蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【アンダルシアに憧れて】Jリーグ 第19節 ベガルタ仙台vs鹿島アントラーズ (0-4)

はじめに

 では、いきましょうか。ホーム鹿島戦のゲーム分析。旅立ちの日。大志をいだく一人の青年が戦士となり夢への第一歩を踏み出す。そんなダンのためにも勝利が欲しかったベガルタ。でもそれ以上に、鹿島との、いや世界との舞台の違いを見せつけられることに。これからベガルタが戦うべき相手とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

f:id:sendaisiro:20190717233325p:plain

 ベガルタは、シマオがケガ、椎橋が出場停止で大岩、富田がスタメンに。

 鹿島は、安部、安西が海外移籍でいない。鈴木も移籍が発表される。世界。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

ボックス型と逆丁字型で攻める2トップ脇

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。試合序盤は、時折、富田が降りたり、ダンが加わったりで一工夫。この試合、2CBには平岡と大岩が入ったのだけれど、彼らの狙いは相手SHやSBを引っぱり出した後ろのスペースになるが、あまり精度よくボールを送れなかったのと、CBからSBへのパスが短距離パスでボールを持ったSBが窒息するシーンが見られた。特に右サイドが惨状だった。大岩のキックがパター型もあって、どこの誰に蹴るのかが、キックモーションから予測できてしまう。キックする前に相手SHがハチへベクトルを向けるので、ボールをタッチラインに押し付けることに成功させてしまった。実は鹿島の守備もベガルタに似た傾向があって、CHにレオシルバが入っていることもあるのだけれど、人によくついていた。トムキャット可変でハーフレーンに出現するミチにレオシルバがついていくシーンもあって、第3レイヤーで待つ2トップへの「花道」が空いているケースもあったのだけれど、大岩からのパスはやはりSBだった。

 こうなるとベガルタの立ち位置を少し弄る必要がある。35分くらいから明確に、富田がCB間に降りる逆丁字型ビルドアップに変形してきた。4-4-2の攻略方法はいくつかあるが、そのひとつに2トップ脇がある。ここは、ハーフレーン入口とも呼ばれていて、守備者にとって誰がいくのかいかないのかの選択を迫れる焦点のプレーがよく利くポジションだ。ここから、トムキャットで降りてきたウィングが正面によく見えるはずだ。当然、相手SBがついてくれば、裏が空く。ベガルタもまた、鹿島同様、SBへのカットアウトランを繰り出すことになる。

縦のオーバーロードと裏抜けの質

 特に後半。56分、63分ごろに見られた形で、石原先生がSB裏を強襲する。形はどちらも、右SBハチがボールを持った時。右ウィングのミチが同レーンでハチに寄る動きで相手SBを誘き出し、ハチは「重なったらひとつ飛ばせ」原則に従って、ミチを飛ばして石原先生にボールを供給する。この縦1レーンアタック。名波ジュビロでよく見られた形なのだけれど、普段は5レーンを広く使うチームが1レーンで攻撃を完結させようとオーバーロードすると意外と強力だ。いわゆる継ぎ歩の感覚に近い。鹿島は、この1レーンアタックに対して、SB、SH、CB・CHの人員を割く必要がある。しかも全員がサイドに引っ張られることになれば、中央での枚数不足を招く。シティの5バック攻略、京都の5バック攻略でも見られるこの型は、いずれ、ベガルタの新たな武器になる気がする。両ウィングがハーフレーンに集まる瞬間的オーバーロード、1レーンに集まる縦のオーバーロード。広く攻めたり、狭く攻めたりの幅を広げられたらと思う。

図1

f:id:sendaisiro:20190717233453p:plain

 ただ、難しいのは、カットアウトでSB裏を強襲する選手の質だと思う。残念ながら、もともとがサイドの選手のハモンは、そこのところが怪しい。ボールホルダーがボールを持って、ルックアップしてから動き始めるので相手に対応されるのと、そもそもそこの動きが無い場合もある。ただ、ある時は、いきなりサイドでボールを持って独走もするので何だかなあという感じだ。いっそのこと左ウィングにして、ハーフレーンへのトムキャット役にした方が良い気がするのだけれど、5バック化には対応できなさそう。悩ましいところである。もしかしたら、今の4-4-2の最大の武器であるウィングが弱手になりえるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

図2(オマケ)

f:id:sendaisiro:20190717233522p:plain

ボール非保持時

鹿島のトムキャット型4-4-2

  ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2。ただ実際的には、4-4-2-0ともとれる2トップが低めの位置で構える形でのブロックディフェンス。スライドの意識は感じられるのだけれど、スペースへのスライドというよりは、やはり人への意識が強く感じられる守備だった。相手とミラーになることから、組みやすさがあるかもしれないのだけれど、鹿島もポジションチェンジで選択を迫る。ウィングがハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット可変だ。さらにはSBが高い位置を取るので、人につくベガルタのウィングとSBが強制的に上下ポジション移動を強いられる形に。ここまでであれば、ある意味、4-4-2vs4-4-2の「嵌めてから外す」原則に従ったプレーなのだけれど、ベガルタが苦手とするレーンチェンジへの対応を合わせ技で繰り出してきた。主役は、背番号8、土居聖真だ。

図3

f:id:sendaisiro:20190717233605p:plain

図4

f:id:sendaisiro:20190717233627p:plain

土居のカットアウトラン

 ウィングのトムキャット可変のひとつのメリットとして、相手SBについていくのか、いかないのか世界の選択を迫ることができる。いくつもの世界線。ある意味、鹿島は事前のスカウティングとの答え合わせをしていたのかもしれない。そして今日も、「ウィングもSBもよくついてくる」ことが序盤の15分で完了したのかもしれない。

 まずは2分。土居が確かめるように永戸の裏に飛び出していくカットアウトラン。ウィングロールのSBとハーフレーンに移動するSHへの対応でギャップができるベガルタのファイナルライン。14分にも土居が永戸の裏にランニングしていく。完全な同型ではないのだけれど、15分の先制点を許したシーンも土居のポジションはウィングレーン。永戸の裏だった。

 非常にシンプルな、サイドの選手と中央の選手のベクトルの違うランニング。しかし、シンプルなだけに強力だ。しかもSBがウィング位置まで入ってくるので、SBへの戦術負荷は一瞬で高負荷状態になる。裏を取られないようにするのか、下がるウィングについていくのか、高い位置を取るSBを見るのか。本当はスライド対応できれば良いのだけれど、CBがついていけばボックスを空けるし、CHがついていく気配もなく定時で帰宅するしで正直だれが土居を見るのか整理されているようには、ちょっと見えなかった気がする。気がするだけ。

図5

f:id:sendaisiro:20190717233654p:plain

点差以上の余裕

 前半で2点、後半で2点とうまく点数を重ねられたわけなのだけれど、印象としては決まるべくして決まる得点のように見えた。再三の土居のランニングに対して、15分で対応せよ!は、今のベガルタにとって、かなりの難問だったのかもしれない。だけれど、タイトルを争う、ACLを戦うチームにとって、これはあくまでも1手目なわけであって、「ん?今日は少しやり方を変えているのかな?」となれば、2手目、3手目を繰り出してきた可能性は非常に高い。そういう意味において、ベガルタは、鹿島をクラブワールドカップレアルマドリーにはできなかったというわけだ。主力が抜けている鹿島にとっては、この試合の戦い方がこの試合における最適解であって、MAX値は出せていないのかもしれない。できれば、出させるような戦い方をしたかった。

 ただ、非常に攻撃的に戦った証拠といも言える。攻撃的というのは、自分たちのやり方を貫いたという意味で。この試合、鹿島専用守備フォーマットを仕込んでも良かったのかもしれない。それこそ5バックとかとか。でもそれをせず、シマオや椎橋がいないなかなのだけれど、それでも今のチームの守備のやり方を貫いたという勇気については讃えないといけないのかなと思う。それが、Jトップには通じても、アジアトップには通じなかったという事実が残っただけだ。格の違いを見せつけられて、この格についていくにはさらにチャレンジをしないといけないが、それはまだ先になりそう。今は、彼らに挑戦できる権利を確保し続けることが優先される気がする。気がするだけ。でも相手が走るなら僕たちも走らなければ追いつけない。というより、彼らより、2倍も3倍も速く走らなければいけない。あるいは、もっと他の方法を使ってゴールに辿りつくか。今はただ、食らいつくのに精いっぱい。 

考察

小さな選択肢と大きな結果

 4点差に対して、去年のホーム最終戦の3点差で負けたのを思い出した。もちろん、今年のアウェイでは1点差なのだけれど、鹿島にとってそれは同じ「勝利」でしかない。ひとつひとつの選択が変わっていれば、結果も変わったかもしれないベガルタ。逆を言えば、その選択が変わらない限り、結果も変わらないことが証明されてしまったような気がする。結果だけを何とかしようとして、できるような相手じゃないということだ。だからこそ、今は、ひとつひとつできることを積み重ねるしかないじゃないのかなと思う。格も舞台も違う相手にできることは、舞台に上がる選択肢を持ち続けることなのだと思う。多分。 

おわりに

 ゴールネットは、4度も揺れた。日本代表GKにとってはとても不幸で、悲しい結果だった。もちろん、選手、スタッフ、クラブ、サポーターにとっても悲しい試合になった。だからこそ、ダンには、ユアスタではなく、欧州に旅立ってほしい。どんな時でもゴールを守り続ける世界一のGKになってほしい。ダンが帰ってくるまで、今度は僕たちみんながユアスタのゴールを守り続ける。 思い切り大好きなサッカーを楽しんで来い。

 

友との別れ。

惜別の思いを結果に込めることができずに送りだすベガルタ

悲しんでばかりいられない。

新しいステージへの戦い。その匙は投げられたのだから。

次回、ベガルタ仙台、「桜色の逆襲」

その運命、自らの手で掴め!ベガルタ! 

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

sendaisiro.hatenablog.com