

「どうだ。これ、良いだろ?」

とても自慢げに見せてきた。

「いいんじゃないか。気に入ったのか?」

うんうん。

と頷く。

「イタリアか。アズーリって呼ばれてる。青いユニ、良いと思うよ」

嬉しそうに眼を輝かせる。

はいはい。

良かったな。

「試着はしたのか?ユニによっては、タイトだったりダボついてたりするからチェックしておいた方がいいよ」

「……!」

試着室へと消える。

出てきたころには、彼女はすっかりアズーリだった。

しかも、なんだろう、なんていうのかな、その、すげー似合ってたし良かった。

「どうだろう…?」

「ん?いいんじゃないの」

嘘だ。

めちゃくちゃ良い。

なんつうか、めっちゃ可愛い。

「あまり似合っていないか?」

当たり前だ。

当たり前になりすぎて忘れていた。

黒松華蓮は、一番の美人だ。

黒髪に切れ長の目。

その目はすべてを吸い込むように真っ黒だ。

背筋もしゃんとしている。

凛としている。

それはただ、サッカーについて話したいけど話せない事情があるからなのだけれど。

そんな彼女がユニ姿に。

青も似合う。

こんなんで、ポニーテールとかにされた日には、たまったもんじゃない。

正気じゃない。

「いや似合ってる。絶対に」

しまった。

つい語気を強めてしまった。

「……ふふふ。ありがと」

そう黒松華蓮は、笑った。

それ以上、俺は、彼女を直視できなかった。

 

04

レジ前に飾ってあるモニターに試合の映像が流れている。

再放送っぽい。

「あれはどこのチームだ」

俺は、知っている。

「あれは……」

いや、知らない。

あんな奴ら、俺は、知らない。

「地元のチームだよ。仙代レオン」

「なんであんなに喜んでるんだ?優勝でもしたのか?」

「違う」

「?」

「……この試合は、リーグ戦が中断して再開した後の最初に試合。その試合で、レオンが勝ったんだ」

「中断?何かあったのか?」

「……この試合、10年前なんだ。あの時、大変だったろ」

「……!」

「1-1の同点。84分に、右サイドの大牟田がスペースを駆けあがて、最後は転びながら右足を振りぬいたシュートが決まって逆転」

「……」

「みんな足つってたんだ。当然ゴールした大牟田も。でも66分に同点にした瞬間から、俺達は絶対に逆転できるって思ってた」

「……」

「そして逆転した。あれは奇跡だったんだ。でも、俺達が掴み取った奇跡。少なくとも、俺はそう思ってる」

黒松華蓮は、何かを察したかのように黙ってしまった。

テレビで見た、伝説の試合。

当時優勝候補の筆頭と言われていた神奈川相手に、逆転で勝った試合。

小さかった俺でも、最高の試合だと分かる試合。

大人たちがみんな泣いてた試合。

俺をサポにするのに十分なくらい、伝説の、思い出の、試合。

 

どうして俺は、まだ覚えてるんだ。

それに、いま「俺達」って……

 

「……だからみんな、勝ったのに泣いてるんだ」

「そう。雨でぐちゃぐちゃになって訳わかんないけど」

「…私には分かる。分かるぞ」

そう言うと彼女はまた、ユニの山へと向かっていった。

「黒松?」

走って戻って来た彼女の手には、レオンのユニが、あった。

黒松華蓮は、俺を見て、こう言った。

 

「私は、このチームを応援する」

 

黒松華蓮は、俺がかつて応援していたチームのサポーターになると、

そう宣言した―――

 

登場人物

黒松華蓮 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、スタジアム観戦。

長町花江 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、特になし。

 

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【僕の中の僕を超える】Jリーグ 第28節 ガンバ大阪 vs ベガルタ仙台 (2-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイガンバ大阪戦のゲーム分析。この日も勝ち点を争う一戦。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

超変則型3バックへの対応

 仙台は、残留をかけてボトムとの5連戦に挑む。まずはその初戦が吹田、ガンバが相手になる。昨年は、長沢のハットトリックもあり4-0で勝利。未勝利が続いていたこともあり、スコア以上に感動的なゲームになった。この試合でも、試合結果でも文脈的にも大事なゲームになる。

 仙台は、いつもの4-4-2。ガンバは5-4-1。ボール保持時はウイングバックがワイドに高い位置を取り、バック3でのビルドアップ。右センターバック高尾がワイドレーンへ広がり、セントラルMF倉田がドロップして再びバック3となる超変則3-1ビルドアップ。

 ミシャ式の亜型とも言えるが、4-4-2における2-2ビルドアップ+フリーマン高尾と解釈するべきか。いずれにせよ、倉田は仙台FW赤﨑-富樫の1stプレッシャーラインの目の前でプレーしたいように見えた。いわゆるライン上でのプレーより、フリーに、オープンにボールを持ってプレーしたいという。

 ただ、倉田がボールを持てば持つほど、バック3がダブつく問題がある。そのツケは当然、前線の枚数不足となって支払うのだけれど、最前線にはFWパトリックと宇佐美がいる。収支トントン、といったところか。ただそれは相手次第になる。

 一方で、CB高尾のSB化でガンバの右ハーフスペースが激熱だ。WB小野瀬がレーンチェンジ。呼応してハーフレーンのシャドー小野がカットアウトしたり、チャンネルランを繰り出す。列とレーンを入れ替えるダブルパンチでどっかに穴が空けばガンバの攻撃としては成功である。

 仙台としては、大攻勢をかけてくる左サイドを守り抜きたい。守備の一番槍を任されたのは、左WG関口だ。右の加藤千尋もこのポジションができるが、やはり関口の経験をかわれた起用のような気がする。気がするだけ。

 SB化する高尾を関口がプレッシャーをかけプレー時間を制限する。レーンチェンジの小野瀬には上原、富田のセントラルMFコンビが張り付く。バック4は我慢してラインを維持。ゴール前のスペースを消し込む。

 仙台としては、小野が怪我による途中交代が大きかったかもしれない。小野のバックカット、チャンネルラン、カットアウトは、仙台ファイナルラインへ大きな負担になりそうな気配があった。気配があるところでの交代。ガンバにとっては、ここが分水嶺だったのかもしれない。結果論だけれど。小野瀬、小野という小野小野ハードワーキングサイドでダメージを与えようというのは、結論がパトリックか宇佐美だとしてもかなり効いただろう。

 話は逸れるのだけれど、松波ガンバになってから2010年ごろのJリーグを思い出すなどしている。トランジションが無く、攻めてるか、守ってるかに二分されている。そして最後は、前線のタレントがセットプレーかカウンターで一撃をくらわす。結局トランジションかい!と突っ込みたくなるあの懐かしいリーグである。トランジションまで細かく想定されてないのだから、やるとき、やられる時はトランジション時であるというのは当然といえば当然のような気もする。まあ仙台も同じかもしれない。

 話を2021年の試合に戻そう。仙台としては、相変わらず「攻撃はどうするの?」な前半飲水までの時間だったし、ガンバとしては3-4-2-1をやりたいのか4-4-2をやりたいのか、そのギャップで相手を苦しめたいのかよく分からなかった。結局、WBの4-4-2に対するギャップと宇佐美のところで時間とスペースを得ていたように思える。

 

左右CBをサイドへと誘き出すパラレラ

 その「攻撃はどうするの?」のひとつの解が、飲水後に仙台が披露し攻勢を仕掛ける。FWあるいはWGによるパラレラである。FW赤﨑に至ってはカットアウトでワイドレーンまで大きく開いている。

 ガンババック5は、ボールサイドのオフボールマンのパスラインに対して、足が出せる場所で守ろうとマーキングするいわゆるマンツーマーキング。そこへ赤﨑、加藤千尋がパラレラでサイドバックからボールを受けようとする。赤﨑が空けたスペースを加藤千尋がリユーズしマーキングを引き受けた背後を富樫がパラレラで突く。

 縦へのDFに強い5バックだけれど、オフボールマンへのマーキング意識が非常に高くなってしまうネガティブと、ボールが中→外→中と経由されると、5バックいるのにDFが足りなくなる怪奇現象が起きる。30分のシーンは、ゴール前に高尾しかいない。高尾も戻り切れていないけれど。

 仙台としては、3バックをサイドに引っ張りだしたり、手前に引っ張り出すことでできるスペースにサイドからボールを供給。富樫が「どういうボールが欲しいか味方に話してゴール以外にも良いボールをくれた」とコメントした効果が出ているのかもしれない。

 そして富樫の先制ゴール。まるで春先の仙台DFを見ているかのようなガンバ左サイド。宇佐美がハンドリングを主審にアピール。認められず。歩きながらオリジナルポジションである左サイドへ向かう。何なら途中交代の矢島もジョグで戻っている。現代サッカーにおいて、これはJリーグにおいても7人で守れることはもう無い。無いのである。あれだけ自由にさせてもらえれば蜂須賀から高精度のクロスボールが入る。東口は何を思うか。

 PKで同点後にされるが、西村のカウンター一閃。79分という時間もあるが、やはりガンバのネガティブトランジションに課題ありか。リトリートが追いついてない。そのまま3-2で仙台が勝利。残留に向けた5連戦決戦の初戦を取った。

 

考察

 仙台としては、得点直後の失点、ハンドによるPKからの失点、オフサイドでハンドリング取り消しなど、紙一重なところがあったと思うがよく勝ち越し点を取り切ったと思う。富樫の2ゴールが前半のうちに生まれたのが大きかったかもしれない。ガンバとしても、布陣ややり方を変えて…というより、パトリックか宇佐美が炸裂する方が早いということか。ある意味隙だらけだったわけだが、その隙をタレントで覆い隠すというのは定石とも言える。その隙を逃さず突く、というのが、我々ベガルタ仙台の生きる道なのだけれど、そんな隙を与えてくれるチームは数少ない。90分のなかでも数分しかない。数秒のチームもあると思う。これからどんどんその勝利への風穴が小さくなっていくが、やるしかない。弱い自分を何度でもずっと食らい尽す。

 

おわりに

 最後までこれを書こうと思うよ。(笑)

 勝ち点3を取らなければ、我々に未来は、無い。

 

「ここが この戦場が 私の魂の場所よ」こう言ったのは、マグノリア・カーチス(ブルー・マグノリア)だ。

 

黒松華憐に花束を。 #2

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 01

「なあ長町」

「なんだ」

始まったな。いつものが。

「好きなサッカークラブを教えてくれ」

これはまた無理難題だ。

「好きな?」

「そう」

好きなクラブねぇ。

「無いよ。特に無い。適当にリーグ戦とかカップ戦の結果を見るくらいで、どこかに入れ込むとか無い」

「本当?」

「そう。本当だ」

これは半分が本当で、半分が嘘だ。

昔はあったというのが、正解だ。

「じゃあ好きだったチームとかは無かったのか。これまでもずっと」

察しが良い。勘が鋭い。

俺はこれに真面目に答えるべきか、適当にあしらうべきか、嘘をつくかの三差路に立っている。

黒松華蓮に嘘をつくのは気が引ける。

かといって大真面目に答えるほど、俺は優しいという自覚は無い。

「あったよ。昔、スタジアムに行って応援するほどのチームがあった。今はそれほどでもない」

俺にとってはかなり真面目に答えた方かもしれない。

「長町は、そのチームが好きじゃないの?」

好き……か…

好きか嫌いかと問われたら、果たしてどちらだろうか。

時折ニュースで結果を知るくらいで、彼らが今どうなっているのかなんて知らないし、知ろうとも思わない。

興味がない。

興味がないんだと思う。多分。

どうでもいい。

「興味ないよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。興味もない、特に価値を感じない、好きとか嫌いとかの感情すら湧かないチーム。興味の対象とするのが意味の無いチームだ」

「そうか……」

きっと、黒松華蓮にはそれが分からない。

なぜなら、彼女にとって、僕は「サッカーを観てる奴」に部類されるからだ。

こうして会話しているのも、それがきっかけだからだ。

「無関係という関係性なんだな。なるほど、よく分かったぞ」

「無関係という関係性……」

関係を断ち切ることは、できないのか。

僕と、あのクラブと。

僕の中のなにかが冷温停止しているのなら、無関係関係であるのなら、いつの日か再臨界して関係者になる日が来るのだろうか。

今の僕には、まったく想像できない。

「まあよく分からんが、黒松にとってプロ野球チームに関心が無いのと同じだよ。そんなひねくれた関係性なんかなくてさ」

「私は、じいちゃん、お父さん揃って、根っからの巨人ファンだぞ」

「面倒くせえ例えを使っちまったァァァァァァ!!!!!!」

 

02

なんで親子三世代巨人ファンの奴に、偶然にも例えに野球を出しちまうんだよ。

「そうか。長町なら知ってると思ったのだが」

「何を」

 

「『好きなクラブとかチームをどうやって応援するか』だ」

 

……どうやって応援するか。

分からない。

黒松華蓮には申し訳ないが、俺にはそれが分からない。

「私も、どこか好きなチームとかを見つけて、応援してみたいと思ってな」

「スタジアムにも行けない奴が?」

「うっ……………」

とっさに、俺は彼女を刺した。

純粋な興味を俺は、先回りして、道端で待ち伏せしていたかのように、しかも彼女の心臓を一突きするようなセリフで、刺した。

俺は、自分を責めた。

最低だと思う。

「…………」

「…………」

でも同時に、好きになる必要なんて無い、応援なんてやらなくていいとも思っている自分がいる。

離れた時の寂しさや、過ぎ去ったことへの切なさを感じたり、どうにもならないことへの怒りを覚えるくらいなら、はじめから無関心であればよかったと思う。

好きだったはずのものをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てては拾ってを繰り返すような人生を味合うことに、何の意味があるのだろう。

理解できるが、納得はしていなかった。

そんなふるまいをする自分に。

そして、そんな想いをしている自分を裏切るような、他人やチームに触れて自傷するくらいならいっそ他人事であれば良いのだと思う。

僕には、彼女に、そんな想いをしてほしくないという気持ちすら生まれつつあった。

 

「……でも…でも」

 

たったひとつ、いや、まだまだあるのだろうけれど、俺が黒松華蓮を誤解していたことは、彼女は俺のナイフなんかでは死なない、ということだ。

 

03

「好きなチームがあれば、応援したいひと達がいたら、私は居てもたっていられなくなるかもしれない」

……

「たしかに今はスタジアムに行くのに大きな勇気がいるが、その一歩を後押ししてくれるかもしれない」

……

「だから、まずは私が応援したい、好きになりたい。誰かを推したい。自分だけ好きでいてもらいたいなんて都合が良すぎる。私は、支え合いたい」

 

言葉が出なかった。

俺にとって、黒松華蓮は、とても眩しかった。

 

「そう……じゃあ好きなチーム探せばいいよ。いくらでもあるだろ」

「うん………そうだな。探してみる」

「見つけたら、また教えてくれ」

「ああそうする。決まったら、長町に一番最初に報告するからな」

 

いつも唐突な黒松華蓮が、そう、宣言した。

 

 「はいはい、分かったよ」