蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。5

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続、そして序

宮城野原 詩という女性を語るにあたっては、少し時をさかのぼって捕捉する必要がある。彼女がどうして「再び」自らがつくった孤独の部屋に閉じこもるようになったのかというと、明確に、そして、決定的な理由があった。

彼女の人生のほとんどは、その「明晰な頭脳」と「並外れた成績」ですべて物語られてしまう。自然と彼女に集まるのは、その「知」を得たい者たちばかりだった。

ただし、彼女もひとりの「人間」である。まったくもって当たり前の話だが、知の集合体ではない。彼女はその知を使って、多くのひと達と繋がりを持ちたかった。いわゆる、コミュニケーションである。しかし、いや、当然かもしれないのだけれど、人間が生きてきた文化形態において、もっとも難しい行動のひとつがそのコミュニケーションである。

 

「重いよ。」

「え?」

宮城野原さんは重いんだよね。別に話聞きたい時に聞きにいくからさ。なんていうかそうやって、『私とは話さないの?』とかマジな顔で聞かれちゃうと困っちゃうんだよね。」

回想。 

 

相手のコンテンツ化。人間のコミュニケーションのひとつの進化系である。知恵袋や検索サイトのように。彼女自身への興味ではなく、彼女の中身である情報に、周りは高揚し畏怖し、利用した。

以来、彼女が近寄り難い雰囲気と学校で言葉を発する姿をほとんど見ないのには、十分すぎる理由があった。周りが『自分<宮城野原詩>』を必要としないと言うのなら、自らもまた、周囲を必要としなかった。その近寄りたいのに近寄らない、鬱屈した、根暗な、腹黒な、純粋で子供っぽい行動は、彼女のささやかな『無言』の抵抗なのであった。彼が現れるまでは。

約束の場所

下校。

探す。あのサカオタを。

探さなければ。そして僕は何を話せばいい?

 

勾当台公園。少し寒い。

見つけた。そして、異様な光景。女子高生を取り囲む小学生。

「いいかしら。ボールポゼッションを維持したいのなら、6秒間のゲーゲンプレスが必要よ。即時奪回して、攻撃形態を維持する。これがボール保持攻撃の要諦よ。いえ、守備陣形を整えながら攻撃する、といってもいいわ。」

「ちょっっっっっっとまったああああああああ!!!!!!!!!」

「あら?」

介入成功。

「ちょっと!!!なにやってんの!!!(CV:ブライト・ノア)。小学生相手に何やってんですか!!!」

「あらやだ。初等教育からクライフイズムを伝授中よ。」

「きわめて高尚な主義を隙あらば広めようとしないで!!!」

蜘蛛の子。散る。

「それで。何をしにきたの。」

「詩さんこそ、どうしてここにいるんです…」

「私はあの子たちに授業を。」

「そうじゃなくって。この公園に、またいるんですか。ここは、僕たちが一番サッカーの話をした場所じゃないですか。」

「そうね。でもそれも、あなたに近づくため。話題も場所もどうでもよかったわ。私からしたら、何か口実を作って話ができればそれで……」

堰が、切れた。

 

「俺はまだ、なにも話せてない!!!」

 

「……!」

「俺はほとんど、いや、まだなにも話せてない。いつも、教えてもらってばっかりで。だから、俺、サッカーの見方とかめちゃくちゃ勉強して、もっともっと話せるようにしたくって。」

「え…」

「食べる時間も寝る時間も友達と遊ぶ時間も、プレミア観る時間だって削って、いやそれは観てたか…とにかく!このまま一方通行になるのだけは…嫌だったから…」

「だから、最近は休み時間とか昼休み話せなくって。それが凄く苦しくて。ごめん。」

「そんな…そんなの知らない…」

「もっと…俺も話したくて、ただその一心で。」

「だから…そんなの知らないよ…」

涙。さようなら。涙。

「俺、詩が好きなんだ。サッカー話す詩も、そうじゃない詩も。全部。それにどんな理由でも、詩がサッカーが好きなことだって、紛れもないたったひとつの『事実』だ。」

ようやく見つけた。

 

「…もし君が広く攻めるなら、俺はもっと広く攻める。攻めてみせる。だから、いままでのように、これからも一緒に。」

 

私の光。 

「…私、『重い』わよ。朗君が想像している532倍は。」

「いいよ、どこへでも飛んで行ってみせる。」

「…私、重いうえに根暗でオタクよ。朗君が想像している433倍は。」

「いい。オタクさなら負けない。」

試合終了の笛が吹かれる。追加タイムも、逆転Vゴールも無い。完璧な試合だった。

Prelude

「でも、大事な告白を奇人マルセロ・ビエルサの名言から文字るなんて。そんな辱めあるかしら。」

「……!」

「そういえば、さらっと呼び捨てで呼んでくれちゃっているのだけれど、随分と大きく出たわね朗君。」

「……!!うああああ!!!ごめんなさい!!!つい!!!つい!!!」

「しかも、なにやら主人公キャラにでもなったかのように、熱いセリフの連続で。ゴール裏で声出し飛び跳ねした方が貢献できるんじゃないのかしら。」

「きゃああああ!!!やめてください!!!恥ずかしくて死んじゃうから!!!」

耳元で、囁く。

「しかも、『俺』ですって。」

さようなら、俺。ただいま、僕。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「はいはい、少し落ち着いて。」

「数分前の僕をボコりたい。数分前の僕をボコりたい。数分前の僕をボコりたい…」

後の祭り。これからも祭り。

「でも、」

「でもとても嬉しかったわ。私以外に使ったら…そうね、少し、嫌かも。」

「絶対使わない!詩さんだけですから!」

「まあ、少しというか、すごーーーーーーーーーーーーく嫌かも。」

「ひーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

これにて、終劇。また、どこかで。

「ふふふ。さ、いきましょ。暖かいコーヒーを飲みながら、リーガでも観ましょう。あとそれと…」

「…それと?」

「私の方がもっと広く攻めてみせるわ。」

厳しい寒さに、和らぎが射しこみ始める3月の勾当台公園で。

そう彼女は、微笑んだ。

Fin

 

人物紹介

宮城野原 詩 (みやぎのはら うた)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。朗とは同級生。

 サッカーオタクなのは隠している。見る将。自称重い女。根暗オタク。やったね!

国府多賀城 朗 (こくふたがじょう あきら)

 17歳。仙台市内の学校に通う高校生。詩とは同級生。

 やっぱりサッカーオタク。見る将。 サッカーの見方を勉強中。やる時はやる。

あとがき

  どうも、僕です。みなさん、「きみせめ」を楽しんでいただけてますでしょうか。年末にある会合で、サッカー本を読んでた時の自分の反応?を周囲に面白がられたことから「誰かが楽しんでることを観る」って実は面白いのでは?(性悪)と閃いたのがきっかけです。もともと、サッカーの見方とか一般論をみたいなのをまとめたいと思っていましたが、教本みたいにして説教臭くなるのも嫌だったので、「面白く読んでたらいつのまにか分かってた」ができたらいいなと思って小説形式にしました。ちなみに最初の構想は、解説を老人、聞き手を青年の設定だったのですが、上から目線を助長すると思って没にしました。

 実は、サッカー関連、サッカー関連以外問わず参考にしたブログ、モデルにしたキャラはいるのですが、「面白くする」がとてつもなく大変な作業で日々格闘でした。今でも果たして面白いのか自分ではよく分からないです。内容は、フォーメーションの基本的な解説になるので、試合見る時の参考程度で。詩と朗が性懲りもなく寒い公園でサッカー話している姿を愛でてもらっても構わないです。二人のように、サッカーを通して、日常によいサッカー与太話が溢れていきますよう願っています。それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回予告

ついに始まる新学年。止まらない観る将たちの与太話。

彼らを阻むのは、受験か、夏祭りか、学園祭か、それともかつての宿敵か。

サッカーの母国、イギリスより現れるのは、新たな観る将であり金髪の許嫁。

攻めて、攻め返される日常に、新たな舞台の幕が開ける。

次回、「君が広く攻めるなら、私はもっと広く攻めましょう。」と微笑む君。第6巻

『英国からの花嫁』 

何ゴール前でちまちまパス回してんのよ。さっさとシュートを撃ちなさい!

ーーー2ndシーズン作成中