■はじめに
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。ということで、書初めです。「唐突に上がる海外ゲーム分析シリーズ」の第3弾。
今回は、世界が注目したシティvsリバプール。巷でポジショナルは、死んだとか何だとか言われているなか連敗しているシティ。ストーミングとやらの急先鋒と目されているリバプール。あまりそういった思想軸で見るつもりはなく、ビッグゲームだから面白そうなので見てみます。
どちらのチームも追いかけているわけではないので、置かれている状況、ゲームの進め方の細かい部分とかとかとか、分かっていないところだらけです。いつも通り、ひとつの試合として見ていきましょう。では、レッツゴー。
■オリジナルフォーメーション
シティもリバプールもオリジナルは、4-3-3を採用。ただ、リバプールは、ハーフスペース前にウィングを立たせて中央の圧縮密度を上げる流行りの最新型で来るでしょう。「君の陣地でボールは持たせてあげるけど、中盤では息をさせないぜ」といったところか。
一方のシティは、サネ、スターリングの両ワイドプレイヤーを置く一般的な4-3-3と予想。まあ、シティの場合は、ポジションレス、ボーダーレスが進んでいるので、ウィングロールと呼んだ方が正確に捉えられそう。DFの構成も変わっている気がするのだけれど、これも狙いごとで役割も変化するため試合で確認していこう。
■概念・理論、分析フレームワーク
- ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析。
- ピッチ横のエリアは、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
- 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
- なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時での呼び方を採用。
(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
■前半
「すべてをつつみこむ4-3-3」と「全てを拒絶する4-3-3」
戦型予想通り、リバプールは、3トップがハーフスペース入口を封鎖、3センターがセントラルレーン・ハーフスペースの中央3レーンを埋める形。3センターは、運動量もあって上下左右のスライド、プレスともに強力。また、サラーとマネのスピードは、ボール保持・非保持にかかわらず優位となっていた。
それでは、シティはどうだろう。こちらは、オーソドックスというか、守っていないところを攻める定跡通り、SBが偽SBロールを採用せず、ウィングレーンでオリジナルポジションを守って、3トップ・3センター脇を狙い撃つ意図が感じられた。
本来ハーフスペースのカウンター予防として配置される偽SBなのだけれど、今回は採用しなかった。相手の3トップに対する4バックという位置づけか。ビルドアップは、2-3-5のような形に。
*概念図
「戦いは数だよ」を持ち込んだクロップ
ソロモン攻防戦においては、ビグザムの量産が間に合わなかったのだけれど、クロップは、シティの位置的優位性を活かしたビルドアップ妨害に対して、トランジション時の数的優位性で対抗。一時的に位置的優位を放棄して、局地的・瞬間的な数、トランジション勝負できた。
17分、ボールサイドの2レーンに集めて、前プレを回避。選手個人のゴリ押しもあって、最後マネのシュートがビックリゴールになりかける最大の決定機を迎える。この攻撃、結果論なのだけれど、リバプールから見て右ハーフスペース入口から出口まで1レーンで攻撃を完結させていた。
小さなズレを見つけたアグエロ
どうするシティ。ペップ。シルバ、シウバは奮闘しているが圧迫気味だし、両ウィングもモヤモヤした様子。流石にハーフスペース・第3レイヤーに飛び込むほどの勇気は、シティの選手ですら少しなかった気がする。それぐらいリバプールの圧縮は、強度が高く強力だったように思える。
この状況を打開したのは、1トップのアグエロ。21分に、3センター脇、シティから見て左ウィングレーン・第2レイヤーでボールを引き出す。いわゆるフェイク9だ。それまでも、中央だったり、右サイドで似たような引き出し方を試していたが上手くいかず。ようやく、小さなズレを見つけたといった形だ。
たしかにブロックの外ではあるが、突如現れた客人にサラー、3センター、アーノルド、ロブレンに「誰が見るんだ問題」が発生する。「迷っている間に行けるぜ!」といった具合で、ファイナルサードに侵入を図るサネ。32分には、アグエロ・シルバ・サネのトライアングルから、サネがロブレンの背中をとり、ローポスト侵入に成功している。
*概念図
そして、39分。最初のレイヤーのコンパニから、第3レイヤーのサネへレイヤースキップパスが通る。プレス強度の高い3トップ+3センターを飛ばして、一気に、アーノルドの鼻先までボールを運んだ。さらに、ラポルテからサネへの第2レイヤーから最後のレイヤーへのレイヤースキップを送り込む。連続スキップパスで一気に攻撃が加速した。そこから、3度左からのクロスを上げたシティ。最後は、小さなズレを生み出したアグエロのゴラッソ(=大きなズレ)だった。
事の始まりは、サラーが入口を封鎖するか、SBをケアするか迷った結果生まれたスキップパスだった。ここで、ペップの策が結果として成就する形に。偽SBロールだとハーフスペースの解放は有りえなかった。サラーに対して、ウィングレーンに位置することで、アンカーかSBどちらを見るか迷わせた結果となった。
*概念図
シティが1点を先制して前半を終える。アグエロのゴラッソもあったのだけれど、リバプールもプレー強度が高く、マネのシュートが入っていればといった展開だった。
■後半
同点にするリバプールと4-4-1-1への変身
後半開始から、シティがボールを持つ展開にはなっていたが、お互いオープンな状態で両ゴール前に迫る展開が増えてきた。
シティは、2CB+アンカー+B・シウバのボックスビルドアップで3トップに対抗。段々と、スターリングも3センター脇にポジションを取るシーンも見られるようになった。
だからこそ、63分のリバプールの同点は大きかった。アーノルドがドリブルの進行方向を変え、ブロックの外から走り込んだロバートソンに合わせ、折り返しをフィルミーノが押し込んだ。同点後あたりから、リバプールは、4-4-1-1に変え最初のレイヤーを明け渡し、第2レイヤーに人を置くやり方をとった。先制されながらも戦い方を継続し、着実に勝利をたぐり寄せる策のような気がする。気がするだけ。
ボトルを握るユルゲンと客席を指さすペップ
だからこそ、70分のサネの勝ち越しゴールはリバプールにとってダメージが大きい1点だった。シティからすると、配置し続けたウィングレーンからのパスからだった。スターリングが第3・最後のレイヤーの継ぎ目と呼ぶべき場所にポジショニングしており、擬似レイヤースキップパスになったことでプレーが加速した。
第3レイヤーをカットインしてドリブルしたスターリング。局面だけ切り抜けば、カウンターのようなシーンで、アグエロのクロスランでサネがフリーになった形は、CL6節のホッフェンハイム戦でも似たような形があった。
*概念図
第2・第3レイヤー、ハーフスペースを使ってボールを前進させることが特徴のシティ 。この試合では、ハーフスペースを封鎖され、第2・第3レイヤーの監視が厳しかった。その監視を①ウィングレーン活用、②レイヤースキップで解消するという、バルサ時代のペップには考えられなかった対抗型を見せてくれた。もちろん、バイエルンや昨年のシティからすると、その変化も特別なことでは無いのかもしれないのだけれど、リトリートして試合をクローズさせるなど、とにかく勝ちたかったのかなと。試合後、客席を指さしたのが印象的だった。
さて、優勝街道を走り続けていたなか敗戦したクロップ。ゴールセレブレーションがいつものガッツポーズ&ジャンプではなく、ポケットに入れていたウォーターボトルをしっかりと握りしめるという形で喜びを表現していた。本当のところは分からないのだけれど、やはり、同点にした、追いついた負けないぞといった形で、追われる側に無意識のうちになっているのかなと。これからどうなっていくのか。個人的には、めちゃくちゃに跳びまわって喜びを爆発させるクロップが好きです。
■おわりに
久しぶりにプレミアリーグの試合をちゃんと見た気がします。流し見だったり、ハイライトばっかりだったので、優勝を左右する試合を観れて面白かったです。2人の監督が勝ちたい、負けたくないが試合の現象として出てた気がして、読み解きがいのある試合でした。深く見ていけばいくほど何かが見つかるかもしれないので、ぜひ、オススメしたい試合です。
■参考文献
東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう
「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)
http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html