蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【立ち上がるんだボクサー】Jリーグ 第32節 ガンバ大阪vsベガルタ仙台 (2-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイガンバ戦のゲーム分析。終わりへと歩みを進めるJリーグ。華々しいスタートとはかけ離れた今シーズンも、もうすぐ、終わる。ひとつでも上に。すべてのひとの思いは、ここで「終わらない」覚悟だった。それでも、現実は、冷たく、鋭利に、そして僕たちの前に現れた。その時、ベガルタ仙台は、サポーターは。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2。前半途中で、松下がケガ。椎橋が交代で入る。

 ガンバは、3-1-4-2の前輪駆動型。スサエタ、パトリックがリザーブとかちょっと何を言っているか分からない。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

ゲームコントロールとポジショナルアタックの現在(いま)

  ベガルタのポジショナルアタックは、いつものように2CB+2CHのボックス型ビルドアップに、ウィングがハーフレーンに可変するトムキャット型だ。ガンバは、5-3-2を対抗型として用意。というよりは、ボール保持攻撃が3-1-4-2なので、セット守備については変形しやすい形で組んだと言える。ベガルタとしては、2CBに2FWで同数をぶつけられたこと、ファイナルライン5人の5バックに対して、2FW+2ウィングの4人と数的不利になっている。中盤は、4vs3と数的優位のように見えるが、中央3レーンだけを見れば2vs3とここでも数的不利になる。

 つまりは、このままガチ当たりしても構造の部分で、相手守備陣形を壊すことはできないということだ。動かす。相手の立ち位置を動かす。動かして、数優位の場所、時間とスペースが作れる場所を作ることが求められる。5-3-2の弱点構造として、一般的には、3-2の脇のスペースになる。ここをスライド対応して埋める、あるいは5バックの誰かが縦迎撃することで埋めることが必要になる。もちろん、リトリートで最後のゴール前を守るやり方もあるのだけれど、この試合のガンバは、前線2トップをスイッチに前プレ「ガンガンいこうぜ」の策を採用した。

図1

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 実践では、3-2の脇を蜂須賀や永戸のSB、富田や松下のCHが利用することに。16分に、道渕がWB担当として誘き出し、後方の蜂須賀に時間とスペースを提供。3センターが横スライドで対応するも、物理的に間に合わない。ハモンの裏抜けが発動する。この「WBを誘き出す」作業が5バック攻略においては、ひとつ重要になる。最終的には、左右のCB、ハーフディフェンダーをサイドに引っ張り出して、ゴール前をお留守にするのが目標。SBが低めに立つことで、相手の前プレを誘発。あえて、誘発させることで、勝手にスペースを空けてもらうポジショナルプレーを発動。45分には、トムキャット可変の道渕がカットインからのカットアウトでWB裏でボールを受ける。当然、CBがカバーにくるのだけれど、5バックの弱点は数増しでスペースを埋めることなので、最後にゴール前に誰もいない現象が発生しやすい気がする。気がするだけ。最後は、ハモンが裏抜けするもオフサイド。シンプルなのだけれど、強力な棒銀戦法で相手ファイナルラインに迫っていった。

図2

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 52分には、椎橋がアンカー落としで擬似3バック化。逆丁字型ビルドアップと関口のハーフレーンへのトムキャット可変で、相手WBを誘き出し、背後へハモンがカットアウトランを繰り出す。今のチームにおいて、最優先事項は、ボールを持っていない時の整った陣形で相手を窒息させることにある。そのため、メンバーも、その優先事項を実行できるメンバーが優先して選ばれている。そんなメンバー構成でも、ポジショナルアタックが見られたのは、素直にチームの成熟だと捉えるべきだし、自信を持つことだと思う。

 さらにいえばこの試合においては、いかにガンバのトランジション機会を奪い、カオス局面での個人vs個人の場面を作らせないか、がテーマにあった気がする。気がするだけ。多分。そうなると、ガンバに多くの時間ボールを持たれてもOK、ボールを奪ったら縦志向強く速攻ではなく、ボール前進とスペース確保、トランジション局面を短くして、自分も相手も陣形を整えることを優先させたように見えた。よく言えば、ゲームコントロール。主導権を握る作業。こんな顔もできるんですよと大女優も驚く戦い方がもっとできればと思えるような、数少ないボール保持攻撃、ポジショナルアタックだった。

封じられたロングトランジション

 ボール保持攻撃には、もうひとつある。ポジティブトランジションだ。ボールを奪った瞬間というやつ。今のチームの生命線でもある。ここから、コレクティブにカウンター攻撃をしかけるのが肝になる。相手の守備陣形が整っていないので、この試合でも3バックとアンカー遠藤が対応するケースが多いのだけれど、それでもリトリートスピードを速くすることや井手口がボールホルダーにプレッシャーをかけることで、致命的な攻撃を防いでいた。これは、ベガルタにとっては想像以上の対応だったかもしれない。ガンバは、リーグのなかでもリトリートの速さをうりにしているチームというわけではない。ベガルタとしても、そこで差をつけて、ボール前進させるつもりだったのかもしれない。ただ、自陣に戻るのが速いため、関口がヤードゲインさせてボール前進させても、攻撃のための時間とスペースがなかった。

 ボール保持攻撃でも書いたように、ゲームコントロールの部分もあるので、相乗効果でベガルタのポジティブトランジション時の激しい縦攻撃はあまりなかったように見えた。ただ、後半60分ごろから2トップにシンプルに入れるシーンも増えたので、リスクをとって、自分たちの陣形もある程度崩れていることを許容して、相手の陣形が整っていない時に攻めようという意図は見えた。それが結果として、失点に繋がったとも言えるし、そうじゃないとも言える。少なくとも、1失点目は、ハモンがカウンターなのか、ポゼッションなのか、周りもふわっとしていたなか、崩れた陣形を使われてしまった。非常に難しい課題で、バランスなんて簡単には言えるのだけれど、なかなかどうして難しいなと。「締まった守備」と「前へのパワー」の両立は、今に課題になったことではないのだけれど、締まった守備が前提の世界観であるなら、守備のなかに前へのパワーが取り込まれてしまうのも理解はできるが、受け入れたくはないなと思っている。 

ボール非保持時

前輪駆動型3-1-4-2への組織的守備

 ベガルタのセット守備は、4-4-2。相手3バックに対して、2FWと数的不利を受け入れて、アンカーを警戒する策で対抗。縦を切りサイドに誘導する「ワイパー」でボールをサイドに誘導する。ボールサイドのウィングは、ハーフレーンに縦パスが入らないよう封鎖する立ち位置をとり、ウィングロールの相手WBにボールがついたところでSBが縦スライドで迎撃。ウィングがプレスバックすることで窒息させる。ハーフライン付近でボールを奪えば、相手ゴールに迫っていく。ボールを逆サイドに展開されても、逆サイドのウィングが3バックにプレスをかけ、WBに通ればリトリートして対応。両サイドとも非常に丁寧に対応した印象だ。ガンバは、空いているスペースを探してボールと人数をかけるので、中央3レーンからのワイパーもあり4-4-2の両ワイドゾーンに誘導できた。

図3

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ひとりポジショナルプレー井手口

 ただ、誤算だったのは、選手の格が違った。そのひとりがインテリオールの井手口だった。井手口は、関口が前プレをすればその背後にポジショニングし、スペースを利用しようとした。また、松下or富田が地の果てまでマークしていくので、マーク番をうけることで、中央にズレを生み出そうとしていた。ボールも持たずに。また、ワイドレーンにレーンチェンジすることで、CB、井手口、WBで縦のオーバーロードを発生。ベガルタがワイドレーンに集中することで、空いているスペースに宇佐美や矢島が入ってくる事態に。

 さらには、WB小野瀬も井手口がワイドレーンに開いて、自分はハーフレーンで永戸をピン止めすることで、スペースの解放も実行。密集と解放を使い分け、基本的には人数をかけるやり方なのだけれど、各選手の基礎技術の高さと井手口のポジショニングで成立させていた(さっきも書いたのだけれど、ネガトラでカウンター予防していたのも同じく井手口)。

図4

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Y字型(1-1-2)ビルドアップ妨害

 ガンバのゾーン1でのビルドアップは、右CBがワイドレーンにレーンチェンジし、2CBがハーフレーンに、GKが加わる擬似4バックでのビルドアップだった。そこに、高い位置をとったWB背後に矢島、アンカーポジションの遠藤とあわせて、W字型のような戦型でボール前進をはかっている。対するベガルタの対抗型として、2トップのうしろに、2CHが縦に並ぶ形をとる。ウィングもハーフレーンに立つことで、ボール前進を妨害した。

 ただ、2FWがかわされるとすぐさまリトリートを開始するので、ビルドアップから嵌め殺してやろうぜ!だったのかは少し分からなかった。もちろん、かっさらうシーンもあったのだけれど、狙いとしてどこまでの本気度があったのかは分からなかった。かわされた後の擬似カウンターを警戒するという意味においては、良手とも言える。であれば、最初からリトリートしておけばとも思うのだけれど、相手陣深く前プレできるチャンスなので、狙っているのかもしれないしそうじゃないかもしれない。

考察

0-0を目指すのか

 この試合、前半のやり方を続けていれば、後半も少なくてとも失点シーンのようなやられ方はしなかったのではと思う。もちろん、試合開始から縦に速くいけば、前半のうちから2点叩き込まれていたかもしれない。そういう意味では、0-0でOKではなく、あくまで勝ちをもぎとりに行ったのではないかなと考えている。どうしても、前へパワーを出すにあたって、自分たちのバランスを崩したり、リスクを請け負ったりする。たとえば、こういうところに監督の個性だったり、チームの色が出てくると思っている。あくまで主導権を握ることにこだわる。ボールを持っても持っていなくとも。そして、勝ちにこだわる。これが今のチームのもっとも大事な行動原理的な部分なのかと思う。ではあとは方法論やルール作りなのだけれど、それはやはりいろんなやり方が出来た方がいいし、一度作ったルールは錆びていくのでメンテが必要だしと、来年も取り組まないといけないことがたくさんあるなと思う。残り2試合。勝ち点がゼロになったのだけれど、良い姿勢が見えた気がする。気がするだけ。 

おわりに

 最後にベガルタサポーターにひとことだけ。

 僕は、試合終了後、選手への反応が気になっていた。拍手を送るのか、ブーイングでピリつかせるのか。はたまた無言で迎えるのか。まあ、いろいろある。拍手したからといって、 敗戦後の選手には、鼓舞よりは申し訳なさを感じさせたりするかもしれない。この試合もそう。何が一番か、僕には少し分からなかった。

 そして、もうひとつ。もうひとつ気になることがあった。僕が瑞穂で聞いた、テレビ越しのユアスタでも聞いたあのチャントが一度もなかった。「刃」の文脈はいろいろだ。今は、過酷なJ1への挑戦を続けるチームを後押しするチャントになっている。見事に、前節清水戦でも、そのチャントを歌いあげたところだった。

 「刃」だった。拍手も、ブーイングもいらない。奇をてらったこともいらない。ただ、この道を突き進むために、自分たちが変わらずサポートすることを強く示した。選手たちも深く頭を下げ、手を振って応えた。

 僕は、ベガルタサポーターたちをとても尊敬している。どんな形であれ、その場をともに経験するサポーターたちを尊敬している。僕みたいに、たいして現地応援もせず、鳥の眼で見てブログばかり書いているクソ野郎とは違う。決定的に違う。黄金の輝きを放っている。僕にとっては。なんだかんだいっぱいある。あるけど、それでも、いつもそこにいるサポーターたちが何よりこのクラブの誇りだと自負している。どんなクラブのサポーターにも負けない、杜の都から世界中を照らすサポーターだと尊崇している。

 だから、俺も負けるわけにはいかない。負けてられない。どんな時でも、どんな形であれ、ベガルタ仙台というクラブが、チームが、選手が、何を表現していて何を決断したのかを表現する。してやる。戦術もそう。応援もそう。スタジアムの雰囲気もそう。書いて、書いて、書きまくってやる。俺だって、決して負けない。いや、俺たちは決して負けない。負けるのは、死ぬほど、悔しいから。

 俺は、理想とする最高に面白いサッカー戦術ブログを書く。あの時、初めて戦術ブログを読んだ時みたいに、読んでてもっと読みたくなるような、試合を見たくなるような、ワクワクする記事を書いてやる。反感を持たれるかもしれない。もっと、読みやすくなるよう書き手が気をつけた方が良いかもしれない。最後は、誰にも、読まれなくなるかもしれない。たとえそうなったとしても、誰がどう言おうと俺は、俺が最高に面白いと思えるものを書く。書いてみせる。

 ということで、気色悪い文章にお付き合いいただきありがとうございます。残り2試合、よろしくお願いします。次の試合。ホーム。ユアスタ。人生最高の試合にしましょう。

 

 「悪いな、俺はただの賞金稼ぎだ。この世界がどうなろうと知ったこっちゃねぇ、俺はただお前に借りを返しにきただけさ」こう言ったのは、スパイク・スピーゲルだ。 

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html