蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【始まりの音に】Jリーグ 第21節 川崎フロンターレ vs ベガルタ仙台 (1-0)【変わるように】

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ川崎戦のゲーム分析。秋の連戦が再びベガルタ仙台の前に立ち塞がる。進撃を続ける絶対王者に、雨の等々力も微笑む。ピッチのすべてを支配された世界で、抵抗を示したのは2人の若者だった。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、前節からの変更で、フォワードに山田、セントラルMFに中原が、センターバックにQちゃんが入る。4-4-2で観た方が良さそう。

 川崎は中2日の強行軍。それでも、今季の異例シーズンで快進撃を続けている。メンバーもターンオーバー気味。家長、齋藤学がいる。ただターンオーバーと呼んでいいのかというメンバーではある。

 

ゲームレポート

FW横でプレッシングを無効化する川崎

  ベガルタが等々力で勝ったのは、およそ9年前、あの「決戦」以来になる。あの試合は、まるで見えない力で勝ったような、いや、「まるで」が余計だ。見えない大きな力で、勝ち取った試合だ。しかも、この試合と同じ、雨だ。あの試合から色んなものが大きく変わってはいるが、また再び、日本を未曽有の危機が押し寄せているのは変わらないのが、今年最も大きな出来事と言える。それでも、9年前もこの日も、雨の等々力で試合ができているのである。2度続けば、それは、奇跡ではなく本当の力である。

 そんな等々力で、ベガルタは4-4-2を披露。ゲデス、山田の2FWに、唯一9年前のピッチに立っている関口が、「左ウィング」に入った。右WGの道渕とのコンビで、サイドを上下動できるワーキングウィンガーを入れることで、川崎の高い位置を取るフルバックを牽制する狙いだ。そんな狙い通りに、4-4の2ラインが中盤を埋め、ファイナルラインは高い位置を取り続けコンパクトさを保つ。ピッチ中央に敷き詰められた4-4-2のブロックディフェンスに、仙台の「血」を感じた。サッカーは、血でも、プレー出来る。

 それでもこのスタジアムの主は、王者たる所以を見せる。2バック+アンカー田中の三角形型ビルドアップをセットしたが、アンカー田中がベガルタのFWに監視されていることを観察して気づくと、この日両インテリオールに入った2つの心臓、中村、大島が門を開こうと行動を開始する。FW横に落ちることで、瞬間的に三角形型から2+2のボックス型を作る。ベガルタはつるべの動きで、ホルダーへのプレッシャーとアンカーへのマークを交換するのだけれど、ホルダー→アンカーに切り替わる継ぎ目を、三角形+1することで狙い撃ちした。これが見事に効果を発揮。ホルダーからボールを受け、間髪入れずにアンカーへボール移動させる。ベガルタのFWはどうしても間に合わない。

 ベガルタも、椎橋、中原のセントラルMFコンビが落ちる14番と10番を追いかけるのだけれど、今度はその背後が空いて来る。加えて、川崎は左サイドで車屋が低い位置を取って擬似的な3バックを形成。なお一層ボールを持つ時間とスペースができる。もちろん、対面する右WG道渕のプレッシャーは織り込み済み。その背後をアタッカー陣が狙っていく様相に。背中を突く。川崎にも、血を感じた。ベガルタとしては、こうなると背後をカバーするしかなくなり、全体としてブロックが下がっていき、自陣に閉じ込められる時間が前半の大半を占めることに。また、ベガルタの左サイドでは、WG旗手がインサイドに、フルバックマテウスが高い位置を取るウィングロールで、パラを中央に押しのけ、関口を低い位置に押し込んだ。ベガルタの4-4-2による中盤からの押し上げは、逆に押し込まれ、だんだんと自陣でその姿を変えざる負えない状態へなっていく。

 それでも、40分間を耐え、同点あるいは最少失点で乗り切って、後半に圧をかける機会を伺うように見える。中2日の川崎は、ポゼッション勝ちしているとはいえ、必ず体力的に難しい局面が出てくる。ポゼッション負けして押し込まれると心が折れるが、折れなければ、相手が折れる。そんな入りだった。

 

同数プレッシングへの修正。上回る車屋

 後半開始から、ベガルタの前線からのプレッシングが反撃の狼煙を上げる。2バックに対して2フォワード、アンカーにはCMF、落ちる中村、大島には片方のCMFがつくことで同数プレッシングを敢行。川崎が自陣からビルドアップしていく、その過程を破壊する策で前への圧を取り戻す。ホームでのゲームの再現も頭にあったのだと思う。ただ、それで壊れる川崎フロンターレなら、こんな順位にいない。ベガルタがビルドアップをぶっ壊すなら、川崎はプレッシングをぶっ壊しにかかる。

 本来フルバック車屋が高い位置を取って、柳とのマッチアップを選択。自陣からのロングキックの受け手となって、ベガルタのビルドアップ妨害を無効化するべく、息継ぎポイントになる。柳も長身でCBも経験はしているのだけれど、このハイボールの競り合いにおいては、車屋が勝ちプレッシャー回避の役割を担う。

 

椎橋とワタルの2人で中盤を破壊する

 リトリートもプレッシングも対応され、リードされた展開を我慢しながら追いつく機会を伺っていた木山ベガルタ。後半中盤あたりから川崎のプレッシャーが徐々に落ちて来る。それと呼応するように、CMF椎橋がバックラインに落ちて、川崎FWによる前線からのプレッシングを回避。また、バックラインから上がる擬似フォアリベロでFWのカバーエリアを操作。椎橋をカバーするなら、フルバックセンターバックに時間とスペースができる。ボールを持たないポゼッション。椎橋が相手プレッシングを操作し、味方のポゼッションを助けた瞬間である。

 それを引き継いだのは、交代で入った田中渉。椎橋が見出したバックラインへのドロップとプレッシャー操作、加えてワタルの長所である左足のキックが炸裂する。ボールを持たなくてもポゼッションできるが、ひとたびボールを持てば、逆サイドへのサイドチェンジキック、中央へ刺すパス、選手間へ侵入するプレーと、雨の等々力のピッチで躍動。中盤から後方をワタルに任せ、長沢、ゲデスの2FW、両フルバックのウィング化と中央へ侵入するウィングで、川崎ゴール前への圧力を高める。終了までの15分間は、押し切っていったベガルタだったが届かず。奇跡は、2度続かない。2度続けばそれは……。 

 

 

考察

Good!

 川崎の中2日日程、5枚の交代枠、リトリートから前線のプレッシング、カウンター、ポゼッション、セットプレーとかとかとか。今持っているものフル動員でかかっていたゲームだったと思う。自らゲームを動かして、相手も動かしてしまうのが、木山ベガルタのひとつの特徴なのだけれど、自らじっと耐え相手も静かにしてしまうのもまた、ひとつの特徴と言えそうだ。相手や日程面など、本来「ゲームプラン」と呼ばれるもの、相手の攻略方法については、やはり引き出しが多い方が良いし、やれないよりやれた方が良いに決まっている。ホームとアウェイ、川崎に対しては、首位を走るチームに対しては、よく実行できたのではと思う。

 

Bad…

 ゲームモデル、チームが描く絵はどうだろうか。攻守においてアグレッシブなサッカーを表現できたのは、少なくとも、多く見積もっても後半、しかも交代で関口がアタッキングMFになったあたりからだ。本来なら、そこで激しい前線からのプレッシング、ライン間・選手間の狭いリトリートブロック、奪ったら相手陣深く突撃していくプレーというのは、1試合を通してどれくらい表現できたのかはチェックしたい。札幌戦、もとよりこれまでの多くの試合でもそうだけれど、ベガルタの場合は自分たちのプレー時間が90分のうち15分間とか30分間くらいで、あとは耐える展開が多い。そうなると、その短い時間を長くするか、短い中で密度を濃くするかになる。この試合においてはもちろん後者なのだけれど、前者の作業も取り組んでいるとは思うけれど、もっと自分たちのプレーを出したいし、長くしたいなと考えている。

 

Next

 難しい日程と開催地で、この3連戦もある程度戦略的に消化していくことが予想される。であればそれでいいので、マックス値を出し続けて、何が出来て何ができないのかをしっかりと確認してほしいと思う。きっとやれることは限られるので、自分たちが描いている絵を表現して、表現するための技術を試合でガンガン披露してほしいし、試してほしい。椎橋とワタルの取り組みは、おそらくその一歩目になりそうな気がする。気がするだけ。

 

おわりに

 やりたいこと、やりたいけれどできないこと、やりたくないこと、やるべきことのすべてが詰まるから、格上との対決は面白いし、自分のサッカー、プレーがより深く高みへと昇華される。できれば、お互い1週間の準備をして、フルメンバーで戦いたいところだったけれどそれはまた別の話。それでも首位の川崎にも、地方クラブが何かを示した、もたらした、影響できたならなお良いと思っている。完璧な状態で、勝敗を雌雄を決するなかで、必ず、この場所で、あの試合のように戦いたいと思っている。

 

「その意志が、全てを変える」こう言ったのは、Unknownだ。

 

参考文献

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【錆びついていたままの】Jリーグ 第20節 ベガルタ仙台 vs コンサドーレ札幌 (3-3)【扉を打ち破れ】

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ札幌戦のゲーム分析。撃ち破られた前節から1週間。再びコンサドーレ札幌と、北海道の地で戦う。少しずつ取り戻してきた身体で、北の空を羽ばたく。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、前節からGKを小畑に変更。リザーブには、ケガでの長期離脱から復帰したクエンカが入る。

 札幌は、長いボールを使うなど、マイナーチェンジなのかスタイルを模索。それでもバックラインのポゼッション能力は健在。元仙台のミンテがリベロとして進化しているのも感慨深い。左シャドーの小柏は懐ドリブルの使い手で注目。

 

ゲームレポート

ミシャ式へ「つるべの動き」で対応

  北の大地で繰り広げられた壮絶な撃ちあいは、ミシャのチーム特有のビルドアップに対して、ベガルタがどう対処するのかの解答をまずはピッチで表現することで始まった。挨拶代わりというやつである。札幌は、3-4-2-1から、セントラルMFがバックラインにドロップすることで、4-1-5へ可変するいつものミシャ式。対するベガルタは、4-2-3-1。ボール非保持時は4-4-2でセットDFを組んでいく、こちらもいつもの形。あとは、誰が誰にプレッシングするのかの噛み合わせになる。

 まず、ゲデス、関口の2人がセントラルMFをカバーしながら、ホルダーへプレッシングをかける。それを合図に、片方(特に関口)がアンカーロールで残っているセントラルMF(特に荒野)をカバー。2バック化する札幌がボールを移動させると、ゲデス、関口が「つるべの動き」でプレッシング役とカバー役を交換していく。そこからサイドにボールを追いやり、ボールサイドを限定すると、ベガルタのプレッシング網が札幌のボールを絡めとろうとその網を縮めていく。ウィングに入った道渕、西村は、ワイドに広がるセンターバックをターゲットにプレッシングを敢行。同時に柳、パラの両フルバックはフォローに降りるウィングバックをターゲットに、高い位置まで縦迎撃プレッシングで縦へのコースを封鎖。シャドーへのコースをCMFである椎橋、浜崎がカバーするディフェンスで、ミシャ式ビルドアップを妨害する。

 結果として、4-2-4のような形にはなるけれど、札幌には両CB田中、福森と展開力のある選手がいることから、まずはバックラインへの制限をかけたかったのだと思う。前線からのプレッシングがかかれば、呼応して中盤から最終ラインも高い位置を取り、全体としてコンパクトな守備陣形を保てる算段だったのかもしれない。試合開始後、攻撃チャンスもあるなかで、まずまずのスタートを切ったと言っても良かった。あの大技が出るまでは。

 

ボックス型への変更と浮く田中に後手を踏む仙台DF

 札幌も修正を入れる。左CB福森、CBミンテの2バック+荒野、高嶺の2CMFによるボックス型ビルドアップに変更。右CB田中がワイドに開いた変則3バックとも取れる。中央2バック+1アンカーの3人で回すと、ベガルタのゲデス、関口にはコースを切りながら「1人で2人守る守備」をされてしまう。ここを4人にすることで、新しいパスコースを作ることになる。また、セントラルMFフォワード横に顔を出すなど、パスコースを作るための「外す」動きで、ゲデス、関口の「つるべの動き」を無力化。さらには浮いた田中が息継ぎポイントになるので、ベガルタのプレッシングは簡単に嵌らなくなってくる。

 ベガルタも応急処置的に、左WGの西村が中間ポジションをとって、セントラルMFとCB田中を見れるポジション取りをしたり、右WG道渕がCMFのマーク役を担当するなどで対応。ただ警戒している左右CBへのプレッシャーが弱まったこと、シャドーを警戒するCMFが低いポジションを取ることで、前線4人のプレッシング隊背後に大きなスペースを創ることになる。その代償として、先制点は、左CB福森からのロングキックという大技が決まって許してしまった。

 

襲いかかる赤黒とダイレクト志向で取り戻す前進

 ボール回収地点がどうしても高くならないベガルタ。奪ってビルドアップを開始するも、ミシャ札幌精鋭プレッシング部隊の激しいプレッシングを受けた。自陣からのビルドアップが多かったベガルタ。ボールを持つ時間を長くとって、相手のプレッシングを誘発して、アンストラクチャ(陣形が崩れた状態)を作り攻撃チャンスを作るのが目的であるけれど、これが完全に標的にされた形だ。2バック+2セントラルMFに両フルバック、GKを使ってボールを動かすも、ミシャ式と違って大きく立ち位置を動かさないベガルタは、ボールサイドを限定されると、ほとんどマンツーマンのような形でプレッシングをかける札幌に時間とスペースを制限され、次第に窒息していくようになる。

 嵌らない前線からのプレッシング、逆襲の形で前線からプレッシングをかけられ窒息するベガルタ。飲水後から先制点を許し、前半終わりまでは開始直後の様相とは打って変わってしまった印象だ。

 後半から取り戻したのは、ダイレクト志向だ。ボールを持つと、両ウィングが果敢に前進をかける。そこへシンプルにボールをつける形で、ボールの高さを確保する攻撃を見せる。パラ、柳も積極的なプレッシングから前線へ持ち上がる動きを見せ、特に柳は前半なかなか相手陣深くまで侵入できなかったが、コーナーフラッグ付近まで持ち上がるようになる。クロスがカットされてもコーナーキックを確保できるフラッグ攻撃の復活だった。ボールを持っても、持っていなくても前への圧を止めない札幌。ボール保持側が切り替わるトランジション局面で、3バックしか自陣にいないことはある意味代名詞的であって、ベガルタとしても前半のうちからこの代名詞を突きたかったのだと思う。

 後半開始から立て続けに3ゴール奪った流れは、この狙いをよりシンプルに徹底した形だった。逆襲のベガルタ。2点リードを有効に使えば、このゲームは「You belong to me」だった。ただ、自分たちが用意した罠が、間を置かず牙をむく。

 

FWのプレスバック機能不全がもたらす「4-4-0-2」ディフェンス

 後半開始から、ベガルタは選手配置を変更。FWを西村、ゲデスとして、関口を左WGへ変えている。構造的に浮く右CB田中への対処、間延びする守備陣形を考えた時、両ウィングを上下左右に守備で走れる「ワーキングウィンガー」にしたのはある意味納得いく変更だった。ワイドへ張り出すウィングバックを両WGが見て、シャドーをフルバックが監視することで、CMFが極端に低くなる現象を解消しようとするものだった。もちろん、2FWはCMFを警戒して、ボールサイドを限定する。ただ、試合開始後から警戒していた両CBがボールを使って地獄の門を開け始める。

 そもそも、3バック+2セントラルMFの3-2M字型ビルドアップなので、2FWでは物理的に見切れない。なので、限定して制限した先でグループとしてボールを奪っていくことが、ベガルタディフェンスにとっては至上命題となる。4-4のリトリートディフェンスは整理された。ただ、ファーストプレッシャーラインであるFWのプレスバックが効かない。CBからワイドにボールをつけてから、もう一度荒野や高嶺がボールを持っても、西村がそのコースを切れていない、ゲデスが戻り切れないなど、今度はハーフラインとフロントラインの間が空いてきてしまう。さながら、「4-4-0-2」といった具合だ。 

 特にゲデスは、2ゴールを取って仕事完了でアフター5に思いを馳せていたのか、ジョグで自陣に戻るなど、前半ほどの献身さは影をひそめることに。加えて、CBからのロングキックはそもそも制限をかけずにいるので、中央も使われながら大技も使われる非常に危険な状態に。と、考える間もなく立て続けに2失点を食らい同点。3失点目は、GK小畑が若さを見せたとも言えるけれど、そもそもは高い位置をとったWBから、FW背後にできたスペースを使った荒野からの長いボールが起点だ。ゲデスに代わって長沢、西村に代わってタカチョーが入り、最前線に道渕が入ったのはまさにこの部分の手当だと言えるだろう。

 

 

考察

Good!

 前へパワーをかけると、ゴール前に迫って攻撃が危険になることが改めて分かった。あとはその圧をどこでかけるのかにはなるけれど、先制を許すとなかなか大変な作業になる。それでも逆転できる力があるのは証明している。ウィングやフルバック、関口が相手陣深くまで攻め込める攻撃を継続できれば、セットプレーの機会もあるわけで、相手ゴール前でも何かが起こる可能性が増える。

 

Bad…

  試合開始から、札幌のストロングを非常に警戒して、さらにそれへの対処も見せたベガルタ仙台。ライン背後へのボール警戒の比重を高めたことで、変化する札幌のビルドアップへ追従できなかった印象だ。交代から終盤ごろには同数プレッシングを見せるなどしていたけれど、やはり後半開始直後の2FW起用は、より攻撃的な圧力をかけるのと同時に、守備陣形を整える策ではあったと理解する。ゴールを奪えたからなのか、それとも関口の役割はあくまで関口しかできないのか。選手の特徴上難しいのか。チームとして徹底させてきれているのか。やはり選手に任せているのか。などなど、いくつかの疑問が浮かぶ。試合後の木山監督は、メンタリティの部分を出すのも分かる「リード直後の失点」の繰り返しぶりではあるけれど、この試合については2FW起用である程度予測できたのでは、そもそもトレーニングでの落とし込みはやりきれていないのか、関口、道渕しかできないのか。コメントの意図である「リードしたことによる精神的優位をプレーにも活かそう」という試みと徹底で済めば、この話はそれほど難しい話ではなさそうに思えるが……

 

Next

 1点リードされるものの逆転し、そのリードを広げたにもかかわらずドローに終わった。表現したい統率のとれた前線からのプレッシングが生命線であることを証明しているし、相手や状況でどう機能させるのかを突き詰めたいなと。使えるものを使って、試せるものは試して、残りのシーズンを戦ってほしい。まだまだ強豪との対戦も待っているので、何が通じて何が足りないのかを明確にしていければいい。前線のプレッシングを支えるバックラインを高く保ちたい、そのためにはセントラルMFが接着剤になるので、ここが噛み合ってくればと考えている。

 

おわりに

 半歩ずつ進んで、2歩下がってまた半歩ずつ進んでを繰り返している。目指す場所に到達できるのか、その場所からまた次に目指す場所が見えてくる。今は、夏には見えなかった景色が見えているので、このまま歩みを止めないで、進み続けてほしいと思っている。

 

「ただ探しているだけだ。扉をな」こう言ったのは、ヴィンセント・ボラージュだ。

 

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【静寂の闇を】Jリーグ 第19節 ベガルタ仙台 vs セレッソ大阪 (2-3)【切り裂くように】

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホームセレッソ戦のゲーム分析。逆風吹き荒れる杜の都。クラブの存続をかけた闘いに漕ぎ出すなか、チームは三度、セレッソと刃を向け合う。静かな刺し合い。訪れる歓喜。すべての闇を打ち払うべく、金獅子のフォワードの二撃が、理不尽な世界への抵抗を示す。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、ここ2試合採用していた3-4-2-1から、4-2-3-1に変更。アウェイ限定のフォーメーションだったことを試合後に明かした木山監督。原点のウィングが帰ってきた。右ウィングに道渕、左フルバックにはパラが入る。

 セレッソは、いつもの4-4-2。セントラルMFに藤田ではなく木本、左サイドハーフで攻撃の全権を握る清武はリザーブ

 

ゲームレポート

4-4-2 vs 4-4-2

  アディショナルタイム。桜色の10番が放ったシュートは、鮮やかにゴールネットを揺らす。1週間の準備と関東連戦、逆転の2ゴールを挙げたベガルタ仙台を絶望の底へと叩き落とすのには、十分すぎるほどの、決勝ゴールとなった。ただ、これまで幾度となく味わってきた絶望とは違う。手も足も出ない、ゲームを成立させるので手一杯の情けなさも悔しさでもなく、自分たちが表現したいことのマックスをたった一本のゴールで上回れた悔しさだ。ここまで、戻って来たのである。挑戦できる場所まで。

 ベガルタは、この試合、関東連戦で採用した3-4-2-1、ボール非保持時5-2-3ではなく、4-2-3-1を採用。ボール非保持時には4-4-2で、ゲデス、関口の2人がセレッソのCMFを基準としながら、ホルダーになるセンターバックへプレッシングをかけていく。ボールサイドが決まれば、ウィング-セントラルMF-フルバック-センターバックのユニゾンスクエアで、サイドのボール前進を妨害。セレッソがボールを自陣へと下げるのを合図に、4人のアタッカーがプレッシングの号令をかける。セレッソ陣内に侵入すると、噛み合わせるかたちで同数プレッシングでビルドアップを妨害する。

 セレッソも4-4-2。攻撃の形は、4-4-2の形をある程度維持したまま実行する。ビルドアップも、2+2(CMF+CB)のボックス型。嵌りやすい形でもある。ボールを奪えば、縦への速攻よりは、きちんとプレッシングの波を外しながら、ボールを維持するポゼッション志向。お互いの4-4-2は、前線からのプレッシングとディフェンスに3人、4人と連動する多段守備。加えて、ボールを持って攻撃していくまさに「ミラーゲーム」のようなゲームになった。

 

ドロップで打開を図る両チーム

 膠着状態には、小さなズレが大きなズレを作るのが定石型である。バタフライエフェクト。くしゃみをすればどこかの森で蝶が乱舞する。まずは、ベガルタセントラルMF椎橋が、バックラインへ降りて、セレッソの前線からのプレッシングを外す。場所は、センターバックフルバックの間。左フルバックのパラは、高い位置を取り、左ウィング西村が相手フルバック-センターバック間のゴールに寄り近い位置でプレーすることが可能になる。ビルドアップの押し上げである。

 対するセレッソも、ボックス型ビルドアップから、セントラルMFをバックラインに落ちることで1+3の逆丁字型で噛み合わせにズレを起こそうとする。前半、ベガルタはこの噛み合わなさに、一時撤退を余儀なくさせられる。逆丁字型の影響で、よりワイドで高い位置を取るフルバックに、両ウィングが対応し、ゲデス、関口も1人残ったセントラルMFを監視するとなると、バックラインへのプレッシングが効かなくなる。時間とスペースのあるバックラインから、サイドチェンジのキックやピッチを広く使ったポジショナルアタックが繰り出されるのは、ある意味必然だった。

 ただベガルタも、飲水タイムで問答無用の修正が入る。ゲデス、関口とボールサイドのウィングで同数プレッシング。アンカーロールには椎橋がつき、フルバックにはフルバックが縦に迎撃する顔面ファイアープレッシングで対応。意地でも、前線から圧をかけることに拘り実行した。セレッソは、ベガルタの広く空いたセントラルMF横へ顔を出し息継ぎポイントを作る。こうなると、ベガルタとしてもまずはリトリートとなるが、もちろん前でカットできれば、武器である超ショートカウンターが炸裂する。決してオープンではないけれど、一歩間違えれば刺されるやり取りがピッチ上で繰り広げられた。その口火を切ったのは、本来担当する列から下がるドロップだった。

図1

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前に圧がかからないセレッソの中盤と空いたスペースを有効活用できないベガルタ

 もちろん、セレッソとしては、ベガルタの対応は織り込み済み。すかさずウィングが前線へとプレッシングへ駆け上がり、噛み合わせを維持する。そもそもセレッソの場合は、ウィングがホルダーの縦へのコースを切り、フォワード(特に奥埜)が横パスを制限する立ち位置を取る。そうなると、ホルダーにはバックパスで下げるか、中央のエリアにリスク覚悟でパスを刺すかの選択肢が「あえて」与えられる。バックパスならセレッソのプレッシングトリガーを引くことになるし、中央へのパスは2人のセントラルMF(特にデサバト)が大きな口を開けて待っている。その「縦を切る」ウィングが戦線を上げることになっても、多段守備が維持できている以上は、より前への圧が強まるメリットしかない。いつもの風景になるはずだった。ベガルタフルバックが、インサイドにいなければ。

 ベガルタは、椎橋のドロップと、パラのレーンチェンジの合わせ技で、セレッソのサイドの多段守備を崩しにかかる。右ウィング坂元は、パラへのコースを制限しながら椎橋への圧をかけたいが、肝心のパラはもとのワイドなポジションからインサイドにいる。こうなると、右CMFデサバトも、パラに対応しながら坂元のプレッシングに追従しなければいけないというダブルスタンダードを突きつけられる。また、デサバトには、背後にウィング西村、アタッキングMF関口がオフボールランを繰り出す、そのカバーにもする必要があり、非常に戦術的なストレスフル状態になる。

図2

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 この連戦を6試合(途中交代含めて)で続けているチームの中心であるCMFデサバト。先の戦術的負荷と体力的負荷からか、前線との距離が伸び、コンパクトさを維持できなくなってしまう。ベガルタとしては非常に有利な状態で、戦術的なポジショニングで使えるスペース、奥埜、坂本、デサバトの三角形が間延びしたエリアを有効に使って攻撃したいところ。実際、CMF浜崎がボールを受け、前線へと供給する。ただ、逆サイドのパターンもそうだけれど、椎橋、浜崎のパスの殺傷能力が上がらない。背後に抜けるボールなのか、間受けさせるボールなのか、前線と合わないシーンが見られる。また、非常に基本的なトラップであったり、パスの1本1本がズレるなど、せっかく相手の状況を利用して自分たちでつくったエリアを有効に活かし切れてないように見えた。

 結局、後半にはセレッソのFWが下がり目のポジションを取ることで、全体のコンパクトさを取り戻し、使えるスペースというのは限定されることに。ただし、同点ゴールは逆に時間とスペースができた平岡からの攻撃であり、横も縦も制限がかからないなか、前半から続けたパラのポジショニングとの合わせ技のゴール。だからまあ、サッカーは簡単ではないってことだ。2点目は多少のズレはあったが、最終的には西村のPKを誘発。これは前述の空いたエリアを使えたシーンだったと言える。

 

サイドからの打開

 この試合、膠着する両チームがドロップで時間とスペースを創り、打開を図ったのがサイドだった。お互いコンパクトな4-4-2。ボールサイドに人数をかければ、逆サイドのエリアが大きく空いて来る。セレッソは、バックラインからロングキックを蹴る。また、ベガルタがリトリートすると、セレッソ同様、横パスの制限がかからなくなり、ショートパスでもサイドを変えることができるようになる。

 ベガルタも、左サイドでポジショニング勝ちをして時間とスペースができると、逆サイドを駆け上がる柳に何度もボールを供給。ボールサイドの転換で、チャンスを作り出す。

 

間延びする75分以降

 スタートから、統率の取れた4-4-2ディフェンスだったベガルタ。前線からの圧力を維持し続けようとしていたが、ラインが上がりづらくなってくる。交代も使いながらなんとかプレー強度を維持したまま戦いたかったけれど、同点、逆転と失点を許してします。防戦一方ではなく、ポゼッションでの「回復モード」を設けることで、全体のコンパクトさ、前線からのプレッシングを維持しようと取り組んでいるような気がする。気がするだけ。そのバランスについては、再開後の試合で最もよかったのではと思える完成度だった。それでも、相手が相手なら見逃してはくれないし、一発で局面を打開されてしまう怖さがある。最前線と最終防衛線とを繋ぐのは、中盤だと思うし、全体がコンパクトさを維持しながら前線からのプレッシングを支えるのは、4-4-2であればセントラルMFになるのかなと思う。ロティーナの、セレッソ大阪を見て、なお一層、そう思うのである。

 

考察

Good!

 全体が連動したプレッシング、後手に回らないディフェンス、奪ったらボールを握りながらスペースを創り使う攻撃など、メンバーが入れ替わるなかそれでも十何試合とやってきた積み上げを見せることができた。関東連戦用フォーマットと、ホーム用フォーマットを準備した木山ベガルタ。さすがとしか言えない。しかもそれは決して継ぎはぎパッチワークではなく、きちんとチームの設計図たるゲームモデル、選手の行動指針であるプレー原則をもとに、ズレの修正、個別対策をやってのけた。対策する余裕がないと書いて申し訳ない気持ちしかない。

 

Bad…

 中盤のスペースしかり、75分以降のゲームコントロールのところもそうだけれど、やはり自分たちでつかみ取ったチャンスやペースを活かし切ってほしいと思うし、そのために血みどろの努力をしているわけで。もちろんそれはこれからの課題であって、これはまだ、まだ一歩に過ぎないのだと思う。やるべきことをやってきたチームなのだから、これからもきっと変わらず続けていけばいい。

 

Next

 先鋭的でポジショナルなサッカーを披露し、4-4-2のコレクティブディフェンスを見せた渡邉前監督は、そのサッカーとは裏腹に、非常に「人間臭い」チームだったように思える。西村、野津田、奥埜、板倉、富田、道渕、関口、シマオなどなど。チームとして表現することが変わっても、どこか選手個人が輝くような、逆を言えば、そこが突き抜けられなければ、青天井を迎えてしまうなど。その分、木山監督のサッカーはどこかドライで、システマチックで、冷徹さを感じるかもしれない。ただ、1人いるいないが大きな影響を及ぼし、チームがやれることにまで影響するようなことはなく、チームの設計図であり、目指すべき絵がこのチームの主役だ。この明確な絵を選手がみんな共有して、輝くからこそ、西村はゴール後に芝生の上を滑りゴローと抱き合い、パラは胸を叩いて吠えたのである。どちらかが良い悪いなんて当然ない。どちらも、良いのである。

 

おわりに

 さて、いろんなことが今のベガルタを取り巻いていて、正直試合どころじゃねえって言う感想もあるかと思う。けれどそれは、これまでもずっと言われてきたことであって、今年はさらにあのクソッタレが世にはびこっていることもある。 必ず訪れる災難には必ず立ち向かう必要があって、やってくる試合にもまた、立ち向かわなければいけない。そんなことを考えられるくらいに、この日のチームは最高だったし、サッカーに神様がいるって信じたくなる結果にはなったけれど、彼らの良い挑戦を微力ながら支える三下の三下として、また進みたいと思っている。

 

「Always be yourself, express yourself, have faith in yourself, do not go out and look for a successful personality and duplicate it.(常に自分らしくし、自分を表現し、自分を信じろ。どこかの成功者のお手本なんてマネするな)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

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【矛盾だらけの世界を】Jリーグ 第18節 横浜・F・マリノス vs ベガルタ仙台 (3-1)【その手で撃ち放て】

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイマリノス戦のゲーム分析。新たなフォーメーションで、かつての輝きを取り戻しつつあるベガルタ仙台。王者相手に、真正面から飛び込んでいく。降りしきる雨のなか、無数の弾丸が飛び交う。長く続く苦闘に、自分を取り戻すことができるか。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、前節同様、3-4-2-1で守備時には5-2-3でセットする形。スタメンは9人を変更。中2日の完全に頭が狂ってる日程に対応するためのローテーションだ。対マリノスかどうかは別として、先週1週間でゲームモデル、プレー原則の確認は済ませているはずなので、メンバーが変わっても表現できるはず。

 マリノスもなんと3-4-2-1。ベガルタ戦の前から変更はしているけれど、王者にも色々あるんだあと思った。喜田名人がリベロ。どっちのジュニオールか迷うようになった柏から獲得したジュニオール・サントスがセンターFWを務める。鬼のような連戦でも、マリノスもやること、表現したいことは変わらない。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

コレクティブな超ショートカウンターの復活

 ベガルタの狙いは、復活したプレッシングからの超ショートカウンター。敵陣、いや相手ゴール前でボールを奪い、一気にゴールまで迫っていく。 また、ハーフラインでボールを奪っても、その姿勢は変わらず。マリノスのDFライン背後を狙う前線へ、ダイレクトにボールをつけていく。特にマリノスは、極端にハイラインを敷くのと、ボールを奪われた後、WBが高い位置でカウンタープレスからの即時奪回を試みるので、3バックの横にスペースができる。ベガルタは、両シャドーがこのスペースを狙うのを第一優先とし、兵藤、中原のセントラルMFが3列目から飛び出していくプレーも見せる。また、飯尾、パラの両WBも、対面するWBを引きちぎりながらスペースへランニングする。

図1

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 3-4-2-1と最前線は、ゲデスのセンターFWのみだけれど、後列のシャドーやCMF、WBが同じくらいの高さへランニングするのは非常に攻撃力がある。特にラインを上げて、ボール周辺の密度を高めたいチームにとっては、そのコンパクトさをランニングで引きちぎられる。マリノスも、特に右WB水沼にとっては背後のスペースを気にしながらだったので、対面したパラも水沼のパワーをすべて受けることを避けながらプレーできたように見える。相手陣への侵入回数も多く、ボックス内へも果敢に仕掛けた。

 

ボール非保持時

復活した前線からのプレッシング

 ベガルタ同様、3-4-2-1の布陣で挑んだマリノス。ビルドアップについても、たとえばCMFがDFラインに降りるなどの可変を見せることなく、ある程度陣形を維持したままビルドアップする強気の姿勢。王者の風格。覇道を行くとはこのことだ。そんなマリノスに対して、我らベガルタ仙台は、試合開始から顔面にプレッシングを浴びせる。

 ベガルタのDFは、5-2-3の守備陣形で、そのままマリノスの陣形に噛み合わせるように、オールコートマンツーマンさながらの前線から攻撃的なプレッシングを展開。敵陣でボールを奪取してしまう策だ。リーグ再開後、4-3-3の陣形からのプレッシングは大きな驚きと、手ごたえを感じたのは記憶に新しい。木山さんのコメントの通り、形は違えど、自分たちの原点に戻ってきた形だ。  マリノス3-2のM字型ビルドアップに対して、ベガルタも強気の姿勢で対抗。そのまま数を合わせて、プレー時間を制限することに。サポートに降りるWBに対しても、パラと飯尾の両WBが果敢にプレッシングをかけていく。マリノスが後ろ向きなら、ベガルタは前向きに守備ができるし、奪えば攻撃方向と身体の向きが一緒なのも、攻撃のスピードアップへの貢献も大きい。

図2

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 そんなこんなで、前線からのプレッシングからゲデスの先制点が生まれる。中央で嵌り切らなくても、サイドで、シャドー、CMF、WBが三角形を作って、縦にスピードアップさせない。また、前プレした背後へも簡単にボールを出させなかった。加えて、マリノスのシャドーに対しては、柳、平岡の両CBが中盤まで降りる2人に徹底マーク。「地の果てまでマーキング」で簡単に仕事をさせなかった。柳はサイドの選手ながら、強さと速さを買われ、マルコス番としての役割を果たすことに成功。連戦の疲労やピッチコンデイションなどもあるのか、マリノスのプレースピード、パススピードがアップしないこともあって、出足勝負に勝つことになる。

 

押し込まれるDFラインと前から行きたい前線

 ただ、そんなマンツーマンDFも長くは続かない。マンツーマンのデメリットは、相手がマークを外そうと動くので攻撃がテンポアップすること、人についていくので背後を裏抜けされることがあり、DFしているのに相手の攻撃がどんどん良くなっていくことがある。さらに、相手も時間経過とともにマークに「慣れ」が生まれる。それでも、ボールが出た先やマークする選手で相手を上回ることが重要になる。柳がDFラインを離れてDFするような大胆さが必要になる。ただ、マリノス絶対王者として、ベガルタDFを攻略しにかかる。

 2人のシャドーが中盤まで降りるようになり、ベガルタのマークにズレが生まれ始める。さすがに、柳も平岡もハーフライン付近まで毎回行くのはためらったのか、DFラインに留まるようになる。ただしこれには、マリノスの両WBが空いたスペースを突くような裏抜けのランを何度か見せていたので、パラと飯尾がかなり難しい対応を強いられていたことも関係している気がする。気がするだけ。そんな関係性のなかで、シャドーへのマークを引き継いだのは兵藤と中原のCMF。相手CMFへはゲデスを中心としたボールサイドのシャドーが担当することになる。こうなると、マリノスのバックラインに時間とスペースが生まれる。また、CB間の距離も、試合開始直後は近い距離だったけれど、ワイドに広がることで、ベガルタの3FWのプレッシングを分散。シャドーが前線からプレッシングをかけるのか、全体としてリトリートするのか、その辺りの意思統一に微妙なズレがあるなか、前半のうちに同点を許したのは痛かった。

図3

f:id:sendaisiro:20200925180758p:plain

 

 ハーフタイムを挟んだり、選手を交代することで、前から圧を取り戻すベガルタ。荒れたピッチに、ボールスピードが遅くなったり、コントロールに手間取るようなら、前線3人とWBが試合開始直後のように、リーグ再開直後のように、前へ前へとプレッシングする。ただ難しかったのは、バックラインが追従してラインを高くし、全体をコンパクトにできなかったことだ。プレッシングにおいて、人口密度を維持して「次から次ディフェス」を仕掛けるのがひとつ重要であって、DFラインも前線のプレッシングに呼応する必要がある。ただ、試合経過の疲れや選手の特徴、再三マリノスがライン背後を裏抜けしてくる(CMFの裏抜けも)ので、そう簡単にはいかないのかなとも思う。

 

考察

前線3-2のプレッシング

 鹿島戦の記事で、5バックの世界線については触れていたけれど、実際には少し違っていた。3人のFWは維持したまま、CBを3人にすることで背後のスペースをカバーする策を取った。5-2-3で前線からのプレッシングを蘇らせた。さすがである。前線でのプレッシングは、センターFWとシャドー、セントラルMFの3人が挟み込んでいく形だし、中盤に押し下げられたら、シャドーとセントラルMFが横と中央を切り、WBが縦を封じていく。ピッチ各所に三角形を作って守ることで、相手の侵入を抑える。その形が最も出るのが、現状5-2-3ということになる。背後を気にするな!は、口で言うのは簡単だけれど、たしかなロジックと実際的な方法論が無いと、すぐに破綻してボールを蹴り飛ばされ、サッカーコートはこんなにも広いんだということを嫌というほど味わうことになる。プレッシングに行く選手の背後のカバーが弱点だった4-3-3に対して、WBやCBなど、5バックが強力にカバーするのであれば、前からの圧というのは消えることは無いと思う。

 

「コンパクトさ」か「スペースのカバー」か

 とはいえ、3失点目のシーンは、バックラインがパラのプレスを合図にラインアップしていたらと思うし、アンカーがいれば1失点目も、3失点目も無かったのではと、「たられば」を考えてしまう。どちらのアプローチでも良いのだけれど、前線の「プレッシング隊3-2」を支えるための策は、今後も必要になりそうだ。そこに手が入らないと、CMFの位置が低くなって、全体が低い位置に5-4-1の壁を立てることになる。この試合で、柳がどこまでもマルコスをマークしていたように、やり切ることが大事になってくるのかなとも思っている。

 

連戦の先に

  個別対策を立てるのは難しいなか、プレー原則でどこまで戦えるかが重要になる。マリノス戦も、落ちるシャドーにどこまで対応するのかや、東京戦みたいにCBの横に落ちる三田へのマークなど、「対策の対策」まで正直手が回っていないのだと思う。だから、やり続けることが重要で、フォーメーションやチームの性格もあって完全に噛み合ったマリノス戦のようにならないこともあると思うけれど、自分たちのマックス値をとにかく出し続けてほしいと思っている。

 

おわりに

 貫くところに戻って来た感のあるこの2試合。絶望の連戦に、少しではあるけれど、陽の光が射しはじめる。雨の関東。ハレとケ。次は仙台で。勝ててないホームで。輝き。次節、9月、最後の試合である。

 

「I fear not the man who has practiced 10,000 kicks once, but I fear the man who has practiced one kick 10,000 times.(わたしは一万種の蹴りを一度だけ練習した男は怖くないが、一つの蹴りを一万回練習した男は恐ろしい)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。 

 

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【迷わずに今】Jリーグ 第17節 FC東京 vs ベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイFC東京戦のゲーム分析。厳しい連戦を前にチームは一つの変更を加える。再び、ピッチに登場する3バック。失われかけた守備のアイデンティティを取り戻す挑戦は、また再びここから始まる。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、「まずは守備の立て直し」の意図で3-4-2-1を採用。守備時には5バックになる形。センターバックアピアタウィア久ことQちゃんが入っている。ウィングが消えてなくなり、シャドーになったけれど、ここのオフボール時の動きが重要になる。

 FC東京は、ベガルタと違って連戦の真っただ中。メンバーもケガ人や移籍で昨季とは様変わりしている。リザーブには、永井、オリヴェイラコンビが控えていて、後半からの圧増しに構えている様子。アンカー品田には注目。ボール非保持に強みがあるFC東京のなかでは異色の選手で、ボールを持った時に違いを生み出す選手。浮き球パスに注意。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

ウィングからシャドーへの変更で取り戻す『翼』

  ベガルタは、3バックと2CMFでM字型でビルドアップを開始する。東京の3FWが3バックに前線からプレッシングをかけ、内田、三田のインテリオールが浜崎、椎橋の2CMFに同数プレッシングをかける。そうすると、タカチョーと真瀬のWBが低めの位置に構えるので、噛み合わせ的に浮いたポジションになる。人基準に、球際と切替のところで違いを生み出したい東京。このWBへのプレッシングで、まずは強度を出したい、頑張りたい試合になった。

 ピッチ上では、中村、小川の東京両フルバックがWBへプレッシングをかけていく構図になる。こうなると、ベガルタとしては理想型で、特に右シャドーに入ったジャメが小川の背後へオフボールランを繰り出し、CB森重を広大なサイドへと誘き出すことに成功している。あとは、ジャメvs森重の勝負に勝てるかどうかの戦いになる。たださすが日本代表級CBといったところか。簡単に前を向かせてもらえず、ジャメとしてはケガから復帰してからの試合で、最も理想的な形でボールを受けていたけれど、強烈なスプリントで前進するまでは叶わなかった。

図1

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3-4-2-1攻撃

 連戦の影響か、セットDFの脆さか、その両方かは分からないけれど、東京陣内でのDFはCFWアダイウトンが椎橋、浜崎のCMFへのプレスバックが弱く、4-5の2ラインのみでCMFがボールを持つとブロック全体がプレッシングをかけられずピン留めされたような状態になる。選手間、ライン間も空いていることから、3FWが4バックの選手間を突くようなポジショニングして、縦パスを刺せる状況を作った。ベガルタとしては、サイドからのクロスに強さを見せる東京に対して、こうした中央を使った3線攻撃の機会を多く創りたかった。ただ、東京としても中央でのトランジション勝負には強さがあるので、サイドでリスクを減らしながらの攻撃を重視したのだと思う。

  試合途中から、左右CBもボール周辺に加わることで、ホルダーに2人、3人がサポートする形でサイドでのポゼッションを安定させた。時間が経過するなかで、東京の「ブロックも選手間、ライン間が空く問題」、「センターFWアダイウトンのプレスバック弱め問題」を突く形で、中央でボールを持つと関口、ジャメが4-5のライン間にポジショニングするようになる。ホルダーであるCMFにパスを出せる時間とスペースもあるし、間を抜けていくプレーから、間で受けるプレーでワイドに張るWBと連動して崩そうとする修正の意思を感じた。

 後半になると、WB真瀬がボールを持つとプレスをかける小川の背後を抜けるプレーよりは、前進をサポートするように寄っていった。ただし、たとえばジャメなら4-5の選手間である「廊下」を走るプレーの方が得意だし、「廊下」に立つプレーとなると、昨季までの課題が出てくる。浜崎のボールと合わないシーンもあるなど、走るのか受けるのかのアジャストが必要になりそうだ。

 

ボール非保持時

前向き守備を取り戻す

 ベガルタのセットDFは、5-2-3。ジャメ、関口の両シャドーは相手CBを基準に、縦のパスコースを切りながらプレス。長沢がアンカーをカバーする形。東京がフルバックを低い位置にして4バック化することで、両シャドーのプレッシングをCBへの縦方向とフルバックへの横方向へ分散化させた。ベガルタとしては、フルバックへのプレッシングをタカチョー、真瀬のWBに任せ、東京のWGをシマオ、Qちゃんの左右CBがマークするのが理想型。より高い位置で噛み合わせをはっきりさせて、前線からのプレッシングを機能させるのが狙い。

図2

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 東京は、4バックのビルドアップでも、右サイドで三田がインテリオール落としでCB-FB間にポジショニングする一手間を加えている。よりサイドの選手を高い位置にポジショニングさせ、前への圧をかけていく。また、左サイドでも、WGのレアンドロとインテリオールの内田がポジションチェンジをかけて、マークする浜崎とレアンドロとのミスマッチ、真瀬が左フルバック小川に高い位置でプレッシングをかけづらくさせる工夫を見せる。シンプルな形ではあるけれど、サイドの三角形のローテで、ベガルタのサイドでの守備の圧を減衰させた。 

 

考察

5-2-3守備の有効性

 もともと、4-3-3でも、4-2-3-1でも、守備時にWGやフルバックの背後をどうやってカバーするかが課題であり、その解決策として4バックでペナルティ幅を守ったり、CMFがプレスバックしたりしていた。4-2-3-1ではCMFがバックラインに入って、関口がCMFのポジションに入って瞬間的に5-4-1で対応していたことから、背後スペースのカバーの原則は5-2-3でも変わらない。5-2-3だと、WBが縦に迎撃していく背後を左右CBがカバーする形なので、より前にベクトルを向けやすい守備になる。

 また、シャドー・CMF・WBで三角形をサイドに創り出した守備も、4-3-3のセンターFW・WG・インテリオールでも見られた守備なので、ハーフラインでのプレッシングの原則も5-2-3で整理してより徹底させたのだと思う。あとはこの試合のように、相手フルバックが低めに位置する時、物理的にWBのプレッシング距離が伸びるとシャドーがプレッシングを分担することになれば、サイドの選手の体力的な面、強度面が重要になってくると思う。

 

ボール保持攻撃の課題

 1週間の時間があったなかで、オフが2日間でリカバリーをしっかり取り、守備のプレー原則をもう一度整理して意思統一していたと思うので、実際攻撃に関してはまだまだこれから仕上げていくのだと思う。守備の面での不安が無くなっていけば、攻撃へのトレーニングに重点を置いていくのだと思う。攻撃に関しては、この試合でもゲームモデル、プレー原則の修正等はおそらく無いと思う。多分。相手ブロックの選手間をオフボールランで突いていくこと、DFを誘き出して背後をオフボールランで突いていくこと、空いていないのなら広げることの基本的な原則は、3-4-2-1でも変わらないと思う。あとはウィングがインサイドになったこと、WBは基本的にサイドを1人で担当することの変化点に対してアジャストしていく作業が必要になる。

 

ズレの修正と意思統一

 チームの設計図であるゲームモデル、選手の行動指針であるプレー原則が選手の間で相互理解できていれば、フォーメーションなんてものは電話番号に化けるのだけれど、肝心の理解の時間をいかに作れるか。この試合のように、しっかりとリカバリーもできて、1週間時間があるとその理解も進むし、対戦相手用に微調整もできるように感じる。選手が入れ替わるなかで、それぞれの理解進捗やコンディションの上がり具合も違うなかで、「諦めず続けます」を再開後の前半戦でどのくらいできていたかが、今後の後半戦ともちろん来季以降にも繋がってくると思うし、効いてくると思う。ここで一度「本来チームとして求めていた守備を取り戻して、ボールを持った攻撃をどうするか」のラインまでは戻してきたと思うので、連戦で難しいなかではるのだけれど、維持しながら課題の解消を続けてほしいと思う。深化。進化。新化。神化。シン化。

 

おわりに

  FC東京は難しい日程、ケガ人を抱えるなか、やるべきことであるプレスで制限をかける、ボールを奪いきるなど、非常に強度高くきていた。攻守において切れ目なく、集中できていた印象だった。まさに、「骨の髄」まで長谷川健太のサッカーが染みこんでいる。もちろんここまでくるのに、自動販売機で100円入れて買ってきたわけではなくて、様々な試行錯誤もあったのだと思う。脳が判断するのではなく、脊髄が判断する、いや反射するなのか、この場合は。ベガルタも、まさに骨の髄に木山サッカーを注入している途中で、今の状態で言うなら、脊髄すらボロボロな状態であって。まだまだ、先の先の話なのだろうけれど、少しずつでいいから染みこませてほしいと思う。

 

「If you love life, don’t waste time, for time is what life is made up of.(人生を大事にしているなら、時間を浪費してはいけない。人生は時間の積み重ねなのだから」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

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【受難】Jリーグ 第16節 ベガルタ仙台 vs 大分トリニータ (0-3)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホーム大分戦のゲーム分析。光すら消してしまう暗闇。入り込んでしまったトンネルの向こうに待つのは、どんな世界か。想像すらもできない世界で、ホームユアスタに迎えるのは、昨季ホーム最終戦で戦った大分トリニータだった。あの日から、すべてが変わった世界で、未来への明確なビジョンを示し続けることはできるか。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。今回も変わらず。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-2-3-1。左フルバックにリーグ戦初出場のパラが入る。ウィングには西村に代わってタカチョー。ジャメは40分で関口に交代する厳しい試合に。

 大分はカタノサッカー代名詞の3-4-2-1。GK含めたバックラインでボールを回しポゼッションし、相手ブロックが空いたところで一気呵成に攻め込むスタイルで、昨季J1を席巻した。センターFWに入る伊佐は、DF背後に斜めのオフボールランを繰り出せる要注意FW。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

前線からのプレッシングで窒息する仙台

 ベガルタのビルドアップは、ボックス型(2人CB+2人CMF)。GKも含めて、自陣から繋いでいくポゼッション志向。大分は、5-2-3のDF陣形から、前線からのプレッシングでビルドアップを妨害する。ボール扱いが上手いジョンヤにボールが回る回数が多かったけれど、大分としては、プレッシングでサイドを限定しやすくなった。センターCFW伊佐がホルダーへプレッシングをかけ、シャドーがワイドに張るフルバックへスライドDF。フォローするセントラルMFへは、大分もCMFが同数対応。1対1局面を各地につくることで、マンツーマン気味に抑えてくる展開。

 

図1

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 ベガルタは、ウィングのジャメにボールを出して陣地回復を目指すが、大分も警戒しているため、鹿島戦同様、CMFやWBの強烈なプレスバックで潰される機会が多かった。 また、ゲデスや長沢へボールを逃がしても、3バックが飛び出してボールを狩りとっていく。DF面でも低い位置にならざる負えない展開で、ビルドアップでも抜け出せないとなると、大分の時間が長く続くことになる。

 

兵藤と関口で攻撃が息を吹き返す

 後半、兵藤投入後、大分のサイドDFを担当するシャドー背後に、兵藤と関口が顔を出す。また、相手CMF横を使うなど、5-4-1の4の空いているスペースにポジショニングし始める。前半に猛威を振るった大分のプレッシングの背後を突く形で、合わせ技のWGの裏抜けもあって、相手WBの誘き出しやCMFをサイドに引っ張り出すなど、相手ブロックを広げる作業で、ボール保持する時間を作るベガルタ。後半開始から飲水タイムを挟んで80分頃まで破竹の勢いで攻撃を仕掛けた。

 

 ゴール前での圧をかけるために、サイド攻略担当は2人~3人。ホルダーに1人~2人が絡んで、コーナーフラッグ付近を目指すフラッグ攻撃とゴール前へのクロスに活路と見出す。ただ人数をかける大分の守備に対して、サイドを担当する選手での攻撃に終始したベガルタ。最後にブロックを崩すまでには至らず、ゴール前へクロスを上げ、シュートチャンスをいくつか創ったが届かなかった。

 

ボール非保持時

防戦一方になった前半

 ベガルタのセットDFは、4-4-1-1の4-4-2系。大分のオリジナルフォーメーションは、3-4-2-1と4-4-2の構造的痛点をどうカバーするのかが焦点。ただ、大分の場合は、ビルドアップ時にポジションチェンジを伴う可変式。ポジションチェンジ後のDFがどうかがこの試合のキーになる。大分は、CMFの羽田がDFラインにドロップして、左右CBがワイドに開き、WBが高い位置を取るミシャ式を採用。コンパクトな陣形で、前線からプレッシングをかけたいベガルタにとって、プレスターゲットの選手が広がるのはプレッシングが分散することを意味する。

 

図2

f:id:sendaisiro:20200915200728p:plain

 

↓大分のビルドアップについて 

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  ベガルタは、これまでの3バックのチーム同様、両WGが大分CBへプレッシングをかけることを狙ったのだけれど、CBがワイドレーンへ開いていくこと、WBが高い位置を取って柳、パラに対応を強要させたことから、前線からプレッシングに行きづらい状態になった。左サイドでは、CBの岩田にタカチョーがプレッシングをかけると、その背後のスペースをWBやシャドーが使う形に。また、シャドーも、WBに誘き出されたパラの背後や、CFWの伊佐が左CBシマオと左FBパラの間をオフボールランで突いていく動きで、ベガルタの左サイドに問題を起こした。

 

図3

f:id:sendaisiro:20200915200800p:plain

 

図4

f:id:sendaisiro:20200915200840p:plain

 

 タカチョーとしても、チームの狙いである前線からのプレッシングを実行したいものの、自分がいけば守備が崩壊する一手に繋がりかねない心配から、岩田への積極的なプレッシングを抑えて、WB田中への対応を優先とした。結果、ベガルタのDF陣形は、4バック+タカチョーの5バック化した状態で手当てをする。その分、岩田を中心として、WBやシャドーを加えてスペースを活用されるので、アタッキングMFのゲデスが岩田へのプレッシングとサイドのカバーの『二度追い』で対応した。ゲデスの走行距離がチームトップになったのには、前半DFで追いかけた分だと思える。

 

 左サイドの応急処置に、「リトリートDFを崩す課題」がある大分としては、このままベガルタの左サイドを一点突破するわけにもいかず、ボールサイドを変えていく。ベガルタの右サイドも同様に、開くCB・高い位置のWBに対して、ジャメが曖昧な立ち位置でのDFを強いられていた。ジャメは、今のチームの攻撃の核であり、ポジティブトランジション時にはカウンターの急先鋒になる。チームの狙い・表現したいことでも、なるべく高い位置でDFさせて、攻撃の開始地点も高くしたい。そんな、表現したいことと目の前の現実との間で揺れ動くかのようなジャメの立ち位置だった。

 

 ただ、左サイドの応急処置と違って、左CB三竿にはジャメ、左WB香川には柳がプレッシングをかける。柳の背後のスペースを左シャドー町田がオフボールランで突くが、CMF浜崎がそのままマークして着いていく。柳もジャメも、DF時の前へのアタックは非常に武器になるのだけれど、その後のプレスバックやポジションを取り直すのに時間がかかる。あるいは、守備意識がそこまで高くないのか、背後のカバーを浜崎、ジョンヤに任せていた印象だ。前線からのプレッシングで、ホルダーに制限がかかりきっていない状態で、背後のスペースを空ける非常に危険な状態でのDFをすることに。

 

図5

f:id:sendaisiro:20200915200920p:plain

 

 浜崎があけたスペースも、本来なら、アタッキングMFの関口が埋めるのだけれど、この日はリザーブ。ゲデスは逆サイドのカバー、長沢はボールサイド限定とカウンター要員としての前残りで、前半の守備は論理でも根性でも破綻した状態に陥る。先制点を奪われ、前線からのプレッシングもプレスバックもかからない右サイドへの手当は急務で、結局は前半のうちにジャメに代えて関口を投入。ゲデスを右WGにして前への圧を取り戻した。

 

4-3-3で蘇るプレッシング

 後半開始、兵藤、西村が投入されてからは明確だったけれど、フォーメーションを4-3-3に変更。WGとインテリオールが前線からプレッシングをかけるスタイルで勝負にでる。大分の3バック+2CMFに対して、3FW+2Cインテリオールでガチ当たりする同数プレッシングだ。ワイドのWBには、両フルバックが高い位置まで迎撃DFすることでボールを前へ前進させない。もちろん、バックラインで数的同数や優位を作られる構造ではあるけれど、ゲームとして成立させる、2点を取って逆転する狙いとみる。

 

図6

f:id:sendaisiro:20200915201131p:plain

 

 大分も、選手交代でフォーメーションを5-3-2に変更。ただこれはベガルタの同数プレッシングをさらに加速させる結果に。3FW+3CMFで完全に嵌めこんでいく。相手陣でのマンツー気味のプレッシングとセカンド回収によりポゼッションを高め、波状攻撃をかけるベガルタ。セットDFには難がある大分の苦しめることに成功。①噛み合わせ、②ホルダーへの制限が前線からのプレッシングの要諦だけれど、その2要件を果たしながら、デュエル局面でボールを奪いに行く姿勢を見せた。その後、前がかかりになった背後をCBがさらされ失点。残念ながら、勝負に出たが負けてしまった。

 

考察

4-3-3プレッシング

 前半に防戦一方になったことを考えると、後半開始から勝負をかけるのは予想できたけれど、ウィングが高い位置を取る4-3-3でのプレッシングで前から圧をかけたのは良かった。当然、ウィングの背後のカバーやCBへのロングボールで1対1を強いられた際の弱点はあるものの、たとえばフルバックの縦迎撃や3センターの横スライド、ウィングのプレスバックなど、改善策はいくつか考えられる。大分は、J1のなかでもボール操作技術に長け、プレッシングを外す術も持っているチーム。もちろん受けに回ったことも考慮されるが、そのチームにプレッシングが通用することを証明する30分間だったと思う。

 

チームの構築についての限界

 開幕時から、新チームであるので、チームとして表現したいことや設計図、それに伴うプレー原則の選手への理解と落とし込みに重点を置いているのだと思う。また、連戦も続くなかで、対戦相手ごとのゲームプランの構築に、あまりリソースを割けていないが現実だと感じる。さらには、表現したいことやプレー原則の落とし込みについても、今の試合状況を見ると十分とは言えないし、理解が深まっているかと言われると正直厳しいように見える。自分たちの目指すものも不十分、相手への対策も十分で無いとなると、なす術なくやられてしまっている厳しい現状なのだと考える。

 最悪、表現したいこと、プレー原則などの自分たち目線を相手にぶつけていくのも考え方としてはあるけれど、選手の心身も整っていないなかで、選手の相互理解、落とし込みも進んでいないように感じる。連戦、猛暑、ケガ、コロナ禍など、選手としても非常に厳しい環境下に身を置いていて、疲弊しているなかで新しいことを身に着けるのは僕たちの想像以上に難しい作業になる。要するに、「常にリラックスした状態で、新しいことへポジティブに取り組めているか?」である。

 ただ、関口は、やるからにはプロとしてきちんとやろうという趣旨だと想像するのだけれど、「責任」「強度」というコメントを発信している。やりたいことが明確で、それに取り組むコンディションがメンタル的にも、フィジカル的が整っているか?選手として整える責任を果たせているのか?という問いであり、それらがきちんと果たせているなら強度は自ずと上がってくるはず、という理解をしている。

 もちろん選手にはやれることをやり尽くしてほしいという思いがあると同時に、チームとしても、試合から試合へ時間があるなかで、選手の心身のコンディションを整える作業にも手を入れてほしいという思いもある。ただそういった理想的な思いとは裏腹に、難しい日程もあるし、サッカー以外でリフレッシュするにも限定されているなどの制約もある。そういう、複雑に絡んだ現実対応に、木山監督を中心にスタッフもあの手、この手を尽くしているのだと想像できるけれど、試合後木山監督のコメントにもあるように、小さなズレを直そうとしてまたズレてを繰り返す、もがけばもがくほど深みに嵌っている状態になっている。

 

試合への向き合い方

 ただ、やはり再開後の湘南戦を見ても、決して木山監督がイメージしているサッカーを選手やチームに落とし込めない、落とし込む方法論を持っていないわけではないのは明らかで。そこからチームは、マリノス戦以降、また違ったものになっているけれど、もう一度目指していることは何なのか、譲れないものは何のかを明確にしていってほしいと思っている。相手陣でのプレス特化型でもいいし、ウィングがDF背後を狙う縦志向の強いサッカーでもいい。自分たちの強みを活かした試合をしてほしいと思う。それに選手のメンタルやフィジカルのコンディションが問題なら、関口の言うように選手はきちんとチームが求める強度まで引き上げる責任があるわけだし、チームはその基準を明確にして、責任を果たしている選手を評価(スタメンにする、試合に出す)することで、さらにチームとしての結束を強めていければいいと考えている。

 

おわりに

  いずれにせよ、こんなシーズンは今季だけだと思う(願望も入っている)し、他のチームだってそれぞれの事情で、難しいやりくりをしているはずで。ベガルタとしても、良い準備をすることが重要だと思う。個人的には、その準備を「2022年にJ1で戦う」ための準備にしてほしいと思っている。 2年後のJ1がどんなサッカー環境になっているのか、社会や生活含めてどんな外部環境になっているのかの想像は、なかなか難しいけれど、どうしても今日の、明日の、になってしまうのはあるけれど、それでもやはり来季厳しい戦いが予想されるなかで、来季と、さらにその次を戦える下地を作ってほしいなと。未来予知は難しいから、未来想像して、チームを創造してほしい。それはもちろん、クラブに置き換えても同義だし、クラブレベルでは2年と言わず、5年後、10年後、50年後もクラブが生き残れるのか、 その大事な1、2年をこれから過ごしているという感覚を改めて持ちたいと思っている。

 

 「Notice that the stiffest tree is most easily cracked, while the bamboo or willow survives by bending with the wind.(風が吹けば堅い木ほど簡単に折れる。だが、竹や柳は曲がることで生き残るということに注目せよ)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

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【未熟】Jリーグ 第15節 鹿島アントラーズ vs ベガルタ仙台 (2-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ鹿島戦のゲーム分析。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタのフォーメーションは変わらず4-2-3-1。センターバックにシマオ、ウィングにジャメが復帰。試合前のアップで蜂須賀が負傷し、急遽真瀬がスタメンに。何かを得たら何かを失う真理を体現している今季のベガルタ仙台。ゲデスと長沢が代わる程度で、現時点でのベストメンバーか。

 鹿島は新監督にザーゴを据え、新しいサッカーに取り組む仲間。攻撃時には、選手やライン間にポジショニングし、カウンタープレスからの即時奪回を備えるなど、現代っ子ぽくなってきている。ただ、守備面では、春先や再開後のゾーナルマーキングから変わって人基準ぽくなっている。片言英語で喋っていたが、守備面は開き直って日本語で話している感がある。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

仙台の攻撃と鹿島の守備の噛み合い

  ベガルタのビルドアップは、2人のセンターバックセントラルMFながらアンカーロールの椎橋の三角形。この三角形に、右フルバックの真瀬が加わることを基本型とした。CBに入った吉野、シマオは、どちらもビルドアップには難がある。吉野に関しては、よくビルドアップ能力があると言われるけれど、CBのなかではボールを持てるというだけで、最も多いのは右フルバック(蜂須賀)へのパスが多く、あとは前線へのロングボールか、CMFへの何気ないパスだ。

 相手ブロックを動かすジョンヤのようなポゼッションは、シマオと合わせるとあまり期待ができないが、右ウィングにジャメが帰って来たこともあり、ロングボールが増えるのであれば、そこまで問題にはならないと思っていた。

 

 前線は、右WGのジャメはオリジナルポジションを守るようにタッチラインに。一方の左WG西村は、相手フルバックセンターバック間に入ってFWのように振る舞い、WGロールを高い位置を取る柳に任せた。ここまで、タッチラインを背にウィンガーとしてのプレーに苦慮していた西村へのひとつの解決策ではある。右WGにジャメがいるなら、柳と両翼を組むことは可能。柳が高い位置を取る時間を捻出するためにも、これまで中盤でのボールポゼッションやGK含めたビルドアップも表現してきた。これもまた、それほど問題にはならないと思っていた。

 

 この2つの問題にならないと思っていたことが、実のところ大きな問題で、ベガルタのビルドアップが機能不全になった理由の2つである。

 まずはCBを中心としたビルドアップ。たしかにWGへのボールはあったのだけれど、そもそも両WGとも初めから高い位置に張りっぱなしで、相手フルバックとすでにマッチアップした状態にあった。鹿島のフルバックの特徴は、対面するWGについていくことにある。インサイドレーンに絞る西村には小泉が絞ってマーク。ワイドレーンに張り出すジャメには永戸がそのままついていく。この場合の対処としては3通り考えられ、そのまま競り合いで勝負するか、自陣に引いてフルバックを誘き出してスペースを創るか、センターFWが降りて中盤で数的優位を創るかが考えられると思う。いずれかの選択肢を選ぶ、あるいは駆け引きしていけば、別にどれも間違いではない。

 ただこの試合において、その選択をする時間とスペースが多くあったのがCBだった。CB間の爆弾ゲームパスやフルバックへの責任転嫁パスが多く、あとはシンプルにファイナルラインの背後へ蹴りだす程度だった。

 

図1

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図2

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 WGの仕掛けがこのチームの最大の特徴であるにも関わらず、WGで勝負しない、駆け引きしない、背後へのボール一辺倒となると、ボールを持っても何も起きない。また、相手SHを引き付けて、ワイドに張るフルバックに相手フルバックが対処せざる負えない状況を創り出せれば、ベガルタとしては狙っているフラッグ攻撃(コーナーフラッグ付近への侵入)は成功する。

 特に鹿島のボール非保持は、ザーゴ就任前の人基準守備に戻っている。サイドの2人を引っぱり出すまではシンプルにできたと思う。なお、吉野負傷でジョンヤが右CBに入るとインサイド表を駆使してパスコースを創出。浜崎がマーカーであるCMFをサイドへ引っ張りだして、中央のゲデスへ楔パスを刺したシーンなどは、象徴的だったように見える。

 

 ジャメ、シマオ不在時は、1on1でデュエルする、勝負することのネガが出やすいというのは恐らく一般的にも知られていることで、だから全員でボールを繋いだり、相手を誘き出して背後にスペースを創ったり、奪われた後ボール周辺の3、4人が奪い返す速度を上げるなど、なるべくそういったネガが出ないように工夫をしてきたわけで。

 さあ、いざシマオとジャメが帰って来たんだから1on1の勝負に誘い込んで勝つぜ!相手も人に食いついて来るから動かしまくるぜ!かと思いきや、そういうわけでもなく。WGへのロングボールと時間を浪費するだけのバックラインでのボール回しを見て、いったい何をメッセージとして受け取ればいいのか。

 

 ジョンヤが投入後は、対面する左SH荒木も、ジョンヤや真瀬にボール出しさせないよう前線からプレスをかけてきて、その背後を浜崎が流れて使ったり、ジャメにボールをつけて左フルバックの永戸の背後を狙うなどのプレーも見えた。ただ、吉野outはあくまでスクランブル。じゃあそのままだったらどうだったのか?その世界線については触れないでおこう。

 いずれにせよ、復帰したメンバーと、再開後にやっていたサッカーと、メンバーが大量離脱したあとにやっていたサッカーと、それぞれがこう噛み合ってこないと困ってくる。いろいろと手札を増やしてきて、やれることも増えてきて、でも最後の狙うところは決まっていては分かるのだけれど、じゃあ何をやりたくて何を狙うのか、どうやるのかが見えない。再開後の4-3-3の方が、メンバーが変われど、オーガナイズ(組織化)され、目的・目標・手段が明確だったし、得られる結果もその評価も一貫されていた。また前節までのように、やりたいこともできていたが最後にゴールに繋がらないのであれば良いけれど、またその場所が遠くなってしまった気がする。気がするだけ。だけなのか?

 

図3

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ボール非保持時

迷うウィング

 ベガルタのセット守備は、4-4-1-1。両WGがブロックを創るためにしっかりとリトリートして、鹿島の高い位置を取るフルバックをマークした。SHにボールがつけば、柳、真瀬の両フルバックが対応し、背後のスペースを椎橋、浜崎のCMFが埋めるのは4-2-3-1の基本型。

 さらには、アタッキングMFの関口がCMFが空けたスペースを埋めるので、瞬間的には5-4-1っぽくも見える。ボールサイドのWGが高い位置なら4-4-2維持とも解釈できる。

 

図4

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 このWGがフルバックへマークするの原則を鹿島のザーゴポジショナルアタックに利用されたというのが結論になるのだと思う。

 鹿島の左サイドでは、SH荒木が2FW横へドロップ。フルバックの永戸が高い位置を取るので、ジャメに迷いが生まれるダブルパンチ状態に。真瀬が永戸にプレッシャーをかけるために誘き出され、背後のスペースを土居に使われる状況。ベガルタも、前述のスペース埋めと横スライドで、中央からボールサイドのエリアを守るけれど、逆サイドに展開されるとさすがに守備網が薄くなった。

 一方の鹿島右サイドでは、SHアラーノがハーフレーンで、WG西村とCMF椎橋との間で受けるようなポジションを取り、フルバックの小泉がWGロールで高い位置を取る。こうなると、柳がアラーノへプレッシャーをかけづらくなるのと、高い位置取りの小泉に西村が自陣深くリトリートしなければならず、本来攻撃で能力を発揮してほしい西村に、不慣れな自陣守備を強いることに。

 西村は、ジャメ不在時には前残りでカウンターの一番槍として、ある程度守備の免除がされているように見えたけれど、この試合ではきっちり戻るよう指示を受けていたのか、前残り機会は少なかった。

 

図5

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図6

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 4-3-3でも、4-2-3-1でも、WGの前プレがキーになるベガルタ。そのWG背後を突かれてプレスを無力化しまうことへのアンサーに、それぞれ取り組んできた。4-3-3ではインテリオールのスライド、4-2-3-1ではフルバックの縦スライド。ただどちらにしても、元居たスペースを空けることになり、そこへランニングされると、途端に守備の束が解けてしまう。

 4-3-3ではそれが解決できず、4-2-3-1でフルバックの縦スライドを許容しつつ、CMFが背後のスペースを埋めるようになった。今ではCMFのスペースを関口が埋める徹底ぶり。ただそれでも、ボールサイドはよくても逆サイドへ展開された時の守備のネガ、西村がリトリートしても守れない、スライドが間に合わなくてクロスやパス交換、ドリブル突破を許している。

 もしチームとして決断するなら、これまでのように守備やプレッシングの部分を整備するための決断をすると思うのだけれど、「4-3-3の前プレ復活」か「5バックで後方スペースを初めから埋めるか」のどちらかになる気がする。ただ今は、後者の5バック方向で守備は取り組んでいるように見える。そうなると、3-4-2-1による5-4-1でSHとWBの縦スライドになりそうだ。個人的には5-3-2の方がWBのみのスライドで済むので良いのだけれど、本当にそれで良いのか。

 新しいアイデンティティとなるウィングを捨ててまで、やるべき話なのだろうか。多分これは、個人のポリシーの話になる。

 

 また、この試合で難しかったのは、相手陣での前プレ。鹿島は、オリジナルポジションをあまり崩さずGKを含めて4-2でビルドアップしてきたけれど、ボールの出口に選んだのは、高い位置を取る左フルバックの永戸だった。永戸とマッチアップするのは真瀬。ここでボールをはね返せなかったのが、ボール保持やプレッシングを難しくしたひとつの要因に思える。

 シマオが構えているところにボールを送るような芸のないことを鹿島アントラーズがやってくれるわけもなく、相手のウィークポイントを突くのは、駆け引きするうえでもっとも基本的なことだ。

 

考察

ウィングとの付き合い方

 攻守ともに、アグレッシブさの象徴ともいえるウィング。彼らをいかに高い位置におき、「翼」とできるのかがひとつチームとしての狙いだと思う。ただこの試合では初めから低い位置で、サイドハーフとして振舞うようなプレーの方が多かった。

 また、もちろんジャメのカウンターは、改めて脅威だと感じたけれど、それは相手も同じ。あれだけ相手SHやCMFのプレスバックを受けていては、思うようにプレーはできない。だからと言ってウィングを無くせば、自分たちの看板のひとつを下すことになる。いかに相手の背後を突くか、その急先鋒がウィングであって、壁があっても飛び越えていくのか、壁を壊しながら進むのか、そのどちらも表現してきたなかで、この試合においてはどちらもそれほど脅威にならず守備に忙殺されてしまった。

 ウィングの犠牲として、後方の守備には人数をかけるようにはなっているけれど、もう一度、川崎戦のようなウィングをスイッチに前線からのプレッシングで相手を押し込む展開をしていきたい。 

 

おわりに

 木山さんのチームを表す言葉として、僕は「一気呵成」がもっともしっくりくる。ボールを持っていても、いなくても、次から次へとアタックをかけるのが、今のチームでも表現したいことのひとつだと思っている。けれどこの試合では、「中途半端」が一番しっくりくる。諦めず、恐れず、挑戦する。こう言ったのは……

 

「Take things as they are. Punch when you have to punch. Kick when you have to kick.(物事をあるがままに受けとめよ。パンチが必要となれば殴り、キックが必要ならば蹴るんだ)」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

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