蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第22節 ベガルタ仙台vs湘南ベルマーレ(4-1)「翼をください」

■はじめに

 さあさあ試合分析3回目の今日は湘南戦!トライアングル、3人目の動き、だんご3兄弟と3は縁起の良い数字のひとつだ!今回の分析も、ラングニックライクなパワーフットボールの湘南に倣って、レッドブルとライザップ投入で鬼ゲーゲンプレスをかけましたが、モヤモヤな展開。だから、ありのまま起きたことを書いてます。ということでレッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーションf:id:sendaisiro:20180817222940p:plain

 ベガルタは、3-4-2-1。トップにマイクを起用。明確にビルドアップ出口役、困ったらマイクの空中戦を見越しての起用と思われる。1トップであれば、マイクはファーストチョイスなのか、2トップでマイクの起用はこれまで無い。狙いは、位置的優位、数的優位、質的優位の三位一体ポジショナルアタックだ。

 湘南は、ミラー上等、俺たちについてこれるかなで3-4-2-1採用。ベガルタ同様、トップにはCFらしい山崎を起用。こちらはトランジションターゲット。ベガルタの三位一体ポジショナルアタックに対して、ゼロシフト発動。エリア密集型ゲーゲンプレスを採用し、時間的優位性で有利に立つ狙いだ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃

 ベガルタの攻撃は、ダン+3バックの擬似4バックビルドアップ。対して湘南は、アンカー落としで4バックビルドアップ。両者、3トップがハーフスペースの入り口に立つ守備に対する基準点をズラすのにひと手間加えている。そしてお互い、CFに高さのあるFWを起用して、ビルドアップの出口役としてる。どうしてもトランジションの場面が多い試合展開だったが、時間が経過していくなかでお互いビルドアップの場面でも、相手のビルドアップ妨害を外して前線にボールを運んで行った。

 

 25分、ダン、平岡、大岩、富田でスクエア形成。あるいは、3バック+GKでのスクエアとも見える。湘南は、3トップをボールサイドに寄せて、WBと連携して、ビルドアップ妨害を図っている。

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 31分、西村のファンタスティックゴール。関口が左ウィングレーンで間合いを図ると、西村がバックドアでローポスト侵入。ゲルト・ミュラーを彷彿とさせるゴールを決める。

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(2)ネガティブトランジション

 ベガルタは、即時奪回より、ミドルゾーンへのリトリートの形を取っている。湘南とのトランジション勝負では分が悪いし、3トップもFW系だし撤退するかといった具合か。ただ、それで湘南のポジトラにスイッチを入れた感もある。でも失点はしていない。収支はトントンかもしれない。ただ、結局、奥埜のデュエル勝利から西村のゴールが生まれているわけで、即時奪回の方が良い気がする。気がするだけ。

 

 31分、奥埜の一人ゲーゲンプレス。結果はデュエルマスターが勝利し、左ウィングレーンへの展開に成功している。

  一応、周辺に味方はいるが、相手をマークしている、エリアを圧縮している、パスカットを狙っているようには見えなかった。ちなみに奥埜が負けると、カウンターの地獄の門が開く。

 

(3)守備

 ベガルタは、守備時、ミドルゾーンで5-4-1のブロックを形成。石原、西村がサイド対応するいつもの形。対して、湘南は、ピッチを縦半分に輪切りにしたハーフコートに選手を集める密集で立ち位置を取っていた。湘南の守備についても同様。トランジション時のランがそれを繋ぐ接着剤になっていた。

 

 10分、湘南は山崎をターゲットに、右のハーフスペースにロングボールを蹴られていた。

 28分ごろ、湘南の4バック+アンカー型ビルドアップを捕まえきれず、ロングボールを許す展開。

 29分、湘南の右ハーフスペースの入り口に立たれ、ペナルティエリアまで運ばれる。

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*シャドーへの楔パス、シャドーからWBへのレイオフ、楔パサーがハーフスペースを駆け上がる、明けたスペースに山崎が降りる、山崎のスペースに梅崎が入りフリック、裏を秋野に入られてしまう。

 

(4)ポジティブトランジション

 ベガルタのポジティブトランジションは、奪ったらマイク!ではなかった。どちらかというと、相手陣内での前プレでボールを奪って、シュートまでいくシーンの方が決定機につながっていた。ただ、それも再現性はなかったように思える。蜂須賀や奥埜のがんばりのように見えた。この辺は、ショートトランジション狙いなのか、ロングトランジション狙いなのかもよく分からなかった。

 

 13分、GKからのボールを蜂須賀がカット。

 14分、相手ゴールキックから秋野のパスミスに関口が反応。この日、2点目となる同点ゴールを決める。左WBが釣りだされた4バックに対して、3トップを当て、大外の関口が空いた形。

 

■後半

 湘南は、後半から、小川、松田を同時投入。オリジナルフォーメーションも4-3-3に変更。3トップを当て、3センターがハーフスペースを埋めることで、圧力をかけて早い時間帯で同点に持ち込む狙い。ベガルタは、変更無し。

(1)攻撃

 ベガルタは、レーンアタックより、質的優位性で殴る攻撃に。あまり脈略なく、関口、西村、マイクが点数を取っているし、蜂須賀もセットプレー攻撃からだった。レーンだ、スクエアだ言わずとも、マイクが勝てば点が入るし、西村がボックス内に居れば何かが起きそうだし、当たり前だけれど位置的優位、数的優位だけが優位性ではない。なぜ、ミランやレアルの会長が有名な点取り屋ばかり欲しがるのか、何となくわかる気がする。気がするだけ。

 

 55分、一応、ダンから蜂須賀のシュート未遂まであった。湘南の前プレを構造的に外せるならビルドアップについては自信を持っていいかもしれない。 

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*3トップのハーフスペースの入り口に立つ同数プレスによるビルドアップ妨害。対する我らがビルドアップ部隊は、大岩、椎橋、ダンで同数対応。平岡は、右ウィングレーンにレーンチェンジし、出口役に。平岡はハーフディフェンダーとして完成されつつある。これで状況に応じて、アンカーポジションにも入ってきたらもうストーンズだ。でも、その平岡を飛ばして、SBとマッチアップした石原にボールをつけ、ウィングレーンの蜂須賀にボールを託したのは、ダンだ。

 2つ以上の選択肢を持った選手が3人関われば、2×2×2で8通り。もう相手は止められない(吉武博文)。

 

 70分には、オーバーロードアイソレーション。自陣からのロングキックから、左ハーフスペースでスクエア+フリーマンを形成。密集させ引き付けて、右ウィングレーンの蜂須賀へ。

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(2)守備

 ベガルタは、変わらず5-4-1ブロック。湘南は、2-3-2-3の形で4の脇から前進してきた。追加点も影響していると思うが相手が2バックということで、途中から2トップに変更。相手が3トップなら4バックがセオリーだが、3バック+ダンで我慢することにした。中盤は3センターで中央圧縮の構えだが、奥埜のガス欠もあって、また5-4-1に変更している。サイドは申し訳ないけれど、中野、西村に走って死んでもらうことにした形だ。奥埜の0トップは、ガス欠要因だと思うが、準備していたものなのか。

 48分、湘南にGKから左ウィングレーンを突破されシュートまでもっていかれている。

  マイク、西村、奥埜がボールホルダーに包囲するが、ロンドで外される。かわされても二度追いすれば、相手の攻撃を遅らせられるが、マイク、西村は追うことはなく。そこから富田、奥埜が死ぬ気でゴール前まで戻っている。ただ結局、戻り切れずバイタルエリアが空いてしまい、湘南にそこを使われている。3トップの守備については、時々分からなくなる時がある。ハイゾーンでは前残り、ミドルゾーン・ローゾーンではブロック形成なのか。でも、ハイゾーンで奪えないと2センター+5バックだけになるし、実質5バックだけだ。奪うつもりなら、包囲して、二度追い・三度追いしたいし、ディフェンスラインは上げたい。

 

 66分、マイクに代えて、中野を投入し3-1-4-2に。3センターの中央圧縮を狙う。ただ、湘南の右SBには中野、左SBには西村が対応するシーンが多く、実質的には5-2-3で、前線3のスライドとWBでボールを奪う作戦。

 71分ごろから、ミドルゾーン、ローゾーンで中央圧縮が明確に。

 75分、2ゴール&1アシストの関口に代えて、永戸を投入。最近の必勝パターンか。

 82分には、石原out、常田in。椎橋を一列上げて、3センターと思いきや2センターの一角に。西村、中野にサイドを任せ、奥埜、富田、椎橋のトライアングルで中央を守る形。

 

(3)ポジティブトランジション

 ベガルタは、センターサークル付近で2度、コーナーキックの流れから1度、合計3度、GKと1対1のシーンを作っている。ただ、関口と奥埜は、単独カウンターだし、西村はどうしてあれは決まらないのか。獅子川文リスペクトか。いずれにしても、ここでも個人的な、質的な部分で、コインの裏表どちらが出るかみたいな、ポジトラ、カウンターになっているなと思った次第です。

 

■考察

(1)殴り合い宇宙

 ついに手に入れた質的優位性。質でも殴れますよという抑止力を手に入れたことは事実だと思う。しんどい時に頼れる個人としては、ザックジャパンのケイスケホンダに通ずるところがあるけれど、理不尽さで言えばクリロナとかの方が近いかも。でも、質的優位は、相手がそれを上回る質できたら優位でも何でもないのだけれど。それはまた、別のお話。

(2)まだ見えぬトランジション時のアクション

 ゾーンごとのネガトラ整理(奥埜のワンオペいくない!)、ポジトラの振る舞い整理(カウンター?ポゼッション確保?)、ライザップ注入、以上。

(3)やりたいこと、できること

 恐らく、恐らくだけれど、渡邉晋は、中断明けの省エネ策として、5-3-2で3センターをやりたかったんだと思う。3センターの中央圧縮・サイド誘導から、スライドとWBの飛び出しで相手をすり潰して、ハーフスペースに立つFWでカウンターを完結したいんだと思う。でも、けが人で人がいないし、代役はワイドマンの中野だしで、これなら5-4-1の方が良いのでは?ということで現在に至る。でも、5-4-1だと4の脇前進されるわ、ハーフスペースにパス通されるわで奪い所をコントロールできていない。結果、トランジションが安定せず、悩んでいるのではと。湘南戦は、特に、トランジションが表舞台になってしまったし、あとは関口様、西村様、マイク様、松崎しげる様に祈る展開になったのではと。でもこれは本人に聞いてみないと分からない。

 

■おわりに

 なぜジダンがCL3連覇できたのか、個人的にはよく分かっていない。それと同じように、どうして西村があのシュートを決めて、誰もが決めるような1対1を外すのかよく分からない。でもこれがサッカーの一部で、アルゼンチン人がよく「優勝カップを欧州人に盗まれた」と言うのも少し分かる。ある層からは、札束的優位性とも言われる。そっちの方が分かる気がする。お金がないから位置・数勝負の我らが、お金持ちがやるようなことで勝てた。金は天下の回りもの、DAZNも視聴中よく回る。手にした再現性のなさ、脈絡のなさをこれまでの文脈のなかで再現できたら、それはそれでカオスでロジカルだ。その時は、シン・ベガルタの誕生の瞬間になる。

 

 「相補性の巨大なうねりのなかで、自らエネルギーの凝縮体に変身させてるんだわ」こう言ったのは、赤木リツコだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballistaRenato Baldi, 片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012) 

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフあまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

 「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com

 「ゲルト・ミュラー ベストゴール集」

youtu.be