蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【受難】Jリーグ 第16節 ベガルタ仙台 vs 大分トリニータ (0-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム大分戦のゲーム分析。光すら消してしまう暗闇。入り込んでしまったトンネルの向こうに待つのは、どんな世界か。想像すらもできない世界で、ホームユアスタに迎えるのは、昨季ホーム最終戦で戦った大分トリニータだった。あの日から、すべてが変わった世界で、未来への明確なビジョンを示し続けることはできるか。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。今回も変わらず。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-2-3-1。左フルバックにリーグ戦初出場のパラが入る。ウィングには西村に代わってタカチョー。ジャメは40分で関口に交代する厳しい試合に。

 大分はカタノサッカー代名詞の3-4-2-1。GK含めたバックラインでボールを回しポゼッションし、相手ブロックが空いたところで一気呵成に攻め込むスタイルで、昨季J1を席巻した。センターFWに入る伊佐は、DF背後に斜めのオフボールランを繰り出せる要注意FW。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

前線からのプレッシングで窒息する仙台

 ベガルタのビルドアップは、ボックス型(2人CB+2人CMF)。GKも含めて、自陣から繋いでいくポゼッション志向。大分は、5-2-3のDF陣形から、前線からのプレッシングでビルドアップを妨害する。ボール扱いが上手いジョンヤにボールが回る回数が多かったけれど、大分としては、プレッシングでサイドを限定しやすくなった。センターCFW伊佐がホルダーへプレッシングをかけ、シャドーがワイドに張るフルバックへスライドDF。フォローするセントラルMFへは、大分もCMFが同数対応。1対1局面を各地につくることで、マンツーマン気味に抑えてくる展開。

 

図1

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 ベガルタは、ウィングのジャメにボールを出して陣地回復を目指すが、大分も警戒しているため、鹿島戦同様、CMFやWBの強烈なプレスバックで潰される機会が多かった。 また、ゲデスや長沢へボールを逃がしても、3バックが飛び出してボールを狩りとっていく。DF面でも低い位置にならざる負えない展開で、ビルドアップでも抜け出せないとなると、大分の時間が長く続くことになる。

 

兵藤と関口で攻撃が息を吹き返す

 後半、兵藤投入後、大分のサイドDFを担当するシャドー背後に、兵藤と関口が顔を出す。また、相手CMF横を使うなど、5-4-1の4の空いているスペースにポジショニングし始める。前半に猛威を振るった大分のプレッシングの背後を突く形で、合わせ技のWGの裏抜けもあって、相手WBの誘き出しやCMFをサイドに引っ張り出すなど、相手ブロックを広げる作業で、ボール保持する時間を作るベガルタ。後半開始から飲水タイムを挟んで80分頃まで破竹の勢いで攻撃を仕掛けた。

 

 ゴール前での圧をかけるために、サイド攻略担当は2人~3人。ホルダーに1人~2人が絡んで、コーナーフラッグ付近を目指すフラッグ攻撃とゴール前へのクロスに活路と見出す。ただ人数をかける大分の守備に対して、サイドを担当する選手での攻撃に終始したベガルタ。最後にブロックを崩すまでには至らず、ゴール前へクロスを上げ、シュートチャンスをいくつか創ったが届かなかった。

 

ボール非保持時

防戦一方になった前半

 ベガルタのセットDFは、4-4-1-1の4-4-2系。大分のオリジナルフォーメーションは、3-4-2-1と4-4-2の構造的痛点をどうカバーするのかが焦点。ただ、大分の場合は、ビルドアップ時にポジションチェンジを伴う可変式。ポジションチェンジ後のDFがどうかがこの試合のキーになる。大分は、CMFの羽田がDFラインにドロップして、左右CBがワイドに開き、WBが高い位置を取るミシャ式を採用。コンパクトな陣形で、前線からプレッシングをかけたいベガルタにとって、プレスターゲットの選手が広がるのはプレッシングが分散することを意味する。

 

図2

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↓大分のビルドアップについて 

sendaisiro.hatenablog.com

 

  ベガルタは、これまでの3バックのチーム同様、両WGが大分CBへプレッシングをかけることを狙ったのだけれど、CBがワイドレーンへ開いていくこと、WBが高い位置を取って柳、パラに対応を強要させたことから、前線からプレッシングに行きづらい状態になった。左サイドでは、CBの岩田にタカチョーがプレッシングをかけると、その背後のスペースをWBやシャドーが使う形に。また、シャドーも、WBに誘き出されたパラの背後や、CFWの伊佐が左CBシマオと左FBパラの間をオフボールランで突いていく動きで、ベガルタの左サイドに問題を起こした。

 

図3

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図4

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 タカチョーとしても、チームの狙いである前線からのプレッシングを実行したいものの、自分がいけば守備が崩壊する一手に繋がりかねない心配から、岩田への積極的なプレッシングを抑えて、WB田中への対応を優先とした。結果、ベガルタのDF陣形は、4バック+タカチョーの5バック化した状態で手当てをする。その分、岩田を中心として、WBやシャドーを加えてスペースを活用されるので、アタッキングMFのゲデスが岩田へのプレッシングとサイドのカバーの『二度追い』で対応した。ゲデスの走行距離がチームトップになったのには、前半DFで追いかけた分だと思える。

 

 左サイドの応急処置に、「リトリートDFを崩す課題」がある大分としては、このままベガルタの左サイドを一点突破するわけにもいかず、ボールサイドを変えていく。ベガルタの右サイドも同様に、開くCB・高い位置のWBに対して、ジャメが曖昧な立ち位置でのDFを強いられていた。ジャメは、今のチームの攻撃の核であり、ポジティブトランジション時にはカウンターの急先鋒になる。チームの狙い・表現したいことでも、なるべく高い位置でDFさせて、攻撃の開始地点も高くしたい。そんな、表現したいことと目の前の現実との間で揺れ動くかのようなジャメの立ち位置だった。

 

 ただ、左サイドの応急処置と違って、左CB三竿にはジャメ、左WB香川には柳がプレッシングをかける。柳の背後のスペースを左シャドー町田がオフボールランで突くが、CMF浜崎がそのままマークして着いていく。柳もジャメも、DF時の前へのアタックは非常に武器になるのだけれど、その後のプレスバックやポジションを取り直すのに時間がかかる。あるいは、守備意識がそこまで高くないのか、背後のカバーを浜崎、ジョンヤに任せていた印象だ。前線からのプレッシングで、ホルダーに制限がかかりきっていない状態で、背後のスペースを空ける非常に危険な状態でのDFをすることに。

 

図5

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 浜崎があけたスペースも、本来なら、アタッキングMFの関口が埋めるのだけれど、この日はリザーブ。ゲデスは逆サイドのカバー、長沢はボールサイド限定とカウンター要員としての前残りで、前半の守備は論理でも根性でも破綻した状態に陥る。先制点を奪われ、前線からのプレッシングもプレスバックもかからない右サイドへの手当は急務で、結局は前半のうちにジャメに代えて関口を投入。ゲデスを右WGにして前への圧を取り戻した。

 

4-3-3で蘇るプレッシング

 後半開始、兵藤、西村が投入されてからは明確だったけれど、フォーメーションを4-3-3に変更。WGとインテリオールが前線からプレッシングをかけるスタイルで勝負にでる。大分の3バック+2CMFに対して、3FW+2Cインテリオールでガチ当たりする同数プレッシングだ。ワイドのWBには、両フルバックが高い位置まで迎撃DFすることでボールを前へ前進させない。もちろん、バックラインで数的同数や優位を作られる構造ではあるけれど、ゲームとして成立させる、2点を取って逆転する狙いとみる。

 

図6

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 大分も、選手交代でフォーメーションを5-3-2に変更。ただこれはベガルタの同数プレッシングをさらに加速させる結果に。3FW+3CMFで完全に嵌めこんでいく。相手陣でのマンツー気味のプレッシングとセカンド回収によりポゼッションを高め、波状攻撃をかけるベガルタ。セットDFには難がある大分の苦しめることに成功。①噛み合わせ、②ホルダーへの制限が前線からのプレッシングの要諦だけれど、その2要件を果たしながら、デュエル局面でボールを奪いに行く姿勢を見せた。その後、前がかかりになった背後をCBがさらされ失点。残念ながら、勝負に出たが負けてしまった。

 

考察

4-3-3プレッシング

 前半に防戦一方になったことを考えると、後半開始から勝負をかけるのは予想できたけれど、ウィングが高い位置を取る4-3-3でのプレッシングで前から圧をかけたのは良かった。当然、ウィングの背後のカバーやCBへのロングボールで1対1を強いられた際の弱点はあるものの、たとえばフルバックの縦迎撃や3センターの横スライド、ウィングのプレスバックなど、改善策はいくつか考えられる。大分は、J1のなかでもボール操作技術に長け、プレッシングを外す術も持っているチーム。もちろん受けに回ったことも考慮されるが、そのチームにプレッシングが通用することを証明する30分間だったと思う。

 

チームの構築についての限界

 開幕時から、新チームであるので、チームとして表現したいことや設計図、それに伴うプレー原則の選手への理解と落とし込みに重点を置いているのだと思う。また、連戦も続くなかで、対戦相手ごとのゲームプランの構築に、あまりリソースを割けていないが現実だと感じる。さらには、表現したいことやプレー原則の落とし込みについても、今の試合状況を見ると十分とは言えないし、理解が深まっているかと言われると正直厳しいように見える。自分たちの目指すものも不十分、相手への対策も十分で無いとなると、なす術なくやられてしまっている厳しい現状なのだと考える。

 最悪、表現したいこと、プレー原則などの自分たち目線を相手にぶつけていくのも考え方としてはあるけれど、選手の心身も整っていないなかで、選手の相互理解、落とし込みも進んでいないように感じる。連戦、猛暑、ケガ、コロナ禍など、選手としても非常に厳しい環境下に身を置いていて、疲弊しているなかで新しいことを身に着けるのは僕たちの想像以上に難しい作業になる。要するに、「常にリラックスした状態で、新しいことへポジティブに取り組めているか?」である。

 ただ、関口は、やるからにはプロとしてきちんとやろうという趣旨だと想像するのだけれど、「責任」「強度」というコメントを発信している。やりたいことが明確で、それに取り組むコンディションがメンタル的にも、フィジカル的が整っているか?選手として整える責任を果たせているのか?という問いであり、それらがきちんと果たせているなら強度は自ずと上がってくるはず、という理解をしている。

 もちろん選手にはやれることをやり尽くしてほしいという思いがあると同時に、チームとしても、試合から試合へ時間があるなかで、選手の心身のコンディションを整える作業にも手を入れてほしいという思いもある。ただそういった理想的な思いとは裏腹に、難しい日程もあるし、サッカー以外でリフレッシュするにも限定されているなどの制約もある。そういう、複雑に絡んだ現実対応に、木山監督を中心にスタッフもあの手、この手を尽くしているのだと想像できるけれど、試合後木山監督のコメントにもあるように、小さなズレを直そうとしてまたズレてを繰り返す、もがけばもがくほど深みに嵌っている状態になっている。

 

試合への向き合い方

 ただ、やはり再開後の湘南戦を見ても、決して木山監督がイメージしているサッカーを選手やチームに落とし込めない、落とし込む方法論を持っていないわけではないのは明らかで。そこからチームは、マリノス戦以降、また違ったものになっているけれど、もう一度目指していることは何なのか、譲れないものは何のかを明確にしていってほしいと思っている。相手陣でのプレス特化型でもいいし、ウィングがDF背後を狙う縦志向の強いサッカーでもいい。自分たちの強みを活かした試合をしてほしいと思う。それに選手のメンタルやフィジカルのコンディションが問題なら、関口の言うように選手はきちんとチームが求める強度まで引き上げる責任があるわけだし、チームはその基準を明確にして、責任を果たしている選手を評価(スタメンにする、試合に出す)することで、さらにチームとしての結束を強めていければいいと考えている。

 

おわりに

  いずれにせよ、こんなシーズンは今季だけだと思う(願望も入っている)し、他のチームだってそれぞれの事情で、難しいやりくりをしているはずで。ベガルタとしても、良い準備をすることが重要だと思う。個人的には、その準備を「2022年にJ1で戦う」ための準備にしてほしいと思っている。 2年後のJ1がどんなサッカー環境になっているのか、社会や生活含めてどんな外部環境になっているのかの想像は、なかなか難しいけれど、どうしても今日の、明日の、になってしまうのはあるけれど、それでもやはり来季厳しい戦いが予想されるなかで、来季と、さらにその次を戦える下地を作ってほしいなと。未来予知は難しいから、未来想像して、チームを創造してほしい。それはもちろん、クラブに置き換えても同義だし、クラブレベルでは2年と言わず、5年後、10年後、50年後もクラブが生き残れるのか、 その大事な1、2年をこれから過ごしているという感覚を改めて持ちたいと思っている。

 

 「Notice that the stiffest tree is most easily cracked, while the bamboo or willow survives by bending with the wind.(風が吹けば堅い木ほど簡単に折れる。だが、竹や柳は曲がることで生き残るということに注目せよ)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

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www.amazon.co.jp

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silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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