蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第26節 ベガルタ仙台vsFC東京(1-0) 「さあ行こうトップ4の世界へ」

■はじめに

 さてさて秋の三連休、初戦のゲーム分析いきます!ハモンロペスが帰ってきたり、この時期に上位対決に加わったりで、血沸く血沸く♪なお、ブログ書きに関しては、1試合分空くだけで、ずっとゲーム分析の更新ができていなかった気分になるくらいには、体にゲーゲンプレスが染みついてきたようです。空けた分の試合勘不足の方は、もともと勘なんか無いのと鬼のスプリントでカバーしていきます。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、板倉が代表戦から戻り3バックに復帰。現時点でのベストメンバーか。フォーメーションも2試合連続で3-4-2-1だ。相手が4-4-2系だと、3-1-4-2の採用がテンプレート化していたが、野津田復帰の影響か、元祖4-4-2殺しの3-4-2-1をオリジナルフォーメーションに採用している。

 一方のFC東京は、長谷川健太式4-4-2で対抗。5トップにはSHがSB化で、2センター脇のハーフスペース攻略にはSHで、ネガトラの即時奪回役もSHでとマルチファンクションなやり方。明らかに90分持たないが、早い時間帯で決着をつけてあとはリトリートからの仕上げのリンスが狙いか。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

■前半

(1)攻撃

 ベガルタのビルドアップは、いつものようにダンを加えたビルドアップ。東京が同数プレスでビルドアップ妨害を図って来たので、息を吐くように対抗。野津田も降りてビルドアップの出口になるなど、引っ掛けられてあわやのシーンは1つくらいしかなかった気がする。ポジショナルな攻撃についても、東京は自陣ではリトリートを選択してきたこともあって、いつものように4-4-2ブロック崩し。シュートは0本だったものの、丹念に、相手のゾーンに応じた守備方法に「応じて」攻撃を組み立てていた。

 東京の大方針は、リトリートから2トップのロングカウンター。仕留められなければ、ボールを戻してポゼッションを確保し二次攻撃。SHをハーフスペースに集め、トランジションの斬りあいに持ち込む。そこにベガルタが人数をかけて守れば、カウンターで石原しかいなくなるため、2CBが強く当たれる算段だ。そうやって、相手陣にとどめて窒息させる狙いだったと思うが、誤算だったのがトランジション時に「圧倒」までいけなかったことか。奥埜、富田とのデュエルも、必ずしも勝利していたとは言えないし、ゲーゲンプレスも野津田に回避されたりと、少しずつ狙いを外されていたように思える。

 2分、板倉、ダン、大岩+富田、平岡で擬似4バック&スクエアビルドアップで様子を伺う。やはり同数プレスの模様。

 7分、これまた2分と同じ形でビルドアップ。東京はベガルタのビルドアップ隊に同数のプレス隊を派遣。これで大勢が決まった。

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 12分、ダンから降りてきた野津田へと繋がっていくシーン。ビルドアップの出口は、早々に見つかった。野津田がケガの時、野津田役を探してたころが懐かしくなる。

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*今度は3バック+ダンのビルドアップ。富田、奥埜も加わり、M字のポジショニングを取っている。ボールは板倉へ。

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*板倉から奥埜、奥埜からリターンで板倉。相も変わらず、東京のプレスラインは高い。ディエゴ・オリヴェイラ、代表帰りの板倉をロックオン。

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*であるなら、引き付けて離すだ。奥埜と二人で2トップを引き付けて、右ハーフスペースの大岩へ。完全フリー。下を向く永井。

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*それでもう一回板倉。東京はSHもそうだが、2トップも相当な負担を負っているのではないか。守備も攻撃も。というより、ベガルタが負担になるよう強いるやり方をしているような気がする。気がするだけ。

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*次はダンへ。この辺でパス回してばっかりのように思えるが、状況は悪くなっていない。東京の2トップは縦関係でのチェック。徹底されている。そこを躊躇なく、奥埜につける日本代表GKシュミット・ダニエル

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*ダンと2人で1stラインを突破した奥埜。今度は、降りてきた野津田に縦パスをつける。これで、2 ndライン突破だ。

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*ディフェンスラインの手前、ハーフスペースで受けた野津田。最高のシチュエーションだ。前方には、関口、石原、アベタクで、選択肢も3つある。

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*関口につけた野津田はそのままチャンネルラン。自陣に侵入された東京は、リトリートに移行。関口はそのまま、野津田が空けたスペースを利用する。おなじみ。

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*そして悠々と上がってきた奥埜へ。この時点で、東京のディフェンスはキレイに4-4でセットされているが、ベガルタも使えるエリアが多い。しかも、ボールホルダーは、ノープレッシャーでルックアップしているときている。何も起こらないはずがない。

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*一度、左ウィングレーンにレーンチェンジしている野津田へ。同時に走り出す関口。東京はほとんどディフェンスライン一本になりかけている。

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*ここでハーフディフェンダーの板倉を加えるのがベガルタ式ポジショナルアタック。これでサイドでスクエアを作れた。セットアップ。

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*ボールはデュエルマスターに。東京はえげつないことに、ハーフラインは写真に収まりきっている。左ハーフスペースを4人埋めで対抗。さて、奥埜どうする。野津田は裏どりスタンバイ。関口はライン間だ。

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*選ばれたのは板倉でした。板倉は、ライン間の関口へ。右SHがパスカットを狙う。

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*関口から野津田へ。走り出す関口。さあ、少しずつ前進してきたぞ。東京のラインは相変わらず超圧縮されている。ベガルタは、セントラルレーンから左ウィングレーンまでで6人のボックスを作っている。綺麗だ。

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*そしてまた奥埜へ。さっきまでハーフェーライン付近にいたのに、ここまで前進してくるとは。左ハーフスペース出口はもうすぐそこだ。

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*ここでレーンスキップパス、サイドチェンジというやつだ。右WBの蜂須賀へ。対応するのは東。恐るべき長谷川健太式4-4-2。蜂須賀は、ローポストからクロスを上げるがシュートシーンに至らず。リトリートにはリトリートへの戦い方があると言わんばかりに、ジリジリと前進し、サイドチェンジ1本で、急展開させチャンスを作ったシーンだった。

 22分、3バック+2センターでM字ビルドアップ。ただ、板倉がボール狩りにあい、ショートカウンターが発動してしまう。失点には至らなかったが、これが長谷川東京と思わせるシーンだった。

 25分、22分を見てか、富田がヘルプで板倉、大岩の間に入り、ビルドアップを助ける。擬似4バックビルドアップに可変した。

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*そのまま右サイドに展開されたシーン。右ウィングレーンにレーンチェンジした平岡が1列前の蜂須賀にパス。

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*蜂須賀、寄せられるがそのままスペースにボールを出す。石原も降りてきている。いや、ボールを出した先は、平岡だ。平岡のレーンチェンジ+ラダーアップ(=1列上がること)だ。おそらく、平岡のマーカーも石原にボールがつくと予測してか、ボール方向にプレスをかけている。

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*平岡式二段階レーンチェンジ。マーカーの背中を取り、フリーでボールを受けた。

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*平岡式アラコルタ(カットイン)。右ハーフスペースを縦断し、左ウィングレーンにいる関口へとサイドチェンジパスを蹴る。

 富田やダンの擬似4バックビルドアップ、平岡のレーンチェンジ、ラダーアップ。それぞれが相手のビルドアップ妨害の様子を見て、判断し、形を変えて自分たちの有利な方向に持っていこうとしていた。ポジションを極めた時、ポジションは消えるんだ。

 44分、奥埜、板倉、野津田、関口でスクエアローテーション。最終的には、頂点の板倉にボールが渡り、ドリブルで前進。右サイドへと展開している。

 

(2)ネガティブトランジション

 ベガルタのネガティブトランジションは、ボールを奪われたら、奪われた周囲はプレスをかけるが、あとはリトリートしてブロックを形成。やはり、2トップ警戒といったところか。即時奪回できればいいが、スピードの永井との収支バランスを見た結果、このやり方を取ったのかと思う。

 

(3)守備

 ベガルタの守備は、ミドルゾーン、ローゾーンで5-2-3のブロックを作ることだった。3トップがハーフスペースを埋め、サイドに誘導させ、WBの縦スライドで押しつぶす狙いだ。ただ、富田、奥埜が浮くと、躊躇なく中央の高萩に縦パスが入ったシーンは結構危なかった。この辺は、5-2-3におけるWBや2センターの判断、3トップの限定など色々精度を高める方法はあると思うので、恐れずトライしてほしい。

*概念図

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  16分、橋本と高萩が縦関係になったところを奥埜が釣りだされ、高萩に縦パスがつけられた。最後は室谷の上がりを許している。

 20分、またも高萩に縦パスが通る。

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*2センターの脇、というより奥埜の裏のポジションを取っていた高萩。ここにガンガン縦パスが入るようだと、ベガルタも考えなければいけなかったのかもしれない。最後は、バイタルエリアにパスを通されたが、カット。そこにゲーゲンプレスをかける東京。完全に狙われていた。

 

(4)ポジティブトランジション

 ベガルタのポジティブトランジションは壮絶だった。東京のネガティブトランジション時のため、激しいプレッシングとエリア密集をどう超えるかが課題だった。東京のエリア密集型ゲーゲンプレスに対して、ベガルタは、2センターのデュエル、野津田の出口で対抗。あとは、縦志向が強く、2CBと石原をバトルさせる狙いだった。ただ、逆に東京は分かっているからこそ2CBが強く当たってきて、前半はそこまでうまくいっていなかった。

 20分、高萩からオリヴェイラへのパスをカット。エリア密集されているなか、富田からアベタクにボールをつける。

 32分、今度は大岩がカット。出口の野津田にボールを預ける。野津田は、前線の石原に縦パスを送るが森重に潰されてしまう。

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■後半

 後半通じてだが、東京の攻撃、守備ともに特段の変化は無かったように思える。前半の継続をしていたと思う。よって、ベガルタも戦い方を大きく変えることもなく、粛々とゲームを進めていたように思える。ポジトラ時だけ、奪ったら縦志向→敵陣でポゼッション確保に変えたくらいだ。それに応じて、東京が何かを変えたかと問われれば、ちょっと見つけられなかった。

 

(1)攻撃

 ベガルタの後半の攻撃は、ポジトラから攻撃移行が行われていた。カウンター完結より、一気に敵陣に運んだボールをそのまま保持し、セットオフェンスにつなげていた。前半、石原が潰されることで機能していなかったが、CBから離れ、カウンターの急先鋒をフォローすることでポゼッション確保に一役買っていた。あとは、淡々と、粛々とポジショナルにブロック崩しをしていた。

 

(2)ネガティブトランジション

 後半もネガトラ時、富田、奥埜の存在は大きかった。奥埜の一人ゲーゲンプレスや富田のセカンド回収で危険なカウンターの芽を摘んでいた。

 

(3)守備

 特に東京も前進するポイントを変えてきたようには見えなかった。よって、ベガルタの守備も前半の形を継続していた。70分あたりから、仕留めるのか、クローズするのかどっちにするのかザワザワする時間帯に。渡邉監督もまだ早いとの判断で、80分以降、椎橋、永戸を投入しゲームクローズを目指した。

 

(4)ポジティブトランジション

 縦志向が強かったベガルタ。ただ、収め役の石原が潰されては元も子もない。そこで、縦志向強く行くが、敵陣に入った段階でポゼッション確保に移行。東京が「敵陣はゲーゲンプレス、自陣はリトリート」の守備ルールを利用したように思える。そのまま縦にロングカウンターをすれば、奪われた場合、カウンターカウンターが入る。そうなるとゲームが落ち着かなくなり、その時は、東京が有利になる。渡邉監督がギリギリまで時間を経過させて椎橋、永戸を投入しゲームをクロージングさせたのも、この時間があったからこそだったように思える。

 東京は、ネガトラで奪いきりたかったが、奥埜、富田の2センターのトランジション、野津田の出口を封じきれなかった。リトリートからのロングカウンターも、2トップが3バックに仕事をさせてもらえず、ナイフのような危険なカウンターを繰り出せなかった。ただそれ以上に、そうなった時に次の一手が出せなかったのが辛いところだった気がする。リンスや富樫投入も、交代というより補充のような策で、ベガルタの手に対して対抗手とは言い切れなかったように思える。

 48分、ベガルタのカウンター。アベタクのクロスが東のオウンゴールを誘う。このゴール以降、ベガルタに活気が出て、ポジトラからイケイケドンドンになっていった。

 54分、とは言っても、オープンな展開に持ち込ませず、ポゼッションを確保するところは確保していた。

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*自陣でアベタクが回収、野津田にボールをつけ、野津田は駆け上がるWB蜂須賀に。蜂須賀は、そのまま、敵陣にボールを前進させる。このシーンで東京はすでに8人。自陣への戻りの速さが伺える。

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*蜂須賀、そのままぶっちぎる、野津田に渡す選択肢もあったが、反転し奥埜へ。味方の上がりを待つポーズ(小休止)プレーだ。

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*奥埜から平岡へ。ポジショナルアタック、セットアップ完了。

 61分、野津田が自陣左ウィングレーンでボールを受け、前線のアベタクへ。石原とカウンターを完結させるかと思ったが、最終的にボール保持する形に。セットオフェンスに移行。

 

■考察

(1)君が狭く守り広く攻めるのであれば、私は狭く攻め広く守ろう

 ベガルタとしては、相手のゲーゲンプレス、リトリートに対して、デュエルや野津田の出口、リトリートにはポジショナルアタックで対抗していた。相手の手に対して、こちらの手をといった具合に、一手一手対応していったように思う。それに対抗して、東京が何か仕掛けてきたのであれば、さらにその対抗策をといった流れのはずだったが、東京はあくまで設定されたゲームプランを遵守した。点差、ゲーム展開、相手の状況に関わらず。良い悪いかは別の話である。今回は、オウンゴールの1点でベガルタが勝てたという話だ。

 

(2)4-4-2を迎撃せよ

 それでもオウンゴールの1点のみである。しかも、4-4-2+SHのSB化で対応できると判断され、試合を通じて実行され、結果ポジショナルな攻撃では崩し切るに至っていない。超えるハードル、求められることは高いと思う。でも、やっぱりここに、さらなる上位進出を目指すためのヒントが気がする。多分。

 

(3)今後

 課題はあれど、トップ3に殴り込む権利を持っているのだと表明できた試合だったと思う。相手の対策に対して、対策を持っているし、こちらの狙いがより出る形に持ち込むこともできると思う。あとは、相手が上位チームであろうと慌てず粛々とゲームを進めること。困ったらハモンにボールを蹴ってもらおうか。

 

■おわりに

 上位対決に相応しいゲームだった。ポジショナル対トランジショナルのコントラストも最高だ。あとは戦術的な駆け引き、策と策のぶつかり合いが見れればなお良かった。両者が時間経過とともに、1段、2段、3段と形態変化し、戦いのなかで新たな形態へと進化する過程が見れたらより面白かった。でもそれは贅沢だ。勝てる時に勝っておく、これが重要だ。お前は、ベガルタの成長が見たいのか、勝利が見たいのかどっちなんだ。当然、成長しながら勝っていく姿だ。トップ4。さあ、ここから。まだまだいける。

 

「あんたなら出来る。出来るって」こう言ったのは、陣内栄だ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballistaRenato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

 「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com