蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

アザールの懐②

はじめに

 どうも、僕です。前回上げたアザールの懐の続きをやっていきます。

 

sendaisiro.hatenablog.com

 

今回見るのは、懐縦突破の派生形である「懐マシューズ表裏」です。マシューズフェイントは、利き足が右足なら右足アウトで相手の重心ベクトルの逆をついていくドリブルです。アザールもですが、イニエスタやメッシの得意技ですね。相手と正対した状態のマシューズが表、相手を背後にして相手を回転軸にしてマシューズからターンで抜けていくのをマシューズ(裏)と呼んでいます。いずれも、懐をつくった状態から繰り出すので、前回記事で取り上げた通り、ボールを包んで隠して守って抜いていくことが懐マシューズ(表)(裏)の要諦になります。

 

懐マシューズ(表)(裏)

 正対→2歩1触→懐マシューズ(表)

下の写真は2歩1触の2歩目(1触)。

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小さいが利き足(右足)を引いて懐をつくる。

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DFの右足が浮く。

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DFの右足が浮く=左足に重心がかかる(ベクトルの根っこ)と判断しマシューズ(表)をしかけます。

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DFの両足のバランスが戻る。マシューズ(表)をキャンセル。

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そのまま姿勢を低く、懐を作る。

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DFはアザールの利き足(右足)の直線上に立ってDF。縦(ベースライン)を抜かれない構え。

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DFの縦(ベースライン)を抜かれない意識の高さからか、左足側へ体重がかかっています。右足が完全に浮く。

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懐マシューズ(表)。DFとしては縦をカバーして右足側に誘導したかったのかもしれませんが、アザールは構わず縦突破を図る。

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DF左足に重心が残っているため、DF対応範囲(守備範囲)が限定される。そこを懐マシューズ(表)でボールを逃がしていきます。

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突破成功。DFが左足に重心をかける2度のタイミングで、2回とも懐マシューズ(表)で縦突破を図ろうとしたアザール。DFとしては利き足側、縦を守っていたのに突破される構図。「縦を防がれているから縦突破は避ける」では芸がないです。相手の足の立ち位置から意図を察知し、その裏をかくプレーになります。感覚的には「表の裏の裏(=表)のプレー」といったところでしょうか。

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懐マシューズ(裏)

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まず、懐を作る。背後からのプレッシャーを感じつつ、目視で相手を観察。

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DFの右足が着地。このシーンも、DFは利き足(右足)の直線上に立ち、縦(ベースライン)をカバー。

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DFに縦を警戒させて右足に重心をつくる。これは、懐マシューズ(表)と同じく基本と言えます。そして、縦を抜きにかかります。

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姿勢は低くの基本に忠実に。懐を作りながら懐マシューズ(裏)でDFの右足側、重心側、縦側を抜きます。

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このシーンはかなり大成功。DFは右足を伸ばしてもボールに触れることはできないでしょう。

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そのまま、縦突破。ゴールに背中を向けていても、懐をつくり、縦を警戒させて身体を硬直化させれば突破できます。

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ポイント

  • 懐縦突破同様、懐マシューズ(表)(裏)も縦を抜いていくことが基本。
  • DFは縦を警戒するが、「抜かれたくない!」と意識すればするほど余計な力が入ります。力が入ると身体硬直化して、急加速やリズムチェンジについていけなくなってしまいます。
  • 利き足が右足で右サイドであるなら、縦に深くを警戒されているだろうし、逆に左サイドであればカットインからの中央を警戒されます。これを「DFの表の心理」だとすれば、裏をかかれないように対策します。
  • ただし、アザールの懐ドリブル(縦突破、マシューズ表裏)では、警戒して力が入っているところを狙いますし、「あくまで縦突破が基本」にあります。
  • 懐縦突破と同様、相手に踏み込んでいくこと、DFの着地足を確認することが重要になります。

 

 ここまでが、懐ドリブルの縦側の突破を見ました。いわゆる、最初はグーであり、先制パンチでもあります。もちろん、縦だけの駆け引きも、縦突破とマシューズ(表)(裏)の3パターンありますが、相手の逆をつくやり方もあります。次回は、現代型クライフターンである懐クライフを見ていきます。

 

アザールの懐①

はじめに

 どうも、僕です。ここでは、footballhackの懐理論からアザールの懐ドリブルを見ていきます。理論の確認→実践例の確認→概念化・私論化および他の分野との類似性を確認していきます。実際にはfootballhackでも、アザールの懐ドリブルについては取り上げられていますが、自分で解釈と実践をしましたので、その内容を記事化します。

 懐理論から今回取り上げるのは以下です。

  •  2歩1触
  • 懐縦突破
  • 懐マシューズ (表)、(裏)
  • 懐クライフ

この記事だけではすべてを記せないので、いくつか記事に分けます。少なくとも上記の4つ+自分の整理まとめ解釈記事を1つか2つ上げるつもりです。全編上がったらまとめて読んでみてください。そして、ボールを持って試してみてください。

 

懐理論について

 footballhackから最高に分かりやすい動画解説が上がっていますので共有します。今回の題材はこちら。

www.youtube.com

www.youtube.com

 

非常にシンプルに言ってしまえば、懐ドリブルとは以下です。 

  • 懐ドリブルとは、懐の深いドリブルのこと。
  • 踏み出した軸足と後ろに残した利き足で三角形(懐)を作る。利き足側にボールを置く。
  • かがめて姿勢を低くしボールを包み急加速して抜いていく。 

では、まずは懐から縦に抜いていく懐縦突破から見ていきます。

 

懐縦突破

 まずは、懐ドリブルの基本であり第一の武器である懐縦突破。まずは縦に抜いてスピードアップすることがオフェンス側にとっては重要ですし、ディフェンス側としてはこれをまず防ぐことが使命になります。2歩1触については別記事で実践例を見ます。ここでは、2歩で1回タッチする理解で構わないです。

 

正対→2歩1触→懐縦

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正対しながらゴール前へ進行。

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左足を着地。2歩1触の1歩目。その時目をDFと合わせると、DFは動けなくなる。(ゴーゴンの眼)

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2歩1触の2歩目と1触。右足くるぶしから足の甲へ向けての横のラインと中指縦ラインが交差する部分でタッチ(触)。

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綺麗な2歩1触。ボールの後ろに小さな三角形(懐)ができる。

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懐。左足をボール手前に着地させず、大きく開いた三角形でボールを包む。

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右足でボールをタッチしながら急加速。

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 懐の最大メリットは、ボールをDFから隠せること。文字通り懐に包むことで、DFからのボール奪取を防ぎつつ、ドリブルで前進することです。また、2歩1触からのリズムチェンジで急加速→相手を置き去りにできます。

 

2歩1触の1歩目。

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2歩1触の2歩目と1触。

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右手でハンドオフ。右足で懐をつくるわずかな空間を生み出すための技。

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右足着地。バランスは崩れているが懐。股下の三角形でボールを包む。

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左足にボールをつけて、懐縦突破の構え。DFは、背中でボールを目視で確認できない。実際に自分がDF側になって試してみましたが、本当に全く見えなくなります。

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アザールもバランスを崩していますが、DF側の方が顕著。倒せば1発ファールのリスクとボールが見えないことから、中途半端な対応に(=DFできていない)。

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ボールをキープすることに成功。

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ポイント

  • 2歩1触と懐ドリブルの合わせ技でリズムチェンジ
  • 基本的には、利き足側にボールを置き、軸足を開いて懐を作る。
  • 軸足は相手の間合いに踏み込む感覚。バスケでいうピボット。達人の居合のイメージ。
  • 2歩1触のドリブル姿勢からボールを包むようにかがむことで、背中と踏み出した軸足でボールを隠す。
  • DFがボールを目視できない状況で、利き足でボールを押し出し急加速。ボールをブロックしつつ抜いていく。
  • 目を合わせること、踏み込むことで、人間(DF)は防衛本能から身体を固める(ゴーゴンの眼効果)。岩(固まったDF)の脇をすり抜ける流水の感覚で抜く。

 

 参考

  今回、懐ドリブルを記事化しようとしたもともとのきっかけは以下の動画です。特にオフハンドの見せ方の動画で見せるドライブは、まさに懐縦突破です。ほかにも、駆け引きするうえで大事な考え方だらけなので、このシリーズのまとめあたりで言及したいと思います。

www.youtube.com

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【真瀬】Jリーグ 第9節 ヴィッセル神戸 vs ベガルタ仙台 (1-2)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ神戸戦のゲーム分析。試練の果てに見える世界。何が起きても不思議ではない世界で、挑戦を続けるベガルタ仙台とそのサポーターたち。幾千もの立ち塞がる壁に、立ち止まることなく挑み続ける。圧倒的な個人差を見せつけて来るヴィッセル神戸に、ひとりの青年が、空を切り裂き滑空する。試練と勝利と。それでも戦いは続いていく。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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  ベガルタは、前節に続き4-2-3-1。右ウィングには真瀬、右セントラルMFには浜崎が入る形。4-4-2系の守備から攻撃へと繋いでいくのがキーだと言える。

 神戸は、3-4-2-1。他の試合では、4-3-3や5-3-2を採用しているが、サンペールを中央センターバックに据え山口とイニエスタで2センターを組んだ。エースの古橋はケガのため不在。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

左右非対称のビルドアップ

  ベガルタのビルドアップは、2CB+2CMFのボックス型。LBの蜂須賀が深めの位置を取って、ボックス型+1を取る形。ただ、RBの柳は、ビルドアップの初期段階から高い位置を取る。これまでのベガルタのビルドアップでは、フルバックが深めの位置をとり、センターバックセントラルMFと連携してビルドアップを担当していた。カウンター予防と相手のプレッシングを引き出す狙いもあったのだと考えられる。ただしこの試合では、RBの柳が明らかに高い位置、しかも本来フルバックが担当するワイドレーンではなく、ひとつ内側のハーフレーンに立っていたのが印象的だった。

 そんなこんなで、左右非対称のビルドアップなのだけれど、ある意味右サイドが異質だったと解釈するべきと思える。神戸のブロックは5-4-1。山口が関口をカバーするので5-1-3-1とも取れるような形で対抗型を組んだ。本来、対面するはずの柳が自分の背中にいるのだから、左シャドーに入った郷家にとっては頭を使う状況になったと思う。しきりに背後を確認するために首を振ったり、前半の飲水後は明らかに柳を意識したディフェンスにシフトしていた。こうして、まずは噛み合わせのところで先制パンチを食らわしたベガルタ仙台。特にセンターバックはその恩恵を受け、時間とスペースができていたのだけれど、そんなボール保持攻撃で準備していたのは、右サイドのローテーションだった。

 

偽ウィング真瀬とファントム柳を支えるCMF浜崎

 ハーフレーンで高い位置を取る柳に合わせるように、右ウィングの真瀬は低めの位置へ落ちる。また、CMFの浜崎が右センターバックの吉野の横へドロップ。神戸の1トップ横のプレッシャーがかかりにくいエリアでボールを受ける。こうなると、RB柳とRW真瀬で相手サイドハーフポジションに入る郷家に対して、どちらにつくのか選択を迫るダブルパンチを食らわすことになる。加えて、CMFの浜崎が目の前でボールを持つのにプレッシャーをかけづらい状況を創り出した。浜崎のポジションには、RCBの吉野が入るケースもあった。

 噛み合わせという構造的な部分で時間とスペースを捻出し、その時間を使ってローテーションで右サイド全体の時間とスペースをコントロールすることに成功したベガルタ仙台。神戸の5-4-1がハイプレス系ではなかったことも要因としてあるのだけれど、いずれにしても、自分たちが持っている時間とスペースの拡大策を取ったのは、ゲームを進めていくうえでも重要だ。ボールの進行方向、ロストポイントも管理できるので、いわゆるトランジションのコントロールも可能になる。

図1

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 神戸としても、この状況をそのまま放置せず、落ちるRW真瀬に対してWBの酒井が縦迎撃する対抗手を見せる。ベガルタも、その対応手に対して柳がカットアウトで酒井の背後のスペースを突くなど、織り込み済みといった具合だった。もちろん、左センターバックヴェルマーレンがカバーするのだけれど、サイドに引っ張り出せれば、神戸ゴール前にはアンカーに入ることの多いサンペールとRCBのダンクレー、逆サイドのWBのみになる。こうなると困るからか、神戸の横スライドはかなり早かった気がするし、縦迎撃に呼応して横のスペースを埋める動きは、5バック系のディフェスの定石型だ。一方の仙台も、右サイドの一点突破だけでなく、相手が右サイドに寄っているならと、アンカー椎橋を経由して、逆サイドの守備が薄い地点からの攻撃へ切り替えていた。2、3度、左サイドでアウトナンバーを作って数的優位にオフェンス出来ていたのは、偶然ではない気がする。気がするだけ。

 5バック系、特に5-4-1の痛点は、「まあファイナルラインに5人いるし、ハーフラインも4人いるから足りるでしょ」という心理的『優位性』にある。実際、縦にも横にも同サイドにDFを割けば、当然逆サイドでは足りなくなってくるし、そもそも自分を「シャドー(FW)」だと思っているサイドハーフ役のプレスバックやファイナルラインをカバーする意識は総じて低い。これは、選手どうこうより、攻撃系の選手を採用しているのだから、不思議なことでは無い。神戸としても、もっと押し込む展開を望んでいたのだと予想されるのだけれど、右サイドエリア全体をコントロールされるとは思っていなかったのかもしれない。そういう文脈において、「右フルバック」ができる真瀬、柳、浜崎を起用したのは、もちろんコンディション面もあると思うのだけれど、非常に戦術的な意図を感じる起用になる。前後のポジションが変わっても苦にしない、ボールを奪われた瞬間にオリジナルポジションを離れていても対応できるなど、攻守表裏一体の策だと思える。

 

ボール非保持時

前線4人のボール非保持守備

  ベガルタのボール非保持守備は、4-4-1-1ブロックを組んだ。対する神戸は、3-4-2-1。2セントラルMFのうち、山口は深い位置、イニエスタが高い位置を取る。ベガルタは、アタッキングMFの関口が深い位置の山口をカバー。センターFWの長沢と協力してアンカーロールをカバーする形。その長沢は、相手CBへプレッシャーをかけ、サイド限定と設定を行うプレッシング一番槍になるいつもの形。両ウィングは、前線からプレッシングをかけず、ブロックを維持したまま「奪わず奪う守備」の構えを見せる。特に、RWに入った真瀬は、WBへのパスコースを残しつつ(といってもパスカットに入れる立ち位置)、中央へボールを入れさせるような立ち位置で守備。左利きのヴェルマーレンの左足側をカバーして、彼から良いボールが出ないようカバーする形。中央へのパスを怖がってサイドに出させれば大成功。ボールがサイドへ移動している間に動いてプレッシャーをかければ真瀬としては良い。ボールを持たず、真瀬がヴェルマーレンに、駆け引きを仕掛けた。

 一方のLW西村は、真瀬と少し異なり相手CBの正面、右利きダンクレーの右足正面に立って、まずはハーフレーンに縦パスを入れさせない守備を取る。サイドに出れば、自分の走力でカバーできると踏んでの立ち位置のようにも見える。真瀬が駆け引きを仕掛けて、ベガルタが守備網を張る中央へのパスを誘導する立ち位置だとすれば、西村の中央へのパスを完全拒否。「サイド?出たら潰しに行くわ」と言わんばかりの立ち位置で面白かった。ボールを奪えばカウンターの急先鋒にもなるし、西村としてもなるべく中央に近いエリアで立ってたいという狙いもあるのかもしれない。多分。

図2

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 全体の守り方としては、WBへのプレッシングを両フルバックも実行していた。その背後のカバーを左ならCMF椎橋、右ならCB吉野が担当。ただ、右サイドは、真瀬がカバーしたりプレスバックすることで、柳がその間を埋めたりもしていた。なるべくCBには中央で守っていてほしいという意思かもしれない。

 

神戸の対応手と4-4-2中央封鎖型守備

 神戸の攻撃にも変化点がある。前半の飲水後に、3バックの中央CBであるサンペールが一列上がってアンカーになるフォアリベロ、バルトラロールで対抗してきた。ベガルタの2FWのプレッシャーを分散させる狙いだと思う。また、ヴェルマーレンも逆サイドへのサイドチェンジキックを増やして、ブロックの大外から攻撃するように変化をつけてきた。ただ、そのどちらの対応手にもベガルタは対応手を用意していた。ひとつは、サンペールのフォアリベロに対して、関口と長沢で対応すること。特に関口がサンペールの利き足をディフェスし、外されても長沢が同じようにディフェスに入るのでアンカー経由での攻撃は不発に終わった。もうひとつのヴェルマーレンのサイドチェンジキックも、受け手はWBの西だけれど、この日LBに入ったのが蜂須賀。簡単にはやられなかった。こうして、自分たちの狙いと相手の狙いをきちんと整理して、その対応についても読んで準備してきた痕がよく見られた前半だった。

 ただし、ひとつの懸念だったのが、時折通るセントラルMF背後に刺される縦パスをベガルタとしては気にしていた。縦パスとサイドへの展開(インサイドアウト)のパス2本で、プレッシャーを無効化される危険性があった。後半、先制したベガルタはそこに手を入れる。4-4-2の守備をよりぺナ幅中央3レーン(インサイドレーン)重視の守備へとシフトした。よって、相手WBに時間とスペースを使われることを許容。その代わりに、神戸が最終的に使いたいエリアであるインサイドレーンを封鎖した。こうなると神戸としても崩すのが難しくなり、サイドを変えるがなかなか守備の束が解けなかった。サイドチェンジされるとブロックは下がるので、必然的にベガルタのブロックラインはローブロックを強いられることに。おそらくこの日はそれを○としていた可能性が高い。最低でも1-0で勝利することを目標としていた可能性は十分に考えられる。マリノス戦以上に、相手に合わせる、試合をクローズさせる意思を感じた。

 神戸としても、ブロック外からのバックドアカット(裏抜け)があれば、ベガルタにとっても慌てる状況になっていたかもしれない。失点シーンは、蜂須賀の上空を通されバックドアカットが決まっている。古橋がいたら……と考えたら恐ろしい。向かいのホーム、ノエスタのピッチ、こんなところにいるはずもないのに。最後は、5-3-2で逃げ切ったベガルタ仙台。やはり、とにかく勝ちをもぎ取ろうとした試合、判断だったのだと思う。やっていることは正しいとはいえ、選手の士気に関わるような敗戦続きだったので、木山さんとしてもチーム全体の士気低下を危惧していたのかもしれない。その辺りの危機察知はさすがだなと思う。 

 

考察

4-2-3-1の攻守について

 最大の武器であるジャメがいない、中盤やファイナルラインのメンバーも変わるなかで、いわゆる相手の中盤をカバーする対抗策として4-2-3-1というのはひとつの最適解なのかもしれない。攻撃となれば、ウィングというよりボールを持つという意識も高いように見える。守備については言わずもがなだけれど、片方が守備意識の高い選手が入れば、高いレベルで機能していきそうにも感じる。いずれにせよ、あまりフォーメーションそのものに意味は無さそうだし、どちらかというと、ウィングの守備の方が肝な気がする。気がするだけ。ウィングがどういう守備をするかで、4-3-3なのか4-2-3-1なのかが変わってくるのだと思う。

 

ゴール前で何度か失点していたはず

 ドウグラスがまだフィットしていない感を抜きしても、何本か決定機を外してもらえたのも事実。フィンク監督が言うように、今日「は」ベガルタがチャンスをものにして、相手のミスに助けられたとも言える。これまで各チームのストライカーにことごとく得点を許しているが、この試合も古橋がいなかったから助かったという節はあるのだと思う。思うけれど、それでいいのか?というのはまた別の話である。やはり、4-4ブロックだと、大外が空いて来る。空いたエリアをどうカバーするのか、クロスを上げられてもどう対応するのかは、まだま詰めないといけない。いけないし、これで得点が決まらず失点していれば、「両ゴール前」が弱いチームになってしまう。せめてどちらかは確実に強いチームになってほしいし、これまでは相手ゴール前でのアプローチだったのだから、自ゴール前もできると思う。もちろん、いろんな手札や引き出しがある木山さんだから、こうして書けるのである。(恐れるな!全力で!は最後の魔法にしましょう笑)

 

おわりに

 敗北は人を強くするが、勝利は人を美しくする。まあこれは僕の持論でしかないのだけれど、強さも美しさも、そのどちらも欠けてもいけない。強くなければ守れない、美しくなければ惹かれない。シンプルだ。だから何度も敗けて、何度も勝っていくことが大切で、この試合の勝利でまた一歩、ベガルタ仙台のサッカーは美しくなった。これまでの敗北を糧に。強く、美しく。そうやって、魅力的なサッカーと呼ばれるものは、出来上がっていくんだろうと、醜くも美しい世界の端っこから、応援しています。最高に、強く美しい君たちへ。 報われて、救われてよかった。

 

「ひとにできて、きみだけにできないなんてこと、あるもんか」こう言ったのは、ドラえもんだ。

 

参考文献

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【駆引】Jリーグ 第8節 ベガルタ仙台 vs 横浜・F・マリノス (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。ホームマリノス戦のゲーム分析。ついに、Jリーグ王者がユアスタへとやってきた。ユアスタの強力なサポートが叶わないなか、奮闘するベガルタ仙台戦士たち。流星の如くディフェンスラインを統率する者。ゴール前で幾度となく決定機をつくる者。それぞれの野心を抱えながら奮戦するベガルタに、絶対王者は容赦のない攻撃の雨を降らせる。闘いの業火は、90分間の死闘を、激戦へと昇華させていく。その時、ベガルタが見た世界は。今回もゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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  ベガルタは、フォーメーションを4-2-3-1へと変更。セントラルMFに椎橋と吉野、バック4を柳とタカチョーのフルバックに、平岡とコンビを組むのは特別指定のアピアタウィア久だった。アタッキングMFには関口、ウィンガーは西村とジャメのサイドが左右逆になっている。センターFWは、攻守にわたって欠かせないエキストラプレイヤー長沢が入る。

 一方のポステコアタッキングフットボール革命解放戦線ことマリノス。前線はケガなどで予想が難しかったが左ウィンガーには仙頭が入った。右センターバックには、フルバック(サイドバック)が本職の松原が入って、ストッパーは畠中1人の攻撃的な形。GKの朴はケガから復帰の初戦となる。 

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

息継ぎのできないポジティブトランジション

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CMFのボックス型。ここに両フルバック(サイドバック)が深めに位置するいつもの形。センターバックがボールを持てば、スイッチパスである「ウィングへのパス」を放つ。特に、ポジティブトランジション、ボールを奪ってからの4秒間において、ベガルタにとって重要なパスになる。

 ただこの試合においては、後述するボール非保持時の守備の狙いから、両ウィングの位置がかなり低い。ボールを持っても高い位置に翼が羽ばたいていないので、翼を剣にすることが難しくなる。また、マリノスの立ち位置も関係する。昨季のように、フルバックが高い位置を取らず、センターバックに近い位置やセントラルMFと同じ高さにポジショニングしたことで、ボールを奪われてカウンターされても対処できる「カウンター予防」を図ることでカウンターへ対抗してきた。ハイラインとオフサイドもひとつ狙いであるところから、ポステコ革命解放軍のボスが目指しているだろう「間違えず光速でボールを回し攻撃していく」理想に、非常に現実的な対処法も仕込んでいるとうかがえる。

 よって、ベガルタの攻撃ルートであるワイドレーンで突破が難しくなった。センターFWに入った長沢は、ボールを奪った後のカウンターオープニングパスを受けようとしたが、それをカットして防ぎ続けたのがこの日センターバックに入った松原だった。こうなると、チーム構造的にも個人的な部分でも、ベガルタの4秒間速攻がロックされることになった。

 このまま押し切られるかと思われたベガルタ仙台。しかし、この試合、彼らを支えたのは彼らが武器にしていたウィングアタックでも、4秒間速攻でもない。Jリーグ王者相手に用意したのは、伝統的で、革新的で、先進的な守備。あの「4-4-2」で勝負をしかけた。

 

ボール非保持時

人基準守備の4-4-2ベガルタ仙台ブロック

   ベガルタの守備は、4-4-2。厳密には4-4-1-1とも言えるが所詮は電話番号。しかも、相手選手へのマーキングやプレッシング、つまりは「人」をターゲットとした守備を敢行。ミハイロ・ペドロビッチフットボール原理革命軍が前節マリノス相手に実行したマンツーマン守備を先生としたかのような戦い方を対抗型として組んだ。ただし、これだけでは、「限界までスピードアップするがお前たちはついてこれるのかい?」をどの対戦相手にも強いて来るポステコ革命解放軍には不十分だ。パスカットを狙ったり、ボールが選手に渡らないようにするマンツーマンのような守備のやり方は、相手がそのパスカットやプレスを外そうと動くので、局面が高速化するしダイナミックになる。守備側が攻撃側の攻撃を促進させてしまう逆説型守備に繋がる。

図1

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 そこでベガルタが用意してきたのは、人基準でありながら、マリノスが使いたいエリアを徹底的に潰すやり方を取った。マリノスの使いたいエリア。それは、「4つのビルドアップエリア」と「2つのアタッキングゾーン」の2つである。

 

ビルドアップエリアとアタッキングゾーンを警戒するベガルタ

図2

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 図2にあるように、マリノスセントラルMFフルバックを中心に、センターバックと連携してビルドアップを実行。一方、アタッカーは、5レーンで言うところのハーフレーン、あるいはスライドしている場合は選手間を狙い撃つ攻撃戦術を取っている。

 

図3

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 ビルドアップエリアを4人の選手がポジションチェンジやエリア移動をすることで、センターバックとボール交換しながらビルドアップする。ここで相手がプレッシャーをかけてくれば外して、前線のアタッキングゾーンへとボールを供給していく。アタッキングMFである天野やRWGの水沼、RBの小池が前半から積極的にこのエリアを使っていた。マリノスとしては、昨季のように前線にリソースをかけ続けるやり方から、ポジショニングを整理してから、前線へのパスを供給していく、アタッカーがが勝負をしかけている気がする。気がするだけ。

 

図4

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 さて、ベガルタの対抗型。まずは、4人のMFが4つのビルドアップエリアに入る選手をきっちりとマークする、プレッシャーをかけていた。ただ、2つのアタッキングゾーンに入っていく選手を警戒することを優先してか、セントラルMFがアタッキングゾーン、2人のFWが中央のビルドアップエリア2つを監視する形を取った。よって、マリノスセンターバックには、多くの時間とスペースが生まれる結果に。さらに、ベガルタのプレッシャーを外そうとポジションチェンジや選手の入れ替えを目まぐるしく行った。まさに、「マンツーマンが攻撃を加速化させる」のままの展開に。加えて、柳とタカチョーのフルバックも、これまでファイナルラインとして専守防衛だったが、この試合では相手WGを潰すために迎撃守備体勢。センターバックとの距離が空くが、そこをカバー範囲が広い平岡、Qちゃん、吉野をカバー役に任命したのはまさしく「木山采配」といったところか。誰一人が欠けてもいけない。みんながみんなに与えられた任務を遂行することで、チーム全体が勝っていく。そんなサッカーを木山監督は目指しているのだと思う。

 ただ、攻撃面でのカウンター距離が遠いのと、90分間続けるにはやはり体力面で続かない。前半だけで、ベガルタの選手のシャツは汗でぐしゃぐしゃだ。相手が使いたいエリア、人を制限することで勝機を見出したベガルタ仙台。なんとかゼロで抑えた守備を継続したまま攻撃に転じる難しいミッションを果たさなければいけない。

 そこで、後半、ベガルタが仕掛けた。駆け引きを仕掛けた。今季再開後、このチームを支えた「新しい守備」で勝負に出た。

 

ウィングの縦切りと「斬り合い」

 後半、ベガルタはウィングの立ち位置を修正する。これまで、相手フルバックに地の果てまでついていったがそれを止めたのだった。相手WGへのパス一本を防ぎつつ、相手CBにも機を見てプレッシャーをかける守備へと変身した。

図5

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 これはある意味で、勝負であり、賭けだった。サイドで時間とスペースを与えれば、そこに入るのがフルバックだろうがセントラルMFだろうが、マリノスの4人は殺傷能力高いパスを出せるし、アタックを仕掛けられる。ただ、ベガルタは、サイドに出れば横スライドとブロックを深くすることで対応。丁寧に、しかし狡猾に、自分たちがカウンター攻撃を仕掛ける機会を伺った。

 こうなるとマリノス。「ブロックを組まれるのが苦手」がJリーグ各チームには知れているのだと思うのだけれど、「プレッシャーに来ないのなら、ビルドアップではなくアタッキングを担当しよう」とばかりに、両フルバックが高い位置を取りアタッキングゾーンを使い始める。前半のように、ボールを奪おうと素早くプレスをかけると、取られないとばかりにさらに素早くボールを回しポジションを取ろうとするが、無視すると守備側を無視して攻撃的なポジションを取ろうとするのがとても面白かった。前後半のマリノスの反応をまるで想定していたかのような、ベガルタ仙台の対応だった。

 これが本当の「ミラーゲーム」。自分たちの対応で、相手を動かそうと、「ベガルタ仙台マリノス」に仕掛けたのだった。もちろんこれは駆け引きで、あまりにもカウンターが刺さるようなら対応しないとダメなんじゃない?とでも問うているようでもあった。

図6

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 図でまとめると上記のように。両WGが相手センターバックへプレッシングをかけるシーンも出て来て、交代で入った蜂須賀がボールを奪ってフルバックの背後のエリアを爆速で駆け上がったのは象徴的なシーンといえるだろう。ただひとつ難しかったのは、というより予想外だったのは、GK朴だろうと思う。これは説明不要なのだけれど、彼がスイーパ―ポジションでことごとくボールをスイープしたのは、ベガルタが狙うカウンター攻撃の何本かを事前に止める結果となった。ベガルタとしては、王者相手に勝負をしかけ駆け引きをしかけて仕留めにかかった。リザーブでチーム得点王のマルコスが出てくるまでの勝負だったかもしれない。最後はそのマルコスに、ゴールを刺された。大将の首を取れたら勝ちだったが、あと一歩、届かなかった。

 

考察

ボールを持てなくても攻撃的な仕掛け

 守備で押し込まれると不安があるなか、それでも相手が狙いとしている部分を消し込み前へとアタックしようとする姿勢は、再開後どの試合でも見せている。強豪相手にも。ある程度相手の攻撃を誘発したり、許容するなかで自分たちも攻撃していく姿勢だ。どんな分野でも、攻撃はカウンターの方が有利だ。そして、カウンターを繰り出すには、相手に隙を見せて攻撃させなければ仕掛けられない。この試合でも、相手の良い部分を消す戦いと自分たちが勝つために仕掛ける部分とを表現できたのではと思う。それは、ボールを持っても、持たなくても同じ。攻撃と守備なんて、便宜的に分けてるに過ぎない。ボールなんか無くても、いくらでも攻撃できる。そんな、試合だった。

 

最後の仕留める作業

 であれば、やはり最後に仕留める作業をきっちりしたい。これまで、ベガルタはどのチームにもそのチームのストライカー、エースにゴールを奪われている。西村がいなければ問題を西村を獲ることで解決し、ジャメが最も目立ち輝く戦術でジャメをストライカーにしてしまう作戦をしているのだから、結果の部分で表現したい。あとは、攻守で奮闘するセンターFWの長沢がゴールしやすいボールを上げたいなと思うのは、個人的な感情。

 

おわりに

 誰が何と言おうと、この試合のベガルタ仙台は、攻撃的で、先鋭的で、高次元的な駆け引きを王者相手に仕掛けた。勝った負けただけなら、なんなら前節の焼き直しでもいい。おそらく実行できる。そうじゃなくて、勝った負けたを勝った勝ったにするための努力とトライをチームは取り組んでいる。 サッカーをプレーする以上は、プレーしてほしい。プレーするとは、駆け引きすることも含まれる。相手を、状況を、よく観察して肌で感じ取って、思考して何度も実行する。体調が良いだけじゃだめだ。でも、70分ごろの疲れた状態でも、きちんと駆け引きできるか。そう言った、人間としても深みのある、高みを目指す人間になるその道を歩いているのだと思う。ならば、勝負に負けたのなら、また歩き出せばいい。深く、高いサッカーへ。歩き続けるんだ。

 

「いくらごまかしてもいずれ気付く、自分がどんな人間か。自分の生き方は”誰でも”、自分に返ってくる」こう言ったのは、リボルバー・シャラシャーシカ・オセロットだ。

 

参考文献

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ディナイ不要とサッカー③ ~サッカーへの貢献~

はじめに

  どうも、僕です。これまで①②と続いたバスケにおけるディナイ不要をサッカーで見た時にどうかの解釈をしてきました。今回は、実際にサッカーの文脈で見た時に、具体的にどう落とし込めるのかをまとめました。あくまで僕の今時点の解釈ですし、すべてを圧しつけるつもりもないです。ただ実感としては、ゾーナルディンフェスやマンツーマーンディフェンスなどの言葉を使わなくても、きちんと原則を抑えておけば、現象の理解や対処、エラーを理解できるのだと感じています。ということで、長文ですがよろしければどうぞ。では、レッツゴー。

↓前回、前々回のおさらい

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目次

 

ディナイとディナイ不要(ディナイレス)のサッカーへの貢献

 これまでは、ディナイ不要論を通して、バスケにおけるディナイディフェスとディナイ不要を確認しました。確認したうえで、サッカーへの変換と解釈を実施してきました。まずは、ディナイ、ディナイレスのサッカーへの変換と解釈を整理します。

 

  • ディナイディフェンス ・・・人が基準。自分と相手とでボールの所有権が五分五分の状態でボールを奪いにいく。

                いわゆる「デュエル」と呼ばれるプレーなど。

  • ディナイレスディフェンス ・・・選択肢が基準。「奪いにいかないで奪う」守備。

                  相手のパスやドリブルを誘導する。ゾーナルディフェンスに近い考え方。 

*また、footballhackでも以下のように解釈されていますのでご参考まで。

footballhack.jp

 

 さて、変換と解釈と言っても、ディナイレスディフェンス=ゾーナルディフェンスだなんて言うつもりはなくて、重要なのは、このディフェンスの原理原則です。原理原則を理解したうえで、バスケではディナイ不要、サッカーではゾーナルと呼ばれているにすぎないのですから。到達するべき未来は同じです。ということで、ディナイディフェンスとディナイレスディフェンスの原理原則を見ていきます。ディナイはバスケ用語ですので、最終的にどうなるのかは別として、現時点ではサッカー用語で代わる言葉が見当たらないので、たとえばディナイなら人基準の守備、ディナイレスならカバーやコースを守ると言った表現で整理に取り組んでいきます。

 

人基準の守備(ディナイディフェンス)

  この守備は、定義は非常に明確で、「マーカーにボールが渡らないようにする、あるいは渡ってもすぐに奪える状態で守備をする」ことです。具体的には、ボールホルダーへのプレッシングやホルダーからパスが出てボールが転がっている間に、出し先の相手へプレッシングをかけるやり方などです。前線からのプレッシング、転じて前プレなどの構造も同じものと思います。

 人基準の守備では、ボールを受け取った選手が使える時間が圧縮され、スペースや選択肢も限定された状態からプレーを開始する必要があります。守備側としては、相手選手へのプレッシングでボールを奪うことと同時に、相手に「窮屈にプレーしてるな」と思わせる(実際そうする)ことが目的になります。相手とフォーメーションを同じにする「ミラーゲーム」と呼ばれるやり方で、マンツーマン守備のように守ったり、相手陣でのビルドアップを邪魔しようと相手陣にいる選手めがけてプレッシングをかける「ビルドアップ妨害」などが具体的実践になるかと思います。

 享受できる効果としては、

 ①相手にプレーさせない

 ②奪ったら速攻をかけられる

 ③「激しく戦う」姿勢を見せることができる

だと思います。③は酔狂で書いているわけではなく、実際にこう言ったプレーを見せられると味方としては頼もしいですし、相手からすると脅威になります。また、観客からの応援を受けやすいプレーとも言えます。シンパシーを感じやすいプレーと言いますか。

ただ一方で、

 ①1vs1の選手個人の実力差に依存する

 ②勝った負けたに結論がいきやすい

 ③ケガが増える

がデメリットとして挙げられます。

 

 どれも気になるデメリットなのですが、特に③が個人的に気になります。必然的にボディコンタクトが起きやすいので、接触時にケガするリスクは物理的に増えます。ケガすると代わりに控え選手が出ることになりますが、①が際立つ結果になりがちで、最終的には②に帰結していくループに入りかねないです。見かける実践例としては、激しいプレーでボールを奪いにいったけどケガをして控え選手と交代→交代した選手が相手選手からボールを奪えず失点に絡む→「守備が悪いから負けた!」かなと。あとはシンプルに、選手を守りたいですし、少しでもサッカーという競技を長く続けてほしいと思っています。

 人基準のプレッシング、パスカットは、実は相手の攻撃を加速させる副次効果があります。我々の生活においても、たとえば目の前を急に自転車が通過したら身体を素早く、とっさに避けるでしょう。また、ボールが目の前を通ったらすぐに立ち止まるでしょう。人間は、脊髄反射があるように、素早い動きに素早く反応するクセがありまうす。パスを受けようとしていたら、相手が素早くプレッシャーをかけてきたら「奪われないように素早くパス(ドリブル、シュート)しないと!」と行動が速くなります。攻撃側のプレーが速くなれば、人基準の守備ですから、守備側もさらに速くプレッシャーをかけるなど対応して、サッカーが高速化していきます。

 ドイツやイングランドといった、身体的に対応可能であれば別ですが、この高速化の行き着く先は身体機能の優劣に帰結しやすいです。ドイツのプレッシング系のチームが連戦で疲労がたまるとプレッシングが効かなくなったり、イングランド代表がブラジルなど暑い国でのプレーを苦手とするなど、環境面にも大きく影響を受けます。

人基準の守備(ディナイディフェンス) ~加速する攻撃~

 また、攻撃を加速させるのと同時に、円滑にさせる場合もあります。プレッシングをかければ、当然マーカーを外そうと「外す」動きをかけてきます。具体的には、ペドロビッチ監督のチームのように、センターバックの間にMFを落としたり、ウィングバックを高い位置に押し上げたりなど、「選手のポジションをダイナミックに変化させることで、人基準の守備にズレを作る」などでマーカーを外そうとしていました。当然、守備側も「ミラーゲーム」的にフォーメーションを合わせて外されないようにしますが、単なるいたちごっこに過ぎず、FWが落ちたりすることでさらに外す動きを促進させるだけです。

 よって、ペドロビッチ監督のチームとの対戦は、非常にオープンなゲームになりやすく、攻守の入れ替わりも激しかったりするなど、そのなかでも勝てるチームを作っているのだと思います。なお、2019年に優勝したマリノスも、ダイナミックにポジションを入れ替えることで、攻撃を加速化させています。

 あとは、風間八宏さんが率いたチームも、選手個人がプレッシャーを外したり、背中を取る動きが際立っていました。ディナイ不要でも言及されていましたが、人基準のプレッシングやパスカット狙いの守備は、背後にスペースを空けやすく、バックドアカットやパラレラなどの裏抜けに滅法弱いです。なお、ミゲル・ロドリゴの『フットサル戦術パーフェクトバイブル』にも「パスが出る先にプレスをかける。ただプレスがかかっていなければ裏を取られないようラインを維持する」とあります(そこでディナイ不要と繋がってくる)。

 こう言った、ライン裏を狙う動きも誘発して、「がんばってボールを奪おうと闘っているのに一向に奪えないしライン裏ばっかり突かれる」現象が起きてしまいます。結果、試合にも負けてしまって「1vs1に負けたからだ!」と自分を追い詰めて、守備を練習して、また上手くいかなくなっての無限ループになります。何度も言いますが、バランスが重要で、相手選手に前線から激しくプレシャーをかければサッカーの守備はOKというほど、平べったいものではないですがそもそもその局面になったら負けないように戦うのが大前提です。

 

奪わないで奪う守備(ディナイレスディフェス)

  さて、人基準の守備に対して、選択肢を守る守備とでも言いましょうか。ボールを奪いにいかず奪う守備です。パスコースを切りながらボールサイドを限定したり、縦のコース切ったり、パスを出す選択肢を限定するなどの守備です。3ラインを基本に、選手と選手との距離を均等に保ちながら、相手とボールの進行ルートを限定したり、誘導したり防いだりします。

 原則としては、

  ①横切り(ホルダーへのプレッシャーでサイド限定およびライン維持の息継ぎパスをさせない)

  ②6:4ボディバランスでの縦切り(ベースラインを抜かせない)

  ③中央カバー(ホルダーとゴールとを一直線上で結んだラインにパスさせない、ドリブルさせない)。

 の「奪わず奪う守備三原則」があると解釈しています。

 

 具体的な実践例を見ていきましょう。今のJリーグですとロティーナ監督のセレッソが奪わず奪う守備を実践している素晴らしいチームです。ちなみに②縦切りは、厳密にはコースを完全に切るわけではなくて、パスを出されることを許容します。それは、ボールをサイドにあればリスクが減る、サイドにボールが流れると分かれば選択肢を限定できて守りやすいメリットがあります(6:4ボディバランスが必要な理由)。

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 奪わずに奪う守備のメリットは、相手の攻撃(スペーシング)が悪ければ、わざわざ人基準で守備する必要がなく効率的に、また消費エネルギーを抑えて、選手個人の負荷を抑えてディフェンスすることができます。ケガの抑止にも繋がります。たとえば、マリノスがいわゆるブロックを組んだ守備やゾーナルディフェンスに手を焼いているのは、相手の守備をスイッチに加速できないからではないかと推測しています。相手がついて来れないスピードまで加速して振り切るのがマリノスのサッカーの真骨頂ですが、そもそも奪いにいかなければ、相手のプレッシングや守備スピードは上がりません。逆に、誰も守っていないエリアでポジションチェンジやホルダーのサポートを増やしても、守備側に特にダメージを与えられないままになります。

 そうなると、よりポジショナルプレー的思考が必要になってきます。タイミングや動作、良いスペーシングでポジショニングし、選手個人の質的優位性を高めてるやり方です。ポジショナル的思考も、ゴールを奪いにいかずゴールを奪うと、強引に言えるのだと思います。じゃあどこで奪いにいくのか、奪わないのかの攻防が見られ、高次元的な駆け引きになり、サッカーがより深く、高いレベルへとレベルアップしていきます。

奪わないで奪う守備(ディナイレスディフェス) ~駆け引きをしていく~

 2020年ベガルタ仙台のように、ハイブリッドのように見えるやり方もあります。FWがサイドを限定して、その先のスペースへ誘導。ここまでは、奪わず奪う守備(ディナイレスディフェンス)ですが、そのパスコースの先に待つ選手にはマークしてパスカットを狙う人基準(ディナイディフェンス)になります。おそらくは、人基準守備が前提にあり、それを活かすためにサイドやエリアを限定する必要があって、そのための奪わず奪う守備なのだと思います。しかしチーム全体の練度が高まっていないと、選手個人の負担が高かったり体力的に厳しい状況になると、簡単に背中を取られ守備が破綻するリスクがあります。まとめると以下のように。もちろん、速攻で勝つメリットとの天秤にかけることになります。何度も言いますが、駆け引きです。

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 選択肢を守りパスやドライブコースをカバーするような、奪わず奪う守備には、チーム全体が原則を共有し守る必要があります。そのなかで、最後にボールを奪う局面ではフィジカルコンタクトが発生したり、パスカットするロジックです。その一瞬をバックドアカットで狙われたり、フェイクで外されたりするので、サッカーが非常に面白く、高度な駆け引きが繰り広げられるのだと思います。相手の選択肢を限定して相手陣にボールを下げさせたら人基準守備のビルドアップ妨害へ移行。なんて守備をシームレスにやっているチームがあったりします(マルセリーノのバレンシアなど)。そこまでできればプレーしている選手も面白いでしょうし、何より勝負できます。勝負すると駆け引きが生まれ、賭けるプレーが出てリスクとメリットのせめぎ合いが発生します。この正のスパイラルをどんどん回していくことで、選手もチーム、自分も相手もより高い次元のサッカーへと昇華していきます。

 完全に余談ですが、将棋の森内九段は、あえて指し手の多い(=選択肢の多い)手を指します。指し手が多いと、最善手の候補が多いことになりますから、時間制限があるなかでそれらを考えてるのは非常に負担になります。当然ですがミスをする機会も増えます。ディナイ不要の考え方、奪わないで奪う守備の考え方の基本は、まさに森内九段の指し手のような、複数の選択肢を相手に与えてあたかも「自由にプレーできる」と錯覚させることなのかと思います。味方にプレッシャーがかかっていないように見えるからと言ってパスを出すと……あとは分かりますよね。

 

おわりに

 僕がこのディナイ不要論に出会って、実際に何度か文章を読んだり、他の人の解釈を読んだり自分で解釈していくなかで気づいたのは柔術の考え方に近いなと。「競技というひとつの表現方法を通じた自己と他者の相互成長」なのかなと。競技レベルも上がるし、プレーしている本人たちも成長する。正しい技術には、正しい身体が必要で、それらを正しく扱うには正しい精神が必要になります。長らく日本の中盤を支える長谷部誠が整っていると言われる由縁が分かる気がします。また、「相手の無駄な力を利用する」考え方に基づいたプレーが重要になるのかなと。相手の運動エネルギーを使って、相手を倒せれば、自分のエネルギーは使わないですから非常にエコですし、効率的ですし、スマートだと思います。

 何度も言いますが、ディナイだろうがディナイ不要だろうがマンツーマンだろうがゾーナルディフェンスだろうが、それがすべてではなくて、それらはひとつの表現方法に過ぎず、プレーを通して自分たちのプレーをより深く、高いものにしていくのが最も重要なのだなと思います。これからも、サッカーを深く、そして高くしていけるような気づきや学びを見つけていきたいと思います。それにはまず、日々の取り組みを継続することなのだと思います。それでは、また。

 

 

 

ディナイ不要とサッカー② ~サッカー的解釈~

はじめに

  どうも、僕です。前回、バスケのディナイ不要について、サッカー的な目線で解釈してきました。今回はその続きです。どうぞ。

 

↓前回のおさらい

sendaisiro.hatenablog.com

 

目次 

 

ディナイ不要とサッカー

「ディフェンスをしながらオフェンスをする」とサッカー

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  ずいぶん懐かしいカードですね(笑)僕は、罠カードをよく使っていました。経験ある方なら、罠を「トラップ」と読んでもらえたと思います。さて、まずは引用から。

ディナイ(ディフェンス)を練習しているチームは、プレッシャーをかけてボールを奪って速攻に繋げることで勝てる試合もあります。でも、それは逆に言えば、「ディナイが通用しなかったら勝てなくなる」ということです。問題は、この後です。

「オフボールはディナイをするべきもの」だと常識だと鵜呑みにしてしまっていると、試合に負けた原因を「ディフェンス練習が足りなかったからだ」と考えてしまいがちです。確かに、それは一理あるでしょうし、それをカラーとしているなら、そこを高めることは必要です。でも、実際は、それ以上に大きな割合を占めているのが「ディナイを練習することで、オフェンスが上達していない」ということです。ディナイを盲信していしまうと、ここに気づけなくなります。こうなると、どうなるのか。悪循環が生まれてしまいます。

 

 ここで重要なのは「ディナイ(人基準でのプレッシングや攻守切替時のデュエル)を盲目的に鵜呑みにしてはいけない」ということです。また、これはサッカーでもよく見かけるのですが、「選手が戦っていなかったから負けた」「戦う気持ちが見られない」と、人を基準としたディフェンスのいわゆる「球際」と呼ばれる攻守がどちらに転ぶか分からない局面のデュエルに敗因を求めたりします。また、「オフェンスが上達しない」というのは、少し分かる気がします。2019年のベガルタ仙台も、いわゆるディナイディフェンスのように、ホルダーへの激しいプレスやオフボールのレシーバーへ1vs1のプレッシングをかけて、攻守の「切替」「走力」「球際」で勝てるサッカーを実践していました。ただ、当時の渡邉元監督が仰っているように、それまで積み上げてきたボールを保持した攻撃やポジショニング(良い立ち位置)をベースとしたやり方から、上記のような戦いにシフトするなかで、ディフェンスの練習が多くなりこれまで積み上げてきたものも薄れてきたと言及されています。

 ↓この動画でも語られてます。

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  「良いとこ取り」という言葉がありますが、これは言葉があるだけで実態とは伴っていないです。組織や構造、仕組み、ルールが変わればそれまで「是」とされてきたことや良かったことの価値基準が変わりますから、新しい構造のなかでは邪魔者扱いされて本来然るべきなんです。やってきた事実、経験がそうさせているだけであって、大枠としては今やっていることが最善なんです。

 さて、話がそれましたが、ディナイにしろディナイ不要にしろ、それがすべてのように語られることがおかしいということなのだと思います。バスケ、サッカーにかかわらず、そういった一元的な、平面的な見方でしかスポーツを体験できないのは不幸だということです。また、自分たちにすべて責任があってダメなんだと内省するのは自傷行為であり何も生み出しません。相手のオフェンスが悪ければ、「相手の攻撃がよくない」と判断すれば良いです。サッカーで言えば、人をターゲットにプレッシングをしていくことも、ゾーナルブロックを組んで、背後のスペースをカバーすることも、すべては相手の攻撃次第になります。そして、自分たちがどう守りたくて、どう攻めたいのかが来ると思います。そこまで自分のチームで、「選手を守るのかパスコースやドライブコースなのどの選択肢を守るのか」を状況別に観察して判断して、自分たちの狙いを実行できれば、相手にとっても脅威になりますから、ただロングボールを蹴れば良い、ドリブルで抜けばいいといった一次元的な攻撃から脱却して、ライン間やライン背後、良い立ち位置を取る、相手を引き寄せて裏へ蹴るなど、「ポジショナルプレー思考」的な考えでサッカーをプレーできるのだと思います。相手も自分も思考の好循環を回すことで、記事中の言葉を借りれば、サッカーを高次元に持っていくことができるのだと思います。 

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 イビチャ・オシムが考えるサッカーを標榜していました。また、吉武博文が相手と相談すると言っていました。相手を観察して、必要ならプレッシングを前線から各選手へかけていく。場合によっては、相手を誘導して、ゾーナルに守った方が良い場合もある。相手が人目掛けてプレッシングをしてくるなら、プレスを外して裏へパスを通すなど、相手を観察しながら考えてプレーできるのだと思います。記事でも盛んに言われているのはいわゆる「脳死状態」の思考停止でプレーをすると、プレーしていても面白くないし自傷的になる。競技そのもののレベルも上がらない。ここはかなり柔術的な考え方に近くて面白かったです。いずれ、この視点についてもまとめるつもりです。

 

「ゾーン禁止とバックドアカットの価値」とサッカー

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今、ミニバスと中学生ではゾーンが禁止されています。また、ゾーンのような守り方、マークマンから大きく離れる守り方も制限されています。コミッショナーという新たな審判のような人がいて、コミッショナーの判断で「マンツーマンではない」となったら旗が上がり、注意を受けるというもの。ディナイが半強制的に義務付けられているようなものだというコメントをもらいました。国際的にも強豪国は15歳以下でのゾーンを禁止しているようで、JBAの方針として「個の力を高めるため」としています。

 

 これは知らなかったので素直に驚きました。驚いたのと同時に、一時期、日本のサッカーにおいても「個の力」がやたらとクローズアップされました。「世界と戦うには選手個人の力をもっと底上げる必要がある」といった文脈でした。個人的には、そこはアグリーでぜひとも個の力とやらを上げてほしいとは思いますが、それはいわば当たり前のことであって、これまで「組織力」や「団結力」などの言葉でぼやかされていた部分なのでやっていけばいいと思います。ただ、これまでの記事群でも語られているように、「それだけ」やれば、日本サッカーが世界に勝てるわけではないです。また、穿った見方をすれば「世界で勝てない理由や責任をすべて選手個人に背負わせている」とも取れます。「お前のせいで負けた」という言説は、プロアマ問わず、スポーツ問わず聞こえてくる「選手を石化させる呪いの言葉」だと僕は思っています。責任や失敗要因を過度に個人へ向けると、「自分はダメなんだ」と過度に内省的で自己責任的になってしまいます。重要なのは、「原因を正しく認知する(=原因帰属理論)」だと思います。相手のせいでもあるし、もちろんやっぱり自分が悪かったということもあります。環境のせいだってあります。それぞれを起きた事象と原因を紐づけられていますか?ということを僕は問いたいと思います。

 とはいっても、若い世代にいきなり言っても悩ませてしまうかもしれませんし、記事でも言われていますが、大人が子どもに先に答えを教えたくなってしまいます。そうではなくて、いったんその道を歩かせてみて自分の肌で風を感じて、舌で味を確かめて、頭で考えてから出した答えの方が、より意味を持ちます。僕はこれを「経験値化」と呼んでいます。人間はたいてい「体験」をします。その体験したことを自分なりに振り返って「経験」にします。それらの経験の積み重ねが「経験値」になり、これらの一連のプロセスを「経験値化」と呼んでいます。大人が子どもにやりがちなのは、この経験を先に教えてしまって、教えたつもりになることです。子どもからしたら他人が振り返った体験を教えられても決して経験値にはなりません。なってもその瞬間だけです。

 たとえば、デュエルと呼ばれる球際のボールの奪い合いも、まずはそれがどういうものなのかを体験して、実際デュエルを90分間続けるのか?そもそも必要なのか?鍛えられるのか?などの自問自答を通じた振り返りで経験値にしてしまった方が良いと思います。その結果、「この場面は無暗にプレッシングをかけてデュエルに持ち込んでもかわされて背後のスペースを使われてしまう。だからもっとパスコースやドリブルコースをカバーして相手の選択肢を狭めよう(=ゾーナルディフェンス思考)」になれば、良いのだと思います。そして今度はゾーナルディフェンス(=ディナイ不要守備)を体験して経験にして……その繰り返しなんだと思います。繰り返していけば若年世代でも久保建英のような「経験値のある選手」が育っていくと思います。記事中でイチローの言葉が引用されていましたが、深みのある人間になるのだと思います。

 また、記事中で言及されているディナイも、サッカーで言うところの球際、デュエル、人基準守備も、「ボール保持が前提」となっています。この前提のままだと、やはり「奪えるか抜けるか」になりますし、「勝ったか負けたか」の一元的な評価でしかサッカーもバスケを見ることができず深みがでないです。そこで出てくるのが「バックドアカット」です。まさに「ボールを持っていない1v1」がピタリとはまるプレーです。サッカーでは、ライン裏へのオフボールラン、裏抜けなんて言葉で言われるプレーになります。ただ、個人的には、それを相手ファイナルラインに対して発動するので、ゴールへの直接的なプレー、裏抜け=バックドアカットになると解釈されそう認識されていますが、「相手ライン背後へ飛び込むオフボールラン」はバックドアカットだと思います。サッカーにおいては、「ライン裏・ライン間に潜る」プレーだと、僕はバックドアカットを解釈しています。アウトサイドからインサイドへ、ファーからニアへライン裏やライン間へオフボールランを繰り出すプレーと考えます。だから僕は「潜る」とか、潜ったままたとえばオフサイドエリアにいることを「潜伏」と呼んでいます。

 バックドアカットが強力な理由のひとつは、ボール保持側(=攻撃側)に主導権があることです。相手DFがディナイディフェンス(人基準に守っている)していると、背後のスペースやパスコースをカバーする意識が低いですから、そこへボール保持側のタイミングでバックドアカットを仕掛けることができます。こうなるとボール非保持側(=守備側)が後手に回ります。また、バックドアカットした選手へついていくので、守備に必要なライン形成を維持できず、ぐちゃぐちゃの状態になってしまいます。こうなると、たとえボールをはね返してもセカンドボールを回収しにくいですし、カウンター攻撃を繰り出そうにもポジションがバラバラになってしまいます。いずれにせよ、前述したとおり、攻撃側がバックドアカットを繰り出してくるのなら守備のやり方を変える必要があります。それがディナイ不要守備へと繋がっていくわけです。

 

「相手のスペーシングが良かったら打たれ放題じゃないか!」とサッカー

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  まあ、こう言った言説はよく飛び交いますね(笑)。サッカーですと、失点しようものなら「1v1を逃げてる」とか、「ちゃんとマークしてないから」とか言われますね。ただしこれについても、やはり相手をきちんと観察する必要があると言いますか、たとえばパス出しがうまいセンターバックとそうではないセンターバックとでは、ボールを持たれた時にプレッシングをかけるのかどうするのかは変わってくると思います。また、パスを出されても出した先を潰せる算段(相手より身長や体重で勝るDFを揃えているのでハイボールで勝てる)があるなら、ホルダーに密着マークするような真似はしない(ディナイ不要守備)と思います。何度も言いますが、大事なのは、きちんと相手のオフェンスを観察して自分たちのディフェンスを決めることです。自分たちにとって一番得なやり方で、相手にとって一番不利なやり方を実行していくことが重要だと思います。実は、この考え方こそが、ボール非保持(守備)時には「ゾーナルディフェンス(ゾーンディフェンス)」、ボール保持(攻撃)時には「ポジショナルプレー」と呼ばれるものの正体です。「チャレンジ&カバーしましょう」とか「三角形を作りましょう」とかはあくまでオペレーション、実行段階のキャッチーな言葉であって、本質とは違います。ディナイ不要論でも何度も言われているように、目的と手段をはき違えず、攻撃でも守備でもやれること、手札は多い方が良いですし、何を繰り出すのか?が相手との駆け引きになります。その駆け引きのレベルが上がれば、競技のレベルが上がっていきます。究極的な目的はそこになります。自分と相手との、競技を通じたコミュニケーション。競技をより深く高いものにしていくひとつの表現方法なのだと思います。

 実際、2019年後半のベガルタ仙台は、「1vs1を制して速攻で勝つ」チームでした。守備の練習時間も増えたと聞きます。記事中にあるように、オフェンス練習へのウェイトが減ったのです。実のところ、記事の著者である原田さんには申し訳ないですが、僕はサッカーにおいては守備戦術が勝敗を決めると思っています。すみません(笑)。でも、サッカーはバスケと違って80点も入るスポーツではなく、多くて3点、4点です。しかも、最後は1点を争い、相手より1点多ければ勝つスポーツです。90分間競技をしてたった1点で勝敗が決まる残酷なスポーツです。一方で、守備戦術のやり方はある程度何通りかのやり方があって、あとはどうやって実行するのかが大事になるのですが、攻撃戦術、オフェンスについてはある程度の定型化はあっても形が自由です。そうい意味では、攻撃が守備を強くするのかもしれません。無限にあるように思える攻撃を少しずつ限定していって、自分たちの攻撃へ変換するのが、サッカーのボール非保持時における醍醐味だと思っています。バスケとサッカーの共通項は、「1人じゃプレーできない」競技です。ボールが1個、自分と相手の2人がいればこの地球上のどこでもプレーできます(特殊な場所とかは別)。ある意味、ボールを使った、2人の競技者による勝負でもあるし、作品でもある、表現方法なのだと思います。

 

おわりに

 ここまで記事をサッカー的に解釈する作業を進めてきました。大変です。疲れました(笑)。原田さんのバスケ記事はめちゃくちゃ面白いので好きな記事は何度も読んだり、動画を見たりするのですが、いかんせんバスケ未経験なので分からないものは分からないで通ってきています。でもこうした異なる分野や文化でも、共通項がある、普遍性があることを学んでいくことがいわゆる「多様性を理解して、他者を理解し、人類の普遍性を理解する」に繋がるのかと思います。ということで記事解釈はこれにて終了。次回は、これらの解釈をもとに、具体的にブレイクダウンさせてゴリゴリのサッカー話を書きます。いわゆる実践的コントリビューションですね。では、また。

 

 

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【反転】Jリーグ 第7節 柏レイソル vs ベガルタ仙台 (5-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイ柏戦のゲーム分析。夕闇の日立台。連戦最後の週末に、黄色と白色のユニフォームが集まる。降り注ぐ矢玉。歯を食いしばりながら反撃するも、柏の圧倒的な攻撃を前に、次々とゴールを許すベガルタ仙台。これが彼らが目指してきた場所なのか。いや、戦いは開始してすでに、策士ネルシーニョの術中にあった。定められた運命を全うするなか、すべてに抗い逆らう男の逆襲の一撃が放たれる。今回も、ゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

 

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは4-3-3。センターバックにジョンヤ、LBに柳が入る。左インテリオールに中原が、センターFWに赤﨑が入って、左ウィングにゲデスと4-5-1のミドルブロックからのカウンターを狙った浦和戦に近い構成に。

 柏は4-2-3-1。自陣のビルドアップではボールを繋ぐが、カウンターもハイプレスもなんでもござれ。策士の狙いを実行できるメンバーだ。アタッキングMFの江坂。とんでもねえ江坂。オンボールもオフボールも違いを生みだせる稀有なアタッカーだ。

 

概念・理論、分析フレームワーク

  • 『蹴球仙術メソッド』を用いて分析。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • 文章の伝わりやすさから、便宜的に、『攻撃・守備』を使用。
  • ボールを奪ってからの4秒間をポジティブトランジション、ボールを奪われてからの6秒間のネガティブトランジションとしている。

ボール保持時

左サイドのローテアタックと柏の「罠」

 ベガルタのビルドアップは、左右センターバック+アンカーの三角形に、左インテリオールの中原が、柏2FW横に降りることで、潰れた台形のようなボックス型ビルドアップで組んできた。これまで松下が担ってきた役割を中原が実行した形になる。中原のキャラとの相性もいい。さらに、この日のベガルタの左サイドには優位性があった。左センターバックのジョンヤ、左ウィンガーのゲデスとボール保持時に力を出せる技術ある選手が入っている。幅取りはLBの柳。中原と組んで、スクエアを形成した。

図1

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図2

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 また、オリジナルのポジションのままではなく、お互いがレーンチェンジするなどローテーションアタックを繰り出す。ローテーションのなかには、LBの柳も組み込まれているので、彼の立ち位置もこれまでのベガルタフルバックの高さに比べて高かった。基準となるアンカー椎橋より高く、かなり攻撃的な立ち位置を取った。当然、柏の右ウィンガーを牽制する意味もあり、守備で誰をマーキングするかを迷わせる狙いもあったと思う。ただ、不気味だったのは、ネルシーニョ柏が動じない。柏の右サイドが飽和攻撃を受けているのにも関わらず。20分間ほどベガルタのペースで試合が進み、そのまま中盤戦に入るかというところで、すでにベガルタネルシーニョの幻術の中にいた。

 柏のセット守備は、4-4-1-1。アタッキングMFの江坂がアンカーを警戒。オルンガがホルダーのセンターバックにサイドを限定するような、中央からサイドに向けてプレッシングする仕組みだった。ただ、オルンガのプレッシング自体はそれほど激しくもなくムラもあった。しかも左センターバックは、皇帝ジョンヤである。簡単にボールを持って、前線にパスを刺していた。さらに、左インテリオールの中原がドロップで柏の右ウィンガー貼りつけているのでなおさらだった。ただし逆に言えば、ベガルタの攻撃方向をかなり限定できたと言える。赤﨑のファイナルライン背後へのバックドアカット、ハーフレーンのゲデスへの楔を警戒する条件をつけて、ベガルタの左サイドアタックを許容した。結果、赤﨑のバックドアカット自体はそれほど出てこず、ゲデスに対してはRBの古賀が決闘勝ちして封殺した。そんななか、最初の失点を中原のパスを古賀がカットしてカウンターが一閃した。アンカー椎橋が「柳の高さに合わせるように」ボールサイドに寄っていき中央が空いた。全体が前に前に「守備のポジション」を崩しているところにカウンターが刺さった形だ。こうなると、ファイナルラインも所詮は人の集まりに過ぎなくなる。中盤から前線の守備の束がバラバラなのだから、失点も当然の結果だった。

図3

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 実際に、ネルシーニョが「あえて右サイドを攻めさせてカウンターを狙っていたか」は分からないけれど、あれほどベガルタは左サイドを制圧していたにも関わらずそれを受け入れていたようにも見えたし、実際ベガルタもボールを持ってポジションを変えてパスを出してと「気分は良いけど、『気分』だけが良い」状態で、柏のファイナルラインを崩壊させるに至らなかった。しかも、これまで、ボールを奪われた瞬間のポジションを意識するように、守備陣形を整えて攻撃していたが、この日は柳も椎橋も高い位置を取っていた。なお、ボールを持って引き寄せて、ライン裏へオフボールランを繰り出せると怖さが出たが、前半の赤﨑はまるでゴルフ選手のショットを見守るかのように静かだった。後半になると、RBの古賀が前に潰しに行った背後を狙ったりと動きは変わっていった。西村のゴールもそう言った文脈から生まれたと言っても良いと思う。でも、この日は、それまでだった。

ハーフレーンに絞るゲデスの苦悩

 左ウィンガーに入ったゲデスは、この試合だと、ワイドレーンにタッチラインいっぱいに開いているわけではなく、RBの古賀とマッチアップするようにセンターバックとの間にポジションを取った。自陣からのハイボールも、そのゲデス目掛けて蹴られていた。センターFWの長沢の代わりと言ったらアレだけれど、そういった役割も求められていたのかもしれない。ただ、これまで、幾度となくボールを収めていたゲデスも「せーの」でハイボールを競るとなると状況が変わってくる。右ウィンガーのジャメもそうだけれど、やはりオープン状態で、相手との1vs1を制する選手がウィングに入っているのでなかなか難しい。そのために、ボールを持って攻撃をした…とも解釈できるのだけれど、敵陣プレッシング、ミドルカウンターを極めている途中で、正直ボール保持攻撃には手が付いていない印象。たしかに再現性ある左サイドアタックだけれど、あれだけ上手い奴が集まれば、左偏重になってもしょうがないとも思える。ウィンガーにボールがついてからが勝負のベガルタ仙台。そもそものウィンガーにボールがつかなくても攻撃できればまたワンランクアップできると思うけれど、今それを求めるのは酷な気がする。気がするだけ。あとは、「意図的に五分五分のボールを出してネガティブトランジションを発生させる」高等テクニックもまた、これから先やっていくことだと思う。

 

ボール非保持時

4-5-1のミドルブロックと噛み合う中盤

 ベガルタのセット守備は、4-5-1。柏の両フルバックが高い位置を取るので、両ウィングがそれを警戒する形で対抗型を組んだ。センターFWの赤﨑がホルダーへ中央からサイドへプレッシングをかけてサイドを限定する。縦に出たところで3センターとファイナルラインで奪い取る計画だ。柏のボール保持攻撃が4-2-3-1だったので、ベガルタの3センターの逆三角形とがっちり噛み合った形になった。フルバックも高い位置を取るので、中盤列が5枚vs5枚になる。ただ、ウィンガーがサイドを気にするので、隙間を刺されてハーフレーンに絞る柏のウィンガーにボールが渡るシーンもあった。噛み合っていると何が有効か。それは、ポジションチェンジである。特に、アタッキングMFの江坂が、サイドへカットアウトすることでフルバックセンターバック間のチャンネルにオフボールランを繰り返した。特にベガルタの右サイドは狙い撃ちされ、後半に右サイドを総とっかえする必要さえあった。

もう一度4-3-3のハイブロックを

 川崎も柏も高い位置にフルバックを上げることで、ベガルタ仙台の武器であるウィングを牽制した。体力的な厳しさもあるとは思うのだけれど、パスコースを守っていたウィングがこの2試合は人を守っている。より高い位置で戦うことを旗印に掲げるのであれば、再開後に見せていた4-3-3の高い位置でのプレッシングを披露してほしいと思う。ある意味、高い位置でウィングがプレッシングをかけるやり方は、背後のスペースをカバーできていないと効果がない。カバーするのは3センターのスライドになるけれど、現状そこまでできていないのと、最終的にゴール前で後手を踏むのであれば最初からウィングにカバーしてもらうという手は理解はできる。カウンターエリアも広がる。ただ段々と試合を重ねるごとにウィングが消えてきたことも事実だと思うので、もう一度、ボールを持っていない時、守備でのウィングポジションを高く、高く羽ばたいてほしいと思う。

 

考察

やりたいことを「やられた」

 率直に、柏のような戦い方をベガルタとしては表現したかったし、チャレンジしていることだと思う。ネルシーニョがあえてそういう「ミラー」のような戦い方で来たのかは定かではないのだけれど、少なくともこの試合でベガルタが挑戦しているサッカーを表現できていたのは対戦相手の柏の方だったと思う。ベガルタとしても、自分たちが狙っていることを相手が色々な手で防いでくるので、やはり手は多い方が良いのだと思うし、正直そこまで手が回っていないというのも事実のようだ。ただ、その下地になりそうな戦いは表現しているので(ミドルカウンター、ボール保持攻撃)、このまま続けていくしかない。いずれにせよ、ミラーゲームやリトリート、逆にハイプレスをしてくるチームも出てくるので、避けては通れない道になる。

 

人対人のやり方について

 3失点目のシーンは、椎橋が江坂に振り切られたところからスタートしている。こういったリスクは、今取り組んでいるサッカーにはつきものだと思う。敵陣では人基準でハイプレスをかけるベガルタであって、椎橋が江坂に勝ったら「表現したいことができて称賛されるプレー」として語られるのだろうし、成功と失敗は表裏一体ということだ。また、ゲデスが古賀に勝てなかった部分、センターバックが晒され続けて失点を5つもした部分など、どうしても人対人がクローズアップされる試合ではあった。木山監督も試合後コメントでは戦術ではなく個人のレベルアップを促すようなコメントを残していたのだけれど、それはひとつ正解としてやはり今のベガルタは組織的な束で守ったり攻撃したりしないと、簡単に崩壊してしまうのだなと感じる。

 これは、サッカーを高次元に押し上げる取り組みであって、個人なのか組織戦術なのか、勝利なのか内容なのかではない。すべての物事には表があって裏があり、良いところ悪いところがある。重要なのはそれらをきちんと理解して取り組んでいるか、だと思う。この試合も、5失点したから、センターバックがやられたから、守備をがんばるんだ!ではより「負のスパイラル」に入る。お前のダメな部分だと指摘して指導しても選手は失敗を恐れる。失敗を恐れると身体が硬直化する。身体が硬直化するとまた失敗する。失敗するとお前はダメだと言われる。その無限ループになる。こうなると、サッカーを楽しめない、勝負を楽しめない、賭けられない選手になってしまう。ダメだったからダメだというのは簡単だし、それは解決策の提示ではなくただの現象のなぞり書きだ。それに単純だ。この試合を決したのは、ストライカーの差だというのに。

 4-3-3の高い位置でのプレスを推奨するのは、決して人基準ではなく、組織だってパスコースを消したり相手の選択肢を削ぐことができるからだ。今のベガルタはどうしても最後の選手vs選手の部分に振り切れてしまっているような気がする。気がするだけ。いずれにしても、もう一度組織で守る、攻めるをやること。そのなかで当然、勝負なわけであって、相手がそれを崩すように仕掛けてくる。その時、人対人でやらないといけない部分だってある。それはやればいいと思う。重要なのは繰り返すが、どちらか一方に振り切れることではなくて、もっとサッカーを高次元に持っていく作業をやり続けるべきだ。人対人で負けてしまえば、カウンターを許して負ける、だから人対人に強い人を連れてきます、選手を鍛えますだなんて、あまりにも単純で一元的で平面的な解決策だ。小学生の反省文じゃないんだ。どうしても、強敵と当たれば、いわゆる「球際」と呼ばれる部分で勝った負けたが出て来るし、負ける方が多くなる。そこに依存しなくても良いやり方を表現できるのだから、突き詰めてほしいと思っている。

 もちろん言うのは簡単。けれど、組織で守れるところ選手で守れるところがあって、それぞれの良い部分を理解してサッカーをプレーしてほしいと思っている。組織としても伸びて、個人としても伸びるべきだ。それが一番、勝てるやり方だし、勝ち続けるやり方だ。サッカーをもっと高次元に、高いレベルに押し上げる。レベルの高いことに挑戦するというのは、元来、アスリートにとって、スポーツ選手にとってやりがいがあるはずだし、面白いはずだし、楽しいはずだし、ゾクゾクするはずだ。そういう野心をもって、挑戦してほしい。

 

 

おわりに

 僕からは特にもう無い。君たちが一番分かっているはず。僕はいけないけれど、ユアスタ、ホームユアスタだ。1試合でも多く、このユアスタという素晴らしいホームスタジアムで、君たちのサッカーを表現してほしい。野心をもって、プレーを、勝負を楽しんで、決して自分を追い込むな。誰のものでもない君たちのユアスタのピッチで、サッカーをプレーしてくれ。ユアスタのこと、頼んだぞ。いつだってそこは、「劇場」なのだから。

 

 「信じるものは自分で探せ。そして次の世代に伝えるんだ」こう言ったのは、ソリッド・スネークだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com

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