蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「流れよ僕の涙」と、少女は微笑んだ。2

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コードサッカー 反逆の不敵少女

「どうしてつかさ宛てにこんな……」

どうして。

そう、どうしてでしょう。

「分かりませんが、いずれにせよこれは僕に対する出題であり、挑戦です」

「な、なに…こんな気持ち悪いもの、さっさと先生に見せた方がいいんじゃない?嫌がらせともとれるよ……」

 

普段の生活でも、僕に対する対抗心を感じないことはない。ある程度は、感じる。

現に、御前さんだって、勝負をしかけてきた。

春休みに僕が負けた、あの勝負を。

まあ、実際に勝負をしかけて来るのは御前さんだけですが。

大体は、嫉妬とか陰口みたいなものばかり。

 

でも、これは違う。

直線的な御前さんと対比する形でこれは、非常に鬱屈して、捻くれていて、嘲笑してきている。

 

まさに、

「明確な敵意を感じます」

「すまし顔でその台詞を言われるとどこかの団体から怒られそうな気がするんだけれど……」

「おや?聞こえてしまったようですね」

「だだ漏れだわ!」

「まあ、冗談はさておいて、これは僕に与えられた問題。出題。解くよりほかないです」

実際、これを無視しても、どうせまた別の形で出題される。

直感ですが。

何より用意が良い。そして、叙述的だ。

 

「や、やるのか…悪口書かれた手紙に食ってかかるようなものじゃないの……?」

「ええ。まあそんなところです」

でも、手紙と決定的に違うのは、

 

こいつも、サッカー観る将だ。

 

鋼の観戦術師

「それで、問題ってどんな問題なのよ?」

「では、書いていることを全部読みますね。『東照宮 つかさ へ。問題:どうやって守る?君の答えと証明を知りたい。』です」

「『どうやって守る』って…そんな簡単に導きだせるものなの?サッカーって、色んなやり方があるんじゃないの?」

「ええそうですね。ですが、今回の問題は、僕の『答えと証明』を求められています。つまりは、僕がどんな答えを出して、それがどのような過程で導かれたのかを示す必要があるんです」

「それって…普通に解くより難しいんじゃ……」

「そうですね。出題者は、僕の答えに納得するのか、証明に満足してくれるのか、ですから」

かなり難しい「勝負」になりそうですが。

 

見えない、得体のしれない相手と戦術ボードを通じた「ディベート」を僕はしないといけない。

 

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「で、これが問題になるわけね」

「そうなりますね。おそらくは、この状況から想定されることを洗い出して、最終的にはどう守るのかを僕の答えとして出すってことです」

「どう守るのよ……?」

「まあ結論を急がないでください。御前さん。この状況、守る側はかなり不利な状態なんですから」

「そうなの?ボール持ってる選手にプレスにいけばいいんじゃないの?」

春休みを思い出してほしい。

予測と集中。

そして、彼女はそこに、準備を足した。

「そうはいきませんよ。見てください。ボールを持っている選手には、2本のパスコースがあります。ひとつは、フォワード。もうひとつは、ウィングの選手に。物理的に、この2本を同時に守ることは難しいです」

「あ……」

「それに、青の左サイドハーフがボールホルダーにプレッシャーをかけにいけば、背後を取られる可能性があります。なぜなら、ボールホルダーには、時間とスペースがある。つまり、プレーに選択肢があるということです。ボールにプレスをかけた瞬間、空けたスペースを使われてしまう」

「たしかに。でも、ボールが渡った先を潰せば、いいんじゃない?まあ、この状況が仕方ない、不利な状況なのは分かったから、次のプレーで挽回すればいいんじゃないのかな」

察しがいい。

そしてこの問題も、それを求めている。

これは、どう守るかだけではなく、攻撃がどう攻撃してくるのかも予測して、仮説を立てる必要がある。

 

ダブルクエスチョン。

ますます質の悪さを感じる。

 

東照宮つかさの憂鬱

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「たとえばウィングに出たら、左サイドハーフが横にスライドして守れます」

フォワードは?」

「この場合は、右フォワードですね。サイドバックが担当します。センターバックは、基本的に、センターフォワード担当ですから」

「ボールホルダーを何とかしようとせず、次のプレーならなんとかなりそうね」

「ここから、攻撃側を動かしてみましょう」

「そ、そんなことしていいの?」

ボードのマグネットを動かす。

「良いに決まってるじゃないですか。サッカー選手だって、僕たちみたいに動くんですよ御前さん」

誰にだって知らないことはある。

教えてあげればいい。

「知ってるわよさすがに!!そうじゃなくて、こんな問題に付き合う必要あるのってことよ。最初の盤面の答えが出ればそれでいいんじゃないの?」

 

たしかに。

でもこれは、僕と、出題者との勝負。

勝負には勝ちたい。

「そうですね。ですが、これだけだと、相手からの反証、いわゆる反撃にあいます。反撃をある程度まで想定して答えなければ、証明になりませんから」

 

つとめて穏やかに、微笑んだつもりだ。

心中は、全く穏やかではない。

 

不穏当な問題すぎる。

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「こうです」

「これは……」

「『ダブルパンチ』。フォワードとウィングが離れていった時、どこまでついていってフリーにさせないのか。つまりは、時間とスペースを限定するためにマークとしてつくのかを選択させる攻撃です」

「これ…もしかして、サイドバックフォワードについていったら、ウィングにその背後を取られてしまうってこと?」

「お察しの通りです。だから、サイドバックは不用意にどこまでもついていく訳にはいかない。でも、『降りる』フォワードが時間とスペースを得ることになる」

もちろん、サイドハーフがウィングについていけば、ボールホルダーが前進するスペースを創るのと、フォワードをフリーにしてしまう。

 

サイドハーフの横スライド無効化とウィングマークへの対応策の同時攻撃。

ますますの性悪さを感じます。

相手を<この場合は僕ですが>貶めるためのやり方。

初めから、攻撃側が有利な局面に持ち込んで、さらに有利に立とうとする。

 

答えのようなものは、見えてきましたが、この問題がこれを言わせるための証明だとしたら…

やはりこの出題者、かなり捻じ曲がっていて、それでいてとても、

 

負けず嫌いだ。

 

人物紹介

 東照宮 つかさ (とうしょうぐう つかさ)

 神杉高校3年生。

 サッカーオタク。観る将。

 高身長。肩ぐらいまで伸びた髪をバレッタで束ねるスタイルに。

 一人称は僕、一人の時と朗と話す時は私になる不敵少女。 

佳景山 御前 (かけやま みさき)

 神杉高校3年生。東照宮つかさの同級生。

 自称永遠の宿敵<エターナルライバル>。

 東照宮への対抗心、闘争心で勝負し超越したいと考える普通の宿敵少女。