蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【反骨】Jリーグ 第14節 ベガルタ仙台 vs ガンバ大阪 (1-4)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホームガンバ戦のゲーム分析。今日の導入はあっさりと。でも振り返りはしっかりゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは変わらず4-2-3-1。左ウィングには西村。リザーブに、ケガから復帰したシマオが入る

 ガンバは、5-3-2。四列表記なら3-1-4-2。宇佐美、アデミウソン、井手口、倉田が中央、サイドを使って攻撃。守備では自陣に5-3-2のブロックを組む手堅い形。監督は、イケメンショナルプレーのひとり、ツネ様である。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

自陣からのビルドアップ

  ベガルタのビルドアップは、いつものボックス型。両フルバックが低めの位置を取り、前線アタッカー4人が相手DFの選手間やスペースを突く形。ファーストサードでのビルドアップでは、GKクバも含めたポゼッション志向。陣形は大きく崩さず、4-2+GKで、前線から降りる関口も加えてボールの出口を探りながらのビルドアップ。ガンバも前プレで嵌めようという志向が見えたけれど、ベガルタはかわして逆サイドへ展開するなど、ホルダー周辺のフォローと外縁への展開がセットだった。

 マリノス戦以降、GK含めたポゼッション型ビルドアップに取り組むベガルタ。当然、相手もビルドアップ妨害のために前線からプレスをかけてくるが、3ラインの守備陣形を崩してマンツー気味のプレッシングのため、「はじめから守備陣形が崩れている」メリットを享受できる。昨年の大分が繰り出した十八番「擬似カウンター」の要諦である。ベガルタは、あからさまな「カウンター状況の意図的な創出」をしているわけではないのだけれど、それでも、「陣形が崩れている状態(アンストラクチャ)での攻撃」を好む今のチームにとっては非常に重要な攻撃のひとつに思える。

 

5バックの攻略

 広島戦に続き、5バックの攻略型を披露することになったベガルタ。ガンバは、3センターが横へスライドすることで、両フルバックの前進を妨害するため、WB背後・CB横を簡単には空けなかった。今のベガルタにとってこれは重要な変化点で、低めに構えるフルバックが相手WBを誘き出し、その背後をウィングが、サイドへカバーしにきたCBが空けたスペースを関口やゲデスなどのFWが攻撃する一連の攻撃にひと手間加える必要がある。

図1

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 この試合のひと手間は、サイドチェンジだ。3センターの横スライドと言えば、簡単に聞こえるけれど、一度サイドを変えられてしまえば3人ですべてをカバーすることは物理的に不可能だ。ベガルタは、サイドでボールを持って相手3センターがフルバックをプレスしていると見ると、逆サイドへ展開していった。特に逆サイドのフルバックは時間とスペースがあり、プレスをかけるのは3センターの横スライドが間に合わない分WBの役割になる。こうなれば、あとは芋づる式で、前述した一連の攻撃が成り立ってくる。

 一言で言ってしまえば、この試合のベガルタの攻撃は「成功」している。敵陣深くまで入り込み、相手にカットされてもCKから得点を上げる。また、ボールをボックス内に送り込む機会も多くなるので、ファウルトラブルも増える(今回はハンド)。PKを決めて2-2としていれば、失点の部分は別として、攻撃の部分においては狙い通りの形と得点だったと言ってもいい気がする。まあ、たらればになってしまうのだけれど。

図2

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ボール非保持時

サイドを2人、中央を2人で守る

 ベガルタはいつもの4-4-1-1ブロック。対するガンバは、3-1-4-2と完全に噛み合う形に。ただベガルタのプレッシングターゲットは、数字上の噛み合わせでいくと、4-2-1-3になるので、2の横で受ける相手WBへの対応が肝になってくる。蜂須賀や柳が縦迎撃プレスをかければ、背後に空いたスペースへインテリオールの井手口や倉田など、サイドへカットアウトできる機動力を持った選手が飛び込んでくる。ベガルタのCBやCMFがフルバック背後をカバーすれば、今度は中央が空いてくる。そこを使うのは、ガンバで攻撃の全権を任されている宇佐美とアデミウソンになる。  

 ベガルタは、2人のCMFとCBが協働。背後のスペースをCBに任せて、降りて来る宇佐美やアデミウソンにCMFが対応するなどの修正で乗り切ろうとする。ガンバとしても、サイドでカットアウトしたインテリオールとWBとの連携がもっとあれば、中央がより難しくなったのだけれど、早い段階で中央からゴールへ向かっていくのでベガルタとしても人数の多いエリアで守ることができた。

図3

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考察

『アグレッシブなサッカー』の途中経過

 また久しぶりに、2019年のモンテディオ山形の全ゴールシーンをチェックした。何かを判断したり評価する時には、横軸と縦軸と事実が必要で、「歴史」は重要な横軸になる。得点で印象的だったのは、以下。

  • セットプレー(CK、FK、PK)での得点が多い
  • 相手守備陣形が崩れた状態での得点(カウンター)が多い

 

 実はベガルタでのサッカーも、そこまで大きく変わっていないと思っていて。この試合でも浜崎のCKからのゴールだし、カウンター局面でのゴールは他の試合でも多く見られた。ただ、この2つが完全に機能しているかというと、不完全だという方が良いのかもしれない。

 そもそもセットプレーでの得点は、セレッソ戦の蜂須賀のゴールが今シーズン初。それまでは機会はあっても、ゴールに結びつかなかった(開幕戦はセットプレーの流れとカウント)。永戸の移籍、松下の不在もありながら、ようやくキック上手の浜崎がスタメンに据えることで、この問題は解決に向かおうとしている。ただ、山形時代はFKやCKから1試合2点とか決めているし、PKでの得点もあった。この辺は、「攻撃したいエリア」にも関連するので後述する。

 また、相手が崩れている状況がそもそも少なかったり、あっても瞬間的だったりするなど、カウンターを針の穴を通す精度でやらないといけない。J1との比較という文脈で、山形相手に失点していたJ2の各チームは「プレスバックがない」「ラインがバラバラ」「過度に攻撃に人数を割いていてカウンター予防に誰もいない」など、なかなかにハードコアな世界観が広がっていた。ある意味、ここを強度高く「奪われたら奪い返す」「奪ったら前へ出る」を実行できたら、とても脅威になるなと感じる。ただ、J1の場合は、J2チームの括弧書きをまずは整備している(「プレスバック当たり前」「ラインを揃える」「カウンター予防する」)。そんな中で、「相手が崩れている方がなかなか少ないなかで、どうやって攻撃するのか」をずっと取り組んでいるのだと思う。

 ひとつは、相手陣での前プレ。これは相手がビルドアップに最適化した陣形なので、守備陣形が崩れている。もうひとつは、自陣でのビルドアップに前プレさせて誘き出す。これは前述したとおり。でもこれらは狭義で言えば「相手が崩れている状態」。だから今取り組んでいるのは、「自分たちで崩す」作業だ。この作業を前節も今節も表現している。崩すにはその目標地点が必要なのだけれど、木山ベガルタの目標地点は「コーナーフラッグ」だ。

 

 正確には相手フルバックの背後、センターバック横ととも捉えられる。ただあえてコーナーフラッグと呼びたい理由は、先ほど書いたように、本当はセットプレーの機会を増やしたいしもっとゴールを取りたいのだと思う。よく柳が縦にドリブルしてパスしたりしてカットされるシーンがあるが、あれで成功なのである。柳を本職の右フルバックにした理由をあれこれ考えていたのだけれど、今のところの結論はそこにいきついた。なんなら真瀬も縦→縦→クロスなのも、同じように、CKを狙っているのかなと。狙っているというよりは、「CKの可能性もあるエリアで攻撃しよう。一次攻撃がダメなら二次、三次攻撃しよう」という発想なのだと思う。実践家で戦術家の木山さんらしい。

 その次に目指すのは、ボックス内。コーナーフラッグ付近へボールを送る機会を増やすのと同じように、ボックス内へボールを送り込む機会を増やすことで、当然シュートチャンスやファウルトラブルによるPKゲット機会が増える。ボックス内に入れなければ、当たり前だけれどPKも無い。サイドからクロス、クロスなのも、とにかくボールをボックス内に置きたいという狙いがあるのだろうと予想する。ひとつだけでなくて、可能性が増えるエリア、プレーで攻撃しようというのが、大原則のように思えるし、そのためにウィングを大事にして、相手フルバックの背後を突き、敵陣深く(コーナーフラッグ付近)へと侵攻。ボックス内へボールを送り込むのも、「ウィングを使いたいから」ではないのだと思う。

図4

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 一番の理想は、中盤のプレスで奪い、相手守備陣形が整っていないなかウィングが敵陣深くボールを運んでいくことだ。コーナーフラッグへボールをどのぐらい運べたか、そこからセットプレーがいくつ生まれたか、ボックス内へどれだけボールを送れたか、が『アグレッシブなサッカー』のひとつの調子のバロメーターになるのだろうと思う。川崎ですら、自陣での守備やプレスバックに難点があり、そこを突いた長沢のゴールが今季もっとも理想的なゴールなのだと思う。ただ、さっきも書いたように、プレスをかけてもかわされたり、プレスバックも速かったりすると、たちまちうまくいかなくなる。今はプレスやカウンターではなくて、ボールを持って相手を崩して、コーナーフラッグを目指している。ガンバ戦に限ればその回数は多かったし、結果として多くのCKやFKも取れていた。試合後に木山さんが「それほど悪くなかった」と言ったのは、おそらくこの辺りだろうと思う。

 

 ということを前提に、2019年山形の映像をチェックしてほしい。さっそくセットプレーで得点しているはずだし、相手陣深くに突っ込んでいくアタッカー、ボックス内へクロスを放り込んでいるはずだ。個人的な感情を言えば、セットプレーというストライカー不在がここまでの攻撃で苦しんでいるひとつの要因だと見ている。

 

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 完全に余談なのだけれど、フラッグ付近へFWを外流れさせるのは、手倉森ベガルタの十八番だった。フルバックとマッチアップの不平等を生み出し、相手CBを引っぱり出し、中央に待つのはセンターFWとなぜそこにるステルス戦闘機だった。敵陣深くボールを運び、相手を下げさせてから繰り出される10番のキック。そういえばセットプレー鬼だったな。なお、選手間を攻撃する手法は渡邉ベガルタの大原則。僕は、木山ベガルタベガルタ仙台の戦術史を見ているような気がする。気がするだけ。(ちなみに4-2-3-1フォーメーションは、オーストラリアサッカーの父と呼ばれた、名前は、えっとなんだけっけか、なんかそんな人が一瞬、ほんの一瞬地獄のようなサッカーを体験させてくれたけれど、一応同じ4-2-3-1。べつにそこまでリバイバルしなくてもいいのに…)

 

おわりに

  僕は、落ち着ている。落ち着いてられない外の喧騒に疲れるだけで。降格のないシーズンに、何が危ないのだろう。来年、リーグやクラブがあるかどうかも分からない危機感の方がよっぽど僕にはある。目の前で、4点も5点も取られようと、来年リーグ戦がきちんと機能するのなら、降格枠が増えることの方がよっぽど怖いと思っている。この「Jリーグっぽい何か」の何に怖がっているのだろうか。試合を成立させるだけでも、とてつもない労力がアディショナルに発生している。何が怖いのか。危ないのか。歴史を紐解き、先人の知恵を拝借し、自分で考えて噛み砕いて肌で風を感じれば、サッカーの中身についてはそこまで悲観的な論議をする必要もないし、超過密日程と突然消える試合、35度を超える芝生の上で、何をそんなにやってほしいのか。負けるのがダメならダメとそう言えばいいし、全試合勝たなきゃ意味がないと言えばいい。筋を通して結果だけですべてを語ってほしい。不都合な状況に立ち向かう選手たちを見たいんじゃないのか?反骨心や野心溢れるチームを見たいんじゃないのか?

 試合後の関口のTwitterコメントや他の試合後の選手たちのコメントを見ると、本当に悔しがっているのが分かる。自分たちがやりたいことをやっても勝てなくて悔しい、何も出来なくて悔しい、そのすべてだと思う。「自分のやるべきことをやるだけです」とドライに選手が言っているのであれば、それは一大事だけれど、再開後に劇的に変わったサッカーと選手たちのチャレンジングな姿勢。あとは勝負事だ。反転攻勢の機会はやってくる。その機会を待つんだ。待てる自信はたしかに僕も自信ないけれど、自信がないからやれることをやる。やりつくす。僕は山形時代の映像を見て、J2チーム監督時代の分析系の記事もいくつか読んだ。そしてこうして、記事を書いている。それが何だ?何になるんだ?そうだ、何にもならないかもしれない。でもいつか、テグやナベを懐かしく思い出すように、木山さんも思い出したくなる指導者だと、僕は信じている。だからこうして、その足跡を書いている。未来の自分たちへのタスキだし、誰かのタスキになるかもしれない。そう思い込んで、今日も書いている。

 

 

「To know oneself is to study oneself in action with another person.(自分を知るということは、他人の振る舞いから自分を学ぶということだ)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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