蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

黒松華憐に花束を。

f:id:sendaisiro:20210802191921j:plain

 

01

突然だった。

僕の前に現れたのは、黒髪で、凛としていて、目は切れ長で、しゃんとしている女の子だった。

僕は、その子を知っている。

同じ学校、いや、同じクラスの子だ。

その黒い瞳は、すべてを吸い込むかのような宵闇で、周りのことなど意に介さない、そんな雰囲気をまとう子。

高嶺の花。

周りが勝手に高嶺の花にしてしまっている。

彼女の口数は少ない。

まともに話している場面を見ない。

観測しないだけで、本当は喋っているのかもしれないのだけれど。

口数の少ない美人。

そうやってみんな、裏で人気者扱いしている。

たしかに、美人ではある。

僕にとっては、実態のつかめない不思議な存在にも見える。

そんな独特の雰囲気をまとったその子は、こうして僕の前に現れ、そしてこう言うのであった。

 

「今年も夏ユニは、黒ユニだったの。買うべきかしら」

 

これが、僕と黒松華蓮との出会いである。

いや、出会ってしまった、と言える。

 

02

黒松華蓮は、唐突だ。

唐突に、颯爽と俺の前に現れ、そしてさも当然のようにサッカー関連の話題を振ってくる。

黒松華蓮は、サッカー好きらしい。

でも、それを公言はしていない。というより、口数が少ないから披露する場が無い。

黒松華蓮は、スタジアムに行ったことが無いらしい。

そしてそれが、当面の人生における目標らしい。

俺は、昔あるクラブのサポーターだったが、ある理由で辞めている。

しばらくはサッカーと無縁の生活を送っていたのだけれど、黒松華蓮が、半ば強引に引き戻そうとする。

黒松華蓮は、唐突だ。

今日もまた唐突に、

「ボールが欲しい」

と言ってくる。

 

「買えばいいじゃないか」

スポーツショップに行ったことが無いんだ」

「行けばいいじゃないか」

「行っても大丈夫なのか?」

逆にダメなショップがあれば教えてほしい。

個人お断りの法人様のみ取引をしているような。

ナ○キ本社に行くわけじゃあるまいし。

「服を買いに行く感覚で行けばいいよ」

「部活も特にスポーツもしていない私でも行って良いものなのか?」

「なんもしていない黒松でも行って良い場所だ」

「そうか」

……

「分かった。ちょっと行ってみる」

「おう。行ったら教えてくれ」

 

後日。

黒松華蓮は、本当に、スポーツショップへ行ったらしい。

「長町」

「なんだよ」

「ボールを買えたんだ」

少し照れながら、誇らしげに、俺にボールを見せる姿は、なんというか餌を捕らえた猫のようだった。

「よかったじゃん。欲しかったボールだったのか?」

「いや、店先にあるやつを買った」

「店先?店の中ならボールなんていくらでもあっただろうに」

「……そうなんだろうけれど……」

「なんかあったのか?」

「部活バッグを背負った部活動集団が居て、とてもじゃないが私が付け入る隙など無かった…」

「はあ…」

そんなことは無いと思うが。

どんなバッファローの群れだよ。どうせ中学生とかだろ。

店の中がごった返してたから、店先で叩き売られてたボールを買ってきたわけだ。

それで良いんか。

「でも」

ん?

 

「でも、ボールを買えたんだ。私は嬉しいぞ」

 

そう言って、ふふふと笑った。

嬉しい…か。

そういえばボール買って喜ぶのって、子どもの時にあったなあ。

人生初のボール。

なるほどね。

「よかったな。大事にしろよ」

「わかった」

「今度は一緒に行ってやるよ。それなら部活動集団が居ても大丈夫だろ」

「……ん」

なんで急に声ちっちゃくなるんだよ。

まったく。

黒松華蓮は、唐突だ。

 

03

黒松華蓮が摩訶不思議な舞を踊っている。

いや、正確には、着座した状態で手をキョンシーのように前にだし、しばらくすると天高く両手をかかげる。

ただそれだけ。

一体、俺は何を見せられてるっていうんだ。

新手の二の腕ダイエットか?それとも血流をよくするやつか?

でも、黒松華蓮のことだ。きっとサッカーに関連するものに違いない。

多分。おそらくそう。

しかししばらくやっているぞ。いつまでやるつもりなんだ。

ん?

よく見たら手を前に出している時は、くすぐるような手つきをしている。

「……」

「………」

「………なあ…黒松…」

「……ん?」

「お前もしかして……」

「……?」

ゴールキーパーゴールキックの時に、サポがやるやつやってるだろ?」

「……そうよ」

「いや無言でやるなし」

ただの狂人にしか見えんだろうが。

「無言でやってはいけないの?」

「いやべつにダメってことは無いけど……その、なんというか挙動不審だぞ」

「……」

「……」

「………………オイ」

声ちっっっさ。

「……声出してもいいんだぞ?」

「そうなのだけれど、これをやりながら出せる声の大きさは、これが精いっぱいなんだ。でも、スタジアムに行くまでに、少しずつ大きくしていくつもりだ」

なるほど。

 

「だから……応援していてくれ」

 

その後、俺も同じように、前方に両腕をキョンシーのように出し、しばらくして両手を天にかかげるやつを黒松華蓮と一緒にやった。

結構、悪くない感じだったと思う。

 

04

「長町」

「ん?どした?」

「モツ煮を食べたい」

「食ったらいいじゃんか」

「正確には、使い捨てのお椀に入ったモツ煮を外で割り箸を使って食べたいんだ」

なるほど。

「なあ黒松」

「なんだ」

「なんかでスタグル情報でも見ただろ」

「よく分かったな」

「だってそれ、絶対スタジアムにある系のモツ煮じゃないか」

「うむ。昨日、たまたまネットでみかけてな。食べたくなってしまった」

「じゃあ、スタジアム行くか?」

「……いや……それはまだ早いな……」

スタジアム観戦に早いも遅いもあるのだろうか。

しかも、黒松華蓮ほどのサッカー好きが。

まあいい。黒松華蓮とサッカーとの距離感ってのは、結構微妙で。

こちらから一方的に近づいてく分には良いけれど、スタジアムみたいに大量の情報や感情に巻き込まれることを恐れている節が、黒松華蓮にはあるみたいだ。

丁寧に、感情や知識を蓄積するタイプの黒松華蓮にとって、ある種の情報洪水を招く存在のようにとらえているようだ。

ま、そんなこと無いんだけどな。

「じゃあ今度作るか」

「……え?」

「使い捨てお椀と割り箸、材料買ってくればできるだろ。それを勾当台公園かどこかで食おう。それなら行けるだろ?」

「ま、まあ……でも、長町はモツ煮を作れるのか?」

「モツ煮は作ったことないけれど、芋煮は何回も作ってる。あれのモツ版だろ。レシピ見て作るし問題ないよ」

「そ、そうなんだな……それで…どこで作るんだ?家庭科室か?」

「いや俺ん家でいいだろ。嫌だよ学校で作るとか」

「な、なるほどな……そうだよな……長町が作って公園に持ってきた方が良いもんな」

「え?もしかして黒松、俺に作らせて自分は食べるだけのつもりだな?」

「い、いやいや!そんなつもりは……」

「黒松も一緒に作るんだよ。じゃなきゃ自分で作れないだろ?毎回俺が作るのも面倒だし。まあ頼まれたらやるけどさ……」

「え、え、私も作るのか…!?長町の家で……!?」

「だからそう言ったろ?」

「あ、あ、まあまあ……なるほどな……」

「じゃ、とりあえず今度の土曜な。親は日中出かけるみたいだし。台所使えると思うわ」

「ど、土曜!?親いない!?え!?」

「なんだよ、嫌か?」

「……いや…べつに嫌というわけではないのだが……」

「じゃあ決まりな。一緒にスーパー行って買い出しもいくぞ」

「あ、あ、ああ……スーパー…買い物……一緒……」

 

困った。

モツ煮どころでは無くなってしまった。

と、とりあえず、食中毒とかなったら大変だ。

ちゃんと手を洗って、よく寝よう。

そうだ、そうしよう。

 

05

「じゃあお留守番お願いね」

「へーい」

「ほんとに良いの?お爺ちゃん、あんたの顔も見たがってるわよ」

「いいよ別に」

「冷たいわねえ。まあ、今度の夏休みに行こうかしらね」

「はいはい」

「また帰る時連絡するから」

「はいはい分かってるって」

「行ってきまーす」

ドアが閉まる音が聞こえる。

田舎に行って喜ぶのなんて小学生までだろっての。

まあ良いや。もう少ししたら準備して、俺も出かけるか。

ん。黒松華蓮からだ。

 

…………

……………

……もうひと眠りしよっと。

 

『ごめん。

今日なんだけど、体調が良くなくて無しでも良いか?

急な連絡になって申し訳ない…』

 

『へい』

 

06

最悪だ。

私は、長町の誘いを断ってしまった。

しかも当日ドタキャンで。

もちろん、体調が悪いといえば悪い。

緊張と不安がすごくて、どうしても行ける気がしなかったのだ。

でも本当はすごくうれしかったし、行きたかった。

それなのに一方的に断ってしまった。

最悪だ。

長町からの返信も、『へい』の一言だけだ。

「コイツなんなんだ」って思われたに違いない。

そうだ、体調が悪いって嘘ついたと思われたに決まってる。

最悪だ。やっぱり行けばよかった……

あの後ずっと考えてしまって、全然寝れていない。

今日どういう顔して長町に会えば良いか……

 

「今日、長町は欠席と」

え?

休み……?

どうしよう、少しでも話して、謝ろうと思ったのだが……

最悪だ。

 

連絡……入れた方が良いよな……

でもあの『へい』の後だし…

 

ピロン。

ん……

……………黒松華蓮からだ。

『土曜は本当にごめん。

今日会ってちゃんと謝りたかったんだけど…

具合どう?

 

………

 

お見舞い、行くから。』

 

返信……!

『だいぶ良い。

逆にうつしてたかもしれないし良かったのかもしれん(笑)

明日学校行くから、見舞いはいらん。

ありがとな』

 

………

………

………………長町も(笑)とか使うんだな…

 

07

 「本当にごめん」

いつものように唐突に、そして深々と頭をさげる黒松華蓮が、そこに居た。

「別に気にしてないって。それに昨日も言ったけど、風邪うつすとこだったし」

「そう…ね…」

「それとも何か後ろめたいことでもあるのか?」

黒松華蓮は分かりやすい。

ぎくりと図星をつかれたような反応で、しばらく無言のままこちらを見ていた。

別に本当にその図星の正体なんて気にならないんだけどな。

「ごめん…あまりにも急で、少し驚いたというか……あまり慣れてないもので」

たしかに。

実のところ、モツ煮は僕の思い出のスタグルだったりする。

昔スタジアムに行ってたころは、よく食べていた。

勝利も、敗北も、歓喜も、悲劇も、すべてを一緒に経験してきたソウルフードだった。

そんなことを思い出して、俺も少しテンションが上がってしまったのかもしれん。

「こっちこそ悪かった。俺、モツ煮好きだから、変なテンションになってたわ」

「長町、モツ煮が好きなのか?」

「好きだよ」

「そうか……」

また後悔を噛み砕いたような顔をしている。

しょうがない。

「黒松、今週どこか空いてるか?それか来週でもいい。モツ煮食べに行こう」

「え?」

「無理なら無理って言ってくれ。全然気にしないでいいし。でも」

「でも?」

「俺の口はもう、モツ煮の口になっちまった。黒松が行かなくても、俺一人でも行くけどな」

彼女の表情が少し晴れた。

「行く…!いつでも長町が良い日で大丈夫だぞ」

「おっけ。じゃあ、今日行こうぜ!」

 

試合日にスタグルとして出店している某モツ煮屋。

実店舗に来るのは初めてだったけれど、店の雰囲気も最高だった。

テイクアウトで2つ。

2人で勾当台公園で食う。

なんというか、世の中の高校生で学校帰りに公園でモツ煮食ってるのは俺らぐらいなものだと思う。

まあそれでも、良かったと思う。

久しぶりに食べた。

懐かしい味。

懐かしい思い出。

聞こえてくる歓声。

暗い思い出。

こびりつく悲鳴。怒号。

俺の中で、何かがリフレインする感覚になる。

それでも今は、美味しそうに頬張る彼女に、こちらも嬉しくなってしまうのだった。

「食べれてよかった」

そうかい。

俺も食べられて良かったよ。

 

登場人物

黒松華蓮 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、スタジアム観戦。

長町花江 ・・・勾当台高校2年生。人生の目標は、特になし。

 

youtu.be

 

 

 

 

 

一薬の神

   f:id:sendaisiro:20200610222829p:plain

ナイトルーティン

ある出版社の屋上テラスに俺は向かっていた。

今のご時世、愛煙家には厳しい時代でね。

時刻は、19時半ごろ。夜の部開幕を前に、一服して気合を入れようってのが、俺のルーティーンなんだ。

なんだっけか。

『ナイトルーティン』ってやつだっけか?

自分の日常を切り売りして動画にするだなんて、よく思いつくもんだよな。

俺たちも一本作ってみるか。

 

『ブラック出版社のナイトルーティン』なんてな。

 

流行らん……

 

屋上に出ると、都内を一望できるフェンス前で火をつけ始める。大体、このぐらいで『奴』が現れるんだ。

そう、ご存知の通り、紅い髪の神だ。

これは、俺の、薬師堂柊人の、どこにでもいる中年の、しがない中年の、情熱なんて無い大陸の、

 

与太話。

 

激情、情動、同情

まああれだな、栄えあるスポーツ雑誌の、誉れ高いサッカー雑誌の読者諸君には申し訳ないほど不健康な絵面だけれど、その雑誌の編集長と副編集長がそろってタバコをふかすというのは、なかなかに心が痛い。

正確には、肺が痛い。

なんて、ガラにもなく、世間体なんてものを気にしながら、この行為を止めないのはまったく、大人ってのはだから信用ならないんだって言われても仕方がないな。

 

実のところ、本当のところ、腹を割って話すが、ある企画の検討会議で盛大に没を食らい、企画そのものがぽしゃった後なんだ。

役員が揃ってNG。俺たちみたいなしがないサラリーマンなんて、ろくに抵抗できるわけもなく。

で、編集長と副編集長ががん首揃えて、屋上で反省会ってわけ。

いや、それは俺しか思ってないだろう。

こいつは、世の中への抵抗しか考えていない。

「……まあまずはお疲れ。こういうこともあるさ」

「納得いかねえよ」

「俺だってそうさ。でも、理解はできる。今回はさすがに、会社の名前を背負わす企画になりかねない。まあある意味そこが狙いではあったけれど、理解はできるさ。納得できないが」

「理解も納得もできねえよ」

不満そう、いや、不満なんだろう。

煙を空に吐く。

「ま、お前なら、そう言うと思ったけどな」

俺はもう一本のタバコを取り出しながら言う。

「次のチャンスを待とう。今はその時じゃないってことなんだ」

「まどろっこしいんだよ。いっつもいっつもジジイどもはよ。こんなんだから、あっさりライバルに先越されんじゃねえか」

「ある意味俺たちとは人種が違う。俺たち現場は、即断即応が原則だ。その稼いだ時間で、上はより正しい判断を下せるんだ」

「時間があるからって、正しい判断ができるとは限らねえじゃねえかよ。今回みたいによ」

たしかに。

結局、俺はそういう諸々の欺瞞だったり、嘘を、ある種の「しょうがない」で片付けている節がある。

サラリーマンだからしかたがないと。

不貞腐れた副編集長に言う。

「すまなかった。俺がもっと、上とのネゴをしておけば、土壇場でひっくり返ったりはしなかった。すまない」

「私は、あんたに謝ってほしいと思ってねえよ。その上とやらが、私に詫びを入れやがれってんだ」

「はは、さすがにそれは道理が通らないんじゃないか」

 

「道理は通らなくても、筋は通せってんだよ」

 

筋を通す。

今の俺に、通せている筋があるんだろうか。

「なあ、次の企画だけどよ、良い案がある」

「ん?どんな企画だ」

「こいつだよ。こいつを使って新企画を立ち上げる」

 

そう言って榴ケ岡が俺に見せたのは、自分のスマホ

画面に映る一通のメール。

ーーー発信元には、『宮城野原 詩』とあった。

 

お前は俺で、俺はお前で。

「それって……!」

「そうだよ。ようやくだ」

宮城野原 詩。

4年前、当時高校生だった彼女をライターデビューさせようと榴ケ岡が執心した相手。

たまたま見つけたブログを高く評価した榴ケ岡は、ありとあらゆる手段で彼女にコンタクトを取ろうとした。最終的には、交際している朗君のTwitterから、彼女を特定した。

そんな彼女は、大学へと進学し、『自らを試している』最中のはず。

大学卒業前に、目途がついたというのか。

「4年だ。4年もかかりやがった。まったくよ、どいつもこいつも時間ばっかかけやがって」

「でも大学に在学しながらだろ?よくやっていると思うが」

「……あんな場所、なんの価値も生み出さない、無意味な場所だよ」

榴ケ岡は、都内の有名私立大を『中退』している。

まったくもったいない話なのだけれど、彼女曰く、2年の途中で『無駄だ』と気づいたようで、さっさと物書きの世界に入ったのだ。

当時20歳。

無名の作家が、次々と記事を寄稿したり、連載を持っていたのは俺も覚えているし衝撃だった。

それから十数年。

いまや神に最も近い物書きだなんて言われているが、紛れもなく、彼女の努力の証なんだ。

「それで、彼女からはなんて」

俺は少しの嫌な予感を感じながら聞いた。

「『お久しぶりです。良い記事構想があるので持ち込みたいです。お時間いただけないですか?』だってよ」

「……そうか」

彼女の試すとやらは、持ち込むに変わったようだ。

「明日、こいつと話す。それが今度の企画の目玉だ」

「待て。新企画検討会議はまだだし、100歩譲って、彼女の持ち込みを受け入れたとしても、それが目玉に、主軸になるのは無理がある」

「無理でもなんでも、やんなきゃ意味ねえだろうが」

「そうだが……やっぱり、いきなりはダメだ」

「ダメじゃない、できるだろうが」

「おい榴ケ岡。お前焦ってないか?今回の件をカバーしようとしているなら、もう気にするな。俺の方で、何とかできる算段はついてるんだから」

嘘だ。

そんな算段なんてない。

今日か、日付が変わって明日の俺に期待するしかない。

「そんなんじゃねえよ。私は、今が一番のタイミングだって言ってんだ」

「お前、それいつも言うじゃないか」

「いつも一番のタイミングだから言ってんだよ」

 

「お前、彼女に情が入ってないか?」

「……あ?」

俺には確信があった。

こんなに性急に動く榴ケ岡の心情を。

たしかにカバーするだなんて殊勝なことは思ってないのかもしれない。けれど、こいつの良いところであり、悪い部分だ。

「お前のその、他人の才能を自分ごとのように捉えるのは止めろ。他人はどこまでいっても他人だ」

「私は、才能をがめたいわけじゃねえよ」

「そうは思ってない。お前が独占したいとか思っているわけじゃないのも理解しているつもりだ。そうじゃなくて、才能が潰れた時、お前、自分の手足がもがれたような感情になってないか?」

榴ケ岡は黙っていた。

俺は続ける。

「いいか、他人は他人であって、お前はお前だ。俺たちは、いつかどこかで線を引かなければいけない。分けなければいけない。区別しなければいけない。一途にやるのは結構だが、でもいつかは決別しないといけない、腹を決めないといけない。たとえ引き裂かれるような思いをしてもだ」

「そんな思いはしない。私の眼は完璧だ。どんな才能も枯れない」

「それはお前が開花させるまで、助力して、いつまでも『待っている』からだろ?違うかい?」

反論がない。

屁理屈みたいな、子どもの抵抗みたいな反論がお決まりの榴ケ岡は、逆に言えば無駄なことは言わない、しない。

「いいか榴ケ岡。若い才能に、ライターに、クリエイターに必要なのは、同情でも、援助でもなく、『補助』だ。俺たちはあくまで、自転車の補助輪にすぎない。自転車に乗ることを諦めた奴やいつまでも乗れないやつの背中を押しても意味は無い」

それでも黙る。

「だから俺たちには、そういう才能を補助する義務があり、その結果には責任が伴う。失敗と認めず、最後まで成功に導こうとするやり方はいつか破綻するぞ」

 

みなさんは、神の怒りをご存知だろうか?

字面の通りである。

空が割け、地が割れ、人が叫ぶ。

 

「じゃあああああああああああああああああああああああああああああかしいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

眼を大きく開き、紅い髪はまるで生きているかのように、膨らんだ。

 

「テメーに何が分かるってんだ!!!才能は才能でしかねえ!!!枯らして殺すわけにはいかねえだろうがよ!!!」

「だから言っているんだ。俺は、お前の才能を『殺したく』ない」

「………は?」

 

「お前、今回の件、会議の時はああ言って丸め込んだが、実態は執筆者に裏切られたんだろ?」

 

「裏切られてねえよ……まだ少し早かっただけだ」

「いや、お前が用意した納期とクオリティには程遠かった。あれじゃ、30年はかかる」

「だったら30年待ってやるよ」

「違う榴ケ岡。聞いてくれ。お前はそう言って、一体何人の奴の『答え』を待ってるんだ?5年も10年も待って、一体何が出てきた?いいか、これはお前の時間と才能とチャンスを食いつぶしているんだ。気づいてくれ、お前はその失われた物を使って、もっともっと上へ跳ねることができたんだ」

紛れもない事実だった。

彼女がいつもの調子で埋もれた才能探しをしていて、それを逐一報告してくるが、たいがいは彼女の大きすぎる期待に潰れていく。

いや、こう言うと彼女の信頼にかかわる。

言ってしまえば、才能でもなんでもなくて、ただの『一般人』だったというオチだ。

 

それでも彼女は待ち続ける。

鳴らない電話をずっとーーー

 

待つ。

 

そんなお前の背中は、いつもの覇気なんてなく、すごく、これは勝手な印象だけれど、すごく寂しそうに見えた。

 

そんな彼女の背中を俺はずっと見てきたし、もうこれ以上、そんな思いをしてほしくなかった。

 

「頼む、榴ケ岡。俺は、お前に潰れてほしくない。お前の才能は、お前のために使ってほしいんだ」

「そんなんで潰れるほどの才能じゃねえよ私は」

「お前自身はそうかもしれないが、才能は違う。生ものだし、賞味期限だってある。いつまで続くか分からない石油みたいなもんだ。そんな限りある資源をお前自身に使ってほしいだけだ」

彼女は黙っていた。

今度は反論が無いからではなく、何かを考えるように。噛みしめるように。

押し黙った。

「だから今度も、会って話すことはいい。けれど、入れ込みすぎるな。何かあれば俺に連絡してくれ」

今度は反論があった。

いや、質問か。

 

「なあ、なんであんたは、そんなに私の心配をするんだよ」

 

なんでだろうな。

ひとつ言えるのは、しがない中年でも言えることは、

 

「俺は、一途なお前と違って、惚れっぽいんだよ」

 

「は?意味が分かんねえ」

「まあ、分からないだろうな」

「よく分かんねえなあ……まあ、でも、お前ぐらいだぜ、そんなこと言うのは。

 

 

「……ありがとよ」

 

最後に、あいつが何を言ったのかは、あまり聞き取れなかったが、まあおおよその察しはついていた。

おおかた、「この馬鹿野郎」ぐらいのことを言っていたのだろう。

 

まあこれは、しがない男性編集者の、ひとりごと。

 

俺は、お前を誰にも殺させたくない。

これは社会人として、会社員として、編集長として、上司として、薬師堂 柊人として、

 

俺は、君を、

 

 

 

人物紹介

薬師堂 柊人 (やくしどう しゅうと)

  Foot Lab編集長

榴ケ岡 神奈子 (つつじがおか かなこ)

 Foot Lab副編集長。

 

マクドナルドのバーガーは、故郷の味。

どうも、僕です。

今回は、コラム的な何かをつらつらと。

突然ですが、僕の祖国は、日本です。そう、ジャポン。日出るハポンです。

ただ、いろんな運命の糸が絡み合って、僕は今祖国を離れとある東南アジア某国に居ます。

このクソったれな時期に僕を祖国から飛ばした会社と社会を恨んでいこうと決めて航空機へと搭乗したのが少し懐かしくなるくらいには、時間が経っています。

でも、愛するクラブを応援したり、地震で心配したりなど、故郷を、祖国を思い出さない日はありません。

食に関してもそう。こちらにきて、まあ日本の味というのは結構あるもので、実はそんなに困っていなかったりします。

そんな僕が、いわゆる故郷の味ですよね、慣れた味を感じるのはなにかというと、実はマクドナルドのバーガーなんですよね。

え?お母さん食堂的なアレではないかって?それを言うとまた色々と面倒なのに絡まれそうというか、そもそもお母さん食堂なんだから、世界中のお母さんの味を置いてくれよと思うというかツッコめよくらいには思ったり思わなかったりしています。

まあそんな祖国のドメスティックな事情は置いておいて、いわゆるマック(関西ではマクドUSJはユニバ)の味は世界共通なわけですよ。そら当たり前ですよね。

マックみたいに同じ質のものをどんな場所でも提供するなんてのは、セブンイレブンやらトヨタやらもやっているわけで何も珍しいことではないわけですよ。僕は「制服化」と呼んでいるやつです。均一、均等なんてね。

「均一なんて」とよく祖国では見聞きしたし、言ったりもしましたが、いまなら確信をもって言えます。異国の地の救済策、故郷の味は、あの「変わらないマクドナルドのバーガーでありポテトの味なんだ」って。

なんにも分からないなかで、味の想像ができて、だいたいどんな物で値段感はいくらぐらいで、失敗しても潰しが効く。それが制服化された食べ物の強みだと言えます。

 

さて、これはサッカーブログです。このままいくと「異国食レポ!結局マックが最高!」なんて尻の毛まで抜かれて鼻血も出ないクソブログになってしまうので、サッカーに関連してあれこれを。

サッカーでの制服化といえば、シティグループだったり、レッドブルグループだったりですか。あとはバルサ。でもバルサはどちらかというと布教活動っぽいような気がする。気がするだけ。

まあその辺の狭義的な定義の差異は専門家集団に任せるとして、結論すると「日本みたいな片田舎にも約束されたサッカーを展開するシティグループやらがある安心感」は、来日する選手や監督にある程度の安心感を与えるでしょう。

よく、欧州出身監督が試合後に語り合ったりすると聞きますが、まあ日本食ばかりでうまいのかマズいのかよく分かんないなかで、慣れた味に出会った時のうれしさってのはまあまああるんではないでしょうか。それがたとえマックであろうと。

 

いままでの僕の制服化のイメージは、故郷を駆逐し、すべてを均質からされた無機質なものに変えるイメージでした。町の商店は、緑色の制服を着て、自動車販売店には「T」の文字が並び、空地にはデカいイオンが軒を連ねる。でもそれが、「そこへ行けば確実にそれがある」という安心感を醸成しているとは、きっと祖国ハポンにいては、体系的に理解はできていても肌感覚にはならなかったのではと思うわけです。

それでも僕は恐れているわけなんですね。地元のクラブが、あるグループの一員となって、クラブ名も、ロゴも、ユニも、すべてを変えられてしまうのではと。それが誰かにとっての安心と、誰かにとっての不安は、事象のコインの表裏に過ぎません。地元仙台に帰れば、間違いなく仙台という街は存在するし、ベガルタ仙台というクラブが存在するという安心だってあって良いわけですよね。

まあここでは僕がマイノリティですから。村の外から来た人間にとって、何を寄る辺とするのかは、きっと外から来た人間でしか分からないと。でもいつかは必ず、その土地へと馴染んでいくのが、人間の常ですから、マックを食べるのもほどほどにしていかないといけないです。あんまり食べ過ぎると太るしな。

だからまあ、だからってわけではないけれど、僕は祖国故郷でマック食べてる寡黙な外国人が居たら、あまり毛嫌いせずに受け入れてあげたいなって思うんです。嫌じゃなければ。別に少し間違ってたっていいし、少しずつ慣れていく手伝いができれば。別に僕は祖国を憂う達観系でもないし、過剰なパトリオリズムもないので、適当に「マックうめえよな」ってポテト食いながら話せればそれでいいと思ってます。実際、マックうめえし。僕は、てりやきマックが好きです。サムライポークバーガー。

【考察】1stプレッシャーラインについて考えたことなどを

「中盤からの押し上げ局面における、フォワードによる1stプレッシャーラインについてなのだけれど」

「急に来たな」

「相手のMFを警戒しながら、センターバックへプレッシャーをかける方法について考えたことがあるの」

「いわゆる『背中で消す』ってやつだな」

「そう」

「アンカーでも2人のセントラルMFでも?」

「そうね。フォーカスを当てるのは、ボールサイドのMFを背中で消しながら、ボールホルダーであるセンターバックへプレッシャーをかけるやり方についてね」

「長いな」

「こうでも言わないと、前提がどうとか、条件がどうとかなるから」

「まあね」

「これには2種類あると考えているわ」

「2種類も?」

「ひとつは、ボールホルダー側のFWがボールホルダーへプレッシャーをかけたら、もう片方がMFをカバーする『つるべの動き』タイプ」

「よく見るな」

「もうひとつは、ボールサイド側のFWがMFへのパスコースをカバーするタイプよ」

「それはボールホルダーがフリーになるのでは?」

「別に良いわ。だって、その先にディフェンスの網を張っているから」

「なるほど。それで片方のFWは何をするの?」

「『ひとつ飛ばしパス』のパスコースをカバーする」

「『ひとつ飛ばしパス』?」

「文字そのままよ。ホルダーの隣の選手を飛ばした先にいる選手へパスすることよ」

「この場合だと、逆サイドのサイドバックが低い位置にいて、3バックっぽくなっていることがあるよね。たとえば、そのサイドバックへのパスってこと?」

「そうよ。ひとつ飛ばされると物理的にプレッシングをかけにくくなる」

「距離が延びるからか」

「ええ。人間よりボールの方が速いってのは、よく言われることよね」

「それを防がないと、せっかくのプレッシングが無駄走りに変わるってことか。『つるべの動き』タイプは、ボールが動いている間に追いかけるのか」

「そうなるわね。でも一人で追いかけるわけじゃなくて、2人で役割分担しているから、ひとつ飛ばされても成り立つ」

「そうしてボールホルダーの選択肢を制限しながら、ボールの進行ルートを限定するってことか。誘導も兼ねている」

「だからどちらのタイプも、ホルダーに時間はあっても選択肢が少ない状況を作り出そうとしている。『つるべの動き』タイプは、そもそもホルダーの時間も削りにいっているのだけれど」

「時間があっても選択肢がなければ意味がない。プレーできなければ、時間があってもしょうがないってことだな」

「どちらが良いということではもちろん無くて、相手ボールホルダーのビルドアップ能力だったり、あとはプレッシャーをかける開始地点が自陣か敵陣かでも分けるものだと思う」

f:id:sendaisiro:20210719222333p:plain

図1

f:id:sendaisiro:20210719222236p:plain

図2

 

【Why always here?】Jリーグ 第20節 ベガルタ仙台 vs コンサドーレ札幌 (1-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム札幌戦のゲーム分析。ユアスタでの連戦。厳しい戦いなかで成長してきた仙台。中断前最後の試合でもまた飛翔することができるか。そんな仙台に、熟練の札幌が電光石火で襲いかかる!今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

f:id:sendaisiro:20210713223459p:plain 

ゲームレポート

仙台のどんな準備をしてきたのか確認する試合

  この試合、特に札幌相手となるといわゆるミシャ式への対応がひとつテーマとなる。テーマというか、試合中必ずやってくることなので、仙台としては準備して対応することが求められることのひとつである。この日の仙台の基本フォーメーションは、4-4-2。ミラーマッチで5レーンを埋めて人海戦術を取らず、あくまで4-4-2のブロックで対抗する意思を見せた。

 札幌のボール保持攻撃は、セントラルMFがバックラインにドロップして3バックを形成することから始まる。もともと3バックでは?との問いかけは至極全うである。僕もそう疑問に思うが、札幌としてはあえてオリジナルの3バックから面子を変えるのがミソらしい。それに呼応して、両CBがワイドに低いポジションを取り、もう一人のセントラルMFと合わせて4バック+アンカー1を作るのが、ミシャ式ボール保持攻撃の下地である。なら最初から4バックで良いのでは?と思うが、僕もそう思う。同じ4バックでも過程が違うのがミソらしい。4バックのビルドアップってなかなか見ないが?と思うが、僕もそう思う。後方のスペースを広くいっぱいいっぱいに使うことがミソらしい。

 札幌はさらに、ここからアンカーポジションに入ったセントラルMFすらもバックラインにドロップして再び3バックを形作る。また、GK菅野を含めての3バックを作ることもある。こちらもままあった。そんなに3バックでやりたいなら最初のバック3のままでいいじゃん?と思うが、大丈夫、僕もそう思う。とにかくバックラインのスペースをバック3とセントラルMFが使いたがるのが札幌の特長になる。仙台のFW-FWライン上にアンカーがかかわることで、2人をピン留めもできるが、それを放棄してでもバックラインのホルダーをフォローするためにドロップする。結果中盤はいない。それで良いのが札幌の攻撃だ。

 仙台としては、この変化にこれまでの試合同様、FWがセントラルMFをカバーしながら、もう片方のFWがホルダーへの横切りプレッシャーでボールサイドを誘導限定する。ただし、この日の変化点は、中盤に相手がいないこと、西村ではなくカルドーゾだったことだ。そもそも守るべき選手がいないなか、カルドーゾのポジショニングは曖昧になる。さらには、元来「つるべの動き」で左右にプレッシャーをかける当番と、MFを監視する当番を分けるのが特徴の仙台1stプレッシャーライン。ただ、カルドーゾは中盤監視にベタ付き。赤﨑が右から左へ、左から右へと長い距離をシャトルランするシーンが見られる。札幌は、後方のスペースを広く使いたがる。そんな特長にもハマる結果になった。

 MFだろうがGK菅野だろうが、4バックだろうが、仙台のホルダーへの限定誘導がかからない以上、札幌のホルダー、特にワイドに低い位置に構えるセンターバックに時間ができる。しかもそこにいるのが左CBでキック上手の福森だったりする。札幌の攻撃陣形は、FW小柏、金子が2FW気味に仙台ファイナルラインの背後へオフボールランを繰り出す。WBはワイドに高い位置を取り、シャドーのチャナティップはフリーロールとして中盤までドロップ。時折4-2-4、3-3-4のような形で後方のスペースをふんだんに使いながら、ライン背後・横にあるスペースを使う。そんな札幌の攻撃だった。限定誘導がかからない仙台DF。最北の戦士たちは、容赦なくロングキックの雨を降らせた。

 これはまずい展開の仙台。そもそも、中盤から前線でボールが奪えない。ボールを奪うポジションも後方になるが、そんな展開を予想してか、ボールを奪うとポゼッション志向を見せる。ただ札幌のマンツーマーキングに時間とスペースを奪われ苦し紛れにクリアする厳しい展開。左フルバックのタカチョーが対面するルーカスに正対して外して時間を作るくらいで、全体としては難しい局面だった。

 ただしそこにいるのはカルドーゾ。彼が無理やりにでもボールを収める。しかもFW赤﨑が外流れしているのも、構造上広く守らないと成立しない札幌に対して効いていた。同点ゴールはそんなフォワードの2人様様なゴールだった。あともう一人、ゴールを決めた25番も王様だった。

 後半からは、カルドーゾに代わって西村になった仙台。西村は、つるべの動きを完璧にこなし、ホルダーに対して素早く横切りのプレッシャーをかけるが、相手の攻撃を封じ込めたか?と言われるとなかなか難しい。なぜなら、素早くプレッシャーをかければ、相手だって取られないよう素早くプレーする。前半には見られなかったCBのドライブや早いタイミングでのロングキックなど、後半オープンな展開を呼び込むトリガーのひとつになったと思う。

 前後半どちらがよかったか?という問いかけがあると思うが、正直僕は分からない。無失点だったから後半が良かっただろ!という答えはいかにもテグのチームっぽいが、「ここはホームなんでね、なんとか勝ち点3をね、取るぞと、そういう気持ちで入ったんですけど」って言うのもまたテグのチームっぽい。じゃあやっぱり鍵は前半なんじゃね?っていうね。 

  

考察

 いつものミシャ式にどんな対応をするか、がこの試合のテーマだったけれど、開始早々のスーペルフットボールで先制されてしまったのが少し狂わせたか。その前から、やや怪しい雰囲気もあってヤバいハマってないという焦りみたいなものも感じた。準備はしてきた、と思うけれど、練習ではできて試合では少ししかできなかったのであれば、札幌の練度が高かったということか。GK菅野を入れて3バックビルドアップするのにはたしかに、ミシャから分派したカタノサッカー風味を感じた。それかやはり、カルドーゾの部分か。いろんな要素があると思う。仙台のバックラインはよく耐えて守り切った、と一声かけたい。あとは自陣でのビルドアップ。半身180度の世界でプレーしているから、顔面からまともにプレッシャーを食らう。食らうが、カルドーゾまで運べば勝ち。松下に渡してサイドチェンジできれば勝ち。みたいなズルさが備わっている。良いか悪いか分からないが、中盤からの押し上げでハマらなければ、そういうズルさで逃げるのもまた一興だと思った。そんなところだと思う。

 

おわりに

 この2人の対戦も今季はこれで終わり。リバイバル対戦が多いのだけれど、対戦成績はどうなることやら。また五輪中断が入るが、もう「来月からがんばる」みたいなことは言いにくい時期になってきたし、しかも今のマンツーマーキングDFで夏を乗り切れるか。乗り切るためのボール保持攻撃なのか。とするとなかなか悩み深きではあるが。フリーキックコーナーキックの飛び道具でなんとかならないかと思う日々を過ごすなど。25番の再来を見たんだ。10番が復権しても良い気がする。気がするだけ。そんな、選手頼みな!な夢を見ていたりもする。今年も夏が、はじまる。

 

「人生にモラトリアムなんてないんだぜ」こう言ったのは、沼地蠟花だ。

 

【15-16アトレティコ・マドリー】vsバルサを観て感じたことなど

アトレティコ・マドリーのDFシステム

 どうも僕です。昔の試合を観た観戦日記になる。「流行りの服は嫌いですか?」と聞かれたら「うっせえわ」と答えるくらいに、自分はポップさからかけ離れた行為をしているなと感じなど。ベガルタ仙台に、クロップのドルトムントだったり、シメオネアトレティコを感じるなどしているので、少し温故知新。面白いゲームだった。

観戦した試合↓

Atlético de Madrid vs FC Barcelona (1-2) J03 2015/2016 - FULL MATCH - YouTube

 

 アトレティコは、4-4-2。アンカーブスケツの高さに応じて、ライン設定がされている。1stプレッシャーラインを形成するトーレスグリーズマンの2FWがブスケツを背中で感じながらホルダーに圧をかける。バルサは、ラインを高くボールを保持するチーム。その場合は、2FWはブスケツへのボールを警戒。ホルダーがドライブすれば、ブスケツへのパスコースを管理するにとどめる。ワイドに低い位置を取るフルバック、落ちてくるラキティッチイニエスタインサイドMFにはセントラルMFの2がマンツーマーキングする。こうなるとバルサ。ボールサイド2レーン、あるいは3レーンに4-4-2を集めるアトレティコに対して、サイドチェンジで応戦。空いているところを攻めろ。普通のチームならセオリーだけれど、バルサがやると新鮮。監督はエンリケ。納得はいく。ボールを受けるのはもっぱら左フルバックジョルディ・アルバネイマールもいるが、彼は中央から逆サイドに出張することもあり、サイドチェンジしてから彼にボールが入る。これを横スライドの根性で解決するアトレティコオリベル・トーレスが鬼の形相でアルバにプレッシャーをかける。バルサもここからクロスか、ネイマールのカットインかだから、斬るか斬られるかの勝負になる。

f:id:sendaisiro:20210711170658p:plain

図1

 

 次は、少し高い位置からのプレッシング。フルバックにボールが渡っても、その先にボールが進められなければ、バルサセンターバックにボールを返す。そうなるとラインは少し深くなる。当然、ブスケツもボールの引力に引かれてポジションを下げる。FWのひとりがホルダーの横を切りながら、プレッシャーをかけ、限定誘導の引き金を引く。もう一人は、ブスケツ番。例えばグリーズマンがホルダーに行き、トーレスブスケツを監視する。その先は、さっきと変わらない。ただ、イニエスタラキティッチフルバックの前=アトレティコのWG背後のスペースにレーンチェンジしてプレッシャーを外そうとする。そこに地の果てまで追いかけるアトレティコMF。アトレティコの横スライドは、鬼根性だ。こうやって、ボールサイドを限定誘導しつつ、マンツーマーキングの網を張る。ハーフレーンに移動してさらには列降ろしまでするバルサWGに対しては、ルイス、ファンフランがこれもマンツーマーキング。こうしてアトレティコは、中盤からの押し上げ、サイドチェンジ対応、前線からのプレッシングで少しずつ形を変えながら、でも大事なマンツーマーキング、スライド、根性は変わらず表現しているのが面白い。

f:id:sendaisiro:20210711170828p:plain

図2

 前半終盤で4-5-1に変えたアトレティコ。さすがに根性が続かないからかと思いきや、実際は、イニエスタラキティッチのレーンチェンジについていきやすいように3センターにした説が濃厚。やっぱり根性だった。センターバックに、前方から圧をかけるのもインサイドMFの役割。トーレスブスケツにつきっきりだ。バルサは、アルバが低い位置で3バックっぽい形でビルドアップを落ち着かせようとしているが、ポジション移動のリスクは無い分、アトレティコのプレッシャーにかかりやすくなった。エンリケバルサは基本ポジションを変えず、移動したとしてもサイドへの移動で、非常にリスクを予防した形のビルドアップだ。でも彼らには、それでも打開できるスーペルな選手が揃っている。それで良いのだろう。当時、レアルマドリーみたいだと揶揄された象徴的なシーンだと思う。

f:id:sendaisiro:20210711171116p:plain

図3

考察

 この試合、トーレスの先制ゴールに、メッシの逆転ゴール。両チームのエースが決める劇的な展開に。信じる者は救われるじゃないけれど、両チームが信じるものが機能していた試合だったと思う。アトレティコなら、中盤からの押し上げ、前線からのプレッシングに横スライドなどなど。これを90分間やらせるんだから、まさにシメオネ教。バルサの方が宗教じみていると言われていたが、戦争は変わった。リスクを減らし、スーペルな選手が短時間で最大の成果を発揮するシステムを構築したエンリケは、いわゆる名将のひとりなのかもしれない。メッシの神通力をそのままに。けれど、悪には悪の救世主が必要なんだって具合に、シメオネアトレティコもまた、彼らのボールが無い時のふるまいがすべてだった。後半中盤からオープンでオールコートマンツーな雰囲気が漂っていたが、それがどちらにとって有利だったかはよく分からない。自分たちは自分たちの土俵にいると信じ込ませていたのかもしれない。少しだけ仙台の話をすれば、図2の形はよく仙台でも見る形かもしれない。そうなると相手アンカーがFW-MFの距離が大きく空いているスペースを使いそうだけれど、あまりアンカーがJリーグにいないのと、片側のFWでなんとかするんだろう。あと4-5-1を観てみたい気持ちもまた高まった。今日はこの辺で。またどこかで。

 

【萩咲く空に浮かぶ王子を照らす月】Jリーグ 第19節 ベガルタ仙台 vs 浦和レッズ (0-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム浦和レッズ戦のゲーム分析。埼スタの難敵を今季もホームへ迎え入れる。欧州からやってきたひとりの王子様。ダイアモンドが光り輝く時、ベガルタ仙台の黄金の精神も輝きを放つ。今日も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

 

f:id:sendaisiro:20210709223203p:plain

 

ゲームレポート

前線からのプレッシングで浦和を封殺せよ!

  前節6ポインターズを落とした仙台。ホームユアスタで浦和を迎え撃つ。アウェイ埼スタでは、センターFWキャスパー・ユンカーにリーグ戦初ゴールを献上。0-2と敗北した。両チーム新指揮官を迎え入れ、チーム作りの途上だが、後半戦に向けてその完成度が気になるところだ。

 仙台は、4-4-2を採用。ボール非保持時には、FW赤﨑が相手セントラルMFを監視する形の4-4-1-1でディフェンスをセットする。浦和は、4-2-3-1のオリジナルフォーメーションから、柴戸、伊藤のセントラルMFセンターバック横にドロップ。3バック+1の逆丁字型ビルドアップで、仙台2FWの1stプレッシャーラインの噛み合わせを外そうとする。

 さらに浦和は、両ウィングがハーフレーンへレーンチェンジ。アタッキングMFの小泉がセントラルMF列まで落ちるなど、前節同様装備しているビルドアップの型を見せてくる。両フルバックがワイドながらMF列をキープすることで、センターバック横のスペースを空け、前方にインサイドレーン(中央3レーン)からのカットアウトが可能なエリアを作り出す。リカルド・ロドリゲスのチームは、ウィングバックなりフルバックをワイドに低い位置に置いて、味方が使うスペースを創りながら相手を誘き出す「鍵を開ける人」の役割を担わせている。

 左サイドは、明本が高い位置を取るなどの変化はあったが、右サイドは西大伍の能力を最大限に発揮するべく、サイドからのアーリークロスでセンターFWユンカーの決定機を作り出す。ただ、浦和のビルドアップ型は、基本はこの形で、たとえばフルバックをバックラインに組み込んでの3バックビルドアップなどはあまり見られず、形を変えながら有利を築こうとするロドリゲスのチームにおいては、あまりビルドアップに動きが少なかったのではと感じる。

 そんなこともあってか、仙台が繰り出した前線からのプレッシングは効果的であった。相手3バックに対して、2FW+ボールサイドのウィング、セントラルMFには富田、松下ががっつりとマーキング。非常にマンツーマーキングの強い形だった。バックラインから、ワイドのフルバックにボールが届けば、真瀬、タカチョーのフルバックが縦に鋭く間合いを詰める。仙台のプレッシングは、浦和が使えるエリアを狭く狭くしようとする意志を感じた。西村、赤﨑のFWは、対面するホルダーに時間とスペースを与えない、仙台の4-4は中央からサイドにマンツーマーキングで時間を作らせないなどだ。

 そうなると浦和は、逆サイドへのロングキックやカットインでのレーンチェンジで打開しようとしていたが、仙台の両サイドは上下左右にがんばれるタイプ(真瀬-関口、タカチョー-加藤千尋)だったのもありやや不発気味だった。浦和もウィングが絞って中央3レーンに人が多い形なので、ここで「目が揃えば」何か起きそうでもあったが、そもそもレーンに均等に、広いエリアを支配する志向のなかで狭いところのアイディア勝負の方がチャンスがありそうだったのは、少し悩ましいところか。あとは西大伍のキックからのユンカー。仙台としては、浦和の危険なプレーがある程度予測できていた気がする。気がするだけ。

 また、仙台の攻撃は、徹底してサイドの奥にボールを送り込むことから始まる。そこでカットされてもカウンタープレスからの即時奪回を狙い、スローインになれば、やっぱりカウンタープレスからの即時奪回を。両ウィングがボールサイド2レーンに集まり、左フルバックのタカチョーは中央レーンでカウンター予防を担当する徹底ぶりだ。なのでサイド攻撃は非常にシンプル。ワイドの2人に1人、2人が関係してクロスを上げる形。特に、クイッククロスが得意なタカチョーから1本、2本精度の高いキックが出た。

 ただ、仙台としてもそこまでリスクを背負わずの攻撃のため、そもそも攻撃機会が少ないのと、1発決まるか決まらないかになる難しさがある。GKクバも前後半開始早々のピンチを防いだが、仙台の最大の決定機である加藤千尋のシュート、松下のミドルシュートを防いだ西川周作は、この試合のMVP級のプレーだったと言える。

  

考察

 仙台の進むべき道は見つかった、と言っても良いゲームだったと思う。4-4-1-1による限定誘導から、サイドでのマンツーマーキング。さらには、サイドへのロングボールからゲーゲンプレス発動。スローイン時には、ボールサイド2レーンの密集ディフェンスからのプレッシングなどなど。特に浦和のようなチーム相手に、この戦い方で失点ゼロだったのは、西村の途中交代というアクシデントがあったとはいえ一定の成果だったと思う。ただ浦和も決して悪いわけではなく、90分間盤面を支配し続け、最後はユンカーの一撃あるいはCKから1本決め、GK西川、CB槙野を中心に守り切る絵が見えている。2010年W杯のスペイン代表のような戦い方に近いのではないかなと。もちろんそれが浦和美園の民に応援されるスタイルなのかは分からない。少なくとも、仙台の戦い方は「レッツゴー」を加速させると信仰している。

 

おわりに

 今回は特にないです。(笑)試合から更新まで時間が経ってしまってますし。自分のブログがなかなか更新できずで、ままならないですが、書ける時書いておく精神で書いておきますね。いつもどうもありがとうございます。

 

「人生を語るのは、大往生を遂げる三秒前になってからしなさい」こう言ったのは、涼宮ハルヒだ。