蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第24節 川崎フロンターレvsベガルタ仙台(1-0)「何度でも何度でもベガルタは生まれ変わっていく」

■はじめに

 さあさあ彼の地等々力での川崎フロンターレとのゲーム分析いきます!震災をきっかけに、クラブ以上の間柄となった友人のフロンターレ。優勝なんかしちゃったおかげですっかり大人びた雰囲気で、地元でつるんでた頃が懐かしくなった。そんな友人君に「あの頃のことはいい加減忘れろよ。俺たちいつまでも子どもじゃないんだぜ」とでも言われたような我らがベガルタ君。待ってろ、すぐ行くぜ。では、レッツゴー。

■オリジナルフォーメーションf:id:sendaisiro:20180826214433p:plain

 ベガルタは、3-1-4-2を採用したが、天皇杯のターンオーバーからメンバーを入れ替えている。CBには金、勤続疲労の奥埜に代わって椎橋が3センターの一角に、2トップにはジャーメインが入った。狙いはSB裏、CB脇を俊足FWが突く狙いだ。渡邉監督のコメントの通り、過去川崎と対戦するなかで同様の策で挑んでいる。他にもやり方は考えているようだが、メンバー構成からそれが最適解といったところか。

 川崎は、前節広島との首位決戦を制し、首位奪還の覇道を突き進んでいる。メンバー天皇杯明けだが王道メンバー。ボールを握って、殴って、奪って、握ってを繰り返す。いざとなれば齊藤学がリザーブでスタンバっている。川崎のブロック崩しが先か、ベガルタのカウンターが決まるか。あとは、予想される対抗策に対してどんな対抗策を持っているのか注目だ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃 -ビルドアップ妨害を突破せよ-

 ベガルタは、3バックビルドアップから攻撃構築を図る。プラスして富田が加わることで、スクエア形成。相手の前プレに関して、ダンや富田が加わり擬似4バックになることでプレス回避に工夫を加えていた。

 川崎は、442でミドルゾーンでのブロック。ただ、ケンゴウのCBへのプレスを合図に、マンツーによるビルドアップ妨害に変形。さらにケンゴウは、GKダンへも深追いしていった。ポゼッション型チームのボール非保持時の標準装備であるゲーゲンプレスと同様、前プレによるビルドアップ妨害も必須項目だ。

 10分、3バック+富田のスクエア。前プレスイッチはケンゴウ。プレスVSビルドアップの火ぶたが切られた。

 17分、同じく3バックとアンカーによるポゼッション。川崎はミドルゾーンで442ゾーンを形成していたが、ケンゴウのチェックを合図に一斉に前プレを開始。ケンゴウはGKダンまで深追いする徹底振り。

 19分、ダン、大岩、ジョンヤから富田のアンカー落とし。右ウィングレーンに平岡がレーンチェンジし、プレス回避に工夫を加える。

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 ベガルタとしてもそれを剥がす術もいくつかあって、本当はそれを見せないといけなかったのだが、それ以前にミスしてしまった点が課題だった。まあミスを強いられたとも言える。あとはシンプルに、狙いであるSB裏にロングを蹴ることももっとあっても良かったのではと思う。

 

(2)守備 -532連鎖崩しを許すな-

 ベガルタ守備陣は532ブロックを形成。3センター+3バックで川崎に使われると厄介なエリアに人を割く算段だ。また、相手CBが前進してきたところを待ち構え、その裏にスペースを作る狙いだ。ここはある程度やれていたと思う。川崎相手に論理的に崩されたシーンは少なく、ゲームプラン通りだったかと思う。やはりこの守備を攻撃のために使いたかった。

 22分のシーン、小林が降りてきているが3センターが閉鎖。

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(3)ポジティブトランジション -コレクティブカウンターへの道のり-

 ベガルタの狙いは、ここ、ポジトラだ。いかに前がかかりになったSB、CBの裏を俊足FWがアタックするかが勝負の分かれ目だ。にもかかわらず、あまり効果的ではなかった。というより、きちんと狙ってやっていたのか少し分からなかった。奪うエリア、奪ってから展開するエリア、走りこむエリアとかとかとか。どちらかというと、ジャーメイン、西村のクオリティに任せていた部分があったと思う。ま、それがカウンターの質を決めるといえば、そうでもある。

 13分、ジャメがCBと1対1に。これがベガルタの狙いだ。

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 32分、椎橋がボールカットし、西村、中野へ。CB脇に走りこむジャメにボールが出るが、谷口にディレイされ、カウンタースピードを殺された。

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 36分、ボールを奪い、ポジトラ開始。椎橋からジャメに。

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*狙い通りミドルゾーンで。しかも、左から攻める川崎の攻撃を防ぎ、裏を狙う理想的な展開だ。

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*ジャメがCB脇で受ける。谷口と1対1だ。行け!ジャメ行け!だったが、鬼のトランジションで戻って来た大島にボールを回収されてしまう。このシーンだけ見れば、完全に川崎の失点シーンなのだが防がれてしまう。そうなると、ちょっと今日の狙いはうまくいかない様子だ。

 

■後半

 ベガルタは、ジャメに代えて石原投入。後半開始からの投入は、事前に予定されていたものかは不明だが、どこかで石原が投入されることは予想できていた。やはりジャメの出来具合が影響か。

(1)攻撃 -ケンゴウがいてもいなくなっても-

 後半も変わらず、ケンゴウがプレススイッチだ。CBからCBへのパスを見るや、チェックをかけてきた。ダンへの深追いも健在だった。ペップバルサでメッシ、シャビがGKまでチャージしたのを思い出す。ただ川崎の凄みは、ここからだった。ケンゴウが下がると442のゾーンディフェンスに移行。CB同士のパスにも442は崩さない。CBのドライブには、差し金のチャレンジ&カバーでディフェンスしてきた。ベガルタは、これを崩せなかった。例えケンゴウがピッチにいなくても、いない時の守備ができていたし、やれていた。中村憲剛という存在が作り出した守備体系と言っても良いと思う。

 *概念図

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(2)ネガティブトランジション -攻撃できないゲーゲンプレス-

 ベガルタのネガトラ。相変わらずだが、即時奪回ではなくリトリートを採用。ただ、まるで即時奪回のようにボールホルダーに対して、エリアを密集するような動きを取った。当然、同点、逆転を狙ってのことだとは思うがちぐはぐさは否めなかった。

 66分、敵陣でボールを奪われ、ネガティブトランジションに移行。

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*川崎は7枚、ベガルタは4枚だが、ボールホルダーに対して3枚。

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*ロンドでかわそうとする川崎。石原、奥埜、蜂須賀がエリア密集でプレーを限定させる。リトリートまでの時間を稼ぐ。まあ分かる。

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*平岡がヘルプ、西村が気持ち寄って来た。5枚がこのエリアにいるにもかかわらず、エリアの凝縮率は高くない。そして取られる背中。取ったのは誰?大島だ。

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*嫌な予感しかしない。ほとんどノープレッシャーでボールを蹴りだす大島。よく見ると、中野、富田も寄ってきている。リトリートは?

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*大島から降りてきた小林へ。マークする大岩、後ろのスペースが怖いのか潰し役になり切れていない。そして用意されたレイオフをするためのスペース。レシーバーは、大島だ。我らベガルタプレス部隊、ハーフコートに8枚を集めるがボールにはほぼプレッシャーがかかっていない。パスカット狙いでしょうか、いいえ、引き付けられたのです。

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*大島から、右サイドでアイソレーションの家長へ。教科書通りのオーバーロードアイソレーションだ。結局、ベガルタは、ハーフコートに9枚を送り込んでいた形だったが、右への展開を許している。プレー原則なのか、ゲームプランなのか修正する術はなかったのだろうか。

 

(3)守備 -鎖でつながれ3センター-

 ベガルタは引き続き3センターでブロック形成。最近は、541ブロックではなく、試合を通して532での中央閉鎖を選択している。この試合でも川崎相手にもかかわらず効果を発揮。ただ、後半になるとプレー強度が落ちるのかスライド、チャレンジ&カバーが間に合わないシーンが目立っていった。

 64分、川崎の3+1ビルドアップに対して、2トップ+3センターで構えるベガルタ。そこを神出鬼没のトーマス・ミュラーではなく、小林悠に、車屋から楔パスが入る。

 69分、今度は、大島にたった1人で、ベガルタの選手3枚が無力化された。

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*ハーフスペース入口に立つ大島。ここは通さないよと門番の中野が立ちはだかる。ただし、富田、奥埜が中野が空けたエリアを埋め切れていない。

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*大島は、一度谷口に出そうとするがキャンセル。石原のポジションをいじり、中野をひきつけた。

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*右サイドにつける大島。ボールが自分の足から離れ、サイドの選手につくまでの間、中野はボールウォッチャーになった。中野がセントラルをやる限界がここだ。後方のスペース管理ができていない。それを見逃す10番ではない。プレジャンプでスペースランの準備。

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*あっさりハーフスペース侵入を許した。中野は必死に追いかけるが、西村は逆方向に体が向いているし、蜂須賀はマークを捨てられない。富田、奥埜は相変わらず中央に。大島はプレジャンプ1本で3枚のディフェンスを無力化に成功した。このあと小林のシュートにつながっている。

 

(4)ポジティブトランジション -残念、そこは-

 この試合を通しての狙いは、ポジティブトランジション時のカウンターだ。珍しくというか、なかなか立ち振る舞いが決まらないベガルタだったが、この試合はある意味やることが決まっていたためか、出してと受けてが意思統一されていた。ただ試合を通して存在感を増したのは、西村や石原、ジャーメインではなかった。そう、川崎の2セントラルだった。

 53分、自陣で平岡がボールをカットし富田へ。カウンター待機だったが、守田がパス予測しカット。カウンター予防となる。

 64分、ボールを奪い狙いの右SB裏へ西村が走る。でも、大島がピタリとつきカウンターの速度を殺した。

 65分、ミドルゾーンでボールをカットし西村。石原とクロスランを絡めてカウンターを完結させたかったが、そこには大島が。2人とも縦に走るしかなく、チャンスをつぶしている。

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■考察

(1)強固なボックス6

 川崎相手に6枚でバイタルエリアをロックしたベガルタ。川崎相手にロジックで失点しなかった事実には自信をもっていいと思う。あとは、試合通しての強度をどこまで保てるか、スペースを人で埋めるので、動かされた時に自動的にスペースができる構造的な問題をどう解消するか。どちらも立ち位置で解決できるものと思っている。

(2)消えたスクエアアタック

 消えた。気づけばファイナルサードでスクエアを形成するシーンがほとんどなかった。82分に椎橋、奥埜、中野、西村で形成するシーンぐらいだったか。当然、この試合のゲームプランは、CB脇・SB裏へのカウンターが第一優先だったこともあるが、二次・三次攻撃でスクエアを作って攻撃に厚みを作るシーンは少なかった。メンバー構成もある。疲労もある。川崎相手だ。ポジションに人をつけて、狙いで選手をセレクトするベガルタだ。でも色々あるけれど、誰もが息を吐くように作れるようにはなりたい。ひいてはボールを持ち続ける手段なのだから。

(3)主導権

 自分たちの狙いを出して、相手の狙いを潰すのは、だれが監督だろうとまずは考えることだ。そのなかに、相手の良さを消すやり方だってある。ただ、もっとベガルタの良さを出しても良いのではと思う。湘南やガンバ、川崎もそうだが、相手に合わせ過ぎてペースを握られ、そこを跳ね返さなければならない状態になっていた。この試合もそうだ。今回ははじき返せなかった。相手が首位争いしているチームだからだ。いかに自分の土俵に引きづり込むか、ポジショナルワールドに引き込めるかトライしていきたい。

■おわりに

 攻守、トランジション、ポジション、選手の質、ゲーム運びいずれをとっても一味も二味も違かった川崎君。ディフェンス裏へのカウンターを防がれ、2手目、3手目を出せなかったベガルタ君。たしかにディフェンスはやれた。でもそれだけでは勝てないし、それで満足するような時期は遠の昔に過ぎ去っていると思う。紙のようなディフェンスと言われた川崎が重厚長大な442ブロックを構築しているところを見ると、勝つために何が必要かを何個も何個も持っているのように思える。やりたいことをやるために、やり方を変える。やりたいことと試合ごとの狙いとは、違うように思える。その狭間に今やるべきことがある気がする。気がするだけ。また、友人に課題を与えられてしまった。

 「僕は毎日朝起きると新しい自分に生まれ変わるんだ」こう言ったのは、リチャード・ギアだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

 footballistaRenato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com

Jリーグ 第23節 ベガルタ仙台vsガンバ大阪(2-1)「ピッチ上の選択は。そして手にした勝利」

■はじめに

  ではではガンバ戦のゲーム分析いきます!すでにゲーム分析の前に天皇杯が行われており(マリノス戦)、果たしてこの分析にどのくらいの価値があるのか疑問だが、 Jリーグ屈指のイケメンショナルプレー対決、攻撃面で良いシーンが見られた我らがベガルタ。更新しないわけにはいかない。今回は、ゲーゲンプレスをかわされ、必死に80mのロングランで何とか書き上げました。もしよかったら、見ていってください。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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  ベガルタの3-1-4-2は、4-4-2系のチームに対してテンプレートになっている。2トップのコンビは、西村、アベタクの元気いっぱいコンビだ。狙いは、5レーンを意識して、粛々と立ち位置を取り続け、ゴールを奪うことだ。

 ガンバは、移籍してきた渡辺をFWに入れ4-4-2に。中央でガチャピンが攻撃のタスクを握る。監督は、ツネ様こと宮本恒靖監督になっている。ガンバはクラブOBに修羅場を経験させて監督としての経験を積ませる育成方針なのか。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃 -スクエアアタックとチャンネルラン-

 ベガルタの攻撃のキーは、チャンネルとスクエアだ。ガンバの守備意識は高かった。SBもSHも献身的にボールにプレスをかける。けれど、自分が立っていた場所から動けば、そこは空く。当然、味方が入れば、埋めに入った選手が立っていた場所が空く。立ち位置攻撃の特性をガンバは対応しきれていなかった。ベガルタは、そこを突いた。

 

 17分ごろ、渡邉監督が外した1本とコメントした西村の決定機。GKを始点にチャンネルラン、スクエアを織り交ぜた攻撃。機能美あふれたトータルアタックだった。

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*始まりは、ダンのキック。

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*中央のアベタクがポスト、中野にボールがつく。そして左ハーフスペースへ。ガンバは、ネガトラ時だが自陣への戻りが遅い。

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*中野は、左ウィングレーンの関口に展開。そのまま、左ハーフスペースを駆け上がる。マーク役の小野瀬は、そのまま中野につき、結果チャンネルを埋める形になる。

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*関口の選択は、カットイン。チャンネルランにボールを合わせる選択もあるが、関口はレーンチェンジを選び、マーク役の三浦、ボランチの高に対して、「選択」を迫った。

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*ガンバ三浦はついていった。高は、何を守るか曖昧になった。結果は、ガチャピン1人でバイタルケア、富田が前を向いた。

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*富田は、右ウィングレーンの蜂須賀への展開を選択。倉田が対応する。ボックス内、ベガルタ4枚に対して、ガンバは6枚。ベガルタ+2枚だ。どこかでだれかが余っている。そう、左ウィングレーンの関口だ。アイソレーション、ステンバイ。

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*右ウィングレーンの蜂須賀のフォローに入ったのは、ハーフディフェンダー平岡。蜂須賀は、ボールを渡し、倉田の背中を取るランニング。倉田は、オジェソクに蜂須賀のマーク受け渡しを指で指示している。引き続きボックス内を見るが、マークがズレている。圧縮しているはずなのに、圧縮していない。西村が、浮いている。小さなズレが大きなズレを生み出す。平岡の選択は。(ちなみに、蜂須賀のランは、平岡、富田、中野でスクエア形成になる)

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ベガルタ、ガンバ、それぞれの選手がそれぞれの「選択」をした結果、平岡は、フリーでルックアップしてクロスを上げることに。倉田は「そこ」にいるが、平岡のクロスを防げていない、中央を中野へのパスコースを防げていない、蜂須賀も見切れていない。平岡のフォローが倉田を迷わせ、蜂須賀のランが頭をパンクさせ、「そこ」にピン留めさせた。

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*審判の時が来た。選択の結果、アベタクと奥埜がディフェンス2枚に、中野は、ファビオ、オジェソク、遠藤の頂点に。そして、ハーフスペースに西村が。ボックス内、5対4だ。奥埜のポストから、西村へ。その時が来た。ゴールシーンが決定機になった。

 

 決まっていたら先制点だったシーン。ダンのキックに始まり、中央→左→中央→右と振って、チャンネルラン、スクエアを織り交ぜて、平岡のクロスから西村のシュートが。特に、中野のチャンネルラン・スクエア頂点作りと関口のレーンチェンジ、平岡のフォロー・蜂須賀の背中取り、小さなズレは、大きなズレとして、ゴール前にフリーの西村を作り上げた点が素晴らしかった。大岩、椎橋以外が直接絡んだトータルアタックは、ベガルタの選手にとっても選択の連続だったが、同時に、ガンバの選手にも選択を迫った。決まっていれば、今季ベガルタのベストゴール!は言い過ぎだと思うけれど、立ち位置攻撃の極みだった。

 

 31分、右ウィングレーンで蜂須賀がボールを持ち、ここでも平岡がフォローに入る。オジェソクが食いついたタイミングでアベタクがチャンネルラン、ローポスト侵入。左ウィングレーンから入ってきた関口にマイナスクロス、シュートに繋がる。

 32分、右ハーフスペースを平岡がドライブ、倉田に仕掛ける。右ウィングレーンの蜂須賀につけ、リターンを受ける。平岡、蜂須賀、富田、西村でスクエア形成。平岡は下がってきた蜂須賀に預け、前へ。開けたスペースに富田が入り、蜂須賀からボールを受けるローテーション。

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 36分、奥埜が右ハーフスペースでボールを受けシュートを放つ。

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*始まりはやはり、クォーターバックのダンから。中央の富田につけ、右ウィングレーンの蜂須賀へ。倉田とオジェソクが対応する。オジェソクはWBへの食いつきが良かったが、チャンネルを広げる結果に。遠藤か倉田が埋めるか、逆サイドのSHがディフェンスラインに吸収されるかで圧縮を維持するが、倉田が頑張り過ぎるのかできていない。

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*それを見逃すデュエルマスター奥埜ではない。しっかりとチャンネルラン、右ハーフスペース、ボランチ背中でボールを受けることに。ちなみにボックス内は3対2だが、アイソレーションで関口がいる。

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*アベタクに楔パス、レイオフレイオフレシーブからのシュート。ガチャピンがアベタクのポストを潰しにいくが、結果、奥埜のシュートスペースを空ける。

 

(2)ネガティブトランジション -トランジションマン奥埜-

 ネガティブトランジションは、やはりデュエルマスター奥埜が主役。あとは3センターの距離を調整しているか。あとは、パスカットを狙うのか、パスレシーバーをマークするのか、奥埜のがんばりを昇華させる仕組みを構築したい。

 と言いつつ26分は、先制点を許したシーン。クリアボールを拾われた流れから、渡辺千真に移籍後初ゴールを許す。

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*ボールを持ったのは、ハーフスペースの高。前節一人ゲーゲンプレスを支えていた奥埜を振り切り、3センターの中心に侵入。渡辺はつかさず、バックドア。中野、奥埜はボールホルダーに絞り切れず、高のパスコースも切れていない。3人のレシーバーに対しても、マンマークでも、パスカットでもない気がする。エリア密集でもない。果たして、ゲーゲンプレスのタイプは。奥埜のがんばり+他の選手の立ち位置で調整か。

 

(3)守備 -5-3-2ブロック-

 ハイゾーンでは、マンマークでビルドアップ妨害。ミドルゾーンでは、5-3-2ブロックで進出を防ぐ狙い。3センターの脇をSBが進出するが、そこはスライド対応。

 9分、仙台のビルドアップ妨害。2トップと奥埜、中野、SBへは蜂須賀が準備。

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*ガンバは2バック+GK+ガチャピンでスクエア。ベガルタは、人につくで妨害を図っている。

 20分、ミドルゾーンでのビルドアップ妨害。

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*2バックポゼッションに対して、5-3-2-0の形でミドルゾーン圧縮・中央閉鎖。CBにフリーでボールを持たせて、ボランチを2トップ脇に落とさせる。落ちてきたところで、センターの一角が追いかける。ボールを下げさせて、ラインを上げる狙いだ。

 

■後半

(1)攻撃 -ポジショナルワールドへようこそ-

 同点、逆転を狙うベガルタの攻撃は、やはり、チャンネルラン、スクエアアタックだ。特に、オジェソクは蜂須賀へのチェック意識が高く、チャンネルを空けるケースが目立った。倉田も平岡への意識が強かったのか、埋める動きもなく、ガチャピン、高もケアしなかった。結果、奥埜のチャンネルランが決まった。また、スクエアも作れているので、ガンバは誰かにつくと誰かが空く、空けてもいいけれど、支出を回収する動き(最後はゴール前ではじき返す、サイドで奪う等)があまりできていなかった。

 *攻撃概念図。

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 49分、スクエア形成。蜂須賀が右ハーフスペース、奥埜が右ウィングレーン、平岡、富田の2センターのような形で立ち位置ローテ。倉田、オジェソクのポジションをズラすことに成功。

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 同49分、今度は、関口のカットインから、中残り、左ハーフスペース侵入。右サイドにボールがつくと今度は蜂須賀から西村、蜂須賀はハーフスペースにランニング。

 51分、ダンから富田へ。ここでも3バック+GKでスクエア。富田から蜂須賀へ展開し、蜂須賀にオジェソクを食いつかせることに成功。奥埜がチャンネルラン、ハイポストへのパスに繋がる。

 

(2)守備 -意地でも5-3-2ブロック-

 ベガルタは、試合通して5-3-2ブロックを敷く。対するガンバは、4-2-2-2で3センター攻略戦に挑む構図に。ベガルタは、スライドが間に合わないケースやサイドチェンジされたら明らかに決定機を迎えていたが、そこは何とか耐えた形だ。

 70分、5-3-2の痛点を突かれる。奥埜がサイドに釣られ、中央のガチャピンがリターン、間髪入れず楔パスを渡辺に打ち込んでいる。渡辺はサイドにレイオフ

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(3)ポジティブトランジション -迷っている間に行けるぜ-

  ベガルタは、奥埜、富田がポジトラのスイッチ役だった。これまでポジトラ時の立ち振る舞い、ポゼッション確保なのかカウンターなのか明確ではなかったが、この試合では、前に前に出ていった。ガンバのネガトラ時のポジション、動きとも関係すると思う。明らかに後ろのカバーを無視したボール奪取を試みて、外され、カウンターを受け続けた。西野ガンバを思い出させるような守備陣に、ディフェンスリーダーの宮本は、何を思ったのだろうか。 

 52分、パスカット型包囲?から、奥埜がカット。富田が左ハーフスペース脇に位置する西村へ。なぜか3人で奪いに行くガンバ。背中をアベタクが取る。奥埜、蜂須賀は、空いているバイタルエリアに向かう準備をする。奥埜にボールが入り、倉田が寄せるが、そこは引き付けて話す。アイソレーションの蜂須賀は、ボールを受けるとシュートまでいく。

 53分、富田がトランジションスイッチをオンに。西村に楔パスを入れた瞬間、ガンバ守備部隊は、9人がベガルタ陣に入ってきた。左ウィングレーンのアベタク、ボックス付近で中野にスイッチすると、ローポストで構える奥埜、そして西村の日本人トップタイのゴールで同点にすることに成功。

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*サイドで3枚がかわされるガンバ。むき出しのバイタルエリア。裸になった3枚のディフェンス。奥埜、蜂須賀が広大なエリアに向けてスプリント準備だ。

 56分、今度は奥埜がデュエル勝利。平岡、そして蜂須賀へ。ここでも平岡、蜂須賀、奥埜、西村でスクエア形成。蜂須賀の右ハーフスペースへのレーンチェンジから奥埜へ繋ぐ。左ハーフスペースで受けた奥埜は、レーンスキップで左ウィングレーンでアイソレーションの関口へ(渡邉監督の試合後コメント通り)。関口のアベタクへのクロスは、オジェソクのオウンゴールとなっている。オジェソクは、チャンネルを空ける、アイソレーションに対応するで苦慮していたところにオウンゴール。辛すぎる。ケガ明けの藤春と交代に。

  

■考察

(1)This is ベガルタ

 立ち位置を意識した良い攻撃ができたベガルタだったと思う。監督交代した、4-4-2系のチーム相手だったとはいえ、相手を見てどこが空いているのか、空いているところを攻撃することができていたと思う。今シーズンは、なかなか、相手にさせてもらえないケースが多く、質や数の力で勝ち点を得てきている。このタイミングで、きちんと立ち位置攻撃が出来るのだと証明できたことは大きい。

(2)調律するか、調律されるか

 やはり先制点を許したことはいただけない。渡邉監督の言うように、逆転する力はあるが逆転にはパワーがいるのだ。そのパワーをどこか別の場所で使いたい。ベガルタがポジショナルワールドに相手を引き込むか、相手がどんなワールドを展開するのか見てみようじゃないかなのか、それはもう将棋棋士の棋風に近い。でも、相手の手の内を知るために失点までする必要はないと思う。

(3)野津田がいなくても勝てるサッカーをしていれば、野津田が出てくる

 吉武博文が「10人のバロッテッリがいたら、1人は長谷部になる。その逆もしかり」と言っているが、今のベガルタは、野津田不在のなか、どうサッカーを進めていくか模索し続けていた。要するに野津田がいなくても勝てるサッカーを目指していた。結果はどうだろう、やっぱり野津田はでてきた。それが奥埜だと思う。当然、全く同じタイプの選手だと言いたいわけではなく、攻守・トランジション時において、タスクを持ち、相手の狙いを崩し、自分たちの狙いを実行できる選手になった。だから多分、今我々が目にしているサッカーは、選手の無限の可能性を引き出すサッカーなのかもしれない。

■おわりに

 「俺たちはゴールまで一度も間違えない。さあいくぞ」といった具合に、常に相手に対して選択を迫り続けたベガルタ。あとはそれを前後半の開始からやりたいし、もっと自分たちがやっているサッカー(プレー原則)に対して、自信を持つべきだ。そういう意味ではまだまだ伸びしろのあるチームだと思うし、個々の選手においても、まだまだ成長する余地もあると思う。誰かがいなくて自分たちのサッカーができないのであれば、それができるように、自分は何をするべきなのか。それを自分自身に問いかけ続けるサッカーだから、僕たちはどこまででも行けるのかもしれない。

 「恐れることを恐れるな、進め」こう言ったのは、イビチャ・オシムだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballista, Renato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012) 

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフあまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com

Jリーグ 第22節 ベガルタ仙台vs湘南ベルマーレ(4-1)「翼をください」

■はじめに

 さあさあ試合分析3回目の今日は湘南戦!トライアングル、3人目の動き、だんご3兄弟と3は縁起の良い数字のひとつだ!今回の分析も、ラングニックライクなパワーフットボールの湘南に倣って、レッドブルとライザップ投入で鬼ゲーゲンプレスをかけましたが、モヤモヤな展開。だから、ありのまま起きたことを書いてます。ということでレッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーションf:id:sendaisiro:20180817222940p:plain

 ベガルタは、3-4-2-1。トップにマイクを起用。明確にビルドアップ出口役、困ったらマイクの空中戦を見越しての起用と思われる。1トップであれば、マイクはファーストチョイスなのか、2トップでマイクの起用はこれまで無い。狙いは、位置的優位、数的優位、質的優位の三位一体ポジショナルアタックだ。

 湘南は、ミラー上等、俺たちについてこれるかなで3-4-2-1採用。ベガルタ同様、トップにはCFらしい山崎を起用。こちらはトランジションターゲット。ベガルタの三位一体ポジショナルアタックに対して、ゼロシフト発動。エリア密集型ゲーゲンプレスを採用し、時間的優位性で有利に立つ狙いだ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃

 ベガルタの攻撃は、ダン+3バックの擬似4バックビルドアップ。対して湘南は、アンカー落としで4バックビルドアップ。両者、3トップがハーフスペースの入り口に立つ守備に対する基準点をズラすのにひと手間加えている。そしてお互い、CFに高さのあるFWを起用して、ビルドアップの出口役としてる。どうしてもトランジションの場面が多い試合展開だったが、時間が経過していくなかでお互いビルドアップの場面でも、相手のビルドアップ妨害を外して前線にボールを運んで行った。

 

 25分、ダン、平岡、大岩、富田でスクエア形成。あるいは、3バック+GKでのスクエアとも見える。湘南は、3トップをボールサイドに寄せて、WBと連携して、ビルドアップ妨害を図っている。

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 31分、西村のファンタスティックゴール。関口が左ウィングレーンで間合いを図ると、西村がバックドアでローポスト侵入。ゲルト・ミュラーを彷彿とさせるゴールを決める。

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(2)ネガティブトランジション

 ベガルタは、即時奪回より、ミドルゾーンへのリトリートの形を取っている。湘南とのトランジション勝負では分が悪いし、3トップもFW系だし撤退するかといった具合か。ただ、それで湘南のポジトラにスイッチを入れた感もある。でも失点はしていない。収支はトントンかもしれない。ただ、結局、奥埜のデュエル勝利から西村のゴールが生まれているわけで、即時奪回の方が良い気がする。気がするだけ。

 

 31分、奥埜の一人ゲーゲンプレス。結果はデュエルマスターが勝利し、左ウィングレーンへの展開に成功している。

  一応、周辺に味方はいるが、相手をマークしている、エリアを圧縮している、パスカットを狙っているようには見えなかった。ちなみに奥埜が負けると、カウンターの地獄の門が開く。

 

(3)守備

 ベガルタは、守備時、ミドルゾーンで5-4-1のブロックを形成。石原、西村がサイド対応するいつもの形。対して、湘南は、ピッチを縦半分に輪切りにしたハーフコートに選手を集める密集で立ち位置を取っていた。湘南の守備についても同様。トランジション時のランがそれを繋ぐ接着剤になっていた。

 

 10分、湘南は山崎をターゲットに、右のハーフスペースにロングボールを蹴られていた。

 28分ごろ、湘南の4バック+アンカー型ビルドアップを捕まえきれず、ロングボールを許す展開。

 29分、湘南の右ハーフスペースの入り口に立たれ、ペナルティエリアまで運ばれる。

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*シャドーへの楔パス、シャドーからWBへのレイオフ、楔パサーがハーフスペースを駆け上がる、明けたスペースに山崎が降りる、山崎のスペースに梅崎が入りフリック、裏を秋野に入られてしまう。

 

(4)ポジティブトランジション

 ベガルタのポジティブトランジションは、奪ったらマイク!ではなかった。どちらかというと、相手陣内での前プレでボールを奪って、シュートまでいくシーンの方が決定機につながっていた。ただ、それも再現性はなかったように思える。蜂須賀や奥埜のがんばりのように見えた。この辺は、ショートトランジション狙いなのか、ロングトランジション狙いなのかもよく分からなかった。

 

 13分、GKからのボールを蜂須賀がカット。

 14分、相手ゴールキックから秋野のパスミスに関口が反応。この日、2点目となる同点ゴールを決める。左WBが釣りだされた4バックに対して、3トップを当て、大外の関口が空いた形。

 

■後半

 湘南は、後半から、小川、松田を同時投入。オリジナルフォーメーションも4-3-3に変更。3トップを当て、3センターがハーフスペースを埋めることで、圧力をかけて早い時間帯で同点に持ち込む狙い。ベガルタは、変更無し。

(1)攻撃

 ベガルタは、レーンアタックより、質的優位性で殴る攻撃に。あまり脈略なく、関口、西村、マイクが点数を取っているし、蜂須賀もセットプレー攻撃からだった。レーンだ、スクエアだ言わずとも、マイクが勝てば点が入るし、西村がボックス内に居れば何かが起きそうだし、当たり前だけれど位置的優位、数的優位だけが優位性ではない。なぜ、ミランやレアルの会長が有名な点取り屋ばかり欲しがるのか、何となくわかる気がする。気がするだけ。

 

 55分、一応、ダンから蜂須賀のシュート未遂まであった。湘南の前プレを構造的に外せるならビルドアップについては自信を持っていいかもしれない。 

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*3トップのハーフスペースの入り口に立つ同数プレスによるビルドアップ妨害。対する我らがビルドアップ部隊は、大岩、椎橋、ダンで同数対応。平岡は、右ウィングレーンにレーンチェンジし、出口役に。平岡はハーフディフェンダーとして完成されつつある。これで状況に応じて、アンカーポジションにも入ってきたらもうストーンズだ。でも、その平岡を飛ばして、SBとマッチアップした石原にボールをつけ、ウィングレーンの蜂須賀にボールを託したのは、ダンだ。

 2つ以上の選択肢を持った選手が3人関われば、2×2×2で8通り。もう相手は止められない(吉武博文)。

 

 70分には、オーバーロードアイソレーション。自陣からのロングキックから、左ハーフスペースでスクエア+フリーマンを形成。密集させ引き付けて、右ウィングレーンの蜂須賀へ。

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(2)守備

 ベガルタは、変わらず5-4-1ブロック。湘南は、2-3-2-3の形で4の脇から前進してきた。追加点も影響していると思うが相手が2バックということで、途中から2トップに変更。相手が3トップなら4バックがセオリーだが、3バック+ダンで我慢することにした。中盤は3センターで中央圧縮の構えだが、奥埜のガス欠もあって、また5-4-1に変更している。サイドは申し訳ないけれど、中野、西村に走って死んでもらうことにした形だ。奥埜の0トップは、ガス欠要因だと思うが、準備していたものなのか。

 48分、湘南にGKから左ウィングレーンを突破されシュートまでもっていかれている。

  マイク、西村、奥埜がボールホルダーに包囲するが、ロンドで外される。かわされても二度追いすれば、相手の攻撃を遅らせられるが、マイク、西村は追うことはなく。そこから富田、奥埜が死ぬ気でゴール前まで戻っている。ただ結局、戻り切れずバイタルエリアが空いてしまい、湘南にそこを使われている。3トップの守備については、時々分からなくなる時がある。ハイゾーンでは前残り、ミドルゾーン・ローゾーンではブロック形成なのか。でも、ハイゾーンで奪えないと2センター+5バックだけになるし、実質5バックだけだ。奪うつもりなら、包囲して、二度追い・三度追いしたいし、ディフェンスラインは上げたい。

 

 66分、マイクに代えて、中野を投入し3-1-4-2に。3センターの中央圧縮を狙う。ただ、湘南の右SBには中野、左SBには西村が対応するシーンが多く、実質的には5-2-3で、前線3のスライドとWBでボールを奪う作戦。

 71分ごろから、ミドルゾーン、ローゾーンで中央圧縮が明確に。

 75分、2ゴール&1アシストの関口に代えて、永戸を投入。最近の必勝パターンか。

 82分には、石原out、常田in。椎橋を一列上げて、3センターと思いきや2センターの一角に。西村、中野にサイドを任せ、奥埜、富田、椎橋のトライアングルで中央を守る形。

 

(3)ポジティブトランジション

 ベガルタは、センターサークル付近で2度、コーナーキックの流れから1度、合計3度、GKと1対1のシーンを作っている。ただ、関口と奥埜は、単独カウンターだし、西村はどうしてあれは決まらないのか。獅子川文リスペクトか。いずれにしても、ここでも個人的な、質的な部分で、コインの裏表どちらが出るかみたいな、ポジトラ、カウンターになっているなと思った次第です。

 

■考察

(1)殴り合い宇宙

 ついに手に入れた質的優位性。質でも殴れますよという抑止力を手に入れたことは事実だと思う。しんどい時に頼れる個人としては、ザックジャパンのケイスケホンダに通ずるところがあるけれど、理不尽さで言えばクリロナとかの方が近いかも。でも、質的優位は、相手がそれを上回る質できたら優位でも何でもないのだけれど。それはまた、別のお話。

(2)まだ見えぬトランジション時のアクション

 ゾーンごとのネガトラ整理(奥埜のワンオペいくない!)、ポジトラの振る舞い整理(カウンター?ポゼッション確保?)、ライザップ注入、以上。

(3)やりたいこと、できること

 恐らく、恐らくだけれど、渡邉晋は、中断明けの省エネ策として、5-3-2で3センターをやりたかったんだと思う。3センターの中央圧縮・サイド誘導から、スライドとWBの飛び出しで相手をすり潰して、ハーフスペースに立つFWでカウンターを完結したいんだと思う。でも、けが人で人がいないし、代役はワイドマンの中野だしで、これなら5-4-1の方が良いのでは?ということで現在に至る。でも、5-4-1だと4の脇前進されるわ、ハーフスペースにパス通されるわで奪い所をコントロールできていない。結果、トランジションが安定せず、悩んでいるのではと。湘南戦は、特に、トランジションが表舞台になってしまったし、あとは関口様、西村様、マイク様、松崎しげる様に祈る展開になったのではと。でもこれは本人に聞いてみないと分からない。

 

■おわりに

 なぜジダンがCL3連覇できたのか、個人的にはよく分かっていない。それと同じように、どうして西村があのシュートを決めて、誰もが決めるような1対1を外すのかよく分からない。でもこれがサッカーの一部で、アルゼンチン人がよく「優勝カップを欧州人に盗まれた」と言うのも少し分かる。ある層からは、札束的優位性とも言われる。そっちの方が分かる気がする。お金がないから位置・数勝負の我らが、お金持ちがやるようなことで勝てた。金は天下の回りもの、DAZNも視聴中よく回る。手にした再現性のなさ、脈絡のなさをこれまでの文脈のなかで再現できたら、それはそれでカオスでロジカルだ。その時は、シン・ベガルタの誕生の瞬間になる。

 

 「相補性の巨大なうねりのなかで、自らエネルギーの凝縮体に変身させてるんだわ」こう言ったのは、赤木リツコだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballistaRenato Baldi, 片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012) 

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフあまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

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 「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

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 「ゲルト・ミュラー ベストゴール集」

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Jリーグ 第21節 柏レイソルvsベガルタ仙台(0-2)「Fly again」

■はじめに

 さあさあ!人生2回目ブログはあっという間にやってきました!世の中では、「2は駄作」「1の悪いところが修正されて良作になる」「エヴァの新作はよ」とかとか言われてますが今回も我らベガルタの試合分析です。今もなお、トップレベルの分析インテンシティに遠く、手探り状態が続いていますが、せっかくのブログ開設後、初勝利ゲームの分析なので食らいついていきます。ではレッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、前節の3-4-2-1から、「前輪駆動」「5バック撃破用決戦兵器」の3-1-4-2へ変更。メンバーは左WBに関口が入っている。4-4-2系のチームに対して、かなり前掛かりだが、ケガ人と移籍で人員不足から、試合途中でガス欠になったこともあってか、3センターに変えた意図だと思われる。

 柏レイソルは、軽快なフットサルライクなチームを構築していた下平を解任し、加藤望が監督となっている。トップには、フェイク9瀬川と江坂のユニットを据え4-4-2系に変更。最適解を探している途中とも言える。正直なところ、どんなチームなのか詳しく分かっていない。ただ、日立台の方からは、監督交代が決してプラスには働いていない様子だというのは聞いている。心配。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃

①フルスロットルの日立台

 ベガルタの攻撃は、4-4-2系の相手に対して、5レーンを意識して良い立ち位置を取ることが狙いだ。ただ、開始15分間、柏の全力前プレスを受ける形となり、柏の同数プレスでビルドアップを妨害され続けた。しかも前線4枚は足も速く、ボールをひったくられる形でロストするシーンが多かった。 

 4分、同数プレスを受けて、蜂須賀が苦し紛れで前線に放り込みボールロスト。

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*この場面、ベガルタ6人のビルドアップユニットに対して、柏は同数の6人を送り込む。本来、ビルドアップ側は、前プレに対して、+1確保できるのが原則だが、柏はベガルタのビルドアップ人数と同数をベガルタ陣内に送り込み妨害を図っている。その分、柏のディフェンスラインもベガルタアタッカー陣と同数のためリスクを背負っているが、なかなかビルドアップの出口を見つけれず苦労した。

  

ベガルタの司令塔 ダン

 味方が前プレで苦しむなか、ボールの落ち着け所となったのがGKダンだった。ピッチ各所で1対1を作られていたが、柏の前プレに対して、+1を作ることに成功。

 14分、ダンが板倉とパス交換開始。

 16分、ダンが前向きでボールを持ち、富田への縦パス供給。

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*富田へのパスでファーストラインを突破。ミドルゾーンへボールを運ぶことに成功している。そこからは、おなじみ、蜂須賀がウィングレーンに開き、奥埜がチャンネルアタック。阿部がローポストに侵入しクロスまで到達している。柏の守備は、基準点がズレているのが分かる。柏の2トップもダンに行くのか行かないのか曖昧だ。そこを逃さず、中央の選手にパスをつけるのがダンの凄いところだ。

 24分、今度は、降りてきたアベタクにグラウンダーの縦パスを供給。

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*キャプチャして思ったが、キックモーションがまるでシャビアロンソだ。そのシャビアロンソばりの縦パスをセンターサークル付近に降りてきたアベタクにピタリとつく。この場面では、柏の前プレ包囲網を一本のパスで突破。一気に相手ディフェンスラインに襲い掛かる契機になる。

 

 「GKをビルドアップに含めれば数的優位になる」とは、よく言われるが、実際にやれるGKは限られると思う。単純な足技だけなら何とかなるかもしれないが、適切なタイミングで、適切な味方に、正確なパスを送るのは、なかなか難しいと思う。今のベガルタにおいては、No.10の役割を与え、ダンから逆算して攻撃を構築することも可能ということだ。(個人的には、10番役より、クォーターバック役かなと)

 

(2)ネガティブトランジション

①柏 前へ!前へ!

  同数プレスでビルドアップを妨害された結果、奪われ、自陣に攻められるケースが多かった。正確には、トランジション勝負に持ち込まれたわけではなかった。例えば、湘南のように、トランジション時の斬り合いというより、出足の速い選手によって「素早く寄せられ奪われた」の方がより事実に近いか。まあ、トランジションとは言えばそうだとは思う。ただ、もう少し選手次第に頼っているような気もするし、ここは加藤レイソルを見続けないと分からない。

 4分、ミドルゾーンで奥埜が小泉にボールを奪われ、カウンター発動。中盤で奪われたこと、奪った後に奪われたことで3バックが丸裸に。明らかに失点シーンだった。

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*この後、ボールロストに関わった奥埜、富田とWBのロングランで立て直したが、3対5と危険なシーンだった。

 6分にも、今度は左サイドで同数プレスでビルドアップを妨害された結果、伊東に奪われカウンターを許している。

  

(3)ポジティブトランジション

①柏の6人守備

  なかなか、簡単に自陣から出せてくれない状況が続いたが徐々に前線4枚を外してボールを運べるシーンが増えてきた。試合後、渡邉監督が「相手を見れば、どちらのサイドとか関係なくどこが空いているか分かる」とコメントしていたように、空いている柏の2センター脇から前進していった。

 25分、ダンからアベタクへのパスを起点に、擬似カウンターが発動。ただ、柏の前線4枚が戻ってこない。

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 *正しくは、ポジトラ時のシーンではないことはご了承いただきたい。ただ、ここだけ切り抜くとカウンター時と見間違えるようなシーンなので取り上げた。まるで南米系の代表チームにありがちな、2CH+4バックの形となっている柏。CH脇を中心に3人の選手が駆け上がるベガルタ

 

■後半

(1)攻撃

①そして先制点が

  柏は後半開始とともに瀬川に代えて中川を投入。プレー強度を保ちつつ、前半の再現を狙いたいのだと思うが、ベガルタとしては、15分以降にやれていたことを続ける。

 そして59分、奥埜の先制ゴールが生まれる。アベタクのペナルティエリア角からクロスにヘディングでゴール。この場面、柏の左SB高木がサイドに釣られており、ゴール前はCB2人とSBの3人だけだった(小泉と伊東はディフェンスラインに吸収はされていなかった)。そこを石原、関口、奥埜の数的同数でゴールを狙った形だ。

 

(2)守備

①柏の密集とベガルタの圧縮

 柏の攻撃時は、かなり右サイド(セントラルレーンより右側)で行われていた。時折、クリスティアーノが右に開いたり、中央に位置したり、意図的なのかはよく分からなかったが中央~右に人を集めていた。

 対するベガルタは、5-3-2を敷いてバイタルエリアを中央の3-3ブロックで閉鎖。中央の強度を上げて、ボールをサイドに逃がすことに成功。あとは3のスライドと5バックで対応、柏が密集していたことも関係するが、怖かった伊東の速さ、小池のランニングを封じた。

 66分、関口に代わって永戸投入。締まったゲームにするという言葉通り、一番危険なエリアをケアする渡邉監督。

 81分、椎橋投入。3センターに入り、中央閉鎖の一角を担う。

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*73分のこのシーン。クリスティアーノは、ほぼ中央に絞っており、伊東は右ハーフスペースに。小池は攻めあがっているが、逆サイドでサイドバックが構えることは無かった。ベガルタは見ての通りの中央圧縮。5バックがほぼペナルティ幅に、3センターの幅も非常に狭くしている(ここで受ける江坂もすごいのだが…)。暑いこと、すでに70分以上ゲームが進んでいることから、なかなかしんどかったとは思うが、この状況下での圧縮守備ができたのはすごいことだと思う。

 

(3)ポジティブトランジション

日はまた昇る 西村のカウンター

  強度高く守っていた80分、西村のカウンターで追加点を上げる。ほぼ独力で打開してのカウンターだった。前節で2本の決定機を外し、本人も悔しかったと思われる。もう1点取れるチャンスがあったが、こうやって下ってはまた昇るを繰り返してスケールの大きなストライカーになってほしい。

 

■考察

(1)すべては勝つために

  セレッソ戦から、少しずつボタンが掛け違い、思うように勝てない世界線に来てしまっていたベガルタだった。西村のシュートが入っていればがあるとしても、ダンのビルドアップ参加や中央圧縮など、めげずに、勝つために必要なことを準備・実行してきた結果だと思われる。

 

(2)奪われたその一瞬

  ネガティブトランジション時のポジションを整理する必要がある。選手に頼っている部分が多かったとはいえ、柏にカウンターを受け続けた。次節は、トランジション命の湘南。奪われる場所、奪われ方、選手の向き等色々あるが、修正していくと思われる。

 

■おわりに

  クリーンシートで勝利をもぎとった我らがベガルタ。出来ていなかったわけではないけれど、きちんと相手を見て、選択して、実行する、うまくいかないなら修正するができた良い試合だったと思う。連戦だとか、夏場だとか、順位も大事だけれど、目の前の相手が何をしてくるか、見極めることもまた、同じぐらい大事なのだ。そしてその相手は、もうすぐ目の前にやってくる。また備えなければ。大丈夫、できるのだからやるだけだ。

 「我々がいる今ここに、意識を集中させろ」こう言ったのは、クワイ=ガン・ジンだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」footballista, Renato Baldi, 片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけんのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

  「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

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Jリーグ 第20節 ジュビロ磐田vsベガルタ仙台(3-2)   「今日もそして明日からも」

■はじめに

 記念すべき初のサッカーブログは、我らがベガルタ仙台!ウソウソ!書きたいことがまとまってません。後半なんてめちゃくちゃ、自分で分かってるんです!月島雫ではないけれど、ベガルタ云々の前に、きちんと分析ブログが書けるのかがおおいに心配で、必死の形相で、ゲーゲンプレスかけてます。小さいサッカー脳を絞りだして、我らがベガルタの試合を文字に起こしました。よかったら見てあげたってくださいな。

 

■オリジナルフォーメーション 

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 ベガルタは、トップに新加入のハーフナー・マイクが初スタメン。戦前予想では、西村のインテリオール(このポジションにいい名前をつけたい)も予想されたが、満を持してスタメンに。これで物理で殴れるぜ。あとは、ケガ人続出の我らがベガルタにおいて、山場と位置付けたこの試合に送り出された現時点でのベストメンバーだ。

 一方の磐田は、俺の息子たちがスタメン。「思いっきりいけ!」「信じて走れ!」「な、俺の言った通りだろ?」の名波ジュビロ中村俊輔という、世界的なキッカー不在でもやっぱり、川又で殴る、収めるが基本戦略だと思う。あのキックと川又は、凶悪すぎると思っていたら、大久保に裏を取らているとか悪夢過ぎる。あと、残念そこはカミンスキーだ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

■前半

(1)攻撃

 ベガルタの攻撃は、もちろん、マイクの質的優位性が狙いだ。ただし、DFラインからの直接攻撃→セカンドボール争奪戦に持ち込まなかった。5バックで引いた相手を想定して、マイクが1人でDFを2人引き連れてくれれば、どこかで誰かがフリーマンになれる。数的優位性を確保できる。-デコイマイク-そんな目論見だった。

 23分、そんなこんなでベガルタが中野のゴールで先制する。右ウィングレーンの蜂須賀からのクロスに左ウィングレーンの中のゴール。昨年、よく見たWBからWBへのゴールシーンだ。今シーズンは、5バックで5レーンを埋められるケースが多く、あまり見られなかったが、3トップが相手DFを中央に引き連れてくれた。結果、中野がハーフスペースを駆け上がり、ローポストに侵入することができた。

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*ボックス内、手前からマイク、石原、西村の3人。磐田DFはセオリー通り+1の4枚。3バックにマイク含めの3トップをぶつけた結果、フォローに右WBが入ってきて中野をフリーマンにした。左WBも蜂須賀のクロスに対して、もう一歩寄せたかったか。

 質の高い選手を相手にとって危険な位置に置く。結果、数的優位ができる。ペップバルサのメッシ0トップと原理的な部分では同じだと思うとちょっと感動してしまった。サッカーの原則は、普遍的なものなのだ。

 

(2)ネガティブトランジション

 ネガティブトランジション時のベガルタは、リトリート。夏の暑さ対策か引き込みカウンター狙いかボール近くの選手は追うが基本はポジションに戻る。3バックで、WBが高い位置を取るベガルタにおいて、自陣に広大なスペースを抱えるため、奪われたら即時奪回したい。ただ、中断明けはリトリートを採用して、敵陣にカウンタースペースを作っている。

 

(3)守備

 5-4-1でセットディフェンスされていたが、2センターの脇にパスがガンガン通る。もっと言えば、石原と富田の脇だ。石原もボールホルダーにプレスをかけるが、二度追いまではせず。もともとFW系が4のサイドを務めるのは、やっぱり難しいのではと。でも、俺の息子たちもバイタルに侵入しても中央を崩し切るわけでもなく、事なきは得たわけでした。

 

(4)ポジティブトランジション

 ベガルタのポジティブトランジションは、明確になっていないように思える。特に、自陣でボールを奪った際、どこにボールを運ぶのか、自分はどこのスペースに走りこむか整理されていないように見えた。石原、西村が守備時にハーフスペースに立ち、ポジトラ時に一気に駆け上がるか、富田、奥埜が自陣でボールを保持して回りが駆け上がるか(ポイントガード役)、いずれにしても、西村が単騎でドリブル突破を図って奪われるシーンが続いた。

 

■後半

(1)攻撃

 前半30分過ぎくらいから4-4-2に変更してきた名波の息子たち。4-4-2崩しは、待ってましたとばかりに、左ハーフスペースから失点するまで殴り続けるベガルタ。でも、そこから反対レーンへの対角パスは、あまり出ていなかった気がする。気がするだけで出ていたかもしれないけど、もっと、ボールサイドに相手を引き付けておきたかった。それを差し引いても、レーン攻撃は、誰がどんな状態でも出せるのだなと。

 55分、左ハーフスペースでスクエアを作って、マイクがDFをピン留め。石原が左ハーフスペースの西村にレイオフ。マイクとのワンツーで、ローポストへの侵入に成功、シュートに至っている。

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*スローインの流れから、富田の前残りでスクエア形成+中央に西村。瞬間的に人が多い状況だが、4-4-2の泣き所を突いた良い攻撃だったと思う。ただ、磐田DFも中央によるわけでもなく、何となくひとにつく守備。ベガルタとしては、このシーンで点数を取っておきたかった。

 57分、チャンネルアタックの貴公子(勝手に呼んでる)アベタク登場。マイクと違い、DFへの前プレで慌てさせて、GKと1対1、その後のコーナーキックからゴールを奪っている。 この辺の選手起用は、相手チームとの力関係、DFの足元能力、試合展開なんかで決めていくと思う。

 得点シーンから、失点するまでは、レーンを意識して殴り続けられたと思う。そこで決められたら(タラレバ)…

 

(2)守備

 ネガトラのリトリートから、自陣でのプレッシングは変わらず。ただし、戻り切れない選手が増えてくる。とくに富田、奥埜の2センターは、前半からの激務がたたって、ガス欠状態。西村、石原のどちらかは、MF系の選手が必要になるのではと思うが、いかんせん、人がいない。

 57分、カウンターから、川又にローポストに侵入され、シンプルなマイナスクロスから失点。その前に、西村が決定機を外してたこともあり、集中できていたのか。渡邉監督も「頭を抱えているところで隙を作った」とコメントしている。

 アディショナルタイムの失点は、やっぱり名波の息子たちなんだなと、何かを起こすのだなと思わせる失点だった。あとは、あれだけ決定機を外しているのだから、神様にそっぽを向かれてしまうわけだ。

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 *参考までに磐田の守備。ベガルタはスクエアを形成して、石原がボールをもらいに相手CHの背中を取る。ただこの後、手前の右SHの松本の猛プレスバックを受けてボールロストしている。つまり、松本は、対面する中野を見つつ、ボールが石原に入ったら、DFとサンドイッチする。DFは石原に食いつかず、ポジションを守りつつ、ボールを奪う。これは、中野が駆け上がるのを警戒していたこともあると思われる。もしかしたら、ここからマイクに楔パスを入れて、石原はレイオフパスを受け取る方が良かったのか。あくまで選択肢の一つだ(スクエアの頂点にパスを出すことは間違いではない)。逆にベガルタも、石原、西村がプレスバックですり潰せればよかった。

 

■考察

(1)マイク!マイク!マイク!

  マイクの質的優位性は、非常に有効だと思う。しかも、それをデコイに使う渡邉晋の恐ろしさよ。相手によっては、空中戦でラインを下げさせて、ライン間攻撃もありだ。攻撃の幅が広がる可能性がある。

(2)状況適合型守備

  夏の暑さ、試合日程、けが人、色んな要素から奪われた直後、即時奪回ではなく5-4-1リトリートを採用しているのだと思う。ただ、試合展開、時間帯によっては、即時奪回も使い分けでもっておきたい。でも今はそんな余裕はないのかな。

(3)明日に向けて

 自陣でのボール回収であるならば、やはりポジトラ時の動きは整理したい。ポゼッションを確保するのか、ロングカウンターなのか。これも相手次第ではあるけれど、少なくとも、選手間の目を揃えることができて、不要なロストを減らせると思う。

 あとは、マイクとの連携強化。1ゴール1アシストの川又、数字以上に磐田のボールの休ませ場所、引き出し場所として機能していた。当然、マイクと違って、サイドのスペースに出たり、引いてボールをもらうので一概には言えないが、非常に効果的だった。マイクをどこで優位性を発揮させるのかは、これからの期待値の部分である。

 

■おわりに

 ホントにちょっとずつのボタンの掛け違い、選択肢の取違いで今の結果になっているのだと思う。大外しはしていない。ツキがない世界線に来てしまっている。1秒ごとに世界戦を超えている。ただ怖いのは、あれおかしいぞとか、大丈夫なのか?と疑心暗鬼になってきたらドツボだ。疑うこともあるけれど、自分たちのやってきたことを信じて、次は勝ちにもっていきたい。

 「恐れは怒りを、怒りは憎しみを、憎しみは破滅を招く」こう言ったのは、マスター・ヨーダだ。 

 

■参考文献

  「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」  footballista, Renato Baldi, 片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012) 

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

前夜

■明日の試合に添えて

 明日の磐田戦、まずはサポーターとして応援する。前節、負けてしまったわけだけど、やりたいことが明確になっているので、できたこと・できなかったことは明確になっている。慌てず、落ち着いてやろうぜということだ。ずっと言われている質的な部分の向上は、一朝一夕でどうにかなるものではないし、そこは、選手たちの才能を解放してもらうしか今はない。頼んだぞ。

 そして、試合後は、しっかり見て、感じ取って、自分の言葉にしたいと思う。

その変換工程に自分らしさみたいなものを付加できたらいいなと思う。

 ちょっと緊張してて、言葉が固くなっているけれど、遠足前の眠れない感じに近いか。でも夏は、まだまだこれからだ。

 

Forza Sendai!

2018年、ワールドカップ、ロシア

■はじめに

 日本一遅い、2018年ロシアW杯振り返り、しかもダイジェスト版「日本代表編」だ。とりあえず、まとめて、再開しているJリーグに移りたい。あとこれからのブログ方針とか、標準装備として持っておきたい戦術知識、用語、概念、理論も書きたいけど、それは追々で。(あとブログに早く慣れたい!)

■W杯全体を通して

 W杯全体を振り返れば、戦術面において、特別驚くことは無かったように思われる。相変わらず、メキシコには、諸葛亮孔明がいたし、イングランドはやっぱりボールを強くぶっ叩いていた。

 例えば、今流行りの3バック、5トップ系をメインに据えるような、ポジショナルな、5レーン・6レーンを意識したチームは見当たらなかった(3バックの採用はあったので今後に期待したい。ただし、日本の3-2-5、テメーはダメだ)。一方、注目を浴びたのは、各国のカウンターで、バスケやフットサルのようなポジティブトランジションをかなり意識していたと思う。

■日本代表 有効性と限界

 では我らが日本代表は、どうだったのか。日本代表に関しては、2つの点でまとめておきたい。1つは、長い旅路が終わったこと、2つ目は、現場の力の再確認だ。

(1)12年目の旅立ち
 10年W杯以来、ケイスケ・ホンダ、KAGAWA、心が整ってる人、スーパーサイヤ人を中心に、8年かけて「自分たちのサッカー」を継続・成長させてきたと言える。彼らからすると、14年W杯に挫折して、アゲンストの風も吹いていた4年間だったけれど、何はともあれ完結させられたといった感じだろう。
 個人的には、8年というより、オシムが「日本サッカーの日本化」を唱えてからの12年間の集大成のようにも思える。ジーコショックによる日本サッカーを覆った絶望(勝手に絶望しただけなのだけれど)を払拭するため、市原から立ち上がったボスニア人がかけた魔法を信じた結果が18年W杯で出たのだと思われる。
 それ以来、「日本サッカーがあるんだ!」「日本サッカーってなんだ?」「日本のサッカーじゃ通用しない」「欧州の真似はできない」とかとかとか、「日本サッカー」というフレーズに対して、あっちこっちから弾丸が跳びまくっていた。
 結局、日本サッカーというより、「日本人プレーヤーの日本化に成功した」というべきだろう。敏捷性、スペースメイク・スペースユーズに、オシムが倒れた後も言っているリスクを冒したスプリントは、日本らしさのひとつの終着点なのだと思う(時々、というか、かなりの確率でリターン度返しのリスクスプリントもあるけれど…)。
 ただ、問題はやはり、それがあるプレーヤー次第の部分があるし、別に日本サッカー協会が総力を結集して作り上げた選手たちが体現したことでもなんでもなく、選手が欧州クラブに適合するため、あるいは名もなき指導者たちの正しい指導による成果だと思われる。
 解決に向けては、成果の具体化が必要だと思う。せいかのぐたいかって何ですか?ベスト8なのか、ベスト4なのか、W杯を5試合経験したいのか、7試合経験したいのかとかとか、結果は同じでも、規定している成果によって評価が変わる。毎回、何が達成できたらOKで、できないとダメなのかよく分からないし、正しく次に進めない。個人的には、ベルギー戦のような試合をもっと経験したい。最低でも、W杯5試合は戦いたいし、多くの日本人にその舞台を経験してもらいたいと思っている。もっといえば、Jリーグチャンピオンをねじ込みたいぐらいして、サッカー最先端でサッカーする日本人人口を増やしたい。体系的な育成というものがしばらく期待できそうにないので、もういっそ今の属人路線を強化するのが最適解なのかなと。まあそれだけじゃ、ホントはダメなんだろうけれど。

 でもやっぱり、W杯だろうが全ては勝つためにやっている。負けるのは死ぬほど悔しい。

(2)JAPAN as No.1

 もう一つ、やはり日本の強さは、現場の力ということが再認識されたということだ。
 シンゴジラで、矢口蘭堂が「日本の強さは、この現場にあります」とヤシオリ作戦で演説していたが、まさにその通りになった。ハリル解任なんて内閣総辞職ビームだし、コロンビア戦からずっと宇宙大戦争マーチが流れっぱなしだ。
 危機的な状況、制約された状況下で、日本人は「進化」して、現場が何とかしてそれを乗り越えようとする。今大会も同じのだと思う。3連敗なんて言われたなか、監督、選手がその場で微調整してGSを突破できた。でも主力がごっそり抜ける。いつまた暗黒時代になるかもしれない。俺たちの戦いはまだ終わらない!エンドであるのは間違いない。
 危機的状況を毎回作るわけにはいかないので、ポジショナルプレー概念、5レーン理論、といったきちんと概念化、体系化、理論化された考え方をメタ的に理解し、導入することが必要だと思う。現場が何とか頑張って勝つのではなく、彼らががんばらなくても勝てる仕組みを作る必要があって、その先で彼ら個人の才能を解き放ち、より良い成果が上げられれば最高にハッピーだ。要するに、せっかくの個人のがんばりをもっと別なとこに使いましょうということだ。頑張らなきゃいけないうえに、個の力も発揮しなければいけないだなんて、どこのブラックよ。

 ただトップからグラスルーツまで、それを浸透させるのには、ひとも時間も金も全然足りないのが実態だ。

■おわりに

 ということで、ざっくり振り返ったが、やることがいっぱいある。ありすぎてどこから手を付ければいいのやら。まあまずは目の前の、自分のホームクラブを見に行こうか。あれこれ考えて不安になるより、スタジアムに行って、テレビの前に陣取ってサッカーを見て、こうして文章として自分にインプットして発信していこうと思う。
 「ポジティブシンキングに客観性が付くことで初めて冷静になれる」こう言ったのはオシムだ。