蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

大分トリニータの攻撃戦術 -アウトナンバーを生み出すビルドアップメソッド-

はじめに

 どうも、僕です。今回は、川崎フロンターレvs大分トリニータの試合から、大分のビルドアップを取り上げます。ビルドアップにはいろんな定義がありますが、ここでは便宜的に、いわゆるCBやGKがボールを持ってポジショナルアタックへ移行してく局面のことにします。巷では、「カタノサッカー」「釣り野伏」と呼ばれているように、片野坂トリニータの攻撃戦術は特別なものがあります。面白いものが見えてきたらなと。では、レッツゴー。

目次

大分トリニータのビルドアップメソッド

両チームの戦型選択

 

 川崎は、スタンダードなフラット型4-4-2。対する大分は、3-4-2-1でセットアップ。そのままの噛み合わせなら、川崎の2トップに対して、大分は3バックで数的優位になっている。川崎が同数プレスで合わせるか、無視してスポイルするかが注目するべきポイントなのだけれど、答えは前者だった。SHがFWと一緒に前線からのプレスに加わるいわゆる3バック撲滅だ。

図1

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図2

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 もっと言えば、川崎の2トップは、2センターへのパスレーンを消し込みながらプレスをかけて、ボールサイドを限定していった。それに呼応するように両SHが逆サイドのCBをチェックする。もし、大分のオリジナルの立ち位置で、アンカーを採用する戦い方を取ったのであれば、2トップでアンカーを背中でチェックしつつボールホルダーのCBをプレスし、もう一人のFWが中央のCBを守ることで3バックビルドアップを機能不全に追い込むことができる。大分は、事前にこの狙いを避ける形で3バック+2センターのM字型を採用したのだと予想する。

 川崎は、2トップ+SHと2センターでこのM字型に数合わせをすることで、大分の対策の対策を取った。当然、SH裏のWBががら空きになるのだけれど、SHが二度追いすることで解消を図る。特に右SHに入った阿部は、その意図を十分に感じさせる起用だったと思う。

図3

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 これはいわば、ビルドアップvsプレスの序盤戦。ここからまた、大分が型を変えてくる。

ところてん式ビルドアップ

 まずは、GKをCB間に上げるやり方で対抗。いわゆる、ところてん式の発動。GK+CBによる擬似4バックで、川崎の擬似3トッププレスに対して、数的優位の形を見出す。

図4

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  初期の立ち位置でハーフレーン・第3レイヤーに立つシャドーと合わせて、相手SHに戦術負荷をかけることで判断を誤らせることを強いる。前から行きたい川崎相手に、前に来てくれれば、敵陣の深いところでアウトナンバー(オフェンスがディフェンスに対して1人多くなる)を作ることができる。プレスに来ないなら、フリーでボールを運べるのと、川崎のプレス構造崩壊の一手になる。立ち位置を変え、ボールを持つだけで、相手を追い詰め、剣先を突きつけた。

 図5

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ミシャ式の合わせとアウトナンバー 

 では、川崎側の対応はどうなるのか。答えは、同数プレス続行。GKが出てこようが、4人には4人をぶつける対抗型を取った。2FW+2SHで4人への合わせ。

図6

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 ここでも数的優位づくりを目指す片野坂トリニータ。徹底されている。今度はミシャ式。CHが1人、CB間に降りることで4+1型でビルドアップする形だ。しかも今回は、ところてん式とミシャ式の悪魔合体型。意地でも数的優位を作るんだという意思を感じる形に。CBがウィングレーンにレーンチェンジ、WBが押し出される形でウィング化。シャドーを含めてスクエアを作って、相手SHとSBに2対1の選択を迫る。

図7

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 アウトナンバーは、バスケ用語で、要するに1vs0、2vs1などのオフェンス側がディフェンス側に対して選手が一人余って有利に攻撃できる状態のこと、サッカーで言うところの数的優位を作る、1人選手が余ることだ。大分は、まずは後方のビルドアップでこのアウトナンバーを作って、相手が後手を踏み続けることで、前方の運んでいく形でボールと選手が移動していく。最終的には、相手SBに対して、2vs1を仕掛けることができるので、初期立ち位置の3-4-2-1(3-2-5)との相乗効果でより数的優位を作ることができる。

図8

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 片野坂監督は、数的優位性を非常に大事にしている監督で、その考え方が色濃く反映されているビルドアップだと思う。ここまで徹底的にやるのはなかなか見ない。しかも、CBとGKのボール操作能力であったり、ポジショニング能力が無いと考えていても実践は難しい。この試合、スコアで川崎に負けたのだけれど、王者相手に自分たちがボールの主だと言わんばかりのビルドアップで、とても最高だった。

おわりに

 大分のビルドアップに対して、シンプルに数の論理で対抗しようとすると、それを上回る数で対抗してくる。彼らに対して、ある程度ボールを持たせて、たとえば危険な後方のエリアを埋めることやスペースを管理することで対策を立てる必要があるのかと思う。ただ、また別の攻撃戦術をもって、片野坂トリニータは対抗するのだけれど、それはまた別の機会に。では、また。

参考文献

sendaisiro.hatenablog.com

www.naigai-p.co.jp

five-spirits.com

 

 

【祝1周年記事】ブログ開設1周年&おしらせ

ブログ始めてから1年が経ちました

 どうも僕です。タイトルにもあるように、「せんだいしろーによるサッカー分析ブログ」が1周年を迎えました。パチパチ。普段から記事を読んでくれる方、はてなスターをつけてくれる方、Twitterで絡んでいただく方、本当にありがとうございます。このような、得体のしれない人間が書くサッカー戦術ブログのような何かを読んでいただけるなんて、感謝してもしきれないです。

 開設当時は、何が何やらであっちこっちそっちってどっち状態で、見様見真似で記事を作ってました。最初は、キャプチャ画ばっかりでしたね。わりと何分に何があったって形で書いて、より現象ベースで書いてたような気がします。気がするだけ(図解作るのが手間だったとかは言わないこと)。あとは、戦術用語をバリバリ使うのでどうやったらキャッチーに、読んでもらうひと達に入っていけるか考えながら書いていました。リズミカル教の起こりですね、懐かしい。完全に自分の趣味の例え話とかフレーズ、「おわりに」とかも面白い、好きだと感想ももらったりして、照れ屋なんであれですが、とてつもなく嬉しかったり、嬉しくなかったり、いやめちゃくちゃ嬉しいですはい。

 最近は、レビュー記事ではなく、完全にゲーム分析記事になっていて、得点失点シーン、ある局面をガン無視して書く記事が多くて読みにくさもあるのかなと、もっと時系列で何が起きて、その裏側に何があったのか書ければ、とても面白いと思うのですけど、僕はどうしても「ここがこの試合のポイントでしょ」「ここにチームの意図、決断、戦う理由が込められている」と感じるとこを表現したいなと思ってしまいます。ここは少し、置いてけぼり感があるかなと思うのですけど、書きたいと思ったことを書こうかなと思います。微調整しながら、寝返りうちながら書いていこうかなと。

 あとは、プレー分析もやりましたね。正直なところ、個人のプレーって試合全体とはまた違う視点が必要なので、いつも以上に緊張して更新ボタンを押した記憶があります。そのなかでも、気をつけたのが、「この選手凄い」で終わらせないで、何とか自分たちの実生活まで落とし込めるような、学びになるような形で書きたいなと思って書きました。そっちの方が、より自分の勉強にもなるなと思ってそのような構成にしました。まあ、これも書きたいことを書いたが大前提にあるのですけど。

 緊張と言えば、ネタ記事書いた時もボタン押すのが緊張しました。あれはまた、別のものをやりたいと思ってます。多分、一番難しいジャンルですけどね(笑)。笑いとか冗談の類って、それこそみんなの目が揃ってないと楽しめないので。それとレーン&レイヤーの記事。年末のつぶやきが戦術ブロガー界隈、指導者界隈に広がっちゃって、大晦日に書き上げるというわりとむちゃくちゃなこともしました。いろんなものが繋がってるなと感じる面白い体験でしたね。というか、終始あわあわしてた記憶しかないです。僕の年末を返してほしい。嘘です。ありがとうございます。書いた甲斐がありました。

おしらせ

 そんなこんなで、ブログを中心に色んなことがありました。どれも面白く体験しましたし、やっぱり僕は、サッカー戦術ブログを書きたいなと、動画、Twitter色々ありますけれど、文章に、言葉に、記事にしたいなと思います。僕の主戦場は、やっぱりここだと思っています。Twitterも面白いのですけど、やはりそれは、記事と記事とを繋ぐ役割として、直接の繋がりの意味合いとして楽しみたいなと。だからどうというわけではないのですけれど、今まで通りで良いのですけれど、僕はサッカー戦術ブログを読むのも書くのも好きなんだなと思います。

 ここで、おしらせです。本日をもって「せんだいしろーによるサッカー分析ブログ」は終了となります。みなさん、本当にありがとうございました。いっぱい色んなことを書かせてもらい、本当に面白かったです。ずっと読んでいただいた方には、感謝しかありません。ありがとうございました。

 

 今後、このブログは、名を変えます。

 

蹴球仙術 -せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ-

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 当ブログは、「せんだいしろーによるサッカー分析ブログ」改め、「蹴球仙術(しゅうきゅうせんじゅつ)」に名前を変えて、これまで通り、ベガルタ仙台を中心に自分が面白いなと思うこと、そしてそれが多くのひとにとっても面白いことになればなお良い精神で、今後も記事を書いていこうと思います。みなさん、これからも引き続き、どうぞよろしくお願いします。では、また。

【ラブオール】Jリーグ 第20節 セレッソ大阪vsベガルタ仙台 (0-0)

はじめに

 さあ、いきましょうか!アウェイセレッソ戦のゲーム分析。止めたアウェイ連敗の楔。ひとつの呪縛から解き放たれた時、新たな舞台へと旅立つ。荒れたピッチ。知将率いる桜色の戦いの行方はゼロへと収束されていく。その時、ベガルタは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、シマオが復帰。代わりに長沢が離脱。シュートジャンキーのハモンがスタメンに。

 セレッソは、奥埜がFWの一角に。ここから得意のチャンネルランを繰り出す。両サイドのSH、SBの連携も強い。というかCB・CHも強い。ロティーナも強い。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

遠いアウェイの地から持ち帰りたいもの

  この試合、チームとして考慮すべき変数は、2つあったと考えている。ピッチ状態が悪く芝が荒れている状況だったこと、アウェイだったこと。これまでのベガルタは、環境要因に非常に影響を受けるチームだった。アウェイの芝とか、雨とか、風とかとかとか。経験が少ない。と言えば簡単なのだけれど、ヒッティングゾーンがあまりにも狭かったのがシーズン当初のベガルタだった。だからこそのアウェイでの成績なのだけれど、それにしても、それは乗り越えないといけない課題だった。また、ナベさん筆頭にチームとして何かに徹するような形をほぼ取らなかったこと。例えば、ホームは一戦必勝、アウェイでは勝ち点1をどんな手を使ってでももぎとる。こんな戦い方をしていれば、ある程度拾えた勝ち点もあったのかもしれないのだけれど、色んな要因が絡んで、生きるか死ぬかみたいな成績になっているのが今シーズンのベガルタだ。それは良い意味では、ナベさんの、チームの挑戦の証だ。相手が誰であろうと、自分たちが勝つために取り組むことをぶつける。そのなかでさらに課題を見つけて成長する。これはこれで正しいし、間違ってはいない。渡邉監督は幸いにも勝ちにもっていける監督だ。どこかでアジャストさせるし、帳尻を合わせるはずと思っているし、事実そうだと思う。ただ、アウェイで爆散する姿を見ると、「もうちょっとリトリートしてカウンター一発狙っても良いんじゃない?」「4-4-2守備の練度上げない?」みたいなシーンをいくつか見た(日本平とか日本平とか日本平とか)。

ロングキック大作戦

 そういう大宇宙の起こりみたいな仰々しい話の流れが脈々と続くなか、この試合は非常にエポックメイキング的な試合なのかなと思っている。このピッチコンディション、アウェイの地、混戦の下位争いもある。ほぼ割り切って、2トップへのロングキック攻撃を敢行したのだった。松下が持とうが、シマオが持とうがロングキックで問題を起こすこと、ヤードゲインさせること、二次攻撃でさらに問題を起こすことあたりが狙いだったように感じる。だから、あえてボールを持たず、そもそものミスする機会を減らそうと考えたように見えた。実はかなり革命的なことかなと思っていて、試合そのものは、セレッソベガルタも、最初の型から変形しながら、狙いを変えながら、二の手、三の手を繰り出すような展開ではなかったので、根比べのような我慢比べのような、頑固な展開だった。ベガルタにとっては、このある意味「しょうがない」を受け入れて、勝負に徹した試合だった。それがより明確に出た試合だったと思う。 

ボール非保持時

前プレとリトリート

 ベガルタは、4-4-2でブロックを組むいつもの型。セレッソの立ち位置次第で、ベガルタがどんな振る舞いをするかに意思が込められている。 セレッソのビルドアップは、CB+CHのボックス型ビルドアップ。SBが幅を取り、SHがハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット型。特に、清武と水沼はボールを持って力を発揮するタイプでもあるので、CH-SH間に出現する回数も多かった。これは、対ベガルタというよりは、セレッソの特徴で、SHとSBの縦のポジションチェンジに奥埜のカットアウトランを混ぜることで相手のSBに対して戦術負荷をかける戦術だ。既視感。そう、前節の鹿島も同様のやり方でベガルタディフェンスに選択を迫り続けた。この試合との違いは、CBにシマオが入っていること。それもあってか、ベガルタは前からのプレスを敢行。2トップとウィングがセレッソのビルドアップ隊にプレスをかける。4-4-2vs4-4-2なので組みやすい相手ではあるのだけれど、じゃあこれはどう?といったぐあいにロティーセレッソが聞いてくるので、答えねば失礼にあたる。まずはお辞儀からだ。もちろんサッカーなので、お辞儀の代わりに、前線からのプレッシングをかけたのだけれど、芋づる式に選手が前に出ていくので、鹿島戦と同じ展開にならないか心配だった。

 答えは、大丈夫だ、問題ない。関口、道渕が相手SBにプレッシャーをかければ、蜂須賀、永戸がSHに、奥埜、ブルーノメンデスがSB背後を突こうとすれば、シマオか平岡がついていく。シマオが徹底的に相手を潰してくれるおかげで、僕たちは安心して前プレをかけることができる。まさに縁の下の力持ち。中盤だとソファ幅を守る選手がDFだと「シマオゾーン」のように広い範囲を潰して回るからとても厄介だ。味方で良かった。さらに今回は、そこから二段構え。SHがレイヤーダウンでCH高さまで降りていけば、ローブロックを組んで、SBが背後を取られないよう迎撃準備。高い位置を取って、ボールが入れば決闘に持ち込んだ。松下、富田がSHを見ることもあったのだけれど、関口も道渕も基本はSBに照準を合わせていたような気がする。気がするだけ。あとは自分の目の前の奴を狩るといった具合だったような気もするし、そうじゃないような気もする。多分。サッカーは難しい的なことを言ってここはしのごうと思う。リトリート。ただもちろん、相手SBが高いボールポゼッションを背景に高い位置を取ってきたので、SB対SBの構図の局面もあった。あるサイドのウィングがSB化したら、逆サイドのウィングはCH化するルールはたしかにありそう。これは今後要チェック。 

考察

総力戦の始まり

 もちろんメンバー全員のローテーションポリシーもそうなのだけれど、やれること、できることをフル動員して戦うことも総力戦のひとつに入るのかなと。こうやって、しぶとく勝ち点をもぎとる戦いも必要になるのかなと。理想は、試合中にポジションを交換したり、もう一回戻したり、フォーメーション変えたりしていければ良いなと思っていて。最初の手が上手くいかなければ、別の手を試す余裕は欲しいなと思う。あとは、バリエーションが増えるのは良いことなのだけれど、手数重視で沢山の技を見せられてもサーカスではないので、嵌める時は徹底的に嵌める。攻撃も守備も徹底的にやってほしい。

消えていくボール保持時間

 気になるのは、ボールを持つ時間とブロックの高さ。この暑さでプレー強度が落ちていくなら、どちらか欲しくなるのだけれど、この試合で見せたリトリートをもっと徹底してやれば未来は明るいのだろうか。たとえば、名古屋戦のような、息継ぎ時間もないと、消耗戦になる。事実、シマオの負傷のように、決闘重視の戦いは犠牲も多い。もう少し、平和な時代があっても良いのかなと思う。

 

おわりに

 荒れたピッチの上。両チームとも、それを見越して勝負に徹するプロ同士の戦い。ベガルタも、ロティーナ率いるチームのような、舞台の違うチームと戦う経験と勝ち点1は大きな収穫といえる。戦う舞台を上げることはすなわち格を上げる作業になる。だからJでは強者でありたいし、上の舞台で戦うチームに挑戦できるチームになりたい。そうなれば、必要なものもついて来る。サッカーはやっぱりサッカーで強くしたいというのが僕の激甘の考えだ。戦うためには準備がいる。でも戦いがなければ、準備する必要もない。毎日が準備。必ず、その日はやってくる。

 

 「経験は必要だが、経験によって増える知恵と同じ分量の牡蠣殻が頭に付く。知恵だけ採って、牡蠣殻を捨てるということは人間にとって大切なことだが、老人になればなるほどこれができぬ。」こう言ったのは、秋山真之だ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

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【アンダルシアに憧れて】Jリーグ 第19節 ベガルタ仙台vs鹿島アントラーズ (0-4)

はじめに

 では、いきましょうか。ホーム鹿島戦のゲーム分析。旅立ちの日。大志をいだく一人の青年が戦士となり夢への第一歩を踏み出す。そんなダンのためにも勝利が欲しかったベガルタ。でもそれ以上に、鹿島との、いや世界との舞台の違いを見せつけられることに。これからベガルタが戦うべき相手とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、シマオがケガ、椎橋が出場停止で大岩、富田がスタメンに。

 鹿島は、安部、安西が海外移籍でいない。鈴木も移籍が発表される。世界。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

ボックス型と逆丁字型で攻める2トップ脇

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。試合序盤は、時折、富田が降りたり、ダンが加わったりで一工夫。この試合、2CBには平岡と大岩が入ったのだけれど、彼らの狙いは相手SHやSBを引っぱり出した後ろのスペースになるが、あまり精度よくボールを送れなかったのと、CBからSBへのパスが短距離パスでボールを持ったSBが窒息するシーンが見られた。特に右サイドが惨状だった。大岩のキックがパター型もあって、どこの誰に蹴るのかが、キックモーションから予測できてしまう。キックする前に相手SHがハチへベクトルを向けるので、ボールをタッチラインに押し付けることに成功させてしまった。実は鹿島の守備もベガルタに似た傾向があって、CHにレオシルバが入っていることもあるのだけれど、人によくついていた。トムキャット可変でハーフレーンに出現するミチにレオシルバがついていくシーンもあって、第3レイヤーで待つ2トップへの「花道」が空いているケースもあったのだけれど、大岩からのパスはやはりSBだった。

 こうなるとベガルタの立ち位置を少し弄る必要がある。35分くらいから明確に、富田がCB間に降りる逆丁字型ビルドアップに変形してきた。4-4-2の攻略方法はいくつかあるが、そのひとつに2トップ脇がある。ここは、ハーフレーン入口とも呼ばれていて、守備者にとって誰がいくのかいかないのかの選択を迫れる焦点のプレーがよく利くポジションだ。ここから、トムキャットで降りてきたウィングが正面によく見えるはずだ。当然、相手SBがついてくれば、裏が空く。ベガルタもまた、鹿島同様、SBへのカットアウトランを繰り出すことになる。

縦のオーバーロードと裏抜けの質

 特に後半。56分、63分ごろに見られた形で、石原先生がSB裏を強襲する。形はどちらも、右SBハチがボールを持った時。右ウィングのミチが同レーンでハチに寄る動きで相手SBを誘き出し、ハチは「重なったらひとつ飛ばせ」原則に従って、ミチを飛ばして石原先生にボールを供給する。この縦1レーンアタック。名波ジュビロでよく見られた形なのだけれど、普段は5レーンを広く使うチームが1レーンで攻撃を完結させようとオーバーロードすると意外と強力だ。いわゆる継ぎ歩の感覚に近い。鹿島は、この1レーンアタックに対して、SB、SH、CB・CHの人員を割く必要がある。しかも全員がサイドに引っ張られることになれば、中央での枚数不足を招く。シティの5バック攻略、京都の5バック攻略でも見られるこの型は、いずれ、ベガルタの新たな武器になる気がする。両ウィングがハーフレーンに集まる瞬間的オーバーロード、1レーンに集まる縦のオーバーロード。広く攻めたり、狭く攻めたりの幅を広げられたらと思う。

図1

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 ただ、難しいのは、カットアウトでSB裏を強襲する選手の質だと思う。残念ながら、もともとがサイドの選手のハモンは、そこのところが怪しい。ボールホルダーがボールを持って、ルックアップしてから動き始めるので相手に対応されるのと、そもそもそこの動きが無い場合もある。ただ、ある時は、いきなりサイドでボールを持って独走もするので何だかなあという感じだ。いっそのこと左ウィングにして、ハーフレーンへのトムキャット役にした方が良い気がするのだけれど、5バック化には対応できなさそう。悩ましいところである。もしかしたら、今の4-4-2の最大の武器であるウィングが弱手になりえるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

図2(オマケ)

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ボール非保持時

鹿島のトムキャット型4-4-2

  ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2。ただ実際的には、4-4-2-0ともとれる2トップが低めの位置で構える形でのブロックディフェンス。スライドの意識は感じられるのだけれど、スペースへのスライドというよりは、やはり人への意識が強く感じられる守備だった。相手とミラーになることから、組みやすさがあるかもしれないのだけれど、鹿島もポジションチェンジで選択を迫る。ウィングがハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット可変だ。さらにはSBが高い位置を取るので、人につくベガルタのウィングとSBが強制的に上下ポジション移動を強いられる形に。ここまでであれば、ある意味、4-4-2vs4-4-2の「嵌めてから外す」原則に従ったプレーなのだけれど、ベガルタが苦手とするレーンチェンジへの対応を合わせ技で繰り出してきた。主役は、背番号8、土居聖真だ。

図3

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図4

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土居のカットアウトラン

 ウィングのトムキャット可変のひとつのメリットとして、相手SBについていくのか、いかないのか世界の選択を迫ることができる。いくつもの世界線。ある意味、鹿島は事前のスカウティングとの答え合わせをしていたのかもしれない。そして今日も、「ウィングもSBもよくついてくる」ことが序盤の15分で完了したのかもしれない。

 まずは2分。土居が確かめるように永戸の裏に飛び出していくカットアウトラン。ウィングロールのSBとハーフレーンに移動するSHへの対応でギャップができるベガルタのファイナルライン。14分にも土居が永戸の裏にランニングしていく。完全な同型ではないのだけれど、15分の先制点を許したシーンも土居のポジションはウィングレーン。永戸の裏だった。

 非常にシンプルな、サイドの選手と中央の選手のベクトルの違うランニング。しかし、シンプルなだけに強力だ。しかもSBがウィング位置まで入ってくるので、SBへの戦術負荷は一瞬で高負荷状態になる。裏を取られないようにするのか、下がるウィングについていくのか、高い位置を取るSBを見るのか。本当はスライド対応できれば良いのだけれど、CBがついていけばボックスを空けるし、CHがついていく気配もなく定時で帰宅するしで正直だれが土居を見るのか整理されているようには、ちょっと見えなかった気がする。気がするだけ。

図5

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点差以上の余裕

 前半で2点、後半で2点とうまく点数を重ねられたわけなのだけれど、印象としては決まるべくして決まる得点のように見えた。再三の土居のランニングに対して、15分で対応せよ!は、今のベガルタにとって、かなりの難問だったのかもしれない。だけれど、タイトルを争う、ACLを戦うチームにとって、これはあくまでも1手目なわけであって、「ん?今日は少しやり方を変えているのかな?」となれば、2手目、3手目を繰り出してきた可能性は非常に高い。そういう意味において、ベガルタは、鹿島をクラブワールドカップレアルマドリーにはできなかったというわけだ。主力が抜けている鹿島にとっては、この試合の戦い方がこの試合における最適解であって、MAX値は出せていないのかもしれない。できれば、出させるような戦い方をしたかった。

 ただ、非常に攻撃的に戦った証拠といも言える。攻撃的というのは、自分たちのやり方を貫いたという意味で。この試合、鹿島専用守備フォーマットを仕込んでも良かったのかもしれない。それこそ5バックとかとか。でもそれをせず、シマオや椎橋がいないなかなのだけれど、それでも今のチームの守備のやり方を貫いたという勇気については讃えないといけないのかなと思う。それが、Jトップには通じても、アジアトップには通じなかったという事実が残っただけだ。格の違いを見せつけられて、この格についていくにはさらにチャレンジをしないといけないが、それはまだ先になりそう。今は、彼らに挑戦できる権利を確保し続けることが優先される気がする。気がするだけ。でも相手が走るなら僕たちも走らなければ追いつけない。というより、彼らより、2倍も3倍も速く走らなければいけない。あるいは、もっと他の方法を使ってゴールに辿りつくか。今はただ、食らいつくのに精いっぱい。 

考察

小さな選択肢と大きな結果

 4点差に対して、去年のホーム最終戦の3点差で負けたのを思い出した。もちろん、今年のアウェイでは1点差なのだけれど、鹿島にとってそれは同じ「勝利」でしかない。ひとつひとつの選択が変わっていれば、結果も変わったかもしれないベガルタ。逆を言えば、その選択が変わらない限り、結果も変わらないことが証明されてしまったような気がする。結果だけを何とかしようとして、できるような相手じゃないということだ。だからこそ、今は、ひとつひとつできることを積み重ねるしかないじゃないのかなと思う。格も舞台も違う相手にできることは、舞台に上がる選択肢を持ち続けることなのだと思う。多分。 

おわりに

 ゴールネットは、4度も揺れた。日本代表GKにとってはとても不幸で、悲しい結果だった。もちろん、選手、スタッフ、クラブ、サポーターにとっても悲しい試合になった。だからこそ、ダンには、ユアスタではなく、欧州に旅立ってほしい。どんな時でもゴールを守り続ける世界一のGKになってほしい。ダンが帰ってくるまで、今度は僕たちみんながユアスタのゴールを守り続ける。 思い切り大好きなサッカーを楽しんで来い。

 

友との別れ。

惜別の思いを結果に込めることができずに送りだすベガルタ

悲しんでばかりいられない。

新しいステージへの戦い。その匙は投げられたのだから。

次回、ベガルタ仙台、「桜色の逆襲」

その運命、自らの手で掴め!ベガルタ! 

 

参考文献

www.footballista.jp

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birdseyefc.com

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footballhack.jp

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 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

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【いつも何度でも】Jリーグ 第18節 浦和レッズvsベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

 さて、いきましょうか。アウェイ浦和戦のゲーム分析。昨年悔しさを味わったスタジアムに再び挑戦する渡邉ベガルタ。あの時からチームも変わり、新生ベガルタとして、アジアを舞台に挑戦し続ける浦和に挑む。立ちはだかる壁。行くべき道。1人少なくなっても戦い続けた先に見えた世界とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、トムキャット型4-4-2。右SBに体調不良の蜂須賀に代わって大岩が入っている。

 浦和は、3-4-2-1。オズの魔法は解け、大槻さんが再登板。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

トムキャット型4-4-2vs5-4-1

  ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型。ポジショナルアタック移行時には、4-4-2から2-4-2-2へのトムキャット可変になる。数字遊び。浦和のセットディフェンスは、2シャドーがSH化するタイプの5-4-1。ベガルタのビルドアップが2CBが始点になるためか、SHが前プレをかけるというよりは、興梠が1人で2人を見るカバーシャドウでCB→CBにパスレーンを封鎖しつつホルダーにプレッシャーをかけ、サイド限定を図った。2CHも椎橋、松下への危険察知能力が高く、ボールがつく前にプレッシャーをかけて決闘勝負で取り切ろうという策に見えた。浦和の守備は、全体的に決闘要素が以前より少なく見えた気がする。気がするだけ。天皇杯決勝基準で見てるからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。WBも果敢に永戸、大岩まで縦スライドして、ボールサイドで窒息させる意図を強く感じた。

図1

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 ただし、どんなフォーメーションであれ、必ず弱点がある。君が守っていないところを守るなら、僕は守っていないところを攻めるといった具合だ。5-4-1なら、1トップ脇と4ハーフラインの脇とハーフレーン、5-4の間いわゆる第3レイヤー。可変なのだから、ウィングがハーフレーンにレーンチェンジするだけではない。

関口の5バック崩し

  9分ごろ。ポジショナルアタック。松下がCHのマークを引き受け、誘き出しに成功。CHが背中で作ったスペースにレーンチェンジした関口がボールを受けようと立つ。相手SH、CB、CH間に立つ焦点のプレーだ。浦和2CHベガルタ2CHへの警戒が強いことを利用して、狙っていたスペースであるのと、相手に選択を迫る非常に得のあるポジションに思える。

 ここから、5バックブロック崩しが始まる。5-4-1の構造上の弱点は、5バックラインはスペースを埋め人を主眼に置くのに対して、4ハーフラインはラインチェーンの鎖理論で繋がっていることになる。ようするに、カバーとチャレンジの連携で守る思想のひと達と人海戦術で守る思想のひと達とで分かれている。強みといえば強み。とてつもなく主語を大きくして言えば、ゾーンとマンツーの良いところだけを抽出した型と言える。ただ、物事とはそう簡単にはいかない。というより、良いとこどりなんて、実現可能性が低いことだ。なぜなら、良いとは相対的主観に過ぎない。良い悪いは表裏一体。良いは悪いの裏返しでもある。

 関口はここから、WBが縦スライドで空けたスペースにランニング。まさに可変翼。CHとWB空けたスペースを同時に利用した。結果、相手ハーフディフェンダーをウィングレーンに引っ張り出すことに成功。永戸の位置と関口のランで、5バックのうち2人をゴールから遠い場所に置くことができた。そこに正確にボールを出す平岡。彼もまた、悔しさを糧に成長している。

図2

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図3

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 ちなみに関口は、ハーフレーンでボールを受けるとターンしてドリブル開始するプレーもあった。ランを活かすドリブル、ドリブルを活かすラン。ハーフレーンもウィングレーンでも問題ない。流石と言うほかなかた。選択肢が2つあれば、相手に選択を迫れるし、たとえ間違ったとしても次は他の選択肢を選べるのだから、論理性と再現性が生まれる。

両ウィングによるハーフレーン瞬間的超密集(モーメントオーバーロード)

 非常に瞬間的な話なのだけれど、関口とミチが非常に近い場所にいるシーンがある。場所はハーフレーン。4-4-2の性質上、トップ下の場所を誰が使うかが攻撃時には大事だったりする。すでに可変するウィングのベガルタにとって、ウィングが近くなることも当然の帰結のように思える。ハーフレーンで密集状態をつくることでの一転突破。ネガティブトランジション時のゲーゲンプレス用意が可能になる。まだ、サンプルシーンがそれほど多くないため、具体的な言及はできないのだけれど、非常に何となく、超気がするだけなのだけれど、将来ベガルタの翼は、片翼になる。気がする。

ボール非保持時

3バックへの挨拶は2トップ+ウィングの前プレ

  ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2。相手3バックがボールを持つと、2トップ+ウィングの擬似3トップでボールサイドを限定していく対抗型を採用。

 そもそも、3-4-2-1に対する4-4-2守備のやり方で見るべきポイントとして、3バックがボールを持って攻撃開始を宣言した際に、どんな挨拶をするのか。顔面から潰すのか、無視を決め込むのか、賢く追い込むのか。いわゆる3バック撲滅については、特に2トップの数的不利状態でどうするのかを見る必要がある。下手をすれば、2トップ脇の痛点、いわゆるハーフレーン入口にドライブされてブロック崩し始まりの「小さなズレ」引き起こしてしまう。

図4

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図5

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 そんなこんなで、渡邉ベガルタが取った策とは。正解は、2トップ+ウィングの前プレだった。敵陣では、右ウィングのミチも左ウィングの関口も前プレに参加して嵌めこむ意思を感じた。

2つの守備ルール

 その前プレに連動して、松下と椎橋は浦和CHに、大岩と永戸はWBに合わせ込み、プレスの基準点を明確にした。戦う理由を見つけていた。これが1段目の守備。これをかわされたりして、ヤードゲインされる、つまりはベガルタ自陣に侵入された場合は前プレを諦めてボックス付近でブロックを作った。2段目の守備だ。

 あえて電話番号をたたくなら、ウィングがSB化、SBがハーフディフェンダー化する6-2-2で対抗。浦和が3-2-5のベールクト型で侵攻してきたこともあること、守備の基準、戦う理由をはっきりさせるためにはこの形が自然な気がする。気がするだけ。実際的には、WBには関口とミチ、シャドーには大岩、永戸が監視していた。これは、1段目の守備ルールとは、異なる2段目の守備、つまりはローブロックを組んだ時のルールになる。

図6

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図7

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 この辺りの整理は、きちんとされていた印象で、練度も高く準備してきた形に見えた。ファイナルラインには対人守備最強のシマオ(通称島尾摩天)もいる。最後のところで弾き返せればよいと割り切れる策かもしれない。あるいは、対浦和なのかは分からないのだけれど、3-4-2-1系チームへの対抗型として採用していくかもしれない。相手の特徴に応じて、プレスも変えたりして微調整することも可能だ。ただ、相手は浦和。万里の長城レッドクリフだって、彼らは挑戦してきているのだ。

ルールの継ぎ目を狙う浦和

 交代でファブリシオが入ったあたりから、浦和の3トップはポジションチェンジやレイヤーを降りるプレーを見せ始める。それに呼応するかのように、2CHもただ椎橋、松下の餌食にならないように、長沢、石原先生の2トップ付近にポジション取りし始める。これによって、少しずつ基準がズレることに。失点シーンがよく分かりやすいのだけれど、2トップは前プレしているようで浦和の2センターが気になり敵陣守備ルールの生命線である3バックへのプレッシャーがかからない状態に。加えて、サイド限定もされていないから、ベガルタの誘導ではなく、浦和のポジショナルアタックを許す結果に。

図8

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図9

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 こうなると、4-4-2の痛点である2トップを誰が見るんだ問題が発生する。というより、見るのか見ないのかを瞬時に判断する機会が発生してしまう。苦手分野。誰が見ても、関口は前に出るべきではなかったし、前プレがかかっていないのだから、ブロックを組んで引き寄せて守る必要があった。でも、①事前に整理してルール化していた前プレ守備、②4-4-2の2トップ脇のスペースを守ることの制度的側面と構造的側面の判断が同時に出て来てしまった。制度は構造を見える形にしたものだからこそ、関口は制度、ようするに①ルール化された前プレ守備を実行した。結果、永戸はルール通りWBに、平岡が武藤につくことに。本来なら、ブロックを組むこと、関口がWB、永戸が武藤、平岡が中央締めをする必要があった。最後は、シマオも引っ張り出されて、ベガルタキラー興梠がダンとの決闘を制して決勝点を上げた。きわめてロジカルな、ストーリー性にあふれた失点だった。 どうやったら上手くいくかは分からないけど、どうやったら上手くいかなくなるかは分かるようになる。こう言ったのは羽生善治だったのような気がする。

1人少ない後半

 椎橋退場後は、我慢の時間と前に行く瞬間とが入り混じる時間だった。浦和の3-4-2-1は何となくなのだけれど、ポジショナルの解がなかなか見つからなかったかつてのベガルタのようにも見えた。それもあって、ボールを持たれ続け、自陣での時間があるけど、4-4-1と5-3-1で対抗。しかも、3バックには、前半のような前プレを1人少ない用にアレンジして、1トップとウィングの二度追いで実現していた。5バックにもなり、前プレからの二度追いも実行するスーパーマルチタスクウィングになるので、関口に代わって、左ウィングにタカチョーが交代で入るのは前前前世からの必然だったと思う。多分。ハモンが入って攻撃への意思表明もしつつ、やはり前から潰したかったのかなと感じる試合だった。それだけに、椎橋の退場は激痛だった。

考察

紙一重

 紙一重という言葉が浮かぶ試合に見えた。周到に準備された守備で浦和を苦しめた一方、その準備の継ぎ目を突かれた形で失点した。たしかにあそこまでいくと、個人コンセプトの守備が大事になるのかもしれないのだけれど、そこは仕方ない精度を上げるしかないし、究極のところは予測と集中の強度を上げるしかない。1人少なくなってからも、フォーメーションを変形させながらゼロに守り切ったのは大きかった。もちろん浦和としても、1点リードしていること、1人多いこと、ポジショナルアタックの解に悩みを抱えていることで守り切れたとも言える。それでも、春先の守備強度の低さを思うとよく立て直したなと感じる。

 

おわりに

再会の埼スタでスコアは変わらなかった。

サッカーは記録でしか残らない。起きてしまった過去を変えることはできない。

けれど歩みを止めない限り、ひとは変わり続けることができる。

ここからまたリスタート。次なる目的地は何処へ。

 

その翼、過去という呪縛を切り裂け、ベガルタ! 

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

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sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

【一難去ってまた一興】Jリーグ 第17節 ベガルタ仙台vsコンサドーレ札幌 (2-1)

はじめに

 では、いきましょうか!ホーム札幌戦のゲーム分析!止まらないユアスタ快進撃。苦しみぬいた先に辿り着いた世界で見えてきた光。リーグも前半戦が終わり、灼熱の夏、勝負の秋がやってくる。歩みは止めない。今回も、ゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは同じく4-4-2。右ウィングには道渕が入っている。

 札幌はチャナティップ不在だがミシャのチームらしさは変わらない。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

5-4-1が守れていないところから前進

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。相手が1トップもあり、定石型のプラス1の形を採用。2CHが相手のCHのマーク役を引き受けピンどめ。2CBからSBへのボール移動が主だった。

 5-4-1攻略には、いくつか定石型がある。そもそも、使いたいスペースに人をはじめから置いているので人を動かせば勝手にスペースができるのが原理原則だ。人数には人数。オーバーロード(超密集)で過負荷をかければ、相手が数合わせで人を当ててくるので使いたい場所が芋づる式で相手くる。あとは、4-4-2攻略の原則を応用して、4の隙間を5レーンで攻略する。 

 今回のベガルタのポジショナルアタックは、この2つの合わせ技できた。SH脇のウィングレーンからハチ、永戸の前進。第3レイヤー・ハーフレーンからミチ、関口の攻撃。相手が守っていないところを攻める原則。これは札幌にも言えるのだけれど、シンプルに空いている場所から攻めている両者に見えた。噛み合わせ的には、札幌の3-4-2-1(4-1-5)に対して、ベガルタの4-4-2は分が悪いのだけれど、トムキャット可変で2-4-2-2になるのでお相子といったところか。多分。

図1

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ボール非保持時

迷える基準

 ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2のまま。札幌がミシャ式発動で、4-1-5可変に対しては、2トップがアンカーポジションを基準にブロックを築く。面倒だったのが札幌の2シャドー。相手の4に対して合わせで同数プレスをかければ、ウィング裏(特に道渕)、CH脇を狙って動かしてくる。そこに間髪入れずにパスを刺されると、相手の攻撃を顔面から受けてしまう。

図2

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守備の難問 一問一答

 特に左サイドの手当ては急務だった。札幌の右WBルーカス・フェルナンデスがウィングレーンを 一騎駆けすることもあれば、ハーフレーンにレーンチェンジしてローテーションアタックを見せたり、永戸もよく対応していたが、左CB福森から対角線の角行パスが飛び出してくるといよいよ難しくなってくる。そこで関口が5バック化で対応。対角線のパスが使いたい4-4-2の4脇をはじめから埋めてしまうレーン埋めで対抗した。

 また、右CBが前進してサイドのトライアングルを作られると、今度はCH、SB、ウィングで対抗。「人につく、人につく」と言われてきたが、決闘相手が見つかればこれほど強力なものはない。「走力、切替、球際」が守備のプレー原則なのだとすれば、あやふやだった状態から、試合中にアジャストさせるのは成長している気がする。気がするだけ。

図3

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図4

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ポジティブトランジション

狙い続けた背後

  いつものように縦志向が強く、2トップに当てるボールが多かったのだけれど、ここでも相手が守っていないところを攻める原則が発動。上がっているCBの裏、あるいは可変前のCB脇など、空けているところから攻めていく姿勢は、ポジトラ時も変わらなかった。 

考察

それでも生きている

 正直なところ、試合内容としてはかなり厳しかった。厳しかったというのは、キーである決闘をズラされたこと、もっとボールを持ちたかったことだ。さらにそこに、ロングキックでスライドが間に合う前に攻撃されるまずい展開だった。それでも、セットプレーと前プレによるビルドアップ妨害で2点取り勝った。納得のいかない敗北があるように、(相手にとって)納得のいかない勝利もあるということだ。少しでも勝利の方を積み重ねたい。

物語は始まったばかり

 連勝ですっかり最下位から脱出し、ボトムハーフトップでトップハーフへの挑戦権を握りしめている。でも、これがひとつの物語であれば、またひと山、ひと試練あってもおかしくない。夏を乗り越え、リーグ戦終盤に向かうにあたってまだまだこれからだ。

松下についてひとつ

 実は、松下の躍動について、僕は密に心配をしていた。彼のボール操作能力は、恐らく、チームでもトップクラスだ。彼にボールを預けておけば、多少無理な体勢でもキープしてくれるし、個人で奪い返してもくれる。ある意味、替えのきかない選手になっているが、それがむしろ彼の存在を無意識的に大きくして誰にも代えがたい選手になると、離脱した時のパワーダウンが心配だなと思っていた。でも、あまり心配しなくても良さそうだ。少なくとも、周りの選手もスタッフも、松下に依存しているわけでもないし、課題は全員で解決する姿勢と一人一人が負けてられない姿勢がよく出ている気がする。このまま、よい状態をチームも松下も維持してほしいなと思う。 

おわりに

  他チームでまた一人監督がチームを去った。誰もがこんな形で別れたくなかったはずだ。チームの解散、サポーターの悲鳴。それでも、僕たちは、勝って上にいく。勝って、勝って、負けるかもしれないけど、走り続けなければいけない。もう、深海に沈みたくはない。どんなに悪いサッカーでも、素晴らしいサッカーでも、今僕は勝ちたい。まだまだ、足りない。

 

「命においては、勝利か、さもなければ死しかない。」こう言ったのは、チェ・ゲバラだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

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【東京決戦】Jリーグ 第17節 FC東京vs横浜Fマリノス (4-2)

はじめに

 どうも、僕です。今回は、FC東京vsマリノスの首位決戦を見ていきます。リアルタイムで観戦直後に書き上げるので感想文になります。一つの試合として、首位攻防の注目試合として見ます。では、レッツゴー。

前半

 FC東京は、4-4-2。ビルドアップは2CB+2CHのボックス型。そこに高萩がCB間に降りる変化をつける。攻撃はダイレクト志向。2トップのディエゴの強さ、永井の速さを活かす形でマリノスのハイライン、SB裏およびCB脇を狙っていく。特に高萩がボールを持つと間髪入れず2トップにボールを入れる。2点目の形は、左サイドに流れた高萩から入れ替わった永井が最後のレイヤーを攻略した形だった。

 一方の守備も4-4-2。SHがハーフレーンを封鎖するタイプの圧縮型4-4-2でセットアップした。マリノスのSBがアラバロールしてきたことで、決闘重視のFC東京のディフェンスが中央に収縮したようにも感じられる。いずれにせよ、気の抜けた形で1失点しながらも、その後セットディフェンスで崩されたシーンはほぼなかった。ローポストを狙うマリノスの攻撃をよく封じ込めたように思える。

 さてマリノスマリノスは4-2-1-3系の4-3-3。天野がCHに入って、ビルドアップのフォローと前線の数増役になる攻撃的な主張。ビルドアップは、2CB+2CHのボックス型が基本型だが、CHがCB間に降りる→降りたスペースにSBがアラバロールすることで、M字型、W字型のようにも見えた。加えて、マルコスがフリーロールなのでビルドアップにひと手間加えていた。

 基本的には、マリノスがボールを持つ時間も場所も多かったのだけれど、最初のレイヤー・第2レイヤーで2トップと2CHに負荷をかける形が多かった。ただし、FC東京の圧縮を招いているようにも見えたし、誰につくかは決めつつも、入って来た相手と決闘するFC東京に対して、有効かどうかは難しいところだった。もっと、ウィングレーンにシンプルにボールを出す、あるいはそこから第3レイヤーにボール移動させる(レイヤースキップ)ことでFC東京DF4枚との対峙にもっていきたいところだ。先制点は見事だった。ウィングレーンの1レーンアタックを完結させて、最後ボックス内に飛び込んでくる形は見事だった。もっと、相手ゴール前でボールを動かすシーンが増えればチャンスになりそうだ。

後半

 両チームとも変化は無し。戦い方も、前半の継続で進んだ形だ。得点を重ねたのは、FC東京。高萩からのロングキック作戦が後半も猛威を振るった形だ。4点目も永井からオリヴェイラへと、基本的には2人称の崩しがFC東京の攻撃パターンだ。当然シンプルなのだけれど、マリノスのファイナルラインが柔らかすぎるのか、あるいは枚数が足りないのかでそれでも崩した。得点後、FC東京の4-4-2はさらに圧縮成分が増して、4-6-0のような形で相手を引き込んで、甘いパスをカットしてカウンターを繰り出していた。首位のチームらしい、勝利に徹した良いチームだ。

 マリノスは、SB位置に少し手を入れた。左SBティーラトンはウィングロールで高い位置、左ウィングの遠藤がハーフレーンにレーンチェンジ。一方の右SB和田はそのままハーフレーンに。場合によっては、ボックス内での数増役になる。左右非対称で攻撃を進めた。圧縮型4-4-2のFC東京に対して、空いているウィングレーンから攻める左サイドと仕留める右サイドといったところか。ただ、ネガティブトランジションで、和田の後方、というよりCB脇をよく使われてしまったので、プラスマイナスの収支計算は正直分からない。相手ボックス付近に張りつけて攻撃もできていたのだけれど、最終的には、ファーからのクロスで2点目を加えたの時間帯が80分ごろ。ネガティブトランジション面での圧倒とカウンターを食らっても最後の部分でやらせないなど、ポゼッション型ポジショナルチームに必要な、「ウノゼロ」ゲームを今後構築していきたいところだ。

おわりに

 お互い自分たちの戦い方を貫き通した良い試合でした。細かなミスだったりもありましたけれど、長い道のりのなかで、勝ったり負けたりを繰り返すなかで、それも減っていくのかなと。勝利が絶対に欲しいなか、非常にコントラストがはっきりとしたゲームだったのかなと思います。また、秋ごろどんな状況で再び戦うことになるのか楽しみです。では、また。