蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

完全蹴球2日制

しりとり

 

01

ある秋の、高校生の、男女2人のお話。

「なあ」

「何かしら」

「どうして、冬でも半袖短パンの選手っているんだろうな」

「……知らないわよ」

「なんかもう引くに引けなくなったっていうか。ここまで来たら貫こうとしてるのか」

「さあ?家を出る時は長袖長ズボンなのに、来る途中までで寒さで縮んでしまうからじゃないかしら」

眼を見開き叫ぶ。

「それだ!!!!!!」

「いや、絶対に違うし、そういう反応されると私が真面目に言ってるような感じでとても恥ずかしいのだけれど」

「まあ、ユニフォームも生き物だからな」

「急に反応に困るまとめに入らないでくれないかしら」

「真面目なことを言うと、冬に半袖短パンだろうが、別に興味ないんだけどな」

「私の恥じらいを犠牲にしたというのに良くそんなことが言えるわね」

「そんなことより、バス、何時に来るんだよ」

時刻表を眺めながら。

「仕方ないじゃない。今日は休日ダイヤで、あと30分は待たないといけないのだから」

「じゃあしりとりしようぜ」

「急に?急展開じゃない?さっきの事務的な質問から、どうして急にレクリエーション始まるのかしら」

 

02

「じゃあ俺からな」

「はあ……」

なかば諦め。

「ジョーイ・バートン」

「……」

「……」

「ほら、ジョーイ・バートン」

「………カッサーノ

マリオ・バロテッリ

「…ルーニー

「んー、イブラかなー」

「ひとついいかしら」

「ん?なんだよ」

「しりとり……よね?」

「ん、しりとり」

「初めのジョーイ・バートンで、ゲームセットなのだけれど」

「……」

「しかもなぜか『サッカー界の悪童列挙ゲーム』になっているし」

「……」

「……」

「天才!」

「違うわよね。絶対途中で軌道修正入ったわよね」

「んーまあいいんじゃないか」

「まー…別にいいのだけれど」

「それよりお前さ、好きな奴とかいんの?」

 

03

「!!!」

「ん?」

「き、急に何を言っているのかしら!!」

「別に急でもないだろ」

「急よ!!それはその……」

「なんだよ、教えてくれないのかよ」

「い、いえ、その、なんというか、あまりにも急で準備が……」

「は?まあいいや、じゃあ俺から言うわ」

「え???」

「俺が好きなのは……」

「待って待って待って待って待って!!!!」

「え?なんだよ」

「やっぱり急じゃない?こういうのはもっと、ちゃんと…」

「なんだよ『ちゃんと』って。応援歌か?」

「違うわよ」

「別に言うくらいタダだろ?」

「えっと、まあ、そうだけれど…いやタダでは無いというか……」

「じゃあ言うわ。俺が好きなのは……」

 

04

 バス停に、バスが1台、やってきた。

「おい、バス来たぞ」

「え?え?今日って……ごめんなさい、時間を見間違ってたわ…」

「なんだよ。まあいいっか。ラッキーラッキー」

「続きはその……今度、今度でいいからまた教えてよ……」

「ん?あー、まあいいけど」

「(そんなに、一番好きな悪童サッカー選手が聞きたかったのか)」

「(あ!でも2人だったし逆に今がチャンスだったのかも……)」

 バスは、2人を乗せて、次のバス停へと向かう。

 

 

 

 

【流星】Jリーグ 第31節 大分トリニータ vs ベガルタ仙台 (0-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。 アウェイ大分戦のゲーム分析。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

3-4-2-1の『ミラー』で迎え撃った仙台

 ホームで勝てない今季において、アウェイでの仙台は、まるで『ホームチーム』のような快進撃を続ける。それはここ、昭和電工ドーム大分でも変わらない。キックオフの笛が響き渡り終わるくらいには、タカチョーの電光石火の一撃が決まっている。センターバックに、テル、シマオが入る3バック模様からの奇襲攻撃だった。

 この日の仙台は、3-4-2-1を基軸として、蜂須賀、タカチョーの両ウィングバックが自陣リトリート時には5バックを形成する5-4-1を採用。ボールを奪うと、ボールサイドのシャドー(山田、クエンカ)が、可変プラス前掛かりの大分が空けるバックライン背後へと飛び出していく。そこに呼応して、ボールサイドのWBはもちろん、相手陣深くまで逆サイドのWBがランニングしていく『アグレッシブ』スタイル。そんなこんなで、キックオフから蜂須賀のクロスにタカチョーが飛び込んでいく形で先制を上げたのだった。

 幸先よく先制した仙台。残りの時間を大分に攻めさせて、自陣リトリートでスペースを埋め、時間を使う策でその大半を過ごした。大分は、お馴染みのバック3とセントラルMFの可変でビルドアップの下地を作る。CBとCMFで2バックを作り、両CBがワイドなポジションを取り、仙台のプレッシングを分散化させた。仙台としては、ブロッキングを5-4-1でセットしているので、当然センターFW長沢の両脇のスペースが空いてくる。3バックのままなら、仙台もそのまま3フォワードでプレッシングを嵌めることもあるのだけれど、さすがに相手はカタノサッカー。そんな甘い想定はしないきーやん仙台といった具合に、長沢に1人残ったCMFを監視させ、ボールサイドのWGにバック2の1人とワイドに張るCBを監視させるマイルド策をとった。 

 

左シャドーから紐解こうとする大分と崩れない仙台

 ビルドアップ歴戦の猛者、片野坂大分トリニータセントラルMFのドロップに、今度はシャドーのドロップで、4-1-5の大きな円のなかを使い始める。特に左シャドー野村は、仙台MF椎橋の横、あるいは背後のライン間でボールを受け始める。こうなると、無理やり陣形を言うなら4-4-2のような形になる。仙台は、右ウィング山田が、バック2に横切りプレッシングを仕掛けるので、中央へのコースは空いているのだけれど、そこを使われ、ワイドへ展開されプレッシングを外されてしまう。こうなると、後退気味のポジションからワイドに張ったCBとバック2を見る形になる。この辺りがリトリートになった要因のひとつだろう。

 ただ、仙台も、たとえばテル君がそのままマンツー気味でついたり、CMFが対応するなど、大分シャドーへの警戒は高かった。なので、シャドー経由でサイドに展開されても、今度は5バックの強みを活かして、WBと左右CBがサイド対応することでボールサイドに蓋をし続けた。大分も、ボールサイドからサイドチェンジで逆サイドに展開できたら(ホーム大分戦のように)もう少し展開が変わっていたのだと思うのだけれど、この日の仙台は5人がバックラインに並んで、WGが戻って中盤4人になっているので、ピッチを大きく使いづらかった印象だ。大技が決まれば…とは思うけれど、ボールサイドに限定できたのは仙台にとっては大きかった。たとえ展開されても、ファイナルラインの数の多さを活かして、ワイドの選手をWBが縦迎撃で対応できた。

 大分も打開を図るべく、シャドーがそのままライン間にとどまって楔を待ったり、WBにボールが入ったら、仙台のライン背後を狙うカットアウトランを見せるなどの工夫を見せる。当然50対50のボールが多くなるので、仙台も奪う機会がある。ひとたび奪えば、前方のウィングか長沢へロングキックを蹴り、『攻撃に最適なポジション』を取っている守備陣形を攻撃し続けた。後半にはセットプレーで追加点をあげ、「大分の攻撃を停滞させカウンターを警戒させつつセットプレーで決着をつける」を見事に仕上げた。

 フォーメーションを揃え、マンツー気味で守り、自陣でリトリートしてカウンターとセットプレーで仕留めきるという、このわざとらしいほどの「ボトムズ」な戦い方だった。ある意味見事な戦いだったと言えるし、その90分間を「(目の前のサッカーを愛せると言われている)サポーター」として見ることのできる立場にいて、逆言えば幸福だとも言える。

 

考察

Good!

 ・陣形が崩れたようなカオスな局面で前に出る強さがある。

 

Bad…

 ・相性ゲームになりそう。(大分のように頑なにビルドアップしてくるチームには刺さる)

 

Next

 ・今季も残り2試合なのですべてを出し切ってほしい。

 

おわりに

 一枚岩であること、野心を持つこと、反骨心を持つこと、一気呵成にかかること、迷いを断ち切ること、葛藤を拭い去ること。この辺りがピッチで表現できているのであれば、それはすべてベガルタ仙台のサッカーではないかなと思っている。どんな形であれ。そして、ベガルタ仙台のサッカーを通じて、選手がもっとサッカーうまくなってくれれば、それはもう素晴らしいことで、選手に対するクラブやチームの責任のひとつなのかなと思う。相互作用だけれどね。そんなこんなで、この「Jリーグっぽい何か」は佳境なわけで、拾えるもんは病気以外拾っていきましょう。

 

「まだだ!まだ終わっていない!!」こう言ったのは、リキッド・スネークだ。

 

 

 

【スターゲイザー】Jリーグ 第26節 ベガルタ仙台 vs 柏レイソル (0-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。 ホーム柏戦のゲーム分析。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

同数プレスの死なばもろともの仙台

 12月。リーグ戦もあとわずかながら、今季ここまでホームでの勝利が無い仙台。なんとかして勝ち点3をホームで上げるべく、この日も開始早々全開のアタックを見せる。左フルバックに蜂須賀が入る4-3-3でゲームスタート。対する柏は、3-4-2-1でセットアップ。江坂、オルンガ、クリスティアーノの強力アタッカー3人が最前線に構える。

 この日仙台は、前線からのプレッシングで柏のビルドアップを妨害。柏は、3バック+2セントラルMFの「3-2」M字型ビルドアップにGKを含めた戦型。ポゼッション志向のところに、仙台のプレッシングの牙が刺さる。仙台は、3フォワードに2人のインサイドMFのため、形で言えば「2-3」のプレッシング部隊になる。ビルドアップと噛み合わせて、同数の死なばもろともプレッシングを敢行。強力な3FWにボールが入る前の部分を破壊しようともくろんだ。

 ただし、このビルドアップ妨害にはネガティブが存在する。GKである。GKへもプレッシングにはいくのだけれど、ここでわずかに時間とスペースが生まれる「小さなズレ」が発生。バックラインも合わせて、構造的に浮いていているWBへボールを繋ぐことで、仙台のプレッシングを空転させる。さらに、江坂、クリスティアーノ、オルンガが仙台のプレッシングの背中を狙うようにドロップ。匠、浜崎がヒシャルジソン、三原へマンツーマンして空けたスペースを使ってバックラインを引っぱり出して、そのままスピードアップしていく。いわゆる擬似カウンターだ。特にヒシャルジソン、三原は、縦関係になったり、左右を入れ替えたりして、仙台は「そのままついていけばスペースやコースを空けるから」と判断に迷いが出たり、「いやそのままついていく」ことでスペースを空ける。特に、浜崎、匠は自分のタスクと目の前に起きている現象との間に揺れ動き、結果論的には柏のCMFに利用され、逆を突かれた形になる。

 

 

4-4-2変更でも動じない柏

 試合開始直後からの攻勢は、だんだんとプレッシングを空回りさせられたことで、防戦へと傾いていく。攻撃についても、平岡、ジョンヤ、飯尾でバックラインを構成して、前線へボールを供給していく。縦志向は強かったが、左サイドについては、平岡がドライブする時間とスペースがあることからポゼッション志向も強かった。ただしその先の、WG、インサイドMF、フルバックの3人称にはなるが、スペースを創ったり利用したりの部分の欠落は大きく、最後はクロスで終わるシーンが多い。どちらにせよ前線へのロングキックの展開で、非常にオープンななかで、「最初からパワープレー」状態になる。まさに、天に祈る展開になる。

 後半からは4-4-2に変更。FWとボールサイドのWGで、柏3バックと同数プレスに、CMF対CMFの構図にする。ワイドのWBには、飯尾、蜂須賀のフルバックがサイドへの出張を解禁。何としてでも「同数でのプレッシング」を堅持した。これに息を吐くように対応する柏。ドロップしていたシャドーが、特にクリスティアーノは蜂須賀が出た背後のスペースへカットアウトする。平岡がサイドへカバーするけれど、スライドの都合、ゴール前でオルンガvs飯尾になっているのはかなりリスキーとも言える。 ウィングがなるべく下がらず高い位置をキープするには、この対応になるのだけれど、そもそも「マンツーマンを外そうとするから相手の攻撃が活発になる」のであって、自分たちで招いた課題をまた自分たちで解決しようとする非常に効率の良くないというか、自分で自分の仕事を増やしているような状態だ。たしかにみんな頑張っているが、頑張らなくても回る仕組みは、最低限作られてほしいと思う。いや、願っている。頑張るのはその先の気がする。気がするだけ。

 

考察

Good!

 ・開始早々の全開アタックは良かった。

 

Bad…

 ・人意識強いがいずれ限界がくる。

 

Next

 ・次のホームが最後のチャンスだ。

 

おわりに

 もう次節開始30分前に書いているから特に無いです。(笑)ひとつ言えるのは、歩いてもできることなら歩く、走らないと追いつかないなら走る、ということを来季に向けてやっていけたら良いなと思います。「行けと言われたから行く」のは、決して主体的な行動ではないのかなと、強く感じます。「どうして行かなければいけないのか」をもっと考えて実行できたらと思います。

 

「まだ手は届くんだよ!」こう言ったのは、烈怒頼雄斗だ。

 

 

 

【星を継ぐ者】Jリーグ 第29節 サガン鳥栖 vs ベガルタ仙台 (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。 アウェイ鳥栖戦のゲーム分析。かつて4試合連続ゴールを達成した英雄がいた。悔し涙が光る星となる。ピッチを駆ける星を継ぐ者。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

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ゲームレポート

開始序盤から争点になる「FW横」

 平日にアウェイ鳥栖に乗り込んだベガルタ仙台。挑戦してきた形に戻って来たガンバ戦のメンバーでこの戦いに挑む。リザーブには、ゲデスも復帰して、全快ではないにしろ松下や蜂須賀を含めて主力メンバーがそろってきた感がある。無抵抗でやられたホームでの鳥栖戦の雪辱を晴らす。

 開始から鳥栖は仙台の構造的な痛点を突く動きを見せる。仙台の4-3-3、リトリート時4-5-1に対して、鳥栖の対抗型はオーソドックスな4-4-2。ビルドアップは、センターバックセントラルMFによるボックス型ビルドアップ。ウィングがインサイドレーンにレーンチェンジする「トムキャット可変」に、フルバックがワイドに高く位取りする。ここまでまさに4-4-2の王道でありオーソドックスな形だ。注目するべきは、左CMF原川の仙台FW横を使うポジショニングにあった。

 鳥栖はボックスというより、台形に近い形で、原川が仙台センターFW長沢の横を使ってボールを預かった。4-5-1は、中盤に5人が並び5レーンを埋めるやり方で、中央インサイドレーンを3センターがきちんと監視できれば、非常に手堅い形であり、4-4-2の弱点のひとつであるサイドチェンジにも対応できる。ただし、FW1人を中盤にしていることから、どうしてもFW横のエリアが、4-4-2以上に時間とスペースができてくる。ここをウィングなのか、インサイドMFが担当するのかで、チームの狙いだったり相手チームのどこを妨害したいのかが見える。この試合では、仙台の「やりたいこと」の方が強く出た気がする。気がするだけ。

 原川のポジショニングに合わせて、右CMF匠が真正面からプレッシャーをかけていく。当然、右WGの山田はワイドのフルバックを担当するので、この位置へのプレッシャーは物理的に難しい。長沢が中央からサイドへの限定役を考えると、プレッシャーをかけるなら匠と言ったところになる。こうなると、仙台は瞬間的に4-4-2になる。ここで、ライン間で受ける鳥栖のトムキャットWGやFWが、匠が空けた後方のスペースを利用してボールを前進させた。つかさず山田が埋めようものなら、今度はフルバックを使ってボール前進。右フルバック飯尾が引っ張り出し、FWの1人がカットアウトランを敢行。ドロップするWGとWGロールのフルバックに呼応するFW。ダブルパンチ。鳥栖の十八番だ。

 フルバックにボールが入ると、カットアウトするFWをデコイに中央にできたスペースへ斜めに刺すパスを通す。「頭のてっぺんからつま先まで神経が通る攻撃」を披露するサガン鳥栖。仙台は、左インサイドMF浜崎も前掛かりの意識が強く、また全体的に人意識が強い傾向にあった。ビルドアップとボール操作技術、ポジショニングに絶対の自信を持つ鳥栖相手に、「サッカーを壊す」ことを選択したのだと思う。ただ、行けば行くほど外されるし、速くいけばいくほど速く対応され、まるで仙台の余計な力を使って技を繰り出す達人のように鳥栖は仙台を翻弄した。特に仙台の右サイドは、山田が低く、匠が前掛かりで出て来るので、原川がいるサイドというのもあると思うが、そこを徹底的に狙っていた印象だ。

 仙台は、飲水後にインサイドMFの突撃プレッシャーに「待った」をかけて、後方から静観する姿勢に変更。CBへのプレッシャー担当をWGに変更。山田とクエンカは、鳥栖CBへプレスターゲットとした。ただしこれも鳥栖としては想定内というより、「仙台のストロングである前線からの強烈なプレッシングを大人しくさせ、より余裕をもって時間とスペースを使える」状態になる。WGから解放されたフルバックからの攻撃を加速させる鳥栖。段々とプレッシャーラインが下がり、自陣でのリトリートになる時間が増える仙台。後半から4-4-2で数合わせもしたが、CMFのドロップによる擬似3バック化でさらっとかわす。

 もはや、噛み合わせをどうこうの次元の争いではなかった。ピッチで何か弄ったくらいで食い下がるのがやっと。称賛されるべきことだ。サッカーを高次元へと引き上げる。感服するしかない。金サガンには、何重もの対応策があって、まさに「あの手この手」がある。「この手ですべてを掴む」つもりでやってきたベガルタ仙台にとって、非常に難しい相手であったことに相違ないし、試合のほとんどの時間を耐えて凌いだというのは、8分の決定機がオフサイドになり、GKクバのビッグセーブが連発したことが大きそうだ。

 

バックラインからのロングキックという準備

 ただ、かくいう仙台がスコアとしては勝利を収めたのだけれど、試合開始から続けてきた後方からのロングキックが、最終的にはGKからのキックで得点という形へと昇華されたと解釈したい。この試合でも、インサイドMFによるハーフスペース突撃や3人のFWによる4バックレーン間攻撃など、これまで見せている攻撃の根幹部分を表現。CBジョンヤやボールサイドのフルバック(飯尾、パラ)が後方からロングボールを供給する。

 ゲデスという「ハイボール処理をさせたらチームNo.1」の選手が入って来たことにより、左フルバック蜂須賀からのサイドチェンジキックを収めたり、GKクバも意図的に彼を狙うなど、相手フルバックとのミスマッチを突くようなプレーができるようになったのは大きい。ゲデスのハイボール処理は胸トラップというか、肩トラップというか、決して動画映えするようなギフトタッチでボールを収めるわけではない。それでも収める。長沢の得点は、そんなゲデスの競り合いに松下、浜崎が絡んだ形で選手それぞれがこの局面でバチっと嵌った感が強い。

 自陣でのビルドアップ、超ショートカウンター、セットプレー、スローインとかとかとかとかとか、どのプレーとっても何一つ無駄にしないのが、実はこのチームの強みだったりする。多分、地味で派手さが無く、出来て当たり前感すらあるのであまりスポットライトが当たらないかもしれない。でも、「『当たり前』の幅を広げて、それを常に『当たり前』にやる」ことの難しさは、僕たちの人生が嫌というほど証明している。 

 

 

考察

Good!

 ・我慢のなかの一筋のチャンスを掴もうとしたこと。そして掴んだこと。

 

Bad…

 ・WGが左右で違うのは、クエンカに攻撃、山田に守備を求めているからかもしれないけれど、山田のポジショニングで逆に攻撃を誘発している気もする。

 

Next

 ・長沢がもう一人の英雄に並べるか。

 

おわりに

 この2試合を通して思ったのは、いろいろと落ち込んでいる間に差をつけられた部分があるなと。ただ、鹿島は「昔の鹿島」に戻りつつある。志高く挑戦を続ける鳥栖には勝った。なんだか不思議な気分だ。僕たちの現在地はどこにあるのか。きっと今季に限って言えば、非日常が日常となったこの世の中においては、どこも横一線なんだと思う。明日のことは分からない。分からないけれど、厳しい戦いになることは分かっている。

 

うまく今季を活用できましたか?

Jリーグっぽい何か」を利用できましたか?

いっぱい転んでいっぱい立ち上がれましたか?

未来へ渡すタスキは握り過ぎてボロボロになってますか?

今日より明日は良い日になりそうですか?

良い挑戦を、良い準備を続けて、失敗できて成功できていますか?

 

お前たちが一生懸命やってる、『サッカー』ってやつは、うまくなれそうか?

 

ありがたいことに、サッカーの神様は、ホームとアウェイの試合を2試合ずつ残してくれている。時間は無いが、時間はある。また、勝ったり負けたりしながら、少しでもサッカーがうまくなろう。

 

「まだあわてるような時間じゃない」こう言ったのは、仙道彰だ。

 

 

 

【スターダストメモリー】Jリーグ 第28節 ベガルタ仙台 vs 鹿島アントラーズ (1-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか。 ホーム鹿島戦のゲーム分析。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

鹿島の猛撃に耐える6-3-1

 今節もホーム今季初勝利への挑戦が待っている仙台。対戦する鹿島アントラーズには、昨季ホームでも良い思い出はない。そんな鹿島は、ザーゴが新監督になろうと「いつもの鹿島」にすっかり落ち着いている。ボールを持っていなくても局面とゴール前を固め、時間を進め、カウンターでもボール保持攻撃でも強力なアタッカーで一発仕留める形だ。エヴェラウド、上田に、アラーノと土居が加わる攻撃には、春先に見たザーゴらしさは薄れているけれど、鹿島精神の影を感じる。ザーゴが自らのゲームモデルに鹿島の精神を取り込んだというより、ザーゴが取り込まれた感すらある。何者でも飲み込む。まさにクラブスピリット。

 対するベガルタ仙台。試合間隔が中2日に対して、鹿島が7日と爪を研ぐ時間たっぷりあった日程的ディスアドバンテージがあるが、仙台もそれで勝ち点1を稼いだのもあるのでお相子。フルバックにケガ明け初スタメンの柳、こちらもケガ明け初スタメン赤﨑がセンターFWに入る。インサイドMFに兵藤、左ウィングにタカチョーが入る。オリジナルフォーメーションはいつもの4-3-3だ。

 仙台のボール非保持は、4-5-1でセットするのが主なのだけれど、左WGクエンカが高い位置でセンターバックフルバックを牽制する間に立つことで、攻守両面で攻撃力の高いやり方をする。この日、タカチョーと山田の両WGは、鹿島フルバックがワイドに高い位置を取るのに合わせるように、ボールが出たらすぐに対応できるように、自陣深く低い位置でセットした。鹿島のオリジナルフォーメーションは、アラーノとレオシルバの位置次第で攻撃的にも戦術的にもできる4-3-1-2だ。もともとワイドに幅を取る役割をフルバックに期待するこのフォーメーションは、最終的に、2CB+アンカー永木、レオシルバの2CMFでボックス型ビルドアップを組む。こうなると、2人のFWに土居、アラーノを加えて、両フルバックが高い位置を取るとなると、相当な前輪駆動になる。仙台としては押し込まれる形に。

 鹿島のCB奈良が入ることで、ボールを持つと時間とスペースを有効に使ってボール供給を行う。仙台は、WGが深く守るため実質6バックの形を強いられ、CBへのプレッシング役は兵藤、浜崎のインサイドMFが担当することになった。センターFW赤﨑はアンカーを消しているが、CBをサイド限定するまでに至らず。限定する、ではなく限定されてから限定する、は大きな違いがある。最終的には、6-3-1のような形で受け、鹿島は時間とスペースのある仙台の「FW横」やWGロールのフルバックから前進を図った。よって、仙台は前半開始から鹿島の圧を受けることになり、何度もGKクバと世界的にも有名なGK「バー・ポスト」がDAZNハイライトに乗るほどの活躍を見せた。

 

常に2つの選択肢を突きつけろ

 フルバックをWGに、ハーフレーンのレオシルバとアラーノには柳、パラのフルバックが人意識強くつくことで食い下がる仙台。アラーノが低めに下がってパラが空けた背後のスペースを上田がオフボールランするのも、平岡がサイドまでカバーすることで決壊を許さなかった。こうなると、仙台がボールを奪う位置は、必然的に自陣深い位置になる。仙台のポジティブトランジションは、ポゼッション志向が強く、自陣でボール交換して空いている逆サイドへ展開していく意図が見える。また、鹿島のカウンタープレスが来るなら、外して鹿島CB横へ走り込むWGにロングキックを蹴りこむ。

 仙台の攻撃ルートは左サイドが主。鹿島も時間経過とともに、「CBにはボールを持たせてやるぜ」のこれも「いつものやつ」で対応。CB平岡、ジョンヤには時間とスペースがあった。仙台のポジショナル攻撃は、4-3-3からインサイドMF兵藤がFW横にドロップ。呼応してLFBパラが高い位置を取りWGロール。タカチョーとの3人称で逆三角形を形成。兵藤を扇の要として、二本槍を鹿島DFに突きつける。仙台左サイド、つまりは鹿島の右サイドなのだけれど、もともとアタッカー色の強いアラーノにとっては、サイドをカバーするのかセントラルMFとしての振る舞いをするのか迷いがあったのだろうか、中途半端なポジションを取ることになり仙台としては前進ポイントになった。

 鹿島も3センターが横スライドするので、左サイドに人垣ができれば、仙台は逆サイドに展開して今度は右サイドから進撃開始。いくらレオシルバがいても、3人でピッチの横幅を瞬時にカバーするのは物理的に不可能で、仙台右サイドにボールが出るとRFB柳はフリー、コンビを組む山田とで相手フルバックに2on1を作った。ここに浜崎のハーフスペース突撃が加わると、一気に右サイドを打開した。

 インサイドMFのハーフスペース突撃については、ワイドの選手が横ドリブルのカットインでレーンチェンジする形も合わせ技で加わっているこの数試合。今までは、WGやインサイドMFの単発攻撃だったのが、スペースを創って使う(create & use)ことができてきた。この日ならタカチョーはもちろん、後半に3-4-2-1に変更してもジョンヤのアタックに柳のカットイン、長沢のゴールシーンも、椎橋のランと蜂須賀のカットインの合わせ技。もともと、ボールホルダーに対して縦オフボールランする「前進サポート」の意識は強かったのだけれど、それだけの一発芸になっていたが、空いたスペースを使うのか走り込んだ選手を使うのか、相手との駆け引きのなかで迷わせることができるようになってきている。ここに、逆サイドからDFライン背後へ飛び出してくる背番号25番が出てくれば完璧だ。

 

再現される1-5の悪夢

 ただしカウンター対応というか、ボール保持攻撃時の守備ポジションの課題は解決されていない。3失点目についてはもちろん前掛かりになっていたのだけれど、蜂須賀、柳が相手陣深いところまで進攻している。仙台は、インサイドMFとは名ばかりで、相手陣にアタックを仕掛ける非常にアタッカー色の強いポジションだ。WGと合わせてミシャの4-1-5をどこか思い出させる(そのミシャ札幌と撃ちあいになったのは偶然と思いたいが)。ワイドの選手も高い位置を取り続けると、前線大渋滞プラス、カウンター予防にアンカー椎橋とCBの3人しかない状態に。

 さすがに前掛かりでも3人は厳しいのが昨今のサッカーシーンにおけるカウンター対応だ。4人でも挑戦的。3失点目の後に3-4-2-1にしたのは、片側のCBが上がっても、2CB残るのとCMFが2人いるメリットを活かそうという狙いにも思える。後ろが怖くて前にかかれないのは本末転倒といった具合だ。ポジショニングが良い時は、ボールサイドと逆のフルバックインサイドレーンに絞ってカバーしているのだけれど、どうしても点数を取るとなるとポジション度外視になる。

 圧倒的な運動量の方でカバーする策もあるのだけれど、それは夏場に死んだと感じているので、ピッチで解決するのかシステムで解決するのかどちらでも良いのだけれど、攻守に「良い立ち位置」をしてほしいと思う。

 

 

考察

Good!

 ・昨季1点も取れなかった鹿島から取り組んできたことでゴールを挙げたこと。

 

Bad…

 ・カウンター予防に人いなさすぎちゃいます……?

 

Next

 ・ホームも今季残り試合も少ない。その少ない機会をひとつも無駄にしなければすべてが許される。

 

おわりに

 立ち上がるベガルタ仙台サポーター。みんな今やれることで精いっぱい抗っている。来季以降、ベガルタ仙台の運命は非常に厳しい修羅の路になると覚悟している。とにかく、今、今だからできることをやる。挑戦していれば失敗もするし成功もする。良い挑戦を続けてほしい。幸いにもまだ、まだ今季は終わっていない。

 

「まだだ まだ終わらんよ」こう言ったのは、クワトロ・バジーナだ。

 

 

 

【Rolling Star】Jリーグ 第32節 ベガルタ仙台 vs FC東京 (2-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。 ホームFC東京戦のゲーム分析。吹田完勝劇から日を置かず、ホームでの戦いが始まるベガルタ仙台。掴みかけた運命の糸を決して離すことなく戦えるか。今節FC東京、次節鹿島アントラーズと、強敵揃いをホームに迎えてホーム初勝利を目指す。誰もが待ち望んでいたあの男の帰還が、一撃が、次への活力になる。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

中盤スキップのFC東京への抵抗

 仙台は、前節同様4-3-3にメンバーも変更無し。リザーブにケガ明けの松下、蜂須賀が揃いようやく総力戦体制になってきている。前節のガンバは、センターバックセントラルMFを中心にポゼッションし、中盤を支配する志向が強かった。対抗する仙台も、前線3人と3センターで仙台迷宮を創り出してボールをちぎり続けた。そんなガンバとはスタイルが異なるFC東京は、この試合でもそんな「いつものやり方」で臨む。

 FC東京も、高萩をアンカーとした4-3-3でセットアップ。高萩と2人のCBでボールを持つが、前線で待つレアンドロや永井をターゲットに、仙台のファイナルラインと直接勝負を挑んだ。あるいは、CBからフルバックへボールを回して、そのままサイドを田楽刺しする形をとる。FC東京として、中盤で奪われるリスクを回避して、「前線へのロングキック」と「サイド攻撃」を選択してくるのは、こと仙台対策でもなく、「いつもの」ことだった。ただ、仙台としてはこのシンプルだが、強力な攻撃型に苦労する。

 センターFW長沢がホルダーになるCBへ横切りしながらサイド限定するのが、ベガルタ仙台の前線からのプレッシングの第一手。それがこの試合では、アンカー高萩がいる。まずは高萩をマークしながらCBを制限するダブルタスクがあるので、前節より相手CBに時間とスペースがある。仙台としてもそれを見込んで、匠、浜崎のインサイドMFが援護射撃で第一プレッシングに参加。瞬間的に4-4-2的にホルダーであるCBへ制限をかけた。ただ、前述通り、そこでリスクを取らないFC東京フルバックに出して回避したり、サイドを制限するためにウィングとフルバックが縦迎撃した背後を、永井やインサイドMFがカットアウトで突撃する形で奥行きを取る。

 仙台としては、ある程度ミドルブロックを敷くなかで、中盤の守備網でボールを奪えず後方でボールを奪う展開になるのは想定していたかもしれない。平岡、ジョンヤがある程度サイドのエリアもカバーしたり、椎橋がフォローに入るなどの工夫も見られる。また、相手フルバックへのカバーも、匠と浜崎がサイドに出るなどの対処もあった。ただどうしても押し込まれると、ボール周辺の守りは活発だけれど、逆サイドやゴール前で準備ができていない課題はそのままだったりするなど。先制点を許したシーンなどは顕著だ。ただし、仙台のボールを持った攻撃にも関わる課題なので、攻守表裏一体とはよく言ったものである。

 

自陣からのビルドアップと相手陣のポジショナル攻撃

 この日仙台は、主軸である長沢大作戦を実行。相手の前線からのプレッシングを引き込み、その背中を長沢が使う形を見せる。ただ、ジョアン・オマリと森重の2センターバックは、サイドまでカバーできる守備範囲の広さと、警戒する長沢を自由にさせないので、ガンバ戦ほどすべてがうまくいったとは言えないかったように見える。仙台もそれを分かっているからか、GKクバからの自陣でのポゼッション志向が強いビルドアップを見せる。FC東京の前線からのプレッシングは、GKまで深く鋭く飛び込むことはなく、ある程度ボール前進を許して、ミドルサードあたりで仙台の横パス交換を合図に始まったこともあって、ある程度時間とスペースがあった。長沢大作戦する時間もある。

 しかし、ボールを奪ってから引き込んでポゼッションするのか、あるいは蹴るのか、奪われても良いようにもう一度ポジショニングし直すのかが、いわゆるトランジションの継ぎ目での振る舞いが曖昧で、失点にも繋がっている。そこがFC東京との大きな違いで、良くも悪くも、FC東京はどっちが攻撃でどっちが守備なのか分からない時ほど強くなる。だから、FC東京も自陣でGKを使いながらビルドアップして、仙台がサイドで奪えても、むしろ奪われたことを喜ぶかのように五月雨式プレッシングが発動する。そして奪ってカウンター!がおそらく彼らの根っこなのだと思う。思うというより、再認識だな。

 仙台も、FC東京がボールを持たせてくれることもあって、相手陣での攻撃をする機会も多くあった。左サイドでは、クエンカがインサイド、パラが高い位置を取り、浜崎が相手フルバック背後へカットアウトランを繰り出すなど、3人称のローテーションが円滑だった。右サイドは、山田と飛び出していくインサイドMF匠が使いたい場所が似ていて、やや硬直気味。その分、飯尾がボール配給役に徹して、空いたスペースを椎橋や長沢が使っている。この辺り、両サイドでの共通項としてはインサイドMFの背後への飛び出し。これが攻撃の合図であり、バロメーターと呼べる。その周りの選手は、組み合わせ次第といったところか。交代で入った兵藤も、同点ゴールのシーンは飛び出しがあるが、多くのシーンでドロップしてポゼッション安定に回る。

 このインサイドMFの飛び出しが「前進のサポート」になるのだけれど、これを使うのか、囮に使うのかは、その場の判断に任されているしやはりコンビを組む選手次第になっている気がする。気がするだけ。いずれにせよ、左右のサイドでフルバックがボールを持つ機会、時間とスペースができやすい状態ではあるので、そこから中央へ刺すパスや、そのまま飛び出したインサイドMFを使うなど、駆け引きする部分で一本調子にならないようにしたい。長沢への浮き球パスへのサポート、セカンド回収意識が強めだったり、右サイドから左サイドへ展開する良いパターンもあるので続けて狙っていければ良いと思う。相手が警戒し始めたらチャンスだ。警戒すると身体は固まるし、頭で考えるようになる。頭で考えるとなおさら身体が固まる。攻撃は、心への攻撃だ。

 

考察

Good!

 ・常にビハインドの状態から、2度追いついたこと。

 ・ケガ人が帰ってきたこと。

 

Bad…

 ・インサイドMFの外切りが少なくなってしまったこと。

 

Next

 ・今季を象徴する厳しい日程だが、試行錯誤を忘れずに。

 

おわりに

 離れようとする相手に追いすがり、泥だらけになってでも食らい続けたのが、このチームがここまでやってきたことの集大成にも思える。それはそうだ。こんな状態でもピッチに立ち続ける正真正銘のサッカー馬鹿野郎どもなんだから。離すな。決して。

 

「これで まだ 戦える!!」こう言ったのは、ゴン・フリークスだ。

 

 

 

【Shooting Star】Jリーグ 第27節 ガンバ大阪 vs ベガルタ仙台 (0-4)

はじめに

 さあ、いきましょうか。 未勝利の闇の中にいるベガルタ仙台の姿は、吹田にあった。青と黒で埋め尽くされたスタンドに、わずかに駆けつけた仙台サポーター。この日、白いアウェイユニを纏った11人とで、100万人の大軍勢となってリーグ2位を走るチームを撃墜するとは、スタジアムの道中で想像できただろうか。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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ゲームレポート

蘇生した4-3-3と椎橋という「舟の錨」

 仙台のオリジナルは、椎橋をアンカーに、山田とクエンカを両ウィングとした4-3-3を採用。日立台でズタズタにされた両翼と錨が帰ってきた。ホームで川崎相手に徹底抗戦で追い詰めた7月22日に戻れるのか、それとも新しい形なのかが注目ポイントだった。ボール非保持時には、匠、椎橋、浜崎の3センターが近距離でインサイドレーンを監視し、両翼が低めに位置する4-5-1ディフェンスを敷く。

 この4-3-3。ただ戻しただけの4-3-3ではなく、これまで散々な目にあってきた4-4-2とのハイブリッドなのが、ゲーム開始から読み取れていく。ガンバは、4-4-2からビルドアップでセンターバックセントラルMFとでボックス型でビルドアップの下敷きを敷き、両サイドハーフインサイドにレーンチェンジするトムキャット、両フルバックは低めの位置を取った。連戦もありメンバーを変えてきたガンバは、CMFに奥野、山本を起用。昌子、菅沼のCBコンビと合わせて、仙台がリトリートする想定か、中央でポゼッションするビルドアップを軸にする。このガンバのビルドアップへの対抗型として、仙台は、3センターと長沢で、中央にダイアモンドを形作る。長沢がCBやバックラインにドロップするCMFのホルダーへ継続サポートを妨害するよう横切りする。縦へ誘導されたホルダーに、浜崎、匠のインサイドMFが挟み込む。2枚の横壁でホルダーの選択肢を制限し、縦に刺す楔パスを出させた。そこにいるのは、アンカーに入った椎橋だ。

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 これまで4-4-2のセントラルMFとして精彩を欠いてきたが、この日はまるで別人のよう。前線5人が誘導した先に出る縦パスをことごとくカットする。仙台の右サイドは、山田が対面する藤春が攻撃的な選手であることからかかなり低い位置までカバー。代わりにホルダーへ、ボールサイドの制限をかけたのがインサイドMF匠なのだけれど、椎橋はガンバの左サイドに寄るFWやレーンチェンジする左SH倉田を首振りで確認。縦パスを予測しカットする。仙台の左サイドはクエンカが高い位置で、ホルダーになるCBへサイドへのコースを切るようにボールサイドをカバー。こちらのサイドも、中央で出て来る縦パスを誘発させて、浜崎と椎橋で狩り込んだ。

 リーグ再開後の躍動した姿を取り戻す出だしを見せるベガルタ仙台。宇佐美、井手口と主力を欠くガンバではあったけれど、仙台がピッチ中央で作る「仙台迷宮」のせいで中盤をコントロールできない。これまでの4-3-3は、ウィングやインサイドMFがプレッシングにいく背後にできるスペースを使われてしまって、そのスペースを埋めるために人を割いたり形を変えたりで、「カイゼン」の泥沼にはまってしまっていた。この日は、ウィングのプレスバックも速く、インサイドMFが前に出たスペースをカバーするなどの微調整も見られた。バックラインも4人をペナルティ幅に維持し、インサイドに絞るSHへはそのままフルバックが担当した形だ。左サイドだけは、クエンカがハーフレーン、パラ(柳)がワイドレーンで担当している。選手それぞれの特徴も考慮しながら、チーム骨格を作っている印象だ。

 こうして、開始早々からガンバの攻撃に自由を与えず、時間とスペースと選択肢を制限し続けたのは、「両翼の復活」、「みんなで守る」で一枚岩になれたこと、そしてアンカー椎橋がコンダクターになったことだと思う。試合途中から、中央に築かれた4人のダイアモンドを避けるよう、山本がバックラインにドロップしたり、SH倉田が落ちてきたあたりで勝負あり。ベガルタ仙台陣のストレスが一気に減っていった。やはり、どんなサッカーであれ、束になった我々は強い。

 

勇気をもって敵陣へと飛び込む攻撃

 攻撃の主役は、浜崎、匠のインサイドMF。パラ、飯尾がボールを持つ機会が多いベガルタの攻撃で、彼らがボールを持つと迷わず、相手フルバックの背後へとカットアウトランを繰り出していく。こうなると、ガンバはセントラルMFがそのままマーク担当としてフルバック背後をカバーしにサイドへ出張する。この形、見覚えがあるのだけれど、仙台4-4-2ディフェンスとやっていることは変わらない。スーパープレーヤーの井手口がいればまた話は変わってくるだろうし、倉田、小野瀬の走れるサイドハーフがフルコンディションならなんとかしてしまうのだと思うけれど、体力面でもポジショニング面でも穴が目立ってくる。

 本来中央のエリアを守ってほしいCMFがサイドにいるのだから、仙台としてはそのスペースを使っていく。飯尾やパラはウィングとパス交換しながら時間を作り、スペースに入る椎橋やセンターFW長沢へと繋いでいく。中央へボール出しができなければ、CBのジョンヤ、平岡を使って時間を使ったり、サイドチェンジで攻撃をリセットした。ガンバは、仙台のようにFWがホルダーを横切りできていないため、継続サポート、つまりはボールの高さ維持を許した。また、サイドチェンジできる状態でもあった。

 この辺りの切り方は、ガンバのFWと言うより、「一人飛ばしパス」のコースを切っている長沢が上手いと言うべきかもしれない。ジョンヤ、平岡は、身近にいる相方を飛ばしてパラ、飯尾のフルバックへ一人飛ばしパスを出せている。そんなこんなで、先制点も右サイドを攻めながらパラへサイドチェンジとクエンカの突破で生まれている。右ウィング山田もそうだけれど、前線5人の相手ファイナルライン背後を突く裏抜けランがよく見られた。バックラインはアンカー椎橋も含めてキック上手がいるので、その辺りも信じて走れるのかもしれない。

 この日の仙台は、ボールを持っていない時の守備が嵌っていることもあって、カウンター開始地点も良かった。中央3レーンのインサイドレーンでのガンバの攻撃が多かったのも関係するけれど、それでも中央でボールを奪ってカウンターのシーンが作れている。匠のクロスに長沢が合わせて決定的な3点目が入る。トリプレッタを決めた20番は、リザーブメンバーと抱き合い、静かに、しかし力強く、左胸のエンブレムを叩いた。アウェイ仙台サポーター席から見える、センターサークルへと戻っていく背番号20番は、とても、とても大きい。僕にはこのゴールが、これまで支え続けたベガルタ仙台サポーターへの「恩返し」に見えた。

 

考察

Good!

 ・挑戦している4-3-3とそのネガを修正した形で勝利できたこと。

 ・54分にCKの戻りで、匠がフルスプリントで自陣ゴール前まで帰ってきたこと。

 ・椎橋の首振り認知

 

Bad…

インサイドMFがカットアウトするので中盤に人がいなくなる。前線に蹴れればいいが、バックパスになると相手のプレススイッチを踏む。
・パトリック投入後、パトリックがパラや飯尾とマッチアップするようなポジションを取った。中盤で繋がず、シンプルにバックラインにボールを入れられた時に全体が下がり目で受けないか。

 

Next

 ・継続。この形を継続あるのみ。挑戦し続けよう。

 

おわりに

 あれだけの苦しい状況で、よくやった。よくやったよ。まあしばらくは、この安堵と余韻に浸ろうじゃないか。何回だって試合を見返したっていい。この先また苦しい道が続こうと、ここにまた帰る場所ができたのだから。再び、挑戦の歩みが始まる。歩いているこの道の先に何が待っていても、帰れば、また来れるから。

 

「たとえどんな現実が突きつけられようと、『それでも』と言い続けろ」こう言ったのは、マリーダ・クルスだ。