蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

【アンダルシアに憧れて】Jリーグ 第19節 ベガルタ仙台vs鹿島アントラーズ (0-4)

はじめに

 では、いきましょうか。ホーム鹿島戦のゲーム分析。旅立ちの日。大志をいだく一人の青年が戦士となり夢への第一歩を踏み出す。そんなダンのためにも勝利が欲しかったベガルタ。でもそれ以上に、鹿島との、いや世界との舞台の違いを見せつけられることに。これからベガルタが戦うべき相手とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、シマオがケガ、椎橋が出場停止で大岩、富田がスタメンに。

 鹿島は、安部、安西が海外移籍でいない。鈴木も移籍が発表される。世界。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

ボックス型と逆丁字型で攻める2トップ脇

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。試合序盤は、時折、富田が降りたり、ダンが加わったりで一工夫。この試合、2CBには平岡と大岩が入ったのだけれど、彼らの狙いは相手SHやSBを引っぱり出した後ろのスペースになるが、あまり精度よくボールを送れなかったのと、CBからSBへのパスが短距離パスでボールを持ったSBが窒息するシーンが見られた。特に右サイドが惨状だった。大岩のキックがパター型もあって、どこの誰に蹴るのかが、キックモーションから予測できてしまう。キックする前に相手SHがハチへベクトルを向けるので、ボールをタッチラインに押し付けることに成功させてしまった。実は鹿島の守備もベガルタに似た傾向があって、CHにレオシルバが入っていることもあるのだけれど、人によくついていた。トムキャット可変でハーフレーンに出現するミチにレオシルバがついていくシーンもあって、第3レイヤーで待つ2トップへの「花道」が空いているケースもあったのだけれど、大岩からのパスはやはりSBだった。

 こうなるとベガルタの立ち位置を少し弄る必要がある。35分くらいから明確に、富田がCB間に降りる逆丁字型ビルドアップに変形してきた。4-4-2の攻略方法はいくつかあるが、そのひとつに2トップ脇がある。ここは、ハーフレーン入口とも呼ばれていて、守備者にとって誰がいくのかいかないのかの選択を迫れる焦点のプレーがよく利くポジションだ。ここから、トムキャットで降りてきたウィングが正面によく見えるはずだ。当然、相手SBがついてくれば、裏が空く。ベガルタもまた、鹿島同様、SBへのカットアウトランを繰り出すことになる。

縦のオーバーロードと裏抜けの質

 特に後半。56分、63分ごろに見られた形で、石原先生がSB裏を強襲する。形はどちらも、右SBハチがボールを持った時。右ウィングのミチが同レーンでハチに寄る動きで相手SBを誘き出し、ハチは「重なったらひとつ飛ばせ」原則に従って、ミチを飛ばして石原先生にボールを供給する。この縦1レーンアタック。名波ジュビロでよく見られた形なのだけれど、普段は5レーンを広く使うチームが1レーンで攻撃を完結させようとオーバーロードすると意外と強力だ。いわゆる継ぎ歩の感覚に近い。鹿島は、この1レーンアタックに対して、SB、SH、CB・CHの人員を割く必要がある。しかも全員がサイドに引っ張られることになれば、中央での枚数不足を招く。シティの5バック攻略、京都の5バック攻略でも見られるこの型は、いずれ、ベガルタの新たな武器になる気がする。両ウィングがハーフレーンに集まる瞬間的オーバーロード、1レーンに集まる縦のオーバーロード。広く攻めたり、狭く攻めたりの幅を広げられたらと思う。

図1

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 ただ、難しいのは、カットアウトでSB裏を強襲する選手の質だと思う。残念ながら、もともとがサイドの選手のハモンは、そこのところが怪しい。ボールホルダーがボールを持って、ルックアップしてから動き始めるので相手に対応されるのと、そもそもそこの動きが無い場合もある。ただ、ある時は、いきなりサイドでボールを持って独走もするので何だかなあという感じだ。いっそのこと左ウィングにして、ハーフレーンへのトムキャット役にした方が良い気がするのだけれど、5バック化には対応できなさそう。悩ましいところである。もしかしたら、今の4-4-2の最大の武器であるウィングが弱手になりえるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

図2(オマケ)

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ボール非保持時

鹿島のトムキャット型4-4-2

  ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2。ただ実際的には、4-4-2-0ともとれる2トップが低めの位置で構える形でのブロックディフェンス。スライドの意識は感じられるのだけれど、スペースへのスライドというよりは、やはり人への意識が強く感じられる守備だった。相手とミラーになることから、組みやすさがあるかもしれないのだけれど、鹿島もポジションチェンジで選択を迫る。ウィングがハーフレーンにレーンチェンジするトムキャット可変だ。さらにはSBが高い位置を取るので、人につくベガルタのウィングとSBが強制的に上下ポジション移動を強いられる形に。ここまでであれば、ある意味、4-4-2vs4-4-2の「嵌めてから外す」原則に従ったプレーなのだけれど、ベガルタが苦手とするレーンチェンジへの対応を合わせ技で繰り出してきた。主役は、背番号8、土居聖真だ。

図3

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図4

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土居のカットアウトラン

 ウィングのトムキャット可変のひとつのメリットとして、相手SBについていくのか、いかないのか世界の選択を迫ることができる。いくつもの世界線。ある意味、鹿島は事前のスカウティングとの答え合わせをしていたのかもしれない。そして今日も、「ウィングもSBもよくついてくる」ことが序盤の15分で完了したのかもしれない。

 まずは2分。土居が確かめるように永戸の裏に飛び出していくカットアウトラン。ウィングロールのSBとハーフレーンに移動するSHへの対応でギャップができるベガルタのファイナルライン。14分にも土居が永戸の裏にランニングしていく。完全な同型ではないのだけれど、15分の先制点を許したシーンも土居のポジションはウィングレーン。永戸の裏だった。

 非常にシンプルな、サイドの選手と中央の選手のベクトルの違うランニング。しかし、シンプルなだけに強力だ。しかもSBがウィング位置まで入ってくるので、SBへの戦術負荷は一瞬で高負荷状態になる。裏を取られないようにするのか、下がるウィングについていくのか、高い位置を取るSBを見るのか。本当はスライド対応できれば良いのだけれど、CBがついていけばボックスを空けるし、CHがついていく気配もなく定時で帰宅するしで正直だれが土居を見るのか整理されているようには、ちょっと見えなかった気がする。気がするだけ。

図5

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点差以上の余裕

 前半で2点、後半で2点とうまく点数を重ねられたわけなのだけれど、印象としては決まるべくして決まる得点のように見えた。再三の土居のランニングに対して、15分で対応せよ!は、今のベガルタにとって、かなりの難問だったのかもしれない。だけれど、タイトルを争う、ACLを戦うチームにとって、これはあくまでも1手目なわけであって、「ん?今日は少しやり方を変えているのかな?」となれば、2手目、3手目を繰り出してきた可能性は非常に高い。そういう意味において、ベガルタは、鹿島をクラブワールドカップレアルマドリーにはできなかったというわけだ。主力が抜けている鹿島にとっては、この試合の戦い方がこの試合における最適解であって、MAX値は出せていないのかもしれない。できれば、出させるような戦い方をしたかった。

 ただ、非常に攻撃的に戦った証拠といも言える。攻撃的というのは、自分たちのやり方を貫いたという意味で。この試合、鹿島専用守備フォーマットを仕込んでも良かったのかもしれない。それこそ5バックとかとか。でもそれをせず、シマオや椎橋がいないなかなのだけれど、それでも今のチームの守備のやり方を貫いたという勇気については讃えないといけないのかなと思う。それが、Jトップには通じても、アジアトップには通じなかったという事実が残っただけだ。格の違いを見せつけられて、この格についていくにはさらにチャレンジをしないといけないが、それはまだ先になりそう。今は、彼らに挑戦できる権利を確保し続けることが優先される気がする。気がするだけ。でも相手が走るなら僕たちも走らなければ追いつけない。というより、彼らより、2倍も3倍も速く走らなければいけない。あるいは、もっと他の方法を使ってゴールに辿りつくか。今はただ、食らいつくのに精いっぱい。 

考察

小さな選択肢と大きな結果

 4点差に対して、去年のホーム最終戦の3点差で負けたのを思い出した。もちろん、今年のアウェイでは1点差なのだけれど、鹿島にとってそれは同じ「勝利」でしかない。ひとつひとつの選択が変わっていれば、結果も変わったかもしれないベガルタ。逆を言えば、その選択が変わらない限り、結果も変わらないことが証明されてしまったような気がする。結果だけを何とかしようとして、できるような相手じゃないということだ。だからこそ、今は、ひとつひとつできることを積み重ねるしかないじゃないのかなと思う。格も舞台も違う相手にできることは、舞台に上がる選択肢を持ち続けることなのだと思う。多分。 

おわりに

 ゴールネットは、4度も揺れた。日本代表GKにとってはとても不幸で、悲しい結果だった。もちろん、選手、スタッフ、クラブ、サポーターにとっても悲しい試合になった。だからこそ、ダンには、ユアスタではなく、欧州に旅立ってほしい。どんな時でもゴールを守り続ける世界一のGKになってほしい。ダンが帰ってくるまで、今度は僕たちみんながユアスタのゴールを守り続ける。 思い切り大好きなサッカーを楽しんで来い。

 

友との別れ。

惜別の思いを結果に込めることができずに送りだすベガルタ

悲しんでばかりいられない。

新しいステージへの戦い。その匙は投げられたのだから。

次回、ベガルタ仙台、「桜色の逆襲」

その運命、自らの手で掴め!ベガルタ! 

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

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footballhack.jp

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東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

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【いつも何度でも】Jリーグ 第18節 浦和レッズvsベガルタ仙台 (1-0)

はじめに

 さて、いきましょうか。アウェイ浦和戦のゲーム分析。昨年悔しさを味わったスタジアムに再び挑戦する渡邉ベガルタ。あの時からチームも変わり、新生ベガルタとして、アジアを舞台に挑戦し続ける浦和に挑む。立ちはだかる壁。行くべき道。1人少なくなっても戦い続けた先に見えた世界とは。今回もゲーゲンプレスで振り返ります。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、トムキャット型4-4-2。右SBに体調不良の蜂須賀に代わって大岩が入っている。

 浦和は、3-4-2-1。オズの魔法は解け、大槻さんが再登板。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

トムキャット型4-4-2vs5-4-1

  ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型。ポジショナルアタック移行時には、4-4-2から2-4-2-2へのトムキャット可変になる。数字遊び。浦和のセットディフェンスは、2シャドーがSH化するタイプの5-4-1。ベガルタのビルドアップが2CBが始点になるためか、SHが前プレをかけるというよりは、興梠が1人で2人を見るカバーシャドウでCB→CBにパスレーンを封鎖しつつホルダーにプレッシャーをかけ、サイド限定を図った。2CHも椎橋、松下への危険察知能力が高く、ボールがつく前にプレッシャーをかけて決闘勝負で取り切ろうという策に見えた。浦和の守備は、全体的に決闘要素が以前より少なく見えた気がする。気がするだけ。天皇杯決勝基準で見てるからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。WBも果敢に永戸、大岩まで縦スライドして、ボールサイドで窒息させる意図を強く感じた。

図1

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 ただし、どんなフォーメーションであれ、必ず弱点がある。君が守っていないところを守るなら、僕は守っていないところを攻めるといった具合だ。5-4-1なら、1トップ脇と4ハーフラインの脇とハーフレーン、5-4の間いわゆる第3レイヤー。可変なのだから、ウィングがハーフレーンにレーンチェンジするだけではない。

関口の5バック崩し

  9分ごろ。ポジショナルアタック。松下がCHのマークを引き受け、誘き出しに成功。CHが背中で作ったスペースにレーンチェンジした関口がボールを受けようと立つ。相手SH、CB、CH間に立つ焦点のプレーだ。浦和2CHベガルタ2CHへの警戒が強いことを利用して、狙っていたスペースであるのと、相手に選択を迫る非常に得のあるポジションに思える。

 ここから、5バックブロック崩しが始まる。5-4-1の構造上の弱点は、5バックラインはスペースを埋め人を主眼に置くのに対して、4ハーフラインはラインチェーンの鎖理論で繋がっていることになる。ようするに、カバーとチャレンジの連携で守る思想のひと達と人海戦術で守る思想のひと達とで分かれている。強みといえば強み。とてつもなく主語を大きくして言えば、ゾーンとマンツーの良いところだけを抽出した型と言える。ただ、物事とはそう簡単にはいかない。というより、良いとこどりなんて、実現可能性が低いことだ。なぜなら、良いとは相対的主観に過ぎない。良い悪いは表裏一体。良いは悪いの裏返しでもある。

 関口はここから、WBが縦スライドで空けたスペースにランニング。まさに可変翼。CHとWB空けたスペースを同時に利用した。結果、相手ハーフディフェンダーをウィングレーンに引っ張り出すことに成功。永戸の位置と関口のランで、5バックのうち2人をゴールから遠い場所に置くことができた。そこに正確にボールを出す平岡。彼もまた、悔しさを糧に成長している。

図2

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図3

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 ちなみに関口は、ハーフレーンでボールを受けるとターンしてドリブル開始するプレーもあった。ランを活かすドリブル、ドリブルを活かすラン。ハーフレーンもウィングレーンでも問題ない。流石と言うほかなかた。選択肢が2つあれば、相手に選択を迫れるし、たとえ間違ったとしても次は他の選択肢を選べるのだから、論理性と再現性が生まれる。

両ウィングによるハーフレーン瞬間的超密集(モーメントオーバーロード)

 非常に瞬間的な話なのだけれど、関口とミチが非常に近い場所にいるシーンがある。場所はハーフレーン。4-4-2の性質上、トップ下の場所を誰が使うかが攻撃時には大事だったりする。すでに可変するウィングのベガルタにとって、ウィングが近くなることも当然の帰結のように思える。ハーフレーンで密集状態をつくることでの一転突破。ネガティブトランジション時のゲーゲンプレス用意が可能になる。まだ、サンプルシーンがそれほど多くないため、具体的な言及はできないのだけれど、非常に何となく、超気がするだけなのだけれど、将来ベガルタの翼は、片翼になる。気がする。

ボール非保持時

3バックへの挨拶は2トップ+ウィングの前プレ

  ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2。相手3バックがボールを持つと、2トップ+ウィングの擬似3トップでボールサイドを限定していく対抗型を採用。

 そもそも、3-4-2-1に対する4-4-2守備のやり方で見るべきポイントとして、3バックがボールを持って攻撃開始を宣言した際に、どんな挨拶をするのか。顔面から潰すのか、無視を決め込むのか、賢く追い込むのか。いわゆる3バック撲滅については、特に2トップの数的不利状態でどうするのかを見る必要がある。下手をすれば、2トップ脇の痛点、いわゆるハーフレーン入口にドライブされてブロック崩し始まりの「小さなズレ」引き起こしてしまう。

図4

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図5

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 そんなこんなで、渡邉ベガルタが取った策とは。正解は、2トップ+ウィングの前プレだった。敵陣では、右ウィングのミチも左ウィングの関口も前プレに参加して嵌めこむ意思を感じた。

2つの守備ルール

 その前プレに連動して、松下と椎橋は浦和CHに、大岩と永戸はWBに合わせ込み、プレスの基準点を明確にした。戦う理由を見つけていた。これが1段目の守備。これをかわされたりして、ヤードゲインされる、つまりはベガルタ自陣に侵入された場合は前プレを諦めてボックス付近でブロックを作った。2段目の守備だ。

 あえて電話番号をたたくなら、ウィングがSB化、SBがハーフディフェンダー化する6-2-2で対抗。浦和が3-2-5のベールクト型で侵攻してきたこともあること、守備の基準、戦う理由をはっきりさせるためにはこの形が自然な気がする。気がするだけ。実際的には、WBには関口とミチ、シャドーには大岩、永戸が監視していた。これは、1段目の守備ルールとは、異なる2段目の守備、つまりはローブロックを組んだ時のルールになる。

図6

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図7

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 この辺りの整理は、きちんとされていた印象で、練度も高く準備してきた形に見えた。ファイナルラインには対人守備最強のシマオ(通称島尾摩天)もいる。最後のところで弾き返せればよいと割り切れる策かもしれない。あるいは、対浦和なのかは分からないのだけれど、3-4-2-1系チームへの対抗型として採用していくかもしれない。相手の特徴に応じて、プレスも変えたりして微調整することも可能だ。ただ、相手は浦和。万里の長城レッドクリフだって、彼らは挑戦してきているのだ。

ルールの継ぎ目を狙う浦和

 交代でファブリシオが入ったあたりから、浦和の3トップはポジションチェンジやレイヤーを降りるプレーを見せ始める。それに呼応するかのように、2CHもただ椎橋、松下の餌食にならないように、長沢、石原先生の2トップ付近にポジション取りし始める。これによって、少しずつ基準がズレることに。失点シーンがよく分かりやすいのだけれど、2トップは前プレしているようで浦和の2センターが気になり敵陣守備ルールの生命線である3バックへのプレッシャーがかからない状態に。加えて、サイド限定もされていないから、ベガルタの誘導ではなく、浦和のポジショナルアタックを許す結果に。

図8

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図9

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 こうなると、4-4-2の痛点である2トップを誰が見るんだ問題が発生する。というより、見るのか見ないのかを瞬時に判断する機会が発生してしまう。苦手分野。誰が見ても、関口は前に出るべきではなかったし、前プレがかかっていないのだから、ブロックを組んで引き寄せて守る必要があった。でも、①事前に整理してルール化していた前プレ守備、②4-4-2の2トップ脇のスペースを守ることの制度的側面と構造的側面の判断が同時に出て来てしまった。制度は構造を見える形にしたものだからこそ、関口は制度、ようするに①ルール化された前プレ守備を実行した。結果、永戸はルール通りWBに、平岡が武藤につくことに。本来なら、ブロックを組むこと、関口がWB、永戸が武藤、平岡が中央締めをする必要があった。最後は、シマオも引っ張り出されて、ベガルタキラー興梠がダンとの決闘を制して決勝点を上げた。きわめてロジカルな、ストーリー性にあふれた失点だった。 どうやったら上手くいくかは分からないけど、どうやったら上手くいかなくなるかは分かるようになる。こう言ったのは羽生善治だったのような気がする。

1人少ない後半

 椎橋退場後は、我慢の時間と前に行く瞬間とが入り混じる時間だった。浦和の3-4-2-1は何となくなのだけれど、ポジショナルの解がなかなか見つからなかったかつてのベガルタのようにも見えた。それもあって、ボールを持たれ続け、自陣での時間があるけど、4-4-1と5-3-1で対抗。しかも、3バックには、前半のような前プレを1人少ない用にアレンジして、1トップとウィングの二度追いで実現していた。5バックにもなり、前プレからの二度追いも実行するスーパーマルチタスクウィングになるので、関口に代わって、左ウィングにタカチョーが交代で入るのは前前前世からの必然だったと思う。多分。ハモンが入って攻撃への意思表明もしつつ、やはり前から潰したかったのかなと感じる試合だった。それだけに、椎橋の退場は激痛だった。

考察

紙一重

 紙一重という言葉が浮かぶ試合に見えた。周到に準備された守備で浦和を苦しめた一方、その準備の継ぎ目を突かれた形で失点した。たしかにあそこまでいくと、個人コンセプトの守備が大事になるのかもしれないのだけれど、そこは仕方ない精度を上げるしかないし、究極のところは予測と集中の強度を上げるしかない。1人少なくなってからも、フォーメーションを変形させながらゼロに守り切ったのは大きかった。もちろん浦和としても、1点リードしていること、1人多いこと、ポジショナルアタックの解に悩みを抱えていることで守り切れたとも言える。それでも、春先の守備強度の低さを思うとよく立て直したなと感じる。

 

おわりに

再会の埼スタでスコアは変わらなかった。

サッカーは記録でしか残らない。起きてしまった過去を変えることはできない。

けれど歩みを止めない限り、ひとは変わり続けることができる。

ここからまたリスタート。次なる目的地は何処へ。

 

その翼、過去という呪縛を切り裂け、ベガルタ! 

 

参考文献

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【一難去ってまた一興】Jリーグ 第17節 ベガルタ仙台vsコンサドーレ札幌 (2-1)

はじめに

 では、いきましょうか!ホーム札幌戦のゲーム分析!止まらないユアスタ快進撃。苦しみぬいた先に辿り着いた世界で見えてきた光。リーグも前半戦が終わり、灼熱の夏、勝負の秋がやってくる。歩みは止めない。今回も、ゲーゲンプレスで振り返っていきます。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは同じく4-4-2。右ウィングには道渕が入っている。

 札幌はチャナティップ不在だがミシャのチームらしさは変わらない。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く) 

ボール保持時

5-4-1が守れていないところから前進

 ベガルタのビルドアップは、2CB+2CHのボックス型ビルドアップ。相手が1トップもあり、定石型のプラス1の形を採用。2CHが相手のCHのマーク役を引き受けピンどめ。2CBからSBへのボール移動が主だった。

 5-4-1攻略には、いくつか定石型がある。そもそも、使いたいスペースに人をはじめから置いているので人を動かせば勝手にスペースができるのが原理原則だ。人数には人数。オーバーロード(超密集)で過負荷をかければ、相手が数合わせで人を当ててくるので使いたい場所が芋づる式で相手くる。あとは、4-4-2攻略の原則を応用して、4の隙間を5レーンで攻略する。 

 今回のベガルタのポジショナルアタックは、この2つの合わせ技できた。SH脇のウィングレーンからハチ、永戸の前進。第3レイヤー・ハーフレーンからミチ、関口の攻撃。相手が守っていないところを攻める原則。これは札幌にも言えるのだけれど、シンプルに空いている場所から攻めている両者に見えた。噛み合わせ的には、札幌の3-4-2-1(4-1-5)に対して、ベガルタの4-4-2は分が悪いのだけれど、トムキャット可変で2-4-2-2になるのでお相子といったところか。多分。

図1

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ボール非保持時

迷える基準

 ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2のまま。札幌がミシャ式発動で、4-1-5可変に対しては、2トップがアンカーポジションを基準にブロックを築く。面倒だったのが札幌の2シャドー。相手の4に対して合わせで同数プレスをかければ、ウィング裏(特に道渕)、CH脇を狙って動かしてくる。そこに間髪入れずにパスを刺されると、相手の攻撃を顔面から受けてしまう。

図2

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守備の難問 一問一答

 特に左サイドの手当ては急務だった。札幌の右WBルーカス・フェルナンデスがウィングレーンを 一騎駆けすることもあれば、ハーフレーンにレーンチェンジしてローテーションアタックを見せたり、永戸もよく対応していたが、左CB福森から対角線の角行パスが飛び出してくるといよいよ難しくなってくる。そこで関口が5バック化で対応。対角線のパスが使いたい4-4-2の4脇をはじめから埋めてしまうレーン埋めで対抗した。

 また、右CBが前進してサイドのトライアングルを作られると、今度はCH、SB、ウィングで対抗。「人につく、人につく」と言われてきたが、決闘相手が見つかればこれほど強力なものはない。「走力、切替、球際」が守備のプレー原則なのだとすれば、あやふやだった状態から、試合中にアジャストさせるのは成長している気がする。気がするだけ。

図3

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図4

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ポジティブトランジション

狙い続けた背後

  いつものように縦志向が強く、2トップに当てるボールが多かったのだけれど、ここでも相手が守っていないところを攻める原則が発動。上がっているCBの裏、あるいは可変前のCB脇など、空けているところから攻めていく姿勢は、ポジトラ時も変わらなかった。 

考察

それでも生きている

 正直なところ、試合内容としてはかなり厳しかった。厳しかったというのは、キーである決闘をズラされたこと、もっとボールを持ちたかったことだ。さらにそこに、ロングキックでスライドが間に合う前に攻撃されるまずい展開だった。それでも、セットプレーと前プレによるビルドアップ妨害で2点取り勝った。納得のいかない敗北があるように、(相手にとって)納得のいかない勝利もあるということだ。少しでも勝利の方を積み重ねたい。

物語は始まったばかり

 連勝ですっかり最下位から脱出し、ボトムハーフトップでトップハーフへの挑戦権を握りしめている。でも、これがひとつの物語であれば、またひと山、ひと試練あってもおかしくない。夏を乗り越え、リーグ戦終盤に向かうにあたってまだまだこれからだ。

松下についてひとつ

 実は、松下の躍動について、僕は密に心配をしていた。彼のボール操作能力は、恐らく、チームでもトップクラスだ。彼にボールを預けておけば、多少無理な体勢でもキープしてくれるし、個人で奪い返してもくれる。ある意味、替えのきかない選手になっているが、それがむしろ彼の存在を無意識的に大きくして誰にも代えがたい選手になると、離脱した時のパワーダウンが心配だなと思っていた。でも、あまり心配しなくても良さそうだ。少なくとも、周りの選手もスタッフも、松下に依存しているわけでもないし、課題は全員で解決する姿勢と一人一人が負けてられない姿勢がよく出ている気がする。このまま、よい状態をチームも松下も維持してほしいなと思う。 

おわりに

  他チームでまた一人監督がチームを去った。誰もがこんな形で別れたくなかったはずだ。チームの解散、サポーターの悲鳴。それでも、僕たちは、勝って上にいく。勝って、勝って、負けるかもしれないけど、走り続けなければいけない。もう、深海に沈みたくはない。どんなに悪いサッカーでも、素晴らしいサッカーでも、今僕は勝ちたい。まだまだ、足りない。

 

「命においては、勝利か、さもなければ死しかない。」こう言ったのは、チェ・ゲバラだ。

 

参考文献

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【東京決戦】Jリーグ 第17節 FC東京vs横浜Fマリノス (4-2)

はじめに

 どうも、僕です。今回は、FC東京vsマリノスの首位決戦を見ていきます。リアルタイムで観戦直後に書き上げるので感想文になります。一つの試合として、首位攻防の注目試合として見ます。では、レッツゴー。

前半

 FC東京は、4-4-2。ビルドアップは2CB+2CHのボックス型。そこに高萩がCB間に降りる変化をつける。攻撃はダイレクト志向。2トップのディエゴの強さ、永井の速さを活かす形でマリノスのハイライン、SB裏およびCB脇を狙っていく。特に高萩がボールを持つと間髪入れず2トップにボールを入れる。2点目の形は、左サイドに流れた高萩から入れ替わった永井が最後のレイヤーを攻略した形だった。

 一方の守備も4-4-2。SHがハーフレーンを封鎖するタイプの圧縮型4-4-2でセットアップした。マリノスのSBがアラバロールしてきたことで、決闘重視のFC東京のディフェンスが中央に収縮したようにも感じられる。いずれにせよ、気の抜けた形で1失点しながらも、その後セットディフェンスで崩されたシーンはほぼなかった。ローポストを狙うマリノスの攻撃をよく封じ込めたように思える。

 さてマリノスマリノスは4-2-1-3系の4-3-3。天野がCHに入って、ビルドアップのフォローと前線の数増役になる攻撃的な主張。ビルドアップは、2CB+2CHのボックス型が基本型だが、CHがCB間に降りる→降りたスペースにSBがアラバロールすることで、M字型、W字型のようにも見えた。加えて、マルコスがフリーロールなのでビルドアップにひと手間加えていた。

 基本的には、マリノスがボールを持つ時間も場所も多かったのだけれど、最初のレイヤー・第2レイヤーで2トップと2CHに負荷をかける形が多かった。ただし、FC東京の圧縮を招いているようにも見えたし、誰につくかは決めつつも、入って来た相手と決闘するFC東京に対して、有効かどうかは難しいところだった。もっと、ウィングレーンにシンプルにボールを出す、あるいはそこから第3レイヤーにボール移動させる(レイヤースキップ)ことでFC東京DF4枚との対峙にもっていきたいところだ。先制点は見事だった。ウィングレーンの1レーンアタックを完結させて、最後ボックス内に飛び込んでくる形は見事だった。もっと、相手ゴール前でボールを動かすシーンが増えればチャンスになりそうだ。

後半

 両チームとも変化は無し。戦い方も、前半の継続で進んだ形だ。得点を重ねたのは、FC東京。高萩からのロングキック作戦が後半も猛威を振るった形だ。4点目も永井からオリヴェイラへと、基本的には2人称の崩しがFC東京の攻撃パターンだ。当然シンプルなのだけれど、マリノスのファイナルラインが柔らかすぎるのか、あるいは枚数が足りないのかでそれでも崩した。得点後、FC東京の4-4-2はさらに圧縮成分が増して、4-6-0のような形で相手を引き込んで、甘いパスをカットしてカウンターを繰り出していた。首位のチームらしい、勝利に徹した良いチームだ。

 マリノスは、SB位置に少し手を入れた。左SBティーラトンはウィングロールで高い位置、左ウィングの遠藤がハーフレーンにレーンチェンジ。一方の右SB和田はそのままハーフレーンに。場合によっては、ボックス内での数増役になる。左右非対称で攻撃を進めた。圧縮型4-4-2のFC東京に対して、空いているウィングレーンから攻める左サイドと仕留める右サイドといったところか。ただ、ネガティブトランジションで、和田の後方、というよりCB脇をよく使われてしまったので、プラスマイナスの収支計算は正直分からない。相手ボックス付近に張りつけて攻撃もできていたのだけれど、最終的には、ファーからのクロスで2点目を加えたの時間帯が80分ごろ。ネガティブトランジション面での圧倒とカウンターを食らっても最後の部分でやらせないなど、ポゼッション型ポジショナルチームに必要な、「ウノゼロ」ゲームを今後構築していきたいところだ。

おわりに

 お互い自分たちの戦い方を貫き通した良い試合でした。細かなミスだったりもありましたけれど、長い道のりのなかで、勝ったり負けたりを繰り返すなかで、それも減っていくのかなと。勝利が絶対に欲しいなか、非常にコントラストがはっきりとしたゲームだったのかなと思います。また、秋ごろどんな状況で再び戦うことになるのか楽しみです。では、また。

 

【Revolution】Jリーグ 第16節 ベガルタ仙台vsFC東京 (2-0)

はじめに

 では、いきましょうか!ホーム東京戦のゲーム分析!帰って来た僕たちのシアターオブドリーム。負けないユアスタ劇場。迎え撃つは、首位、FC東京。過去との決別。自分たちらしさの呪縛。すべては、この日のために。与えられた運命に気づいた先に見えたものとは。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタも東京も4-4-2。どちらも似た者同士、がっちり噛み合わさった。ベガルタは、右ウィングに吉尾が入っている。東京は闘い方継続で、久保の代わりをどうするのか考えていく必要がある。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

ポジショナルは生きている

 ベガルタのビルドアップは、ボックス型。2CB+2CH。時折、椎橋が降りることで 、逆丁字型にもなっていた。相手の2トップに対して、2CBあるいは、2トップ背後の第2レイヤーのアンカーポジションにポジショニングすることで、相手が守っているところいないところを嵌めて外してが可能になる。変形時の違和感もない。

 さて、ポジショナルアタック。トランジションの火花が散るなか、息継ぎの時間として、というよりボールが持てるなら、時間があるならきちんとポジショナルに攻める形を見せた。特に、63分に道渕が交代で入ってから加速する。道渕の強さは、トムキャットでハーフレーンもウィングレーンもプレーできること、前にも後ろにもポジションをとっても苦にしない運ぶドリブルを持っている。そして、オフボールのランニングで、スペースクリエイト・ユーズを繰り返す。

 もう一つ見逃せないユニットが2トップ。長沢も、石原先生も、ダイナミックにサイドに張るわけでもなく、相手DFの間に立ったり開けたスペースに入ったり、中央に残ったりなど、相手ブロックの間のややこしいところでも問題なさそうに見えた。ハモン、ジャメのダイナミックな展開(オープンスペースへのラン)も魅力的なのだけれど、よりウィングとSBのアウターラップ、インナーラップ、カットイン、カットアウトの合わせ技が必要になるのでチーム戦術の難易度が上がる。今は、攻守表裏一体、というよりトランジションの束の結束力重視なので、物理的な距離が近い方がやりやすいというのもある気がする。気がするだけ。

 関口のゴールシーンも、シマオがドライブ(運ぶドリブル)で上がって、椎橋が下がってカウンター管理。ハチがシマオに寄って、道渕が縦にランニングするダブルパンチ。道渕が空けたスペースに石原先生が入ってくることでCBをおびき出し、中央で長沢、関口が2on2を創り出すことができた。

 東京との決定的な違いは、ポジショナルな攻撃の部分だった。これは松本戦にも言えるのだけれど、4局面のうち、ボールを持っている時間のクォリティで差をつけた感がある。ボールを動かすことで、相手と味方の立ち位置を調整して前進させ、最後は相手の戦術思考をフリーズさせる。激しさと冷徹さの同居。情熱と論理の表裏。きわめてシンプルに、難しいことはせずともボールは前に進みゴールが生まれる。ポジショナルは生きている。

ネガティブトランジション

光速ゲーゲンプレス

 ベガルタのゲーゲンプレスは、エリア制圧型。抜け出されるとオープンスペースで「カウンターラリーゲーム」が始まる。52分ごろは、まさにそのようなシーン が多く、トランジション世界とは反転した世界でのミラーゲームになっていた。

 ただ、そのなかでも、選手個人で独力で奪い返すシーンもあり、決して一時期のようなアリバイゲーゲンではなくなっていた。戦う理由が見つかった。

ボール非保持時

圧倒するシマオ・マテ

 ベガルタのセットディフェンスは、4-4-2のフラット型。2トップはわりと相手CBにもプレスをかけるシーンが多かったように見えた。また、東京が3バックビルドアップの場合は、吉尾が高い位置をとって擬似3トップで相手を牽制した。ただ、吉尾の背後のスペースを高萩や東に使われていたので、どこまで有効だったのかは少し分からなかった。

 この吉尾の高い位置取り。僕は、2つの策のためだと考えている。ひとつは、シマオへの誘導。 この試合、東京のトップは、個人能力に優れた2トップ。D・オリヴェイラは、屈強なFWで決定力もある。ボールがクリーンに前進すれば、必ず彼にボールが入ると考え、シマオをオリヴェイラ担当にする。シマオはこれを全うし、見事封殺した。ソファ幅を守るのだけれど、誰が来るか分かっていれば守れるし、誰にも座らせない守備だ。もうひとつは、吉尾のトランジションの斬り合いで勝てれば、抑止力になる。ただしこちらはあまりうまくいかなかったようだった。もしかしたら、吉尾の個人判断かもしれないし、違うかもしれない。こればかりは、僕の考えということにしておく。しておくだけ。

ポジティブトランジション

ピッチ各所で起きるトランジショントランジションの火花に突っ込め。

  奪ったら縦、縦志向は強かった。これは、4-4-2のポジティブトランジションによく見られる傾向だ。まずは、2トップ。ここにボールを前進させて、深さを取ってから、陣地回復を図る。それがポゼッションなのか、ゲーゲンプレスなのか、いずれにせよまずは相手が守っていないところから攻めて、自分たちが確保するエリアを増やす。 

考察

攻守表裏一体

 今のチームにおいて、ボールを持っていない時、あるいはボールを失った時に力を入れいているなかで、これまで取り組んできたボールを持っている時の質がよく出た試合だったと思う。ボールを持っていないとき命!も大事なのだけれど、それを止められ死んでしまったらよくない。死んだら終わりだから。そういう意味で、取り組んできたことがついに収束されていく感がある。松本も東京も、逆側からの取り組み、それ一本の取り組みをやっているチームと当たるなかで、勝利するなかで、ベガルタはさらにその先を歩いていて、実は目指していたものの背中が見えてきたのではないか。決して遠回りなんてない。すべては運命。それに気づくのが早いか、遅いか、それしかない。そして、気づいた。

 

おわりに

 彷徨い続けた果て。ボールを持ちたくて、立ち位置を取りたくて。戦う理由を探して。最後は個人コンセプトのダークサイドがファントムメナスのように近づいてきて。気づけば、盤面をひっくり返したような火花が咲く決闘の嵐。

 これが今年のベガルタ。支離滅裂。分裂した性格。それでも、信じて尽くして、道は自ずと拓けた。というより、ようやく気づいた。自分たちが何者で、何のために戦うのか。ユアスタという約束の場所に、これまでの苦悩も、痛みも、喜びも全てが集まり、いまのベガルタを創り上げている。革命前夜は、もう明けた。 

 

「常に自分らしくし、自分を表現し、自分を信じろ。どこかの成功者のお手本なんてマネするな。」こう言ったのは、ブルース・リーだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

 

【ボールの主は】Jリーグ 第19節 愛媛FCvs京都サンガF.C. (0-2)

はじめに

 どうも僕です。今回は、愛媛vs京都の試合を観ていきます。普段見慣れているチームではないこと、リアルタイムで一度しか観ていないこともあるので、ご承知おきをお願いします。では、レッツゴー。

前半

 京都は4-3-3。右SBに福岡、アンカーには庄司が入る。ボール保持時は、2-3-2-3で非保持時には4-5-1の基本型。ビルドアップでは、両SBはオリジナルのポジションを取って、アンカーの庄司は時折CB間に降りるアンカー落としを見せるが、基本はアンカーポジションをキープ。CBがボールを持っている時、SBがフォローで近寄り、ウィングも降りてくるので自陣付近ではビルドアップにかかわる人数は多かった。ミドルサードまでボールを運べば、2-3-2-3がピッチを幅広く立つ。

 愛媛は3-4-2-1。シャドーに神谷が帰ってきている。保持時に3-2-5、非保持時に5-4-1になるポジショナル入門フォーメーション。ボールは持ちたいが相手が京都のため、非保持のリトリート、ビルドアップ妨害からのトランジション勝負が狙いの様子。特に、両SHが京都SBにボールが入ると鋭くスライドして前を向かせない。その前提として、1トップがアンカーを消し込みつつ、CBにボールを持たせるので、ボール方向としてはCBからSBにボールが移る間にSHのプレスとCBにボールが戻った際に1トップが連動してプレスをかける。京都の大宮戦をよく研究していたのかなと思う。形は5-3-2だったのだけれど、敵陣でアンカーを消しつつボールサイドに閉じ込めて窒息させる策だ。

 どちらも、サイドチェンジなど、ロングキックを使って、ワイドに開く選手をよく使っていた。京都はファイナルサードで密集攻撃をかけるも、愛媛も数合わせしてくるので、かなり難しくなっていた。この辺りは、愛媛の狙い通りだと思う。京都は、SB、ウィングが降りて、インテリオールが裏抜けするベクトル変換の動きを見せていた。愛媛はこの動きに対して、ハーフディフェンダーがおびき出されてしまうのだけれど、リトリート速度(ネガティブトランジション)を上げて対応したい。

 後半

 後半入りも同じ形。京都は少しずつ、愛媛のビルドアップ妨害を剥がし始める。キーになったのは、「ボールを運ぶ」こと。2タッチ以内のパスで誘き寄せて、第3レイヤーへのロブパスで擬似カウンターのような形でボールを前進させる。また、CBの本多、安藤がボールを持って上がるドライブ(運ぶドリブル)で敵陣にボールを近づけていった。愛媛のプレス基準、リトリート守備に選択を迫る形で、愛媛をハーフコートに閉じ込める時間を長くした。また、5-4-1の4の間、ハーフレーンに刺すパスを通すか数を増やすことで、SBをプレッシャーから解放させたり、あえて味方SBに相手を引き連れて寄ってから相手の背中が作ったスペースを使うなど、細部にもボールを前に進める術を持っていた印象だ。

 愛媛も途中から3-1-4-2に変更することで、前輪駆動型でボールを前進させたかったところだったが、3トップのプレスを顔面から受ける形で結果として、ビルドアップが窒息気味になってしまった。ここは難しいところで、京都の「1人で2人を守る」をうまくやらせてしまった感はある。

 京都は、57分のFK、60分の一美による連続ゴールで結果としても現れた。2010スペイン代表のように、ボールを長く保持して、決勝点はセットプレー、最終スコアはウノゼロのような、ポジショナル型の系譜を受け継ぐような形で最後は勝利を掴んだ。

 おわりに

 非常に見ごたえのある試合でした。お互いに相手の出方を見ながら、よく観察しながら、ボールを動かしたり相手を動かしていた非常に能動的な両者だったような気がします。できる限り敵陣でプレーしたいという狙いも、両者明確にあったのかなと感じます。あとは両チームともGKがボールに関与するシーンも多く、かなり高いレベルでやっている印象です。少しずつではあると思いますが、今の取り組みを継続して基礎作りをしてきけば、どちらも良いチームに仕上がりそうな、良い予感を感じました。では、また。

【拝啓、25のベガルタへ】Jリーグ 第15節 松本山雅FCvsベガルタ仙台 (0-1)

はじめに

 さあ、いきましょうか!アウェイ松本戦のゲーム分析!鬼門のアウェイ。相手は、反町監督率いる松本山雅。難しくない試合なんてない。まだまだ戦いは続くんだとばかりに、雨のアルウィンに乗り込んだベガルタ仙台。アウェイ7連敗の果てに目にしたものとは。では、レッツゴー。

目次

オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは変わらず4-4-2。トップに石原先生が帰って来た。毎試合出るメンバーがベストメンバーといったところか。

 松本はいわゆるソリボール。でも、前田がいない。杉本太郎が入ることで、ボールポゼッション味を加えたいところか。

概念・理論、分析フレームワーク

  • ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」、「5レーン&4レイヤー理論」を用いて分析。
  • 理由は、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取る」がプレー原則のため。
  • 分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用。
  • なお、本ブログにおいては、攻撃側・守備側の呼称を採用せず、ボール保持時・非保持時でのスケールを採用。

 (文章の伝わりやすさの側面から、便宜的に、攻撃・守備を使用する場合は除く)

 

ボール保持時

トムキャットと圧縮形5-4-1の噛み合わせ

 ベガルタのビルドアップは、いつものようにボックス型ビルドアップ。2CB+2CHがボックスを作ってボール保持の基盤を作る。この型は、わりと維持されていたように思える。相手が1トップでCHやSHが擬似2トップになるシーンもあまりなかったので、ベガルタにとっては、これが最適手といったところか。+1の法則。

 合わせのポジショナルアタックは、これもいつもの可変ウィングトムキャット。両ウィングがハーフレーンにレーンチェンジして、相手守備者に対して、焦点のプレーで選択を迫る。ただし、2CBに時間と場所があれば、どこかでしわ寄せがくる。それが松本陣内になる。ボックス前に5-4の城壁を築き、しかも中央を締める形で、トムキャットに合わせる形でWBも絞ってきた。こうなると、焦点のプレーで使いたいハーフレーン・第3レイヤーが単なる窒息ポイントになる。ただ、良いか悪いか分からないのだけれど、CBがシマオと平岡だったので、「刺してはカウンター」を繰り返すようなことにはならなかった。 ここで、ベガルタは、立ち位置の変化と前進ポイントを見つける。

図1

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図2

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図3

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左右非対称の両翼とダブルパンチの右サイド

 25分ごろから、関口が本来のウィングポジションでウィングロールに。試合後監督コメントもあったように、チームとしての指示だった様子。相手右WBの田中隼磨を監視して、中央の圧縮濃度を下げる狙い。一方の右サイド。こちらは可変ウィングを継続。ミチのオフボールの動き、つまりは可変の動きの良さと焦点のプレーにより、蜂須賀が前進できる場所を提供。ミチとハチとでベクトルが異なる「ダブルパンチ」が発動。相手SHを迷わせ、出足を遅らせることに成功。少しずつだけれど、蜂須賀と道渕の場所からボールを前進させることができた。また、石原先生のカットアウトもあり、相手CBもサイドに引っ張り出すことに。死んだものと思われていた右サイドが完全に息を吹き返した。

図4

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図5

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ボール非保持時

圧勝するシマオ・マテ

 完勝だった。シマオは相手FWのペレイラとの決闘に勝利し続け、見事払いのけた。常田、ジョンヤにCBが変わったころからそうだったのだけれど、今の4-4-2における重要ポジションは、翼を支えるCBと頂点のFWになる。ここで勝ち続けることで相手に優位を与えないことがポジショナルアタックの必要条件になっている。ある意味、松本が求めている戦い方のようにも思える。何かこの辺りから、ピッチの現象が両者入り混じるような気もするし、そうじゃない気もした。多分。

松本ポジショナルとベガルタ4-4-2ディフェンス

 この試合の松本には、ほかに闘う相手がいた。過去の自分たちだ。いわゆるソリボールと言われるスタイルは、走力と決闘、セットプレーで何が何でも勝利をもぎ取るスタイルだ。その走力である前田がいない、FWが競り勝てない、セットプレーが無いなか、どうやって勝ち点をもぎ取るのか。これが彼らが闘う相手だったように見えた。中断期間中にはその辺りに時間を割いたようなコメントも聞かれたし、この試合は、対ベガルタより、対自分たちに寄ってしまったような、そんな気がした。

 「お手軽にポジショナルを体験したいなら3-4-2-1を選べ!」とポジショナル初心者本に書いていたわけではないのだけれど、ベガルタも採用していたベールクト型3-4-2-1。4-4-2ディフェンスの空いているスペースをキレイに突くことができるフォーメーションだ。この試合でも、杉本太郎がハーフレーン・第3レイヤーでポジショニングして、SHとSBの注目を集めて、WBをフリーにさせたシーンもあった。そう意味では、選手と戦術とのマッチングは可能性としてはあるのかもしれない。可能性としては。

 けれど、我々が良く知るところの3バックが放置されると途端にボールと立ち位置が停滞した。前線7人で10人の4-4-2ディフェンスを破るのは、並大抵のことではできない。しかも、CHが「気を利かせて」CB間に降りるナチュラルボーンミシャ式によって、さらに空洞化が進む。ご存知、中盤のドーナッツ化現象。関東平野もビックリだ。

昨日の僕が明日の僕が目の前を通り過ぎていく

 そんなこんなで、ベガルタにとっても、非常に感慨深いというか(選手は戦っているのでそうではないのだけれど)、自分たちの過去や苦しみ、これまで歩んできた道、そして自分たちがこれから歩いていくだろう道や姿が未来がピッチを飛び交うことに。そして、勝ったのだ。 

図6

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考察

見えてきた戦い方と勝利

 色んなことを経験して、そのエッセンスが随所にみられるようになったベガルタ。ある時は決闘勝負、ある時はポジショナルにと、本当に状況に合わせて引き出しを高速で開けていく作業を淡々と行っている。理想が何かは分からないのだけれど、少なくとも、目の前の現実を理想的な状態に持っていこうという意欲と行動が見られるゲームだった。見事にシックスポインターをものにした。

おわりに

  天皇杯決勝から続いた呪縛を見た。相手ではなく自分たちと闘い、壁から逃げるために味方を助け、本質から遠ざかっていく。僕たちにとっては、過去だ。これは、僕たちが過去の自分たちと決別するために用意された場所だった。僕たちが言えることは、松本にも、僕たちが体験した試練が待っているはず。それを乗り越えられると信じ続けるよう願うばかりだ。

 松本のスタイルは、今僕たちが目指す一部分に近いかもしれない。松本にとっても、僕たちの未来は過去なのかもしれない。青春時代の荒波も、大人になった時の荒波も、同じ荒波だ。だからこそ、過去の自分は未来の自分に希望を、未来の自分は過去の自分に願いを託すのかもしれない。アウェイ連敗を抜けた先に見えた世界。夜のアルウィンに降り続いた雨がお互いの時間を溶け合わせてしまうような、不思議な時間だった。

 

 「待ってて、あたしきっと行くから!未来で待ってて!」こう言ったのは、ソフィー・ハッターだ。

 

参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

footballhack.jp

www.footballista.jp

sendaisiro.hatenablog.com

東邦出版 ONLINE STORE:書籍情報/ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

sendaisiro.hatenablog.com