蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。25

   f:id:sendaisiro:20200505003649p:plain

詩を歌い、神はまた現れるだろう

神杉高校の前に、宮城野原 詩はいた。

約束の日。

回答の日。

現れる紅い神を待つ。

答えはーーー。

 

「待たせた。」

神が出現する。

「すみません。お忙しいところ。」

「別にいいっての。いつでも連絡していいって言ったろ。」

「完全に余談ですけれど、〆切とか諸々の本業は大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫なわけないだろ。お前を見つけて、こうして対面するためにどんだけ時間使ってると思ってんだ。すでに何件かキャンセルしたんだぞ。」

「それは…いや、私が謝るべきところではないですよね。」

「ん?まあそうだな。クライアントが泣いてたわ。はははははははは!」

「笑い事ではないと思うのですけれど。」

「んで。お前はどうなんだよ。私を泣かせるのか?それとも…」

しっかりと目を見るのがこの人の特徴なのだろう。

 

「怒らせるのか?」


神睨み。

でも、私の答えは決まっている。

いえ、決めてきた。

 

榴ケ岡さん。今回のお話、よく考えさせてもらいましたけれど、丁重にお断りさせていただきます。」

 

朗らかに、そして詩う。

静かにその答えを聞く、紅い神。

そして、問う。

 

「……理由は?」

 

これも静かに、ていねいに答える。

「私、自分が物書きになれるのか、自分で試してみたいんです。」

 

「ほう…」

これが私の答えだった。

「こうして、榴ケ岡さんに声をかけていただいて、正直驚いていますが嬉しいという気持ちもあります。著名な方から、自分でも知らない才能を認められたようで。発見でした、素直に。でも…」

「でも…?」

 

「でも、だからこそ、自分自身でその才能とやらがどんなものなのかを見つけたいんです。自分を試して、ダメなのか、やっぱり才能なのかを見極めたいんです。榴ケ岡さんの言うような、一足飛びでもいいですけれど、一足のなかにある挫折も成功も自分自身で踏みしめたいんです。」

 

これが私の答え。

朗。

私が出した答え。

「要するに遠回りするってことだろ?ちゃんとたどり着けんのかよ?」

「分からないです。でもそれも含めて、自分で歩いてみます。途中で力尽きたら、それは、私の才能も情熱も足りなかったってだけです。」

私にはまだやり残したことがある。

朗と。

 

朗との与太話が。

 

神が最終審判を下す。

「分かったよ。分かった。好きにしろ。」

「……はい!」

「ただし!」

「……!?」

「ただし、ちゃんと昇ってこいよ。てっぺんでいつまでも待ってっから。」

「……はい。」

「いい記事が書けたら真っ先に私に連絡しろ。いつでも取りにいってやる。そして隙あらばうちで掲載してやるよ。ははははははは!」

「だからそういうのはやめてくださいって!」

 

「まったくよお…。そういう叩き上げスタイルは、お前じゃなくて、お前の連れ<国府多賀城 朗>のスタイルだろうが。」

 

「え…?」

 

朗の?

スタイル?

「ああいう感情爆発野郎はな、叩き上げの方が伸びるんだよ。叩くたびに、まるで反発するかのように想いが爆発して、どんどんいい物を作るんだ。んで、気づいたらプロの私らが足元すくわれるってわけ。怖えぞああいうのは。」

「よくそこまで朗のことを…」

「あいつのタクティカルレポートはダメダメだがな、エモーショナルレポートの方はそれなりに面白かったぜ。それに、私は、同業にしかあんなこと言わねえよ。」

「そ、それって、朗のこと…」

「あ?あいつも、私らと同じ表現者であって、物書きであって、クリエイターだろ?せっかく何かの縁で会ったんだ。一緒に伸びてほしいって思うのは当然だろうが。それが高校生だろうが社会人だろうが関係ねえよ。私は、必要な相手に、必要なことを必要分しか言わねえんだよ。言っても意味無い奴に言っても、無駄じゃねえか。」

 

あなたは、朗を認めて。

 

「ま、口が悪いのは生まれつきのデフォだ。仕方ないと諦めてくれ。」

「悪くなければ、もっと仕事ありそうな気もしますけれど。」

「口が良くてもボンクラはごまんと居る。その逆も然り、だな。」

 

振り返り、去る。

「じゃあな。せいぜいあいつを慰めてやりな。」

「あの、榴ケ岡さん。」

「ああ?気が変わったのか?」

「そんなわけないでしょう。あの、ありがとうございました。」

深く頭を下げる。

私たちを見てくれて。

本気でぶつかってくれて。

あなたは、私たちを導こうとした。でも、私たちは、私たちの足でこの道を歩こうと思います。

 

「ふん。そういうのは、うちで記事出してから言うんだな。じゃあな。また会おう。」

 

そういうと、榴ケ岡 神奈子は消えていった。

その時、スマホが鳴る。

 

通知には、約束の場所が示されていた。

 

始まりの場所で。

高校最後の。

 

与太話を。

 

もっと広く攻めよう。君とともに。

勾当台公園

去年。

そこには、男子高校生と女子高校生の姿があった。

そして今日もその姿がある。

でもそれも、今日で、終わる。

 

私は、思い切り走った。

風よりも軽く、光よりも速く。走った。

 

ベンチに座る男の子が見える。

ずっと会いたかったあなたに、私は叫んだ。

 

「朗!!!」

 

僕は、誰よりも一番聞きたい声の方向を向いた。

ずっと会いたかった君は、一直線で、僕が座るベンチに向かっていた。

僕は、叫んだ。

 

「詩!!!」

 

 

抱きしめる。

もう何十年も会ってないかのような。

そんな悠久の時を超えたかのように。

僕たちはまた、ここで出会った。

 

「ごめん詩。俺、もう詩の手を離さない。絶対離さないから。絶対絶対…!」

「いいのよ朗。私こそ、何もできずにごめんなさい。」

「いいんだ、もう。もういいんだ…。」

 

座るベンチ。

置かれる240円。コーヒー2缶。

「そう。そんなことがあったのね。」

「だからさ、改めてなんだけれど。」

取り出す戦術ボード。

「朗?」

「改めて、僕にサッカーを教えてほしいんです。僕には、分からないことばかりなのが分かった。だから、ちゃんと、ひとつずつ分かりたい。何が好きで、何が嫌いで。どう好きなのかを確認したいんです。あと…。」

「あと?」

「あと、サッカーのこと話す時は、原点に戻ろうと思って。」

僕は、君の眼を見て言った。

「だから、また『詩さん』と呼ばせてほしい。あの時みたいに。決して、詩と距離を置きたいとかじゃなくて、サッカーの話をする時だけ。これは、僕なりのけじめのつもりなんだ。」

ええ、分かっているわ。

私は、あなたの想いが痛いほど分かる。

 

「いいわ。でも、やるからには、オタク根性丸出しでは困るのだけれど、覚悟はいいかしら『朗君』?」

 

そうか、そうだよな。

僕は、少し笑ってしまった。

「ふふ。はい!」

「ん?なにかおかしいことでも言ったかしら?私、真剣にあなたに忠告をしているのだけれど。」

「はいはい。気をつけますって!」

「もし少しでも気が緩んでサカ豚と化すようものなら、あなたの一命をもって、それを食い止めることになるのだけれど。問題ないわよね朗君。」

僕は、君のために人生を、命を懸けたっていい。

君のためなら、重い君とでもどこへでも飛んでいける。

でもここでは。

いつものやつを、ひとつ。

「ちょっと!!!僕の代償大きくないですか詩さん!!!」

 

「どうして、ウィングにボールをつけて、サイドバックと1対1を作ることが重要だと思う朗君。」

「え、えーっと。やっぱり、強力な選手で打開を図るためと言いますか…」

「まあ言いたいことは、分かるのだけれど、結局は現象にすぎないわ。もっと本質的な部分を見ないといけないわね。『現象はすべての原理から生まれる』のだから。」

「キタ!!『宮城野原 詩』節だ!!」

「だから、私を歩く『今日を生きる言葉本』扱いしないでくれないかしら。」

「それで詩さん、どんなことが重要なのでしょう?」

「まずは、ボールを前進させること、プレッシャーラインを超えること、相手陣地でプレーすることよ。」

 

私は、攻める。もっともっと。

 

「おお!まさに、パス一本で防衛ラインを無力化する光の矢!襲いかかる両翼の剣!」

 

君が攻めるから、僕はもっと攻める。

 

「翼のない鳥は、飛べない。翼があれば、私たちは、どこへでも羽ばたける。」

 

こう微笑みながら言ったのは、サッカー与太話好きな、

 

 

君だった。 

 

エンディング

 

www.youtube.com

 

登場人物

国府多賀城

宮城野原

八乙女・ヴィクトリア・李七

東照宮 つかさ

 

榴ケ岡 神奈子

薬師堂 柊人

八乙女・ヴィクトリア・英梨

五橋 皐月

佳景山 御前

 宮城野原

 

せんだいしろー

 

企画・制作

 

蹴球仙術

 

作者・総監督

 

せんだいしろー

 

あとがき

  どうも、僕です。これにて、「きみせめ」終劇となります。ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。「サッカーの解説を小説風に」を旗印に、これまで書いてきましたが、本来のサッカー解説をカジュアルに語ると同時に、「好きなものへの向き合い方」みたいなものも裏テーマに掲げていました。僕の好きな作品のひとつ「シン・ゴジラ」のカヨコが「この国で好きを通すの難しい」とか「好きにすれば」と、どうにもならない状況にある主人公の矢口に投げかけます。「不純な動機で好きになった」「好きなことに逃げる」「無理して好きでいようとする」「ほかのひとと比べて自分の好きさは大したことがない」など、自分の好きなこと、やりたいことを貫くことは難しく、ある意味才能になるのかもしれないです。それを朗や詩たちは、サッカーを語る、好きな物を語ることを通して自分たちなりの答えを探していたのかなと思います。

 実は、もともと構想していた最終回と全く違った形で書き上げました。それは、24話の最後で、朗がまた与太話がしたいと言ったことが原因です。彼がこれまで積み上げてきた物、壊された物、その再生の過程で彼が出した答えだったのです。僕は、素直に嬉しいなと思ったので、少し悩みましたが、彼が詩と昔のように語れる場所を創ってあげたいと思いました。始まりと終わりは表裏一体だと言いますが、わりかしそれっぽくなったのかなと思います。

 青春というものは、子どもと大人との間であり、あの世とこの世とを繋ぐ煉獄のようなカオスなイメージを持っていて、大人へのメタモルフォーゼを果たす儀式のようにも感じてします。そこで、かつての青春を経験した「でっかい子ども(≒大人)」が混沌を迷う子どもたちが歩ける手助けをするのかなと思います。

 さて、物語を通して最後まで登場人物たちに甘えてばかりのダメな作者でしたが、そのパワーに圧倒されたり、羨ましさも感じるところもありました。今、サッカーが日常ではなくなってしまっています。正直、こういう「サッカーがある日常」を描くことに迷いが無かったといえばウソになってしまいます。でも、せめて彼ら彼女らには、サッカーのある日常を生きてほしいし、思い切り楽しんでほしいと思い、同時にサッカーが帰って来いと祈る思いで書き続けました。必ず、サッカーは帰ってきます。今度は、僕たちの再生と反撃の物語になります。その必ず来る日を夢見ながら、この『「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。』が、これからも、みなさんの日常を彩るサッカー与太話をさらに彩れる一役買えれば、これ幸いと思います。

 

 本当にありがとうございました。

 では、またどこかで。

せんだいしろー

 

すべての先へ

「これ、結構面白かったのですけれど。」

「うん?ああ、大学時代に書いた小説か。よく読んだな。」

「キャラも踊ってますし、今でも行けるんじゃないですか?」

「そんなわけないだろ。プロットも設定もめちゃくちゃで、キャラが自由すぎて。与太だよ与太。与太話。」

「今もそんなに変わらないと思うのですけれど。」

「はいはい。はいこれ、今回の原稿。」

「ありがとうございます。さすが、〆切はきっちりですね。」

「天才じゃないからさ。こういうところは、愚直にやらないと。続けることが肝心なわけで。」

「分かりましたから。」

「だってそうしないと、ちゃんと時間、作れないだろ?」

「それもそうね。さあ、行きしょう。開場してしまうわ。」

「ああ、そうだな。行こうか。」

「あーきたきた。あんたたちー!早く早く!」

「急いでください!お二人とも!」

「はいはい…!」

「また皆でサッカー観れるなんて、楽しみね。」

「ああ!楽しみだ!」

 

今日もどこかで、サッカー与太話が語られる。

 

日常に溢れる、サッカーとともに。

 

Fin