■はじめに
さて、欧州サッカーのゲーム分析。今回は、CL注目カードからシティvsホッフェンハイムを見ていく。現在の細かな戦術分析スタンダードの下地を作ったペップとその新鋭ナーゲルスマンの一戦。ただ、CLの成績的には大きな差が広がっている。やっぱり、リーグ戦との両立は難しいのかね。普段、ベガルタ分析が主で時系列で追っているわけではないので、一つの試合として見ていく。では、レッツゴー。
■オリジナルフォーメーション
両者4-3-3対決。シティは右SBにストーンズを起用。ビルドアップの狙いがあると見て注目。ウィングの役割としては、シティはボール保持時のウィングロール、ホッフェンハイムはボール非保持時にハーフスペースを封鎖する役割か。この辺りにフォーカスを当てて、ピッチの現象を見ていく。
■概念・理論、分析フレームワーク
ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。
■前半
(1)シティの非対称ビルドアップとホッフェンハイムの433ブロック
シティ、ホッフェンハイムともに4-3-3を採用しているが、両者の構造は大きく異なる。シティの右SBには、CB、アンカー起用が多いストーンズ。左SBはアラバロール装備のジンチェンコ。ホッフェンハイムの前プレの基準を外す狙いだと思うのだけれど、ホッフェンハイムの3トップはCB陣に対してそれほどプレスをかけてこなかった。むしろ、ストーンズのポジションが固定していることで、ジョエリントンの移動距離が少なくなり、スターリングに入ったら強く当たれるようになる。こうなるとシティ右サイドの攻撃は硬直化してしまう。
であれば左サイドを突破しよう!スターリングはアイソレーションロールだ!なのか、シティは左サイドを重点的に攻略し始める。
右を封鎖したホッフェンハイム。ジンチェンコにはブレネト、フォンデにはガイガーをデートさせてこちらも自由にはさせない。ホッフェンハイムのセットディフェンスが4-4-2のように見えたのは、アラバロールのジンチェンコにブレネトがついてくことで起きている現象のような気がする。気がするだけ。
(2)左サイドヲ突破セヨ
引き下がらないシティ。ジンチェンコのポジションに合わせてフォンデ、サネがレーンチェンジ。何とかして左サイドをこじ開けようとする。フォンデも早い時間帯に3センター脇を使い始める。
ホッフェンハイムからすると右をロックしているし、左サイドに注力できる。インテンシティも落ちていない。まだまだやれる。
一方のシティ右サイド。ストーンズは意図的にCBロールをやらせているので、スターリングへのフォローが薄くなるのは分かっている。ストーンズのビルドアップ能力とB・シルバのフォローで何とかなる算段か。
ただ、現象としてはスターリングの孤立につながった。B・シルバも3センター脇を使ったり、パラレラ使ったりで何とか局面を打開しようとしてたが、左サイドと違って、SBのオーバーラップ/インナーラップの選択しは無い。ホッフェンハイムとしては守りの選択肢が減った分楽になっていたのでは。
(3)それでも同点で終わるのだからサッカーは分からない
25分~30分ころから、ハーフコートサッカーの展開に。シティは、ホッフェンハイムがCBを放置していると判断。0トップには1バックの数字合わせから、オタメンディの1バック化でボールを前進させる。
ボール非保持側が窒息するはずなのだけれど、左サイドの勝手が違った。フォンデにはガイガーがデートしているし、ブレネトはラポルテとジンチェンコ2人を1人で守る守備で対応。バイタルにボールが入ったところで、CHとCBが圧縮することで前を向かせなかった。
ただ、それがゴール前でのファールを招き、サネのFKからのゴールを許すことに。素晴らしいゴールだったが、ナーゲルスマンとしてはある程度こういうリスクがあることは許容していた気がする。気がするだけ。
ペップシティも、非対称のビルドアップが良かったのか悪かったのかはよく分からない。ただ右SBストーンズ起用の効果が出ていたようには、ちょっと見えなかった。
■後半
(1)復活のシティ右サイド
ペップは、後半開始からウォーカーを投入。ザ・SBを起用することで、両サイド同様の攻撃を仕掛ける狙い。交代に伴ってビルドアップ隊も変化。ジンチェンコのアラバロールと合わせてボックス型ビルドアップに。①ウォーカーがウィングレーンにいること、②サネがウィングロールであること、③CBへのプレッシャーが弱いことから、中央の人数整理をした形と思われる。
(2)決戦のハーフスペース
シティ追撃の一手は、ウィングのハーフスペースへのレーンチェンジ。合わせ技で、SBのウィングロール、インテリオールのパラレラ、ウィングとSBのフォローでハーフスペースを攻略し始める。もちろん、オリジナルポジションからの強襲も匂わせることで、なお効力が発揮されていたように思う。
さてホッフェンハイム。デート役がドラスティックにポジションチェンジ、レーンチェンジしてくるので、ついていく、ついていかないの判断の部分で混乱。ゾーンのなかのマンツーなのだけれど、そこまでついていくの?受け渡すの?は、ビエルサ曰く、その場の雰囲気もあるらしい。シティ相手にちょっと厳しい。
60分のサネの逆転ゴールから、70分ころになるとホッフェンハイム側は、頭の疲れと合わせて身体的な疲れからシティについていけなくなってくる。後半開始の交代と攻め筋の変化で、いつの間にやら差を広げられてしまった形だ。ただ、コーナーキックに10人をねじ込んだナーゲルスマンも手筋に一手間加えることで、打開を図ろうとはしていた。少し届かなかった。
■おわりに
終わってみれば、シティのブロック攻略公開講座のような、あの手この手でスペースを作って使っての展開に。ただ、ホッフェンハイムとしても、そこを簡単に「使わせず」にシティを苦しめた。2失点も直接FKとカウンター。ファイナルサードを攻略されてのゴールは許さなかった。許さなかったのだけれど、それだけがサッカーではないということか。
勝つためにやれることはやる。しかもマメに。あとは天命を待つ。当たり前のことなのだけれど、それを当たり前に実行していた両者だった。結論、最後は運頼みということではなく、積み上げて積み上げていった結果だ。どれだけ積み上げられるか。1人の人生、一つの分野では当然足りない。謙虚さと学びへの意欲と行動こそがそれを実現するのだと思わせるゲームだった。
■参考文献
「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)
http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html