蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【その船を漕いでゆけ】Jリーグ 第34節 サンフレッチェ広島vsベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。リーグ最終戦アウェイ広島戦のゲーム分析。すべての終わり。戦い続けた者たちに訪れる休息。走り続けた先に辿り着いたひとつの未来。失ったものも手にしたものも、すべてはあなた達だけのもの。痛みも傷もなにもかもを抱えて、再び、走り出す。最後も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタ仙台は、4-4-2。両翼にリャン、ワタル。右SBには大岩が入る。

 広島は3-4-2-1。すごくベガルタっぽかった。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

渾身のトムキャット可変4-4-2。両翼にはリャンとワタル

  ベガルタのボール保持攻撃におけるビルドアップは、椎橋がCB脇に降りて富田がアンカーポジションに入る逆丁字型ビルドアップ。広島のセット守備4-5-1に対して、2枚優位の状況を作る。広島も人基準で前プレを仕掛けてきたこともあり、CHが飛び出して5-3-2のようになる。永戸、蜂須賀はウィングロールとして、相手WBをピン留め。そうなると、椎橋目掛けてプレスをかけるとそのスペースを誰が見るんだい?問題が発生する。

 この試合、両ウィングに入ったのはリャンとワタルだった。2人とも、タッチラインには張らず、ワイドレーンからハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット可変で広島ブロックを崩そうとした。特に、前述の広島前プレ後方のスペースを使ってボールを持とうとした。おかげで2トップは、2トップのポジションで役割を果たせることになるし、1人が降りてきても誰が見るんだと選択肢を迫ることができる。

図1

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「ハーフスペース」を攻略すること

 どんなにシステムが変わろうとも、選手が変わろうとも、やり方が変わろうとも、徹底的に狙ったのがハーフスペース(トレーラーゾーン)だった。いわゆる選手間の場所である。相手の守備にとって、焦点のプレーをしかけることができるので、ブロックを崩す小さなズレを生み出しやすい。ここを狙うのは、現代サッカーにおいて、非常に重要になっており、それをまさか仙台の地で見ることができるとは思わなかった。

 この試合でも、クラブのレジェンドとクラブの未来がそろってハーフスペースを攻略しようとする姿を見せた。タスキは、繋がっている。 

ボール非保持時

かつての自分たちである3-4-2-1への抵抗

 ベガルタのボール非保持時陣形は、4-4-2。相手の2センターに2トップが基準を置くやり方だ。3バックには時間とスペースを与えるが、その先では与えないやり方だ。広島は、3-4-2-1から3-2-5のような形になり、ベガルタの4-4-2ディフェンスに対してポジショナルアタックをしかけたきた。

 特にベガルタの右ハーフレーンは、散々に攻撃された。右ウィングのワタルがWBへのパスレーンを気にするところを狙って、背後に降りてくるシャドーにボールを刺した。富田が対応するのだけれど、今度は、シャドーが縦にランニングして富田をファイナルラインに吸収させる。  こうなると、シャドーが空けたスペースを誰かがカバーしなければいけないのだけれど、それが出来なかった。

図2

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 椎橋は、日曜の勾当台公園を散歩するみたいにセントラルレーンをジョグ。相手CHにスペースを使われ続けた。それでも、後半の深い時間までゼロだったのも、かつての自分たちが抱えていたように、広島がミドルサードからファイナルサードで相手を動かす、攻略法があまり明確ではなかったのもあった。

それでも直らなかった守備の立ち位置

 ただ、後半になると、自陣に張りつけられる時間が増える。また、広島もクロスを増やす、横と縦にポジションを入れ替えることを使って、守備陣形を崩してきた。特にサイドでローテーションされると、DFラインの縦迎撃とCHのマンマークが最悪の食べ合わせになって、2ラインがぐちゃぐちゃになった。失点シーンはそれを象徴するシーンだった。

 結局のところ、「迎撃」と「人につく」ぐらいしか守備のロジックが無いことに変わりはなかった。かわされると、もう一度ラインセットするのは至難の業。大体は、味方にディフェンスコース遮られたり、近くの相手にプレスかければいいのか、戻るべきなのか思考停止して、途中でフリーズしてしまう。だから、相手陣に押し込む、即時奪回する、が今季のテーマだった。相手を自陣に引き込むなら、ここを徹底的に鍛え直すほかない。これは、逃げられない。

考察

今季の、これまでの総仕上げ

 この試合は、形と試合への姿勢こそ、今季のほとんどを戦ってきたやり方だったのだけれど、ボールを持てばある程度相手を押し込んだり、ボールを動かしたりしていた。もちろん、必殺パスを持つ天才松下がいない以上、スペースに即ボール出しできるかと言われればそうではないと思う。でも、戦い方としては、これまで積み上げてきたものを少しでも表現しようとした90分間だった。

 ただ、守備については、もうこれ以上の何かは無いようにも見えた。時計の針を元の位置に戻すかのように、4バックでも縦迎撃で相手を迎え撃った。ただ、それだけだった。そこで散々にやられたのが、昨季であり、今季序盤であった。「時計の針は進めたものの元の止まった位置に戻っただけ」だった。いうなれば、その時に突きつけられた問題に対して、答えを出せずいる。これは攻撃時のゴールに迫るやり方もそう。たしかに時計の針は戻った。でも、元の位置に戻したからと言って、そこから進められる道筋も結局のところ分からなかった。あとは、残った人間で、解決するしかない。逃げるは恥だが役に立つが、逃げるだけでは解決しない問題もある。気がする。気がするだけ。

 

おわりに

 今季も終わりましたね。 みなさん、ありがとうございました。1シーズンを書ききるのは、自分にとっても初めての経験で、なんなら昨季の倍書くわけですから正直大丈夫なのかなと思うところもありました。春先、セレッソ戦あたりで少し心折れかけましたし、清水戦のあたりか、その前ぐらいでわりと暗黒面でした。それでも、チームが戦い続けるわけで、サポーターのみなさんも応援するわけですから、僕も負けてられないなと思い書き続けてきました。

 あと、これは個人的なことなので、ここに書きますが、ベガルタ仙台戦術藩が一過性のブームで終わらず、定着するかはある意味僕が書き続けられるかにかかっていると、昨年末にちょっとした呪いをかけられまして。僕は単純ですから、それを今年の使命にしたんですよね。絶対に書ききると。どんな時でも、どんな長文でも、感想文でも、読んでくれる多くの方々、感想を言ってくださる方々。とても、とても力になりました。好き勝手書いているものに、貴重な時間を使って読んでもらえて、とてつもなく背中を押されました。謹んで、感謝申し上げます。ありがとうございました。

 ベガルタ仙台というクラブは、間違いなく、大きな節目を迎えています。ひとつの組織が25年続いたという節目。10年間トップディビジョンにいるという節目。そして、監督が変わる節目。そんな、大きなうねりのなかで、サッカー戦術ブログを通して、ベガルタ仙台という価値にひと手間加えて、新しい価値を生み出す作業を僕や戦術藩藩士がやっていることなのだと思います。そして、またそこから新しい価値が生まれて、生まれてを続けて、ベガルタ仙台を母体として広く根強いネットワークが生まれていくと思っています。今後も、みなさんと一緒に、この小さな地方クラブの開花期を見届けていければいいなと思っています。では、またどこかで。フォルツァ

 

「それでも!!!!!」こう言ったのは、バナージ・リンクスだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

【ZERO】Jリーグ 第33節 ベガルタ仙台vs大分トリニータ (2-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか!ホーム最終戦、大分戦のゲーム分析!すべての終着駅、ホームユアスタ。今季、数々のシアターオブユアスタを見せた戦いもこれにて終劇。そして、トップディビジョンへの挑戦は続く。理想と現実。狭間で揺れる思い。未来を語る青年監督と戦い抜いた戦士達。すべてのひとの思いを乗せて、フォルツァ仙台。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、いつもの4-4-2。FWに石原先生、CHに椎橋が入った。

 大分は3-1-4-2。小塚と岩田はいいぞ。ちなみに大分のビルドアップ分析はこれ。

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概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

アンカー落としの椎橋

  この試合でも、ボール保持をひねり出していく。数少ない、ボール保持攻撃のなかで、この試合の大きな変化点は、松下の代わりに左CHに椎橋が入ったことだ。利き足も違うなら、タイプも異なるMFになる。

 椎橋は、SBが高い位置を取って空いたスペースに降りて、擬似3バックを形成。アンカーロールを富田に任せ、アンカー落としを敢行。相手2トップ脇で数的優位が作れる3vs2の状態をつくった。ただ、試合全体を見れば、SBを低めの位置に立たせる策もあり、なかなか同じような状況が見られなかった。

 松下と椎橋でどちらがいいかというよりは、どちらのタイプを採用すれば、自分たちにとって有利になるのか、相手がより不利な状態に持ち込めるのかを考えた方が健全な気がする。気がするだけ。関口がトムキャット可変で、左ハーフレーンに立つこと、石原先生がボールキープすることとセットで継続していれば、ボール保持時においても効果的な時間を創り出せたかもしれない、そうじゃないかもしれない。

ポジティブトランジション一閃

 2点目のゴールは、ピッチ中央でボールをカットしたところから始まるミドルトランジションだった。特に、攻撃面で力を発揮していた大分左WB田中の背後を強度勝負で勝利した蜂須賀からのクイッククロスが見事だった。大分は、左WB田中が高いボール操作能力を見せ、いわゆる違いを生みだしていた。

 ただし、その分の反作用として、大分のネガティブトランジション時には後方に広大なスペースを創ってしまうという高い税金を払っていた。その埋め合わせを左ハーフディフェンダー羽田がワイドレーンまで出て対応するため、ボックス内は2CBしかいないシーンがまあまあ見られた。

 そんなこんなで、大分の構造的な痛点と今のチームの強みである「締まった守備」「前へのパワー」が出た2点目だった。 

ボール非保持時

アンカー長谷川を消し込む「先生」と2トップつるべの動きプレス

 ベガルタのボール非保持時陣形は4-4-2。ご存知。説明不要。両親の顔より見ているかもしれない。対する大分は、アンカーが存在する3-1-4-2。ガンバ戦の延長でもあった。そのためか、ベガルタの準備は用意周到であった。

 この試合、FWとして起用されたのは石原先生だった。今季、チーム戦術変更の煽りをもろに食らったのが石原直樹という選手生命も晩年のエースストライカーだった。そんな石原先生に課せられたタスクは、大分アンカー長谷川を消し込むことだった。ジョーカーポジションで、第2レイヤーにポジショニングすることで、「焦点のプレー」効果を生み出すこの選手を抑えることがベガルタ仙台にとっては至上命題になる。

図1

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 長沢がボールサイドを限定するプレッシャーコースをたどれば、石原先生は、中央レーンへのパスレーンを警戒してアンカーにつく。こうなると、大分としても、両ハーフディフェンダーがボールを持ってどうにかする時間が増える。ベガルタとしてはそれでOK。ボールを持たれたとしても、4-4-2のブロック外、ワイドゾーンで持たれる分にはそれほど怖くないという算段だ。

 また、石原先生がCBにプレスをかけにいく場合でも、長沢がアンカーを見ることで警戒網を緩めなかった。2トップがつるべの動きでプレッシャーをかけることで、3CBをスポイル。大分は、ボールを持つのだけれど、後方に3枚も余ることでファイナルサードに人数をかけにくくなった。当然、2枚、1枚と後方人数を減らして前方を数増しする策もあるのだけれど、今のベガルタには必殺のカウンターがある。強度負けしようものなら、あっという間に失点するリスクがある。その戦いにはなかなか踏み切れず、試合を通して大分は3バックビルドアップを継続した(当然流れの中でセンターやGKがまざることもあった)。

図2

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図3

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ロジカルに2トップ脇をジャンプ台にサイドチェンジキックを蹴る大分  

 さて大分の対抗型。後方の人数を堅持したまま、前方を数増しするには、支配エリアを広げてカウンター距離を長くするしかない。つまりは、ベガルタを陣内に押し込んで攻撃し続けることだった。

 まず使ったのは、2トップ脇。もっといえば、石原先生脇とも言える。アンカーを見る石原先生を横目に、左ハーフレーン入口を小塚が降りて利用。道渕がCBとWBを警戒するため、時間とスペースがある。道渕も無暗に飛び込めないため、後方へとリトリートするしかない。こうなると、全体としてブロックが下がっていく。逆サイドでもそう。大分のハーフディフェンダーがドライブでボール前進することで、関口を正対でピン止め。WBとIHと縦関係にあるFW三平とでスクエアをつくり、エリア一帯をフリーズさせることに成功。そこから、左WBでウィングロールの田中にぴったりとサイドチェンジキックを蹴り込んだ。

図4

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 サイドチェンジには、相手ブロックを下げさせる効果がある。横のスライドは、サイドチェンジキックのボールの目的地向かってスライドするため、目的地が高い位置にあれば、真横というより斜め後方にスライドすることになる。それを2回も蹴られれば、当然、全体のブロックは自陣リトリートする。大分は、極めてロジカルに、4-4-2の空いている場所を攻めてきた。2トップ脇。サイドタッチライン付近のワイドゾーン。それでも最後に崩れなかったのは、クロスをはね返す力と中央3レーンを締めたベガルタの守備力があったからだと思う。そうでなければ、やられていてもおかしくなかった気がする。気がするだけ。

図5

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考察

ボールを持たない時の力の使い方

 ボールを持たなくても、主導権は握れる。ボールを持っている時に主導権を握れるのは当たり前というか、ボールがなければ得点できなければ失点もしないので当然といえば当然なのだけれど、相手を窮屈にする、やり方を変えさせる、強要させるとかとかとか、持ってなくてもやりようがある。今季のベガルタにおいては、この部分に強みを持っているわけだし、一度ボールを失っても取り返していく力がある。ひとつバランスを取るために、この戦い方で得られた成果をいずれやってくるボールを持った戦いに活かしてほしいと思う。 

おわりに

 どうすればよかったんだろうね。なんでこんなサッカーを見せるんだって泣いて、怒って、チームを困らせればよかったのかね。それとも、「今そこにあるサッカーを愛せ」と何でも笑顔で受け入れればよかったのかね。監督にあんなことを言わせないようにするには、何が必要だったんだろうね。選手がやりたいことを思いっきりさせるためにはどうすればよかったんだろうね。時間があればよかったのかな。お金があればよかったのかな。人がいっぱい集まればよかったのかな。有名な選手やコーチを呼べばよかったのかな。

 苦悩の苦渋の決断を表現していることは、今のチームのサッカーを観れば誰だってすぐに分かる。だからこそ、その決断を受け取って、変な煽りや非難はしないようにしてきたつもりだ。でもそれでよかったのか。逃げるな、戦えと言えただろうか。ひとつでも勝利を掴もうとするチームに、言えただろうか。もう一度、考えてみようか。時計の針がゼロに戻ったのなら、また進めればいい。最終戦がその一歩目になる。盛大にいこう。

 

 「すべてを疑い尽くした後にこそ、なにかを本当に信じることができる。」こう言ったのは、スパイク・スピーゲルだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

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東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

【立ち上がるんだボクサー】Jリーグ 第32節 ガンバ大阪vsベガルタ仙台 (2-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか。アウェイガンバ戦のゲーム分析。終わりへと歩みを進めるJリーグ。華々しいスタートとはかけ離れた今シーズンも、もうすぐ、終わる。ひとつでも上に。すべてのひとの思いは、ここで「終わらない」覚悟だった。それでも、現実は、冷たく、鋭利に、そして僕たちの前に現れた。その時、ベガルタ仙台は、サポーターは。今回も、ゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、4-4-2。前半途中で、松下がケガ。椎橋が交代で入る。

 ガンバは、3-1-4-2の前輪駆動型。スサエタ、パトリックがリザーブとかちょっと何を言っているか分からない。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

ゲームコントロールとポジショナルアタックの現在(いま)

  ベガルタのポジショナルアタックは、いつものように2CB+2CHのボックス型ビルドアップに、ウィングがハーフレーンに可変するトムキャット型だ。ガンバは、5-3-2を対抗型として用意。というよりは、ボール保持攻撃が3-1-4-2なので、セット守備については変形しやすい形で組んだと言える。ベガルタとしては、2CBに2FWで同数をぶつけられたこと、ファイナルライン5人の5バックに対して、2FW+2ウィングの4人と数的不利になっている。中盤は、4vs3と数的優位のように見えるが、中央3レーンだけを見れば2vs3とここでも数的不利になる。

 つまりは、このままガチ当たりしても構造の部分で、相手守備陣形を壊すことはできないということだ。動かす。相手の立ち位置を動かす。動かして、数優位の場所、時間とスペースが作れる場所を作ることが求められる。5-3-2の弱点構造として、一般的には、3-2の脇のスペースになる。ここをスライド対応して埋める、あるいは5バックの誰かが縦迎撃することで埋めることが必要になる。もちろん、リトリートで最後のゴール前を守るやり方もあるのだけれど、この試合のガンバは、前線2トップをスイッチに前プレ「ガンガンいこうぜ」の策を採用した。

図1

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 実践では、3-2の脇を蜂須賀や永戸のSB、富田や松下のCHが利用することに。16分に、道渕がWB担当として誘き出し、後方の蜂須賀に時間とスペースを提供。3センターが横スライドで対応するも、物理的に間に合わない。ハモンの裏抜けが発動する。この「WBを誘き出す」作業が5バック攻略においては、ひとつ重要になる。最終的には、左右のCB、ハーフディフェンダーをサイドに引っ張り出して、ゴール前をお留守にするのが目標。SBが低めに立つことで、相手の前プレを誘発。あえて、誘発させることで、勝手にスペースを空けてもらうポジショナルプレーを発動。45分には、トムキャット可変の道渕がカットインからのカットアウトでWB裏でボールを受ける。当然、CBがカバーにくるのだけれど、5バックの弱点は数増しでスペースを埋めることなので、最後にゴール前に誰もいない現象が発生しやすい気がする。気がするだけ。最後は、ハモンが裏抜けするもオフサイド。シンプルなのだけれど、強力な棒銀戦法で相手ファイナルラインに迫っていった。

図2

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 52分には、椎橋がアンカー落としで擬似3バック化。逆丁字型ビルドアップと関口のハーフレーンへのトムキャット可変で、相手WBを誘き出し、背後へハモンがカットアウトランを繰り出す。今のチームにおいて、最優先事項は、ボールを持っていない時の整った陣形で相手を窒息させることにある。そのため、メンバーも、その優先事項を実行できるメンバーが優先して選ばれている。そんなメンバー構成でも、ポジショナルアタックが見られたのは、素直にチームの成熟だと捉えるべきだし、自信を持つことだと思う。

 さらにいえばこの試合においては、いかにガンバのトランジション機会を奪い、カオス局面での個人vs個人の場面を作らせないか、がテーマにあった気がする。気がするだけ。多分。そうなると、ガンバに多くの時間ボールを持たれてもOK、ボールを奪ったら縦志向強く速攻ではなく、ボール前進とスペース確保、トランジション局面を短くして、自分も相手も陣形を整えることを優先させたように見えた。よく言えば、ゲームコントロール。主導権を握る作業。こんな顔もできるんですよと大女優も驚く戦い方がもっとできればと思えるような、数少ないボール保持攻撃、ポジショナルアタックだった。

封じられたロングトランジション

 ボール保持攻撃には、もうひとつある。ポジティブトランジションだ。ボールを奪った瞬間というやつ。今のチームの生命線でもある。ここから、コレクティブにカウンター攻撃をしかけるのが肝になる。相手の守備陣形が整っていないので、この試合でも3バックとアンカー遠藤が対応するケースが多いのだけれど、それでもリトリートスピードを速くすることや井手口がボールホルダーにプレッシャーをかけることで、致命的な攻撃を防いでいた。これは、ベガルタにとっては想像以上の対応だったかもしれない。ガンバは、リーグのなかでもリトリートの速さをうりにしているチームというわけではない。ベガルタとしても、そこで差をつけて、ボール前進させるつもりだったのかもしれない。ただ、自陣に戻るのが速いため、関口がヤードゲインさせてボール前進させても、攻撃のための時間とスペースがなかった。

 ボール保持攻撃でも書いたように、ゲームコントロールの部分もあるので、相乗効果でベガルタのポジティブトランジション時の激しい縦攻撃はあまりなかったように見えた。ただ、後半60分ごろから2トップにシンプルに入れるシーンも増えたので、リスクをとって、自分たちの陣形もある程度崩れていることを許容して、相手の陣形が整っていない時に攻めようという意図は見えた。それが結果として、失点に繋がったとも言えるし、そうじゃないとも言える。少なくとも、1失点目は、ハモンがカウンターなのか、ポゼッションなのか、周りもふわっとしていたなか、崩れた陣形を使われてしまった。非常に難しい課題で、バランスなんて簡単には言えるのだけれど、なかなかどうして難しいなと。「締まった守備」と「前へのパワー」の両立は、今に課題になったことではないのだけれど、締まった守備が前提の世界観であるなら、守備のなかに前へのパワーが取り込まれてしまうのも理解はできるが、受け入れたくはないなと思っている。 

ボール非保持時

前輪駆動型3-1-4-2への組織的守備

 ベガルタのセット守備は、4-4-2。相手3バックに対して、2FWと数的不利を受け入れて、アンカーを警戒する策で対抗。縦を切りサイドに誘導する「ワイパー」でボールをサイドに誘導する。ボールサイドのウィングは、ハーフレーンに縦パスが入らないよう封鎖する立ち位置をとり、ウィングロールの相手WBにボールがついたところでSBが縦スライドで迎撃。ウィングがプレスバックすることで窒息させる。ハーフライン付近でボールを奪えば、相手ゴールに迫っていく。ボールを逆サイドに展開されても、逆サイドのウィングが3バックにプレスをかけ、WBに通ればリトリートして対応。両サイドとも非常に丁寧に対応した印象だ。ガンバは、空いているスペースを探してボールと人数をかけるので、中央3レーンからのワイパーもあり4-4-2の両ワイドゾーンに誘導できた。

図3

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ひとりポジショナルプレー井手口

 ただ、誤算だったのは、選手の格が違った。そのひとりがインテリオールの井手口だった。井手口は、関口が前プレをすればその背後にポジショニングし、スペースを利用しようとした。また、松下or富田が地の果てまでマークしていくので、マーク番をうけることで、中央にズレを生み出そうとしていた。ボールも持たずに。また、ワイドレーンにレーンチェンジすることで、CB、井手口、WBで縦のオーバーロードを発生。ベガルタがワイドレーンに集中することで、空いているスペースに宇佐美や矢島が入ってくる事態に。

 さらには、WB小野瀬も井手口がワイドレーンに開いて、自分はハーフレーンで永戸をピン止めすることで、スペースの解放も実行。密集と解放を使い分け、基本的には人数をかけるやり方なのだけれど、各選手の基礎技術の高さと井手口のポジショニングで成立させていた(さっきも書いたのだけれど、ネガトラでカウンター予防していたのも同じく井手口)。

図4

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Y字型(1-1-2)ビルドアップ妨害

 ガンバのゾーン1でのビルドアップは、右CBがワイドレーンにレーンチェンジし、2CBがハーフレーンに、GKが加わる擬似4バックでのビルドアップだった。そこに、高い位置をとったWB背後に矢島、アンカーポジションの遠藤とあわせて、W字型のような戦型でボール前進をはかっている。対するベガルタの対抗型として、2トップのうしろに、2CHが縦に並ぶ形をとる。ウィングもハーフレーンに立つことで、ボール前進を妨害した。

 ただ、2FWがかわされるとすぐさまリトリートを開始するので、ビルドアップから嵌め殺してやろうぜ!だったのかは少し分からなかった。もちろん、かっさらうシーンもあったのだけれど、狙いとしてどこまでの本気度があったのかは分からなかった。かわされた後の擬似カウンターを警戒するという意味においては、良手とも言える。であれば、最初からリトリートしておけばとも思うのだけれど、相手陣深く前プレできるチャンスなので、狙っているのかもしれないしそうじゃないかもしれない。

考察

0-0を目指すのか

 この試合、前半のやり方を続けていれば、後半も少なくてとも失点シーンのようなやられ方はしなかったのではと思う。もちろん、試合開始から縦に速くいけば、前半のうちから2点叩き込まれていたかもしれない。そういう意味では、0-0でOKではなく、あくまで勝ちをもぎとりに行ったのではないかなと考えている。どうしても、前へパワーを出すにあたって、自分たちのバランスを崩したり、リスクを請け負ったりする。たとえば、こういうところに監督の個性だったり、チームの色が出てくると思っている。あくまで主導権を握ることにこだわる。ボールを持っても持っていなくとも。そして、勝ちにこだわる。これが今のチームのもっとも大事な行動原理的な部分なのかと思う。ではあとは方法論やルール作りなのだけれど、それはやはりいろんなやり方が出来た方がいいし、一度作ったルールは錆びていくのでメンテが必要だしと、来年も取り組まないといけないことがたくさんあるなと思う。残り2試合。勝ち点がゼロになったのだけれど、良い姿勢が見えた気がする。気がするだけ。 

おわりに

 最後にベガルタサポーターにひとことだけ。

 僕は、試合終了後、選手への反応が気になっていた。拍手を送るのか、ブーイングでピリつかせるのか。はたまた無言で迎えるのか。まあ、いろいろある。拍手したからといって、 敗戦後の選手には、鼓舞よりは申し訳なさを感じさせたりするかもしれない。この試合もそう。何が一番か、僕には少し分からなかった。

 そして、もうひとつ。もうひとつ気になることがあった。僕が瑞穂で聞いた、テレビ越しのユアスタでも聞いたあのチャントが一度もなかった。「刃」の文脈はいろいろだ。今は、過酷なJ1への挑戦を続けるチームを後押しするチャントになっている。見事に、前節清水戦でも、そのチャントを歌いあげたところだった。

 「刃」だった。拍手も、ブーイングもいらない。奇をてらったこともいらない。ただ、この道を突き進むために、自分たちが変わらずサポートすることを強く示した。選手たちも深く頭を下げ、手を振って応えた。

 僕は、ベガルタサポーターたちをとても尊敬している。どんな形であれ、その場をともに経験するサポーターたちを尊敬している。僕みたいに、たいして現地応援もせず、鳥の眼で見てブログばかり書いているクソ野郎とは違う。決定的に違う。黄金の輝きを放っている。僕にとっては。なんだかんだいっぱいある。あるけど、それでも、いつもそこにいるサポーターたちが何よりこのクラブの誇りだと自負している。どんなクラブのサポーターにも負けない、杜の都から世界中を照らすサポーターだと尊崇している。

 だから、俺も負けるわけにはいかない。負けてられない。どんな時でも、どんな形であれ、ベガルタ仙台というクラブが、チームが、選手が、何を表現していて何を決断したのかを表現する。してやる。戦術もそう。応援もそう。スタジアムの雰囲気もそう。書いて、書いて、書きまくってやる。俺だって、決して負けない。いや、俺たちは決して負けない。負けるのは、死ぬほど、悔しいから。

 俺は、理想とする最高に面白いサッカー戦術ブログを書く。あの時、初めて戦術ブログを読んだ時みたいに、読んでてもっと読みたくなるような、試合を見たくなるような、ワクワクする記事を書いてやる。反感を持たれるかもしれない。もっと、読みやすくなるよう書き手が気をつけた方が良いかもしれない。最後は、誰にも、読まれなくなるかもしれない。たとえそうなったとしても、誰がどう言おうと俺は、俺が最高に面白いと思えるものを書く。書いてみせる。

 ということで、気色悪い文章にお付き合いいただきありがとうございます。残り2試合、よろしくお願いします。次の試合。ホーム。ユアスタ。人生最高の試合にしましょう。

 

 「悪いな、俺はただの賞金稼ぎだ。この世界がどうなろうと知ったこっちゃねぇ、俺はただお前に借りを返しにきただけさ」こう言ったのは、スパイク・スピーゲルだ。 

 

参考文献

www.footballista.jp

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birdseyefc.com

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【明日へ続く坂道の途中で】Jリーグ 第31節 ベガルタ仙台vs清水エスパルス (2-0)

はじめに

 さて!はじめましょうかホーム清水戦のゲーム分析!幾千もの決戦。そしてまた訪れる決戦は、ホームユアスタで残留を争う者同士が激突した。灼熱の日本平で敗北を喫し、晩秋のユアスタで勝利を狙い戦ったベガルタ仙台。清水に打撃を与えたのは、強力な後押しをするべく立ち上がったサポーターとあの男だった。黄金に輝くスタジアム。激闘の末に手にしたものとは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、ベストメンバー。4-4-2。

 清水は、2トップとも1トップともとれる4-4-2系。勝負。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を援用して分析とする。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。(文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)
  • また、ボール保持時については、①相手守備陣形が整っている(セットオフェンス)、②相手守備陣形が整っていない(ポジティブトランジション)に分ける。ボール非保持時についても、①味方守備陣形が整っている(セットディフェンス)、②味方守備陣形が整っていない(ネガティブトランジション)場合に分けている。

ボール保持時

清水の前プレを無効化するクヴァから永戸への「テレポートパス」

 ベガルタのボール保持攻撃は、2CH+2CBのボックス型ビルドアップに、GKクヴァを加えた形。2CBがぺナ幅いっぱい、ハーフレーンに立ち、クヴァと一緒に擬似3バック形態となる。2CHも合わせることで、M字型ビルドアップに変形し、清水2トップにパスレーンを消されない立ち位置を取る。対する清水の策は、単純明快。数増し。右SH金子がハーフレーンに立つ平岡をチェックする。ただし、これには問題がある。誰が永戸を見るんだ問題だ。6分は、関口がワイドレーンにレーンチェンジしていたが構造は一緒。7分、39分にクヴァから永戸へのパスが通る。清水前プレ隊からすると、前にボールがあって、ボールホルダーもいたのに、気づいた時には自陣DFラインにボールがあって、はるか後方にボールホルダー永戸がいる。ボール瞬間移動。ディメンションワープ。テレポートパス。たった一本のパスで、清水前プレ決死隊を完全に無効にした。

図1

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図2

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 ただこれには少し清水も工夫を加える。金子がやや中間ポジションを取り、対面の平岡をチェックしつつ、永戸にプレスバックできる位置をとった。いいとこどり。悪く言えばワンオペ。金子は、攻撃面でも単騎突破を求められていたので、攻守ともに重労働だったというわけだ。過酷。それでもやはり物理的に時間が間に合わないので、ベガルタは、永戸や関口のドライブでボール前進、ヤードゲインさせた。 

右SBエウシーニョ背後の痛点を突く

 ビルドアップ時のテレポートパスに加えて、関口のトムキャット可変がよく効いた。対面するエウシーニョは、トムキャットでハーフレーンにレーンチェンジする関口に誘きだされた。その背後を2トップの長沢、ハモンが狙う。ここまでSBが誘き出されるケースを見ないので、ベガルタもよく狙ってポイント得ていた。

 清水右サイドの構造。つまりは、金子の重労働とエウシーニョの守備ポジションの脆さを散々狙った結果、清水は右サイドで後手を踏み続けた。ベガルタは、ここからボールポゼッションに移ったり、ロークロスから得点チャンスを作り出した。 

図3

f:id:sendaisiro:20191114201925p:plain 

ボール非保持時

4バックビルドアップを窒息させるベガルタのゾーナル守備

   ベガルタのボール非保持陣形は、4-4-2のフラット型。人につきやすい性質は変わらず、ややゾーナルに、スペース管理する形でセットした。特に、右SBエウシーニョが2トップ脇を使ってボール前進させようとするので、それに呼応して関口がチェックに。2CHが相手2CHにつくので、前線ドウグラスへの花道を通されるのだけれど、そこは残念シマオ・マテ(第二十三島尾魔天王)がボールを奪い取る。

 大枠の構造は、先に書いた通りなのだけれど、清水のビルドアップが4バックビルドアップだったこともあり、2トップ+4ハーフでかなり嵌めやすい形ではあった。SBが前進しても、目の前を道渕と関口が塞ぐこと、後方のSHには蜂須賀と永戸が、カットアウトしてくるドゥトラにはCHがついていくことで窒息。パスレーンを完全にロックした。こうなると、清水は、軽減税率が導入されたこともあり、ボールを自陣に持ち帰るしかない。ここから、ベガルタもシームレスにビルドアップ妨害へ移行。局地戦で窮屈な状態を創り出し、奪われても6秒ゲーゲンプレスを発動させて、ボールを奪い返し、ゴールへと迫った。関口の先制点のシーンは、まさにこの形だった。 

2トップ脇に降りるCHへはリトリートで対抗

  清水もさすがにビルドアップの形を変える。4-4-2にはよく見られる2CB脇にCHが降りる親の顔より良く見るやつだ。これで、プレス基準にズレを生み出したかったのだろうけれど、ベガルタはそのまま4-4-2でリトリートを選択。途中から押し込まれる要因にもなったのだけれど、収支はプラス。ボールを持たれても、最も重要な中央3レーンへのパスレーンは限りなく少なく、ワイドレーンからCBを経由して逆ワイドレーンにボールを動かさせるU字攻撃にさせることに成功。栃木県出身芸人も喜ぶ。

 後半についても、松下が左ウィング、CHに椎橋が入る形も見せたのだけれど、清水の攻撃型が変わらない以上、変化をつける必要もないので、試合終了まで見事にクロージング。クリーシートを達成した。 

考察

それでも全てが繋がっている

 相手にボールを敵陣に運ばせる。必要最小限の技術負荷、最も難易度の低いプレーで、自らを優位に、相手を劣位にさせてボールを奪い、奪われても奪い返し、ゴールを奪った。まさにポジショナルプレー。関口のゴールまでのプロセスは、5レーンで優位を、立ち位置で優位性を、ボール非保持で優位を得ようとトライしつづけたチームの挑戦が詰まったゴールであり、勝利を勝ち取ったプレーになった。

 こんなにもシーズン中に戦い方が変わるなかで、選手も変わるなかで、それでもチームは続いていく。そしていつかそれがクラブの戦い方になると信じて。天皇杯決勝からすれば、目指していたところと遠く離れているかもしれないのだけれど、それでも全てが繋がっている。 

おわりに

 格への挑戦。

 まだ終わっていない。

 大人になれない僕らのつよがりをひとつ聞いてくれ。

 金色のユアスタ

 さあ、行くぞ。

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コスタス・マノラスのインサイド表

はじめに

 どうも、僕です。今回は、プレー分析。ナポリDFマノラスのプレーです。DFですが、ボールを持った時のプレーを取り上げたいと思います。

マノラスのインサイド

インサイド表」による1つのモーションと2つのパスレーン

しろー「マノラスのインサイド表についてですね。」

せんだい「正確にはインサイド表裏だな。」インサイド表裏については蹴球計画から。

c60.blog.shinobi.jp

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しろー「と言いますと?」

せんだいインサイド表裏は、インサイドキックのことで、1つのキックモーションから、身体の正面方向と角度付けた方向の2つのパスレーンにボールを出すことだ。それを表と裏と呼んでる。」

しろー「蹴球計画大好きです(笑)。シャビが代表的な使い手ですね。」

せんだい「戦術分析でも書いたが、ボールを持っていない、セット守備の局面においては、いかに相手の攻撃を限定させて球際と呼ばれる『ボール保持・非保持が入れ替わる可能性がある』局面で120%の力を注げるかが現代サッカーにおいては重要になっている。」

しろー「で、それを回避する手段として、最初に言ったインサイド表がひとつ重要な手段になりえるということですよね。マノラスもこのインサイド表を使うことができます。」

せんだい「ローマが中央3レーンを封鎖して、ナポリが使いたいハーフレーンが隙間なく埋められていたとしても、不思議なことにパスが通る。もちろん小さなズレだったりを狙っているのもあるが、このインサイド表を使うことで、相手守備者にボールが出る方向を読まれにくくしていることも要因として十分考えられる。」

しろー「ただ面白いことに、この試合でマノラスは、『パター型』と呼ばれる膝を固定して『インサイド』で蹴る蹴り方もやってましたよね。」

せんだい「しかもその時は、局面的には似通っていたが、相手守備者にボールをカットされていた。」

しろー「パター型は、ボールが出る方向、パスレーンがひとつしかなくなるので相手からすると自信を持ってカットしにいけるってことなんでしょうね。」

せんだい「単純に考えれば、2つあった可能性が1つに減るんだから、当然といえば当然、起こるべくして起こったとも言える」

しろー「ちょっとしたことの違いなんですけどね。盤面としては大きく変わったり、極端なことを言えばボールを前進できる、できないにかかわってきてしまいます。」

せんだい「よく言われるが、これが選手を無視した戦術が無い云々の正体だったり、しなかったりする。」

しろー「どっちなんですか(笑)」

せんだい「さあ(笑)サッカーに正解は無いが答えはあるから、自分で見つけてみるのも面白い。」

おわりに

 写真があれば分かりやすいのですが、色々と厳しくなっているので。分かりにくい方はぜひ試合で目を凝らしてみてください。そうやって、選手個人だけを追いかけて見るのも面白いです。ただまあ、オタク要素が強いので強くおすすめはできませんけどね。

  チーム戦術分析はこちらです。

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ナポリのビルドアップ妨害

はじめに

 どうも、僕です。今回は、ナポリのボール非保持、敵陣でのビルドアップ妨害を見ていきます。通常、ハーフライン付近でのブロック形成、押し上げにおいては、ラインを形成してスペースや相手選手を警戒して守るのが定石ですが、ボールが敵陣深くまでいけば奪えば即チャンスですから、工夫を凝らしてボールを奪う策を用意します。よって、通常の守備陣形とは少し違った形で、相手のビルドアップを邪魔するビルドアップ妨害を見ることができます。

 ナポリのボール保持はこちら。

sendaisiro.hatenablog.com

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 ゲーム分析はこちらになります。

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 Y字型(1-1-2)妨害とウィングのハーフレーン封じ

 ナポリのセット守備は、4-4-2のまま行います。そこから、敵陣深く、特に相手ゴールキック時に繋いでくる場合は、ビルドアップ妨害を仕掛けます。2トップの横並びは変えず、2センターが縦並びに変形します。これは、ローマvsナポリのローマがアンカー落としをして、片方のCHがアンカー役になる3バックビルドアップの影響もありますが、もし相手に合わせるなら完全に同数にすることも策として考えられます。ただ、ナポリの場合は、2トップは維持、アンカー役になるCHをCHが、もう一人のCHがその後方をケアします。

図1

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 2トップは、セントラルレーンやハーフレーンの中央3レーンに不用意にボールが入らないように中央に立ちつつ、ハーフレーンに立つボールホルダーにプレッシャーをかけていきます。もう片方のトップがパスレーンにプレッシャーをかけることで、相手ボールホルダーのパスレーンを限定し、結果として、「守備する必要のあるエリア」を左右サイドのどちらかに限定します。広いピッチのどこを守って、守らないのかを決めることが重要になりますが、ビルドアップ妨害で相手が使うエリアを限定できれば、相手の攻撃を先細りさせることができます。

図2

f:id:sendaisiro:20191109113640p:plain

 ナポリのビルドアップ妨害ではさらに、ウィングがハーフレーンに絞ることで、このY字型妨害を支えています。また、重要エリアであるハーフレーンに二重の鍵をかけることができます。もっと言えば、ボールを奪えば、ナポリとしてはハーフレーンの高い位置から攻撃を開始できるので、まさに攻守表裏一体のポジショニングと言えるでしょう。

おわりに

 こうして、サイドに細く細く限定することで、相手の攻撃を窒息させて守備で使うパワーを集中させることができます。ただ、この試合のゲーム分析でも書きましたが、ローマはCBがワイドレーンに移動することで、プレッシャーを回避しています。ナポリもFWやウィングのスライドで対応していますが、もともとサイドに細くすることを前提にした形ですので、物理的に移動する時間がかかります。ローマは、ここを息継ぎ場所として攻撃を構築していました。すべての策は完璧ではないですし、弱点があります。あとは、そこに入った時どうするかを備えておくことが大事なのかと思います(ナポリの場合はCBにクリバリとマノラスを起用)。

 ローマの分析はこちら。

sendaisiro.hatenablog.com

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ナポリのボール保持攻撃②

はじめに

 どうも、僕です。ナポリの攻撃分析の続きです。

sendaisiro.hatenablog.com

  レビュー記事は、こちら。 

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ナポリ式4-4-2ハーフレーン攻略法

 4-4-2セット守備には、いくつかの痛点があります。それはいわゆる、ライン間、選手間と呼ばれる場所です。ここにボールを持って攻撃する側の選手が立つことで、守る側は誰がプレッシャーをかけて、時間とスペースをなくすのか判断して決めて実行しなければいけません。当然、ゾーナル守備においては、自分が今守っている場所を放棄して、ライン間や選手間の場所を守ることを意味します。では、今自分が守っている場所を「スペース」として相手に明け渡し、新しい場所を守る判断は正しいのか。まあそんなことの連続がゾーナル守備、いわゆるゾーンディフェンスと呼ばれるものです。

 対ゾーンディフェンスにおいて、ライン間、選手間に立つことはすなわち、相手が守っている場所をズラすことになります。それが小さなズレなのか、大きなズレなのかは別として、それが最終的には、ゴール前のズレまで持っていかれると守る側にとってはあまり良くありません。逆に、ボールを持っている側、攻撃側は、このズレを少しずつ連鎖させてブロックを崩し、ゴール前に迫ることを狙っています。

 ナポリは特に、ハーフレーン(ハーフスペース)に選手が立つことで、その選択を相手に迫っています。ナポリも基本陣形は4-4-2ですから、2トップの一角、あるいはウィングがレーンチェンジすることでハーフレーン攻略を図ります。しかも、ディフェンスラインの前で楔パスを受けるので、相手DFは簡単に食いつけば背後を突かれるリスクがあります。もちろんつかなければ、ターンされて、危険なエリアと呼ばれている通称バイタルエリアで前を向かれてしまいます。受け手の選手としては、ターンできれば多くの選択肢を持つことになるので、プレッシャーがかかっていなければ、積極的に狙っていくことになります。

図1

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 ナポリの場合は、メルテンスやミリク、インシーニェ、カジェホンが主にハーフレーンで受けようとします。さらにいえば、ナポリ左サイドのハーフレーンは、メルテンスとインシーニェの独壇場と化します。ここで受けて前進する、あるいはワイドレーン、セントラルレーンにボールを供給することで、相手ディフェンスラインを崩します。加えて、メルテンスかインシーニェのどちらかがワイドレーンにカットアウトすることで、相手DFを引き連れ、片方がハーフレーンでフリーになれるなんて合わせ技もあります。

 ここに相手のアンカーやCHがヘルプに来れば、なおさら中盤に大きなスペースができるわけですから、カウンター予防にもなるし一石二鳥です。なので、守備側の選択肢としては、2つ。前で潰すか、後ろを圧縮するかです。ゲーム分析に話を戻せば、ナポリは前で潰すことをローマは後ろを圧縮する選択をしています。どちらが良い悪いではなくやり方の話ですので、チームとして、勝つための最善の手段といったところでしょうか。もちろん、選手ができる、できないが大前提にありますが。

図2

f:id:sendaisiro:20191107204034p:plain

おわりに

 ハーフレーン(ハーフスペース)の重要性は、どんどん大きくなっています。相手が守っていないところを攻めるのが基本だとすれば、非常に合理的な判断ですし、ではハーフレーンを守ってきた時にどこが空いてくるのか。欧州サッカーシーンで、目まぐるしく展開が変わるのも、そういった判断と実行を矢継ぎ早にしているからなのかと思います。

 ローマのボール保持・非保持の記事はこちら。

sendaisiro.hatenablog.com

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