蹴球仙術

せんだいしろーによるサッカー戦術ブログ。ベガルタ仙台とともに。

Jリーグ 第28節 横浜F・マリノスvsベガルタ仙台(5-2)「ここいらで一つ踊ってみようぜ。夜が明けるまで転がってこうぜ」

■はじめに

 さ、いきましょうか横浜戦のゲーム分析。完敗だったな、言葉は不要か。こういう日はさっと振り返って、ビールでも飲んでマインドチェンジするに限ります。早速、欧州最速のカウンターで分析していきます。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、野津田復帰以来の3-4-2-1を継続。ここまでくると、相手がどんなチームだろうが必殺フォーメーションで仕留めるつもりなのか、電話番号として扱っているのか確認したくなる。3バック、3センター、2トップは、もうやらないのか。それとも、相手の立ち位置でこちらの位置を変えるまでの椅子にすぎないのか。狙いは、天皇杯で機能したショートトランジションによるカウンター攻撃だ。

 一方、横浜はポステコ式ポジショナルアタック隊を送り込んできた。トップの和製アンリ伊藤がケガで離脱しウーゴがスタメンに。スーパーサブがスタメンになった形だが、やることはあまり変わらなそう。ウィングのいない偽SBなぞ怖くないと思っていたが、ホームで2-8でボコボコにされるわ、仲川、遠藤は強力なウィンガーになるわですっかり怖いチームに。そして長崎同様、なぜボトムハーフにいるんだ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃

 ベガルタの大方針は、ミドルゾーン、ローゾーンに引き込んでポジティブトランジション時のショートトランジションで決着をつけるため、ビルドアップ、ポジショナルな攻撃によるチャンスクリエイトはあまり多くなかった。また、横浜のウーゴを中心としたカバーシャドウでボールホルダーへのプレッシャー、パスコース限定でロングを「蹴らせられる」展開となり、セカンド回収、ポゼッション維持でボール保持が難しかった。

 横浜は、ポステコグルー監督が「ヴィエイラが最初の守備のスイッチを入れてくれて、そこから皆がしっかり連動したプレスをかけてくれた」と試合後コメントしているように、連動してビルドアップ妨害を図ることで、ボール非保持時も攻撃をかけていたような状態だった。

 4分、左サイド、前プレを受けているがロンドで回避。1stラインを突破。

 11分、ダン+板倉、大岩、平岡でビルドアップ。ただ、横浜のプレッシャーを受け、結果としてはボールロストしている。

 21分、OGによる同点ゴールのシーン。アンカー脇を狙ったアベタク、チャンネルランの野津田によるポジショナルアタックの結果だった。

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*失点直後のベガルタ。早速セットオフェンスに。横浜は4-5-1ディフェンス。エントレ(ライン間)で奥埜、アベタク。

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*野津田にボールがつく。横浜はアンカーがライン間埋め、センターが野津田、右WGがアベタクへのパスコース封じと平岡へのプレス準備。

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*再び平岡へ。走る野津田。待ち構えるアベタク。開くチャンネル。さあ、用意はいいか。

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*アベタクに縦パスがつく。横浜の2枚を無力化した。追い越す野津田、チャンネルランだ。右SBはなぜか関口のマークにベッタリだ。そのアングルから関口に出るとでも思っているのか。出たとしてもどんなリスクがあるのか。チャンネルはがら空きだ。ちなみに、右ウィングレーンでアイソレーション待機している蜂須賀もいる。

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*アベタクカットイン。走り続ける野津田とゴール前への走り込む奥埜。向こうには蜂須賀。アベタクの選択は。

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*相手にとって最も危険な選択、ゴール前の奥埜へ。それでも締まらないチャンネル。かえってこない左WG。チャンスだ!

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*すんでのところでスライディングで防がれたが、走り続けたご褒美を野津田へ。結果、オウンゴールになったが、同点となる。

 25分、今度も前プレをロンドで回避。準備期間にこれを徹底しておけば結果も変わったのかもしれない。

 30分、ダンから、大岩、平岡、富田でトライアングルビルドアップ。ただ、ポゼッション確立より縦志向が強い。

 40分、ダンからのグラウンダーパスでプレス包囲網を突破。

 

(2)守備

 ベガルタの守備は、ゾーンのなかにも人につく意識が強かったように思える。特に平岡は、ハーフスペースに入ってくる、山中、天野を警戒、迎撃していた。となると平岡が空けた場所が空くが本当はゾーンディフェンスにおける鎖理論でスライドなり、カバーなりをしなければならない。それができていたかと言われれば、ちょっと分からない。

 横浜は天野がレーンチェンジしたり、WGがフロントドアのような形でオフボールでハーフスペースに侵入したりで対応。それ以上の対抗型がベガルタから見られないこともあり、一方的に殴り続ける展開に。常に先手先手を取り続けた。

*概念図

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 14分、松原が右ウィングレーンに。仲川がハーフスペースへチャンネルラン。結果、ブロックを下げられる展開に。

 17分、マリノスの右ハーフスペースでのスクエア形成に対して、平岡迎撃、奥埜・富田のスライドで、砂時計のような形でブロッキング。ハーフスペースへの侵入を阻止。

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 19分、天野のシュートシーン。アベタクが大外の松原を警戒しているため、最終的な局面で6バック状態に。バイタル付近を空けミドルシュートを許している。

 20分、山中のスーパーゴール。

 35分、ダンからのゴールキック。今日は珍しくロングを蹴る展開に。ただ、回収できず前掛かりのところを仲川に中央をドリブル突破を許し2点目。ゴールキックからの攻撃を準備していたのか、分からなかった。

 

(3)ポジティブトランジション

 狙いはポジトラ。天皇杯の再現だ。ただ、そもそもカウンターの予防ポジションである偽SBを採用するチームに対して、カウンター攻撃とは、よほどの準備をしないといけない。でもこのゲームでは、蜂須賀がコメントしているように、準備していたけれど「出てこなかった」ようだ。なぜ。なぜやらなかったのか。ひとつは、今日の横浜は4-3-3だったし、ベガルタのスタメンもポジショナルなメンバーが選ばれている。あとは本当に狙ってやっていたのか、あまりそこは明確に読み取れなかった。

*概念図(=というより理想図)

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 12分、狙い通り、カウンターからアベタクのクロスまで。ただ形になっていたのはこのくらいか。

 

■後半

(1)攻撃

 雨、ピッチ、前プレの影響か、ダンはゴールキック時、かなりの頻度でロングキックを蹴っていた。ただ、タッチラインを切ったり、ボールを回収できなかったりで、有効かといえばそうではなさそうだった。おそらく狙ってやっているのだと思うが、4失点目のミスより、ボディブローのように痛かった。

 49分、ダン、タッチライン際へのフィードキックだがミス。 

 58分、バイタルのアベタクにボールがつく。この辺りの時間帯ではかなりポジショナルな攻撃ができていた。ここで1点取っておきたかった。

 74分、アベタク、ボックス内に侵入。その前に奥埜から蜂須賀への展開、スクエア形成など、ポジショナルアタックを表現。

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*右から左、左から中央の奥埜へとボールが回って来たシーン。横浜の陣形もちょっとく崩れている。

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*セントラルレーンの奥埜から、右ウィングレーンの蜂須賀へ。

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*山中と一対一に。ジャメがフォロー。ドリブル方向を変える蜂須賀。

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*右ハーフスペースを上がって来た平岡へ。アベタク、ジャメ、蜂須賀でスクエア。アベタク、野津田、奥埜、平岡でスクエア。ハーフスペース付近を立ち位置支配している。

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*ゴールに最も近いアベタクへ。マーカーを背負い、前からはプレッシャーを受ける。でも呼応してジャメが背後へ走り出す。

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*デュエル開始。横浜もアベタクを中心にエリア支配。デュエルの行方は。

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*見事勝利。そのままの勢いでチャンネルアタック。

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*2枚を引き付けてクロス。でも時間と点差から、ボックス内は石原とジャメだけ。でも横浜も2枚だ。どういうことなの。ただ、アベタクが強引にいっただけで、ほかの選手と共通理解が図られていないのかもしれない。簡単に言えば、あいつが一人でがんばっただけ。エゴとみるか、秩序のなかのカオスと見るか。こういう強引さも必要なのだけれど。

 

(2)守備

 明確に、ハーフディフェンダーは、ハーフスペース迎撃が狙いだった。85分の5失点目のシーンは、平岡、永戸が同時迎撃したにもかかわらず、WBが絞らなかったことで生まれた。この形、WBがきちんと絞って、2枚のハーフディフェンダーがそのまま2センターになって攻撃に移行できれば、ビルドアップの新機軸になりそうな予感がした。

*概念図

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 50分、仲川のゴール。関口が松原を気にしてどっちつかずマークになった結果フリーでシュートを許した。個人の判断もあるが、ボックス内へのクロスは中締め!が徹底されていれば防げた失点。

 53分、前線3-2が五角形になる五稜郭ディフェンスだが、中央の山中に簡単にパスが通る。しかも圧縮できない。5バック+2と3で守るチームとしては、かなり痛い形。

 65分、蜂須賀の縦スライドによる迎撃守備で、相手ボールを自陣に帰すことに成功。この形は継続されていてよかった。

 77分、ダンの痛恨のミスで4失点目。

 85分、上記図の通り、永戸、平岡がダブル迎撃した結果、大岩一人に。5失点目。

 

(3)ポジティブトランジション

 後半、なかなかスピードアップできなかったが、ポジトラで左に展開してから、右ウィングレーンでアイソレーションの蜂須賀につくシーンが増えていった。再現性もあった。せめて前半から表現したかった。

 58分、左サイドにボールがつき、横浜のガラガラの中盤を経由して右ウィングレーンの蜂須賀へ。最後は蜂須賀のクロス。

 65分、蜂須賀のカットインシュート。これも左につけて、アイソレーションの蜂須賀への展開だ。

 

■考察

(1)ロンド、そして新型ディフェンス

 4分、25分のロンドによる前プレ回避は見事だった。できるなら試合を通じて、これを対抗策として採用してほしかった。これなら、ロングキックも映えるというものだ。また、平岡のハーフスペース迎撃は新鮮さがあった。前で潰せばラインなんてあってないようなものだと言ったのは奇人ビエルサだけれど、後ろのカバーを精緻化すれば標準装備にできそうだ。そこから、攻撃時のビルドアップに移行もできる。

 

(2)メタゲームでの勝負

 2-8、2-5。これはサッカーのスコアであって、3ラン、3ポイントが入る野球やバスケではない。明らかに何かがおかしいのであって、横浜に対しては、特別の対策が必要になるということだ。それがストップ・ザ・バスなのか、オールコートマンツーマンなのかは分からないけれど、少なくとも、「引き込んでカウンター」レベルの対策ではポステコ軍団にボコボコにされるということだ。彼らの前提を崩す策を見出さないと厳しい。そこまでやる必要があるか?ここまでやられたのだ。やる必要はある。

 

(3)どうせだったら遠吠えだっていいだろう

 ちょっとトップ5、トップ4の背中から離れかかってしまっている。でも、ハモンもいる、ディフェンスの迎撃守備もある、ロンドもある。まだ挑戦権だってあるはずだ。スコア?そう、2-5だ。でもやれる、やれる力を持ってる。あとは表現していくだけだ。

 

■おわりに

 残念な結果に終わってしまったベガルタ。結果を求めた策がハマらず、結果も成長も手放してしまった。-絶望だ、何もかも終わりだ-とはいかない。それでもサッカーは続いていく。試合は残されている。リベンジできなかった、何も出来なかったと悲観的になるのはオフシーズンにもできることだ。勝つためにどうするか、それを考えなければいけない。怒りも、悔しさも、雨の日の三ツ沢に置いてきた。ビールも苦かった。勝つ阿呆がいれば、負ける阿呆がいて、それを端から見て一喜一憂する阿呆もいる。なら、最後まで踊ってみようじゃないか。まだ、負けていない。

 

 「絶望をはね返す勇気を持て」こう言ったのは、ブライト・ノアだ。

 

■参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 

Jリーグ 第27節 V・ファーレン長崎vsベガルタ仙台(1-0)「敗戦を飛び越えた先にある未来」

■はじめに

 さて今回もゲーム分析いきましょうか!長崎戦!最近のJリーグは、ほんのついさっきまで残留争いしていたチームがもう抜け出していたり、上位もそうであって、少しも油断できないの。そんな意味で我らベガルタも長崎も、重要な一戦になりそうだ。僕はというと、リアルな暮らしがリアルガチでリアルリアルしているせいで、DAZNを止めたりスロー再生したり、記事を切って書いてがてんやわんやに。必死でゲーゲンプレスをかけていきました。ちょっと読みづらいかもです。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、長崎も同じフォーメーションが予想されるなか3-4-2-1を採用。質的優位性で優位に立つのか、はたまた立ち位置で回避するのか、少なくとも渡邉ベガルタは、何かを仕込んでいるはず。ミラーだからこそ、小さなズレから大きなズレを生み出したい。

 対するジャパネット長崎。ゼイワン残留を目の前の一勝をひたむきに目指すスタイルは、3-4-2-1によるハードワーク。そこに高木監督が策を授け、ロジックでも漏れはない。あとは信じて戦う。迷いがないひとは強い。 

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃

 ベガルタの攻撃は、ビルドアップで長崎の同数前プレスをどう回避するか意図をもって準備されていた。具体的には、富田がディフェンスラインに入り4バックに変形し、長崎3トップの守備の基準点を外してきた。同時に、奥埜-野津田でアンカーポジションを担う、アベタク、石原でハーフスペースを狙うことで、ポジショナルな攻撃へと移行していった。30分ごろからは、長崎がミドルゾーン、ローゾーンのリトリートに変えてきたため、よりポジショナルアタック映えな展開になった。

 長崎は、前節ベガルタが東京にそうしたように、5-2-3でハーフスペースの入口を封鎖する狙いだった。それが4バックによってズラされ、ちょっとどうしようか考える時間があった。ただ、30分ごろから5-3-2、5-4-1への変形で前プレを止めることで落ち着きを取り戻していった。「台本と違うじゃないか!」とか「相手は関係ない。自分たちのサッカーをするだけ」とかとかとかにならず、相手を観察して、自分たちに少しでも有利な方にもっていこうとした長崎。なぜ、最下位なんだ。

*概念図

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  3分、3バックビルドアップのベガルタに対して、3トップの同数プレスでビルドアップ妨害を図った長崎。平岡が息を吐くようにレーンチェンジ+ラダーアップで自ら出口役となる。

 8分、長崎の初手を確認したベガルタ。すぐさま板倉、大岩、富田、平岡で4バックに変形しビルドアップ。やはり対抗型を仕込んできた。

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*ちなみにアンカーポジションには野津田。野津田は、奥埜と頻繁にポジションを入れ替えていた。

  今度は、12分。4バックビルドアップ部隊+アンカー奥埜の形。ここから文字通り、人とボールを動かして、一度、ネガトラを挟んで板倉のシュートまで繋げている。

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*初手、ディフェンスラインの富田から。アンカーには奥埜。長崎はちょっと誰が見るのか分からなくなっている。

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*ドライブした富田、右ウィングレーンの平岡へ展開。ちなみに、長崎の5-4ブロック間には、左ハーフスペースから右ハーフスペースまで野津田、アベタク、石原がいる。石原は偽9番?

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*リターンをもらった富田。前方で突っ立っている石原。石原が空けたスペースに走り込む奥埜。奥埜が空けたスペースに野津田が降りてくる。アベタクはDF裏を取るランニング。ここまでベクトルが異なると守備側は大混乱だ。受け渡しだ!違うスペースを埋めろ!そうじゃないケアしろ!とかとかとか。ちなみに富田はノープレッシャーだ。

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*そんな中、石原にボールがつく。釘づく視線。ボールウォッチャーというやつか。石原は富田にそのままリターン。ベガルタの各選手も適切な配置につく準備をする。

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*富田は平岡へ。そうこうしているうちに、蜂須賀がハーフスペースに。アベタクと2トップのような形に。石原、奥埜、野津田でトライアングル。富田、野津田、石原、平岡でスクエア、奥埜、アベタク、蜂須賀、石原でスクエア。これを右ハーフスペースから右ウィングレーンで展開。オーバーロード発動。対をなすように関口、板倉、アイソレーション幾何学的で美しい。

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*で、結局富田にボールが戻る。両者、ポジションリセット。

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*さて今度は大岩から。関口にはぴったりマーカーが。奥埜は5-4-1の痛点、シャドーとCHの間に。板倉はウィングレーンでフリーな状態だ。

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*ボールは板倉へ。長崎は若干、3-2がペンタゴンというか、五稜郭というか、五角形のような形。WBも関口にプレッシャーをかけるべく関口に追従。

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*板倉はそのままドライブ。関口は入れ替わるように板倉のポジションへ。そうなると長崎の右WBも困る。関口につくか、板倉からボールを奪いにいくか、背後にチャンネルランしている奥埜をケアするか。ベガルタ、この瞬間にスクエア形成。

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*止まらない板倉。3人を引き付けた。長崎はバイタルが丸裸になる結果に。ゴールハンター石原がそこに陣取る。さらには野津田がスペアポジションを取って、板倉の逃げ道、ネガティブトランジション時のカウンター予防のポジションを取っている。

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*その野津田へ。野津田から関口に。アベタク、奥埜、関口、野津田で今度はスクエアだ。その間、長崎は4-4をハーフスペースに密集させている。5バック系なのにボールサイドに密集させるから固いのなんのって。

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*関口から奥埜、奥埜から関口へリターン。瞬間、野津田が縦にランニング。空いたスペースにアベタクが降りる準備。それとも関口のカットイン?

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*もう一回板倉へ戻す。試合を通してこんなシーンが多かった気がする。何度も何度もやり直してはトライしてを繰り返していた気がする。気がするだけか。さあ、左ハーフスペースに皆集まって来た。全員集合。

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*丁寧に今度は大岩に。サイドチェンジキックを混ぜても面白かったかなと思った。まあ、選択肢のひとつなので。

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*そして板倉。長崎は、5-2-3か5-3-2のような形でブロッキング。やっぱり五稜郭か。

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*背後を狙っていた野津田に楔パスがつく。長崎、すかさず2枚でプレスをかける。ボールロスト。ここからネガトラで即時奪回。

 17分、4バック+奥埜・石原の2センター、アベタク・野津田の2トップ、両WBは、ベガルタのビルドアップの新機軸になる予感。

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 22分、4バック+アンカー奥埜ビルドアップ。この辺りから、長崎が対応し始める。5-3-2ブロックとし、3-2の五稜郭の中心に奥埜を捕えようとし始める。

 28分、ベガルタは変わらず4バックビルドアップ。長崎は慣れてきて5-4-1と併用でビルドアップを寸断。パスを入れさせない。

 40分のポジショナルな攻撃。やはり、シャドー脇、2センター脇のスペースは狙い目だ。ここではアベタクが狙う。

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*これからの試合、アベタクがキーマンになりそうだ。石原が空けたスペース、野津田が空けたスペース、敵が空けたスペースに入って、ビルドアップを助けたり得点に直結するプレーが西村抜けたベガルタに必要なのかもしれない。かもしれない。

 

(2)ネガティブトランジション

 ベガルタは、攻撃時に良い位置取りをしていたおかげで、即時奪回もスムーズだった。きちんと相手を押し込んだ状態で奪われても、すぐ奪い返せることを証明してみせた。

 13分、攻撃時にボールロストしたが、ボールホルダー近辺に密集。

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*野津田への縦パスをロスト。ボールホルダーに近い2枚がマークを捨ててプレッシング。奥埜は近くのシャドーによる。関口、板倉でエリア圧縮準備。

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*シャドーにボールが入った。エリア密集型ゲーゲンプレス、発動。4人でボール付近のエリアを握りつぶす。

f:id:sendaisiro:20180927005206p:plain*即時奪回、完了。

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*ボールは野津田から、右ウィングレーンの蜂須賀へのレーンスキップパス(サイドチェンジパス)だ。

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*警戒されてか2枚がケアしてきた。蜂須賀の得意の形、カットインドリブル。バックドアを狙い選手は無く、ドリブルアットならず。

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*セントラルレーンまで思いっきりマーカーを引っ張っていった。そして、左ウィングレーンで待つアベタクへ。ラグビーだったらトライできてそうな展開。

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*アベタクにも2枚。長崎は9人がボックス内に戻って守備。自陣では、ボールサイドに密集、相手陣では同数プレス、ボックス内では9人埋め、これが高木式カテナチオか。本当に固い。

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*そりゃ板倉がここまで上がれるわけで、がっちり守る相手にミドルシュートも鉄則だ。

 

(3)守備

 ベガルタは5-2-3ブロック。長崎のように3トップでハーフスペース入口封鎖。WBの迎撃守備が基本。

 

(4)ポジティブトランジション

 長崎はベガルタ陣で奪われたあと、ファウルでポジトラ時のカウンター、ポゼッション確保を妨害することで、自陣にきっちり戻った状態でリスタートさせられた。よって、ポジトラでの再現性ある攻撃というのはあまり見つけられなかった。きちんとカウンターリスクを防ぐよう設計されている高木長崎だ。

 

■後半

(1)攻撃

 ポジショナルな攻撃で攻撃を続行。ただ、細かいミスが目立った。パスミス、トラップミス、シュートミスとかとかとか。渡邉監督が試合後、「決めるべきところで決めないとこうなる」とコメントしていたが、仕留めるとこで仕留めないと、手痛い仕返しが来るということだ。位置的優位を保ち、相手を動かし、最終的にいい形を作るシーンもあったが、ゴールシーンに昇華させることができなかった。最後はもう、選手たちの才能を信じるより他ない。

 48分、板倉、奥埜、大岩、平岡+アンカー富田で4バックビルドアップ

 53分、降りてきたアベタクと富田、奥埜、平岡でプレス回避し、左ハーフスペースの板倉に。ドライブで前進し関口につけるが、タッチラインを割ってしまう。

 57分、板倉から中野。フォローに野津田が入り、野津田が空けたスペースに奥埜が入る。中野が左ハーフスペースにレーンチェンジ。野津田が左ウィングレーンに。レーン交換だ。そして、石原、奥埜、中野、野津田でスクエア形成。

 63分、この試合の行く末を決めるシーン。アベタクのシュートは無常にもバーを超えていった。

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 *平岡から右ウィングレーンの蜂須賀へ。長崎左WBが浮く。石原が偽9番の動きで右ハーフスペースでボールをもらいに降りてくる。左CBが浮く。奥埜が、走った。

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*蜂須賀に2枚、石原に2枚。左CBは石原にボールが出ると予測したのか猛チャージをかける。蜂須賀だって、そこまでプレービジョンが狭いプレーヤーでは、もう、無い。引き付けたら、離す。右ハーフスペースの出口に走り出す奥埜へ。届け。

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*パラレラで受けた奥埜。中央CBを引っ張り出すことに成功。不安になったのか、中央の右CBは後方のスペースを確認。何が見えた。青いユニフォーム1枚、白いユニフォーム2枚。自分のマーカーはアベタク。ボックス内、3対2だ。

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*奥埜がややマイナス気味にグラウンダークロス。誰もが重心がゴール方向に向かった。加えて、一人飛ばしパス。中野が思いっきり踏ん張った。

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*ポストマンになる中野。CBは完全に逆方向に重心がいっている。アベタク、キックモーションに入る。長崎は誰もつけていない。CHなのか、なぜ傍観しているんだ。

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*すべてが後手に回った長崎。先手を取ったベガルタ。そしてキックモーションに入ったアベタクと慌ててブロックをかけようとする長崎の選手たち。多くのひとの思いを乗せ、放たれたシュートは、むなしくもバーを超えていった。

 間違いなく勝敗を分けたシーン。ハズレを引いてしまった。ウィングバックというより、ハーフウィンガーのような立ち位置で相手WBを引っ張りだした蜂須賀。偽9番で1列下がり、ハーフスペースで受けようとした石原。この2人の立ち位置が生み出したチャンスだった。奥埜のパラレラランニングも見事だった。中野のポストも素晴らしい。アベタクや。ああ。アベタクや。アベタクや。でもFWはゴールでしか仕返しできない。

 

(2)ネガティブトランジション

 ベガルタは即時奪回を基本とする。攻撃でスクエアを形成して攻撃していたこともあり、奪回するためのポジショニングも整理されていた。57分の攻撃もスクエアアタックだったため、奪われたあとも、即時奪回へスムーズに移行。

 

(3)守備

 基本は、5-2-3でブロックを形成。ただ、相対的にセットディフェンスの時間が少なかったため、特に注目する点は無かったように思える。

 失点シーンについては、戦術兵器ファンマを意識しすぎたとも言えるし、ダンの無謀なチャレンジだったとも言える。あの状況で飛び出して何を得て、何を失う覚悟があったのか、これはシュミット・ダニエルにしか分からない。そして、それをどの方向に導くかは監督、チームスタッフはもちろん、僕たちサポーターの拍手やブーイングで決まるのだと思う。多分。

 

(4)ポジティブトランジション

 長崎がファールも利用して、カウンターを予防。じゃあポゼッション確保しようにも、同じ様にそれもうまくいかなかった。ポジトラが安定しないため、完全にセットオフェンスでしか攻撃手段が無くなっていった気がする。選択肢を削られたというか。長崎のセットディフェンスに招かれた感もある。

 60分、カウンター一番槍の石原にボールがつくがパスカット。このようなロストとファール利用での予防が徹底されていた。

 

■考察

(1)しかし!そちらがそうするなら、こちらもこうしよう!

 3トップでハーフスペース入口を封鎖してくることはある程度予想していた我らベガルタ。4バックへの変形を仕込み対応したのは見事だった。さらに、アンカーポジションをローテしたり、石原が偽9番やったり、瞬間的に4-2-4のような形でビルドアップしたりなど、これでもかと言うぐらい立ち位置を変えていった。まるで水のように形を変えていった。

 

(2)最後の一撃は切ない

 立ち位置を変えたり、型を変形させるのも最後はゴールを奪うためだ。そこにいくまでにパワーを使い切ったり、辿り着いてもフイにしてしまったりしては、それは永遠の淑女もそっぽ向くということだ。ミスはミスとしてそこはある程度仕方がない面はあるが、そこを突き詰めるのも今年のテーマだ。西村がいなくなったからとは、周りに言わせたくない。

 

(3)アベタク!トップをねらえ!

 残り試合のキーマンは、アベタクだと勝手に思っている。石原が空けたスペースに飛び込んだり、野津田が空けたスペースに入って来たり、ライン間で受ける、降りてビルドアップ出口になる、チャンネルを襲撃するとかとかとか、マルチファンクションな選手になれるはずだ。というより、そうなってもらわないと回らない気もする。そのポテンシャルもあるはず。ついに現れた3人目の適合者。覚醒する新たな野津田。アベタクの中の可能性が目を覚ます。多分。

 

■おわりに

 新しい形も見せながら、つまらないミスで敗れ、最下位相手に勝ち点3を献上した、というのがこのゲームをシンプルにまとめた時にちょうど良いフレーズになりそうだ。時として、勝ち点3を生贄に捧げ、チームが成長することが必要な時もある。一方で、どんな形でもいいから勝ち点3を死に物狂いで手にする必要がある時もある。僕たちがトップ5に残り続けるには、必ず勝たなければいけない試合がそう遠くない未来やってくるはずだ。その時、僕たちは必ず勝てるだろうか。その時、僕たちは死ぬ気で勝ちにもっていけるだろうか。負けたくない。だって負けるのは死ぬほど悔しいから。遠い長崎の地で、J1で最も勝ちに飢えるチームから、僕が感じとったことだ。

 

 「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」こう言ったのは、野村克也だ。

 

■参考文献

www.footballista.jp

www.footballista.jp

birdseyefc.com

spielverlagerung.com

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

Jリーグ 第26節 ベガルタ仙台vsFC東京(1-0) 「さあ行こうトップ4の世界へ」

■はじめに

 さてさて秋の三連休、初戦のゲーム分析いきます!ハモンロペスが帰ってきたり、この時期に上位対決に加わったりで、血沸く血沸く♪なお、ブログ書きに関しては、1試合分空くだけで、ずっとゲーム分析の更新ができていなかった気分になるくらいには、体にゲーゲンプレスが染みついてきたようです。空けた分の試合勘不足の方は、もともと勘なんか無いのと鬼のスプリントでカバーしていきます。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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 ベガルタは、板倉が代表戦から戻り3バックに復帰。現時点でのベストメンバーか。フォーメーションも2試合連続で3-4-2-1だ。相手が4-4-2系だと、3-1-4-2の採用がテンプレート化していたが、野津田復帰の影響か、元祖4-4-2殺しの3-4-2-1をオリジナルフォーメーションに採用している。

 一方のFC東京は、長谷川健太式4-4-2で対抗。5トップにはSHがSB化で、2センター脇のハーフスペース攻略にはSHで、ネガトラの即時奪回役もSHでとマルチファンクションなやり方。明らかに90分持たないが、早い時間帯で決着をつけてあとはリトリートからの仕上げのリンスが狙いか。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

■前半

(1)攻撃

 ベガルタのビルドアップは、いつものようにダンを加えたビルドアップ。東京が同数プレスでビルドアップ妨害を図って来たので、息を吐くように対抗。野津田も降りてビルドアップの出口になるなど、引っ掛けられてあわやのシーンは1つくらいしかなかった気がする。ポジショナルな攻撃についても、東京は自陣ではリトリートを選択してきたこともあって、いつものように4-4-2ブロック崩し。シュートは0本だったものの、丹念に、相手のゾーンに応じた守備方法に「応じて」攻撃を組み立てていた。

 東京の大方針は、リトリートから2トップのロングカウンター。仕留められなければ、ボールを戻してポゼッションを確保し二次攻撃。SHをハーフスペースに集め、トランジションの斬りあいに持ち込む。そこにベガルタが人数をかけて守れば、カウンターで石原しかいなくなるため、2CBが強く当たれる算段だ。そうやって、相手陣にとどめて窒息させる狙いだったと思うが、誤算だったのがトランジション時に「圧倒」までいけなかったことか。奥埜、富田とのデュエルも、必ずしも勝利していたとは言えないし、ゲーゲンプレスも野津田に回避されたりと、少しずつ狙いを外されていたように思える。

 2分、板倉、ダン、大岩+富田、平岡で擬似4バック&スクエアビルドアップで様子を伺う。やはり同数プレスの模様。

 7分、これまた2分と同じ形でビルドアップ。東京はベガルタのビルドアップ隊に同数のプレス隊を派遣。これで大勢が決まった。

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 12分、ダンから降りてきた野津田へと繋がっていくシーン。ビルドアップの出口は、早々に見つかった。野津田がケガの時、野津田役を探してたころが懐かしくなる。

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*今度は3バック+ダンのビルドアップ。富田、奥埜も加わり、M字のポジショニングを取っている。ボールは板倉へ。

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*板倉から奥埜、奥埜からリターンで板倉。相も変わらず、東京のプレスラインは高い。ディエゴ・オリヴェイラ、代表帰りの板倉をロックオン。

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*であるなら、引き付けて離すだ。奥埜と二人で2トップを引き付けて、右ハーフスペースの大岩へ。完全フリー。下を向く永井。

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*それでもう一回板倉。東京はSHもそうだが、2トップも相当な負担を負っているのではないか。守備も攻撃も。というより、ベガルタが負担になるよう強いるやり方をしているような気がする。気がするだけ。

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*次はダンへ。この辺でパス回してばっかりのように思えるが、状況は悪くなっていない。東京の2トップは縦関係でのチェック。徹底されている。そこを躊躇なく、奥埜につける日本代表GKシュミット・ダニエル

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*ダンと2人で1stラインを突破した奥埜。今度は、降りてきた野津田に縦パスをつける。これで、2 ndライン突破だ。

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*ディフェンスラインの手前、ハーフスペースで受けた野津田。最高のシチュエーションだ。前方には、関口、石原、アベタクで、選択肢も3つある。

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*関口につけた野津田はそのままチャンネルラン。自陣に侵入された東京は、リトリートに移行。関口はそのまま、野津田が空けたスペースを利用する。おなじみ。

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*そして悠々と上がってきた奥埜へ。この時点で、東京のディフェンスはキレイに4-4でセットされているが、ベガルタも使えるエリアが多い。しかも、ボールホルダーは、ノープレッシャーでルックアップしているときている。何も起こらないはずがない。

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*一度、左ウィングレーンにレーンチェンジしている野津田へ。同時に走り出す関口。東京はほとんどディフェンスライン一本になりかけている。

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*ここでハーフディフェンダーの板倉を加えるのがベガルタ式ポジショナルアタック。これでサイドでスクエアを作れた。セットアップ。

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*ボールはデュエルマスターに。東京はえげつないことに、ハーフラインは写真に収まりきっている。左ハーフスペースを4人埋めで対抗。さて、奥埜どうする。野津田は裏どりスタンバイ。関口はライン間だ。

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*選ばれたのは板倉でした。板倉は、ライン間の関口へ。右SHがパスカットを狙う。

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*関口から野津田へ。走り出す関口。さあ、少しずつ前進してきたぞ。東京のラインは相変わらず超圧縮されている。ベガルタは、セントラルレーンから左ウィングレーンまでで6人のボックスを作っている。綺麗だ。

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*そしてまた奥埜へ。さっきまでハーフェーライン付近にいたのに、ここまで前進してくるとは。左ハーフスペース出口はもうすぐそこだ。

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*ここでレーンスキップパス、サイドチェンジというやつだ。右WBの蜂須賀へ。対応するのは東。恐るべき長谷川健太式4-4-2。蜂須賀は、ローポストからクロスを上げるがシュートシーンに至らず。リトリートにはリトリートへの戦い方があると言わんばかりに、ジリジリと前進し、サイドチェンジ1本で、急展開させチャンスを作ったシーンだった。

 22分、3バック+2センターでM字ビルドアップ。ただ、板倉がボール狩りにあい、ショートカウンターが発動してしまう。失点には至らなかったが、これが長谷川東京と思わせるシーンだった。

 25分、22分を見てか、富田がヘルプで板倉、大岩の間に入り、ビルドアップを助ける。擬似4バックビルドアップに可変した。

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*そのまま右サイドに展開されたシーン。右ウィングレーンにレーンチェンジした平岡が1列前の蜂須賀にパス。

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*蜂須賀、寄せられるがそのままスペースにボールを出す。石原も降りてきている。いや、ボールを出した先は、平岡だ。平岡のレーンチェンジ+ラダーアップ(=1列上がること)だ。おそらく、平岡のマーカーも石原にボールがつくと予測してか、ボール方向にプレスをかけている。

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*平岡式二段階レーンチェンジ。マーカーの背中を取り、フリーでボールを受けた。

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*平岡式アラコルタ(カットイン)。右ハーフスペースを縦断し、左ウィングレーンにいる関口へとサイドチェンジパスを蹴る。

 富田やダンの擬似4バックビルドアップ、平岡のレーンチェンジ、ラダーアップ。それぞれが相手のビルドアップ妨害の様子を見て、判断し、形を変えて自分たちの有利な方向に持っていこうとしていた。ポジションを極めた時、ポジションは消えるんだ。

 44分、奥埜、板倉、野津田、関口でスクエアローテーション。最終的には、頂点の板倉にボールが渡り、ドリブルで前進。右サイドへと展開している。

 

(2)ネガティブトランジション

 ベガルタのネガティブトランジションは、ボールを奪われたら、奪われた周囲はプレスをかけるが、あとはリトリートしてブロックを形成。やはり、2トップ警戒といったところか。即時奪回できればいいが、スピードの永井との収支バランスを見た結果、このやり方を取ったのかと思う。

 

(3)守備

 ベガルタの守備は、ミドルゾーン、ローゾーンで5-2-3のブロックを作ることだった。3トップがハーフスペースを埋め、サイドに誘導させ、WBの縦スライドで押しつぶす狙いだ。ただ、富田、奥埜が浮くと、躊躇なく中央の高萩に縦パスが入ったシーンは結構危なかった。この辺は、5-2-3におけるWBや2センターの判断、3トップの限定など色々精度を高める方法はあると思うので、恐れずトライしてほしい。

*概念図

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  16分、橋本と高萩が縦関係になったところを奥埜が釣りだされ、高萩に縦パスがつけられた。最後は室谷の上がりを許している。

 20分、またも高萩に縦パスが通る。

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*2センターの脇、というより奥埜の裏のポジションを取っていた高萩。ここにガンガン縦パスが入るようだと、ベガルタも考えなければいけなかったのかもしれない。最後は、バイタルエリアにパスを通されたが、カット。そこにゲーゲンプレスをかける東京。完全に狙われていた。

 

(4)ポジティブトランジション

 ベガルタのポジティブトランジションは壮絶だった。東京のネガティブトランジション時のため、激しいプレッシングとエリア密集をどう超えるかが課題だった。東京のエリア密集型ゲーゲンプレスに対して、ベガルタは、2センターのデュエル、野津田の出口で対抗。あとは、縦志向が強く、2CBと石原をバトルさせる狙いだった。ただ、逆に東京は分かっているからこそ2CBが強く当たってきて、前半はそこまでうまくいっていなかった。

 20分、高萩からオリヴェイラへのパスをカット。エリア密集されているなか、富田からアベタクにボールをつける。

 32分、今度は大岩がカット。出口の野津田にボールを預ける。野津田は、前線の石原に縦パスを送るが森重に潰されてしまう。

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■後半

 後半通じてだが、東京の攻撃、守備ともに特段の変化は無かったように思える。前半の継続をしていたと思う。よって、ベガルタも戦い方を大きく変えることもなく、粛々とゲームを進めていたように思える。ポジトラ時だけ、奪ったら縦志向→敵陣でポゼッション確保に変えたくらいだ。それに応じて、東京が何かを変えたかと問われれば、ちょっと見つけられなかった。

 

(1)攻撃

 ベガルタの後半の攻撃は、ポジトラから攻撃移行が行われていた。カウンター完結より、一気に敵陣に運んだボールをそのまま保持し、セットオフェンスにつなげていた。前半、石原が潰されることで機能していなかったが、CBから離れ、カウンターの急先鋒をフォローすることでポゼッション確保に一役買っていた。あとは、淡々と、粛々とポジショナルにブロック崩しをしていた。

 

(2)ネガティブトランジション

 後半もネガトラ時、富田、奥埜の存在は大きかった。奥埜の一人ゲーゲンプレスや富田のセカンド回収で危険なカウンターの芽を摘んでいた。

 

(3)守備

 特に東京も前進するポイントを変えてきたようには見えなかった。よって、ベガルタの守備も前半の形を継続していた。70分あたりから、仕留めるのか、クローズするのかどっちにするのかザワザワする時間帯に。渡邉監督もまだ早いとの判断で、80分以降、椎橋、永戸を投入しゲームクローズを目指した。

 

(4)ポジティブトランジション

 縦志向が強かったベガルタ。ただ、収め役の石原が潰されては元も子もない。そこで、縦志向強く行くが、敵陣に入った段階でポゼッション確保に移行。東京が「敵陣はゲーゲンプレス、自陣はリトリート」の守備ルールを利用したように思える。そのまま縦にロングカウンターをすれば、奪われた場合、カウンターカウンターが入る。そうなるとゲームが落ち着かなくなり、その時は、東京が有利になる。渡邉監督がギリギリまで時間を経過させて椎橋、永戸を投入しゲームをクロージングさせたのも、この時間があったからこそだったように思える。

 東京は、ネガトラで奪いきりたかったが、奥埜、富田の2センターのトランジション、野津田の出口を封じきれなかった。リトリートからのロングカウンターも、2トップが3バックに仕事をさせてもらえず、ナイフのような危険なカウンターを繰り出せなかった。ただそれ以上に、そうなった時に次の一手が出せなかったのが辛いところだった気がする。リンスや富樫投入も、交代というより補充のような策で、ベガルタの手に対して対抗手とは言い切れなかったように思える。

 48分、ベガルタのカウンター。アベタクのクロスが東のオウンゴールを誘う。このゴール以降、ベガルタに活気が出て、ポジトラからイケイケドンドンになっていった。

 54分、とは言っても、オープンな展開に持ち込ませず、ポゼッションを確保するところは確保していた。

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*自陣でアベタクが回収、野津田にボールをつけ、野津田は駆け上がるWB蜂須賀に。蜂須賀は、そのまま、敵陣にボールを前進させる。このシーンで東京はすでに8人。自陣への戻りの速さが伺える。

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*蜂須賀、そのままぶっちぎる、野津田に渡す選択肢もあったが、反転し奥埜へ。味方の上がりを待つポーズ(小休止)プレーだ。

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*奥埜から平岡へ。ポジショナルアタック、セットアップ完了。

 61分、野津田が自陣左ウィングレーンでボールを受け、前線のアベタクへ。石原とカウンターを完結させるかと思ったが、最終的にボール保持する形に。セットオフェンスに移行。

 

■考察

(1)君が狭く守り広く攻めるのであれば、私は狭く攻め広く守ろう

 ベガルタとしては、相手のゲーゲンプレス、リトリートに対して、デュエルや野津田の出口、リトリートにはポジショナルアタックで対抗していた。相手の手に対して、こちらの手をといった具合に、一手一手対応していったように思う。それに対抗して、東京が何か仕掛けてきたのであれば、さらにその対抗策をといった流れのはずだったが、東京はあくまで設定されたゲームプランを遵守した。点差、ゲーム展開、相手の状況に関わらず。良い悪いかは別の話である。今回は、オウンゴールの1点でベガルタが勝てたという話だ。

 

(2)4-4-2を迎撃せよ

 それでもオウンゴールの1点のみである。しかも、4-4-2+SHのSB化で対応できると判断され、試合を通じて実行され、結果ポジショナルな攻撃では崩し切るに至っていない。超えるハードル、求められることは高いと思う。でも、やっぱりここに、さらなる上位進出を目指すためのヒントが気がする。多分。

 

(3)今後

 課題はあれど、トップ3に殴り込む権利を持っているのだと表明できた試合だったと思う。相手の対策に対して、対策を持っているし、こちらの狙いがより出る形に持ち込むこともできると思う。あとは、相手が上位チームであろうと慌てず粛々とゲームを進めること。困ったらハモンにボールを蹴ってもらおうか。

 

■おわりに

 上位対決に相応しいゲームだった。ポジショナル対トランジショナルのコントラストも最高だ。あとは戦術的な駆け引き、策と策のぶつかり合いが見れればなお良かった。両者が時間経過とともに、1段、2段、3段と形態変化し、戦いのなかで新たな形態へと進化する過程が見れたらより面白かった。でもそれは贅沢だ。勝てる時に勝っておく、これが重要だ。お前は、ベガルタの成長が見たいのか、勝利が見たいのかどっちなんだ。当然、成長しながら勝っていく姿だ。トップ4。さあ、ここから。まだまだいける。

 

「あんたなら出来る。出来るって」こう言ったのは、陣内栄だ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballistaRenato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

 「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com

 

サッカーブログを書いてみた!を振り返る回 -書き始め編-

■はじめに

 さて、今回は、ブログを始めて1か月の節目ということで、サッカーブログを書くことについて、簡単に振り返ってみようと思います。今まで、試合を見ながら何か思いついたり、試合後思うことがあったりはあれど、それを言葉にして、体裁を整えてレポートのような形にすることがありませんでした。じゃあやってみようか、思いついてもすぐ忘れちゃうし、というあまりに適当な理由で書き始めたわけです。今回、レポーティングすることについても思うことがでてきたので、忘れないうちに書いちゃいたいと思います。では、レッツゴー。

 

■書いてきたブログについて

(1)分析レポートのブログ化、どうしたいんだっけ?

 そもそも、もっとサッカーを概念的に捉えて、具体化して自分たちに近いところに持ってこれたらいいなと思ってました。例えば、ポジショナルプレー概念をベガルタの試合でのこのプレーがそうだと言えたらいいなと。ドイツやイングランドで唱えられている考え方を仙台の地で表現されていたら、サッカーを見ることがもっと面白くなると思っています。あとは、概念的というと難しいかもしれませんが、「こういうサッカーをしたい」という狙いや意図、もっと言えば思いだと捉えてもらって構わないです。

 でも、それらは基本的には目に見えない部分です。だから、ピッチに目を凝らさなければならないと思っています。また、ピッチから読み解くには、戦術理論だったり、分析のフレームワークが必要になると考えています。抽象的な部分が具体化され、それをまた抽象化する、といった作業でしょうか。抽象的なものを抽象的には捉えれれませんから。ピッチこそが「サッカー(彼ら)」と「僕たち(我ら)」とをつなぎ、「我々」を作っていると思います。

 

(2)ブログ分析、どう書いてる?

 では、ここまでゲーム分析してきた試合を数字で振り返っていきましょう。ベガルタの試合20節~25節までの6試合。その間4勝2敗。スコアレスドローを含む引き分けはありませんでした。ちなみに、無得点で終わった試合は、川崎戦の1試合のみ。そういう意味では、良い立ち位置をとって攻撃する展開を分析する機会が割とあったのかなと思います。得点も複数得点で、得点パターンも何通りかあったように思えます。分析観戦のやりがいがありました。

 分析は、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」を使って分析しています。基本的には、何を使っても良いと思っています。きちんと分析で使われているのであれば、自分が分析しやすいか、納得しやすいかで良いのかなと。僕が何となく思っているフレームワークより、ミランコーチング実績がある人のフレームワークを使わせてもらった方が信頼性が増すといった感じでしょうか。

 このフレームワークに則って、帰納法的に書いています。具体的には、10分の〇〇、34分の〇〇といった具合に。で、これらのプレー群は、こういうことだ、の形で書いてます。まあ、文字に起こすと仰々しいですが、極めてスタンダードなやり方です。あとは、試合を通してどうだったかをまとめていきます。

 文章構成、表現について、一番頭をひねってます。本当は、論文調でソリッドに書こうかなとも思っていたのですが、事前にPCとかスマホで試し見した時、「いや、これ読みづらいだろ(笑)」と思って止めました。あと自分の体力がもたないので(笑)。構成なんかはそのままですが、言葉使いだったり、細かい部分は、マイルドにしています。ただでさえ、小難しい戦術用語を使っているので、どんどん言葉が入っていけるような形で書くようにしました。読んでいて突っかからないよう、いつの間にか頭に入っていければいいなと。それで、関心持った言葉があれば、偉大な諸先輩方の参考文献を載せているので、一緒に勉強できたらいいなと思っています。

 

■実際に書いたけど、どう?

(1)サッカーを立体的に見る

 何より面白いなと感じるのは、分析するうえで、ベガルタ目線、対戦相手目線の二者間の視点、僕たちの視点(サードアイ)、ベガルタを取り巻く人たち以外の視点(第四の眼)をキャッチアップすることで、一つの試合が何層構造にも見えてきたことです。試合で起きていることは一つのはずなのに、違う考察だったり、同じ印象を持ったり。基本は、ブログを更新するまで情報をシャットアウトするのですが、更新後に確認して、将棋の感想戦のような気分を味わっています。必死に書き上げたあとのささやかなご褒美のような時間です。もちろんそこに、きちんとした自分の視点があることが重要なのだなと思います。

(2)言葉について目を揃えよう

 言葉ですね、やっぱり。自分が使う言葉が必ずしも、相手にも伝わるとは限らないということです。「俺はこう言った。あとはお前が解釈しろ」はやっぱり謙虚ではないですし、だからといってオフサイドのルールを毎回説明するのも少し違うかなと思います。本当は、オリジナリティある言葉を名付けたい気持ちもありますが、知識も経験もついていけてないですし、今は世の偉大な戦術家たちの概念、理論を援用していこうと思っています。

 

■おわりに

 振り返ってみて思ったのが結構シンプルというか、スタンダードなやり方で試合を見て、分析して、文章にしているなと思いました。結構そこは意識しているというか、目指していた部分だったので、まずはストレートな問いと解で見ようかなと思っていたので、少しはできていたようなので素直に嬉しかったです。

 ただやはり僕は、分析のプロではない一般人ですし、ベガサポであって、個人的な理由でブログを書いている人間でので、完全にフラットな眼では見れていないと思います。ムダムリムラがあるなかで、自分が感じたこと、思ったことをより正確に掴みとって、表現できたらなお良いなと思っています。

 幸いベガルタ仙台というチームは、明確な思いを持ったチームです。まずは、ここからサッカーについて、感じたことを考えていければなと。それが喜びであれ、悲しみであれ、怒りであれ、決断であれ、ピッチでそれが表現されているはずです。それをより深く、本質的な部分まで捉えられたらといいなと思っています。

 

Jリーグ 第25節 ベガルタ仙台vs清水エスパルス(2-1)「そうだここが出発点、ここが滑走路。」

■はじめに

 ではいきましょうか清水戦のゲーム分析!試合前に色んなことが起きて、気合入りまくりの我らベガルタ。正月とクリスマスと卒業式がいっしょくたに来た気分だ。少し違うか。さてブログを始めて1か月が経過したが、分析、文章能力のインテンシティは一向に改善されない。レッドブルでも飲もうか。毎回のごとく鬼の形相でゲーゲンプレスをかけてますがとりあえず質より量で。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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  ベガルタは、4-4-2に対して、久々の3-4-2-1。野津田が帰ってきたことが影響するのか、立ち位置サッカーが一番出る形で挑むことに。これがほぼベストメンバーかもしれない。

 対する清水は、ヨンソン式4-4-2。中2日、アウェイ戦とこれ以上にない罰ゲームを受けている。なぜこんなディレクションになった。トップに長谷川が入り、おそらくリトリート狙い。0-0の時間を長くして、隙を見て質で殴る狙いと思われる。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 また、スペーシング理論における「渦の理論」を援用し、攻撃時のプレー分析としている。

■前半

(1)攻撃 -血の巡るベガルタ式ポジショナルアタック-

 ベガルタのビルドアップ、ポジショナルな攻撃に焦点をあてると、前者はダン、後者は野津田が中心になって構築されていた。対する清水は、4-4-2ブロック。実際的には、4-4+2のブロックだった。4-4間は、厳しく圧縮し、奪ったら2トップへがプランだったのだと思う。逆に2トップ前後のスペースは空いており、ベガルタのCB、CHは、ボールを持つことができた。また、4-4間でも野津田、アベタクを中心にライン間攻撃を繰り返していた。

 5分、早速、ダンのゴールキックからアベタクのシュートに繋がる。

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 *ダンからのゴールキック、平岡がボールを受ける。ベガルタは3バック+2センターでビルドアップ。対する清水は、4-4-2リトリートを選択。

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 *平岡から右ウィングレーンの蜂須賀へ。ベガルタは、ライン間に石原、野津田が立つ。

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*ここで清水にボールを奪われてしまうが、ベガルタは即時奪回する。平岡、富田、奥埜がハーフスペース、セントラルレーンに立ち、ネガトラに備える。ネガトラ時の立ち位置は、攻撃時の立ち位置が良いので、非常に安定していた。デュエルマスターの力を十二分に引き出す舞台になっていたと思うし、富田の攻守を繋ぐポジションを取れていた。

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*見事回収に成功。清水の2トップ裏にスペースがあったことも関係するが、ポジショニングで奪回した。富田は、そのまま清水の右SHがポジショニングをサボったのを見逃さないアベタクにボールをつける。

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*セントラルレーンで受けるアベタク。清水の守備は、4-4がペナ幅で守るが、ベガルタがそれを囲むように立ち位置を取っている。最後はアベタクのシュートで終わる。開始5分で早速、ゴールキックからシュートまで繋げている。 

 8分、ベガルタの3バックビルドアップに対して、清水は4-4ブロック+2トップで防壁を築いた。実質4-4-2-0か。これでベガルタの攻撃に対する清水の守備の回答がはっきりした。

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 今度は13分、ダンのゴールキックから椎橋、大岩、奥埜でスクエアビルドアップ。右ウィングレーンに平岡がレーンチェンジするいつもの形だが、2トップ相手にはそこまで必要ないようだった。 

 19分、野津田のポジショナルアタック。野津田は右に左にとピッチ各所に顔出していた。

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*野津田プレー集攻撃編。初手、アベタクが4-4-2の痛点、2の脇でボールを受ける。野津田は中央のボックス4に、関口は左ウィングレーン、石原は4バックをピン留めだ。

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*関口にボールをつけるアベタク、中央に目をやる。スペースの確認、あるいは野津田とのアイコンタクトか。清水のチャンネルは空いている。アベタクなら走りこむ、間違いない。ボックス4の中心に立つ野津田は、誰にも捕まえられていない。

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*走り出すアベタク。追従するCH白崎。SH金子が必死にカバーするよう指示しているが、SB飯田は守るべき対象がいない。動き出す野津田。交差するベクトル。目指すはアベタクが立っていた場所だ。

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*アベタクについてたCH白崎、マークを止め、アベタクから離れる判断。野津田を警戒してか。代わりにファンソッコがチャンネルを埋めるが、CB間の距離が空いた。相変わらず野津田は、誰が捕まえるんだ。その間に椎橋、奥埜が前進し、スクエア形成。

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*ボールは椎橋へ。野津田にマークはついたものの、ボールを奪われない。アベタクがCB間のスペースを見つけた。ランニング準備。清水は、守備が大混乱。ボールサイドに4枚が集まっているがボールホルダーがフリーになるという緊急事態だ。しかもゴール前はCB1枚とSB1枚だ。長谷川もヘルプに来たが明らかに人数が足りない。

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*あっちこっちそっちってどっちしてるうちに、今度はアベタクが降りてきてローテ。CH白崎、CBファンソッコを無力化した。

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*前を向くアベタク。ライン間の廊下を走りだす野津田。最後はシュートにつながらなかったが、左サイドのアベタク、関口、椎橋、奥埜にプラスして野津田が入ることで清水の守備の約束の束をバラバラにした。野津田が立つことで、ボールが回り、味方は良い立ち位置を取ることができた(奥埜はカウンター予防のポジションを取れている)。

 27分、失点後は清水も前プレでビルドアップ妨害を図ってきた。そこは椎橋、ダン、大岩の立ち位置で回避。同時間帯で、野津田のコーナーから大岩のゴールで先制。

 36分、清水の前プレが激しくなるなか、息を吐くように椎橋、ダン、大岩、平岡で擬似4バックビルドアップで対応。最終的には、関口までボールを逃がすことに成功している。

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*失点後同数プレスに変更してきた清水。このシーン2トップ+左SHデュークの3枚でビルドアップを妨害している。ベガルタ陣にはフィールドプレーヤー5人に対して、6枚を送り込んでいるため、+1プレスになっている。でも、残念そこはクォーターバックのダンがいる。おおよそGKには見えないキックモーションで椎橋へボールを展開。

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*椎橋からのリターンを受けたダン。これでドウグラスの体の向きをいじった。長谷川はカバーのポジションを取ろうとしない。おかげで2トップの門が空いている。門の先で待つ富田に綺麗なキックモーションでボールをつける。

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*さあ今度は富田。清水の前プレ隊の裏に降りてきた石原に楔パスを打ち込む。これで、前プレ隊の5人を無力化した。パス2本で1stライン、2ndラインを突破した見事なビルドアップだった。

 

(2)ネガティブトランジション -攻守一体へ-

 ベガルタのネガティブトランジションは、帰って来た即時奪回。攻撃時に良い立ち位置を取っているおかげで、ネガトラも安定していた。 ここはほぼ、攻撃と守備と一体化していた。

 

(3)守備 -ボールが無くても立ち位置を整える野津田-

 ベガルタの守備陣形は、5-2-3のような形。ような形というのは、野津田の守備時の取り扱いだ。実際的には、5-2-2+1で+1が野津田のように見えた。ケガ明け最初の試合で、コンディションも考慮してだと予想される。基本タスクはコース限定で、自陣まで戻って守備せず前残り役になっていた。当然、清水の攻撃時間が長くなれば、自陣に戻ってはいたが、守備というよりポジトラのスイッチ役として戻っていたように思える。

 ベガルタは、SBに誘導し、WBとシャドー、CHが連携してボールを奪うエリアを設定していた。対する清水は、FWのサイド流れでCBを釣りだし、そこの突破を図っていた。

 13分、清水の攻撃の形が見える。このシーンから二次攻撃まで繋げている。

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ベガルタの守備時の狙いであるSBにボールを持たせる。ただ、SH金子がハーフスペースでボールを受けるために降りる動き。2センター脇を狙われた。

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*少しシーンが飛んでしまったが、金子に釣りだされた椎橋、関口の裏をFWに突かれた。大岩が対応。平岡、蜂須賀がスライドするが、中央は逆SHデュークが入ってきて2対2の危険な状態に。この攻撃で清水の攻撃に深さが出た。ベガルタはスペース埋めに2センター、WBが入るため、バイタル付近でセカンドボールを取られ続けた。そこからツインタワーに放り込んで殴り続けるというのがヨンソンのゲームプランだったのだと思う。疲労を考慮したうえで、最も効率的で攻撃能力が発揮できるプランで挑んできたということだ。

 40分、野津田のコース限定からボールをSBに持たせるよう誘導している。

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*野津田のプレー集守備編。清水が右サイドでつまり、左に展開するシーン。野津田は、中央のボランチを警戒しつつCBに対してパスコースを切りながらプレッシャーをかける。カバーシャドウだ。

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* CBのトラップが内側になるや軽いステップでプレッシャーコースを変更。サイドに展開されることはないと一瞬で判断。石原もコース限定されているため、ファンソッコに狙いを定めてランニング開始。富田もボランチをマークしにやってきた。

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*サイドは完全に切った。ベガルタもパスカット準備で選手につく。こうなるとSBに戻すか前線へのロングボールしかない。結果はロングボールだったが、野津田が清水のボール回し、ポジショニングを咎めたシーンだ。野津田のカバーシャドウでコースと時間を限定させ、味方が守備の正しい位置につくまでの時間を稼いだ。何もポジショナルプレーは、攻撃に限った話ではない。ベガルタのプレー原則に最も即した選手だと思う。

 

(4)ポジティブトランジション

 ベガルタのポジティブトランジションは、ポゼッション確保でもありカウンターでもあったと思える。関係しているのは、やはり野津田。ケースごとにポゼッションを確保するためにボールを意図的に下げたり、オープンスペースに蹴るシーンがあった。清水のリトリート策もあったので、どちらかといえばポゼッション確保寄りだったか。

 

■後半

(1)攻撃

 ベガルタは、失点後から70分ごろまで、清水の猛プレスを受け続けた。回避手段として、ロングボールもあったが、試合経過とともにコンディションが上がって来た野津田がいたためか、良い立ち位置を取り続けた。特に、左サイドのWBにつけてペナルティエリア角から攻めるシーンが多かった。時々、右から蜂須賀、平岡コンビがクロスの機会を伺う。左利きの野津田が影響したのか、それとも、清水が左の大外を見失うケースが多く、左に引き付けておいて視野をリセットして右からのクロスで仕留める狙いだったのか。これは監督、選手に聞いてみないと分からない。ここでは、「狙ってやった」ことを前提に分析している。

  清水は、ベガルタのビルドアップに対して、前半開始~失点、失点~70分ごろ、終了間際で選手の位置を変えている。具体的には、4-4-2-0から4-3-3、最後は5-4-1で実際的には攻撃を防いできた。過密日程、アウェイ、勝ち点1は黄金の価値がある。 

 73分、椎橋のドライブから最後に野津田のシュートにつながる。

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*ようやく解放された左ハーフスペースを椎橋が駆け上がる。ドライブだ。清水は大人しくなって、ブロックもローブロックになっている。連戦で疲れもある。我らだってそうなることがこの連戦で見られた。

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*椎橋から関口に。清水は、SHとSBで挟み込む。空いたチャンネルは、CHが埋める。アベタクが後半早々に交代した理由のひとつに、この埋める動きが関係していると思う。思うだけ。

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*関口がクロス。清水にはね返されるが、セカンド回収地点にはデュエルマスター奥埜。奥埜は、野津田にボックス内に位置取りしてもらっているおかげで、ファイナルサードではハーフスペース付近の場所にポジショニングできている。長かった。ようやく奥埜がいるべき場所にいる。奥埜はここに居ていいんだ!

 しかも野津田もフリー。奥埜は野津田に預けて、最後は野津田がシュートして終わっている。野津田と奥埜。組織の中の個。我々にとって欠かせないピースに成長した。

 81分、怒涛のポジショナルアタック。

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*左ハーフスペースでボールを持つ椎橋。清水は4-4-1-1ディフェンスだ。73分のシーンよりブロックラインが高い。奥埜を中心に椎橋、奥埜、中野、ジャメのセット、椎橋、大岩、富田、奥埜のセットでダブルスクエア形成。美しいポジショニングだ。

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*椎橋は中野へのパスを選択。動き出すジャメ。空いたスペースを狙う石原。そして、CBとSBのギャップを狙う帰って来た野津田。中野の選択は。

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*ジャメが空けたスペースに入って来た石原への斜めのパス。食いついたCBの裏にいる野津田にフリックするが、ボールが体とは逆方向へ。惜しい。

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*ならばと二次攻撃開始。野津田が中央の富田にボールを預けると、富田は、迷わず石原に楔パスを打ち込む。この時の清水、ペナ幅で守るが右CHと右SHの戻りが遅い。

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*楔を受けた石原は、ボールをキープ。さらに攻撃をやり直す。

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*サイドで2対2の同数を作る清水。ボックス内、ジャメ1人に対して、3枚のディフェンスにバイタルは逆サイドSHとCHが埋めている。万全だ。でも左でアイソレーションの中野が気になる。いや、気になるだけだ。

 あと細かいが右ウィングレーンでドリブルの角度が変わったタイミングでジャメには裏抜けを狙ってほしい。ヘディングで勝つ狙いなら話は別だけれど。 

 94分、ついに石原のゴールが決まり逆転する。ポジショナルアタック、ここに完結する。

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*左ウィングレーンで中野がボールを持っていたが塞がれ、椎橋、大岩へ。このシーン、渦の理論を用いて分析とする。

 渦の理論とは、ボールホルダーがドリブルした際、オフボールの選手がどのように動くのかを具体化した理論だ。渦の理論の包括概念として、スペーシング理論があるが、これは要するに「ボールを持っていない選手の動き」として概念的に捉えてもらって構わない。もともとはバスケの理論を援用している。

*概念図

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 この中の「裏を取る」プレーをバックドアと呼ぶ。このバックドアをボールホルダーがドリブルをした瞬間、あるいは、ドリブルしながら角度を変えた瞬間に合わせることを「ドリブルアット」と呼ぶ。この蜂須賀-中野-石原の逆転ゴールは、このドリブルアットでのゴールだった。 

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*ボールホルダーは、大岩。椎橋がフォロー(近寄る)、平岡がプルアウェイ(離れる)。蜂須賀は、元から高い位置にいるが、一応位置取りを高くしている。選手が判別できないが、バイタルで楔パスを待つ選手がいる。

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*大岩から平岡へ。大岩は足を止めることなく、平岡へフォロー(近寄る)、椎橋は大岩に近寄る近寄る。蜂須賀が高い位置。富田が空いたバイタルに降りて楔パス待機。見切れているが、左の画面端、中野がバックドア待機。

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*蜂須賀につける平岡、追い越していく。ボールホルダーが蜂須賀に変わった。ボックス内は4対5、クロスでもかなり厳しい。いや、5対5だ。大外、左ハーフスペースに中野だ。

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*蜂須賀がドリブルを開始する。でも縦ではない。蜂須賀が得意とするアングルを変える、進行方向、角度を変えるドリブルだ。蜂須賀に見えるのは、あのレーン。中野がいる左ハーフスペース。中野も見えた、蜂須賀が角度を変えたのを。右足に重心を乗せる。

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*ちなみにボールウォッチャーになる条件として、①ドリブルでつっかける、②キックする瞬間がある。今、蜂須賀は、そのどちらも満たしている。清水の選手の注目を一気に引き付けた。中野、中野は。中野は左画面端見切れている。でもかすかに残る右足は、地面から離れている。間違いない、バックドアだ。ドリブルアットの完成だ。

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*ボールは中野へ。慌ててマークにつくSH。今度は中野に注目があるまる。間髪入れずに中央に折り返す中野。石原がアディショナルタイムにダイビングヘッドで逆転ゴールを挙げた。

 かなりエモーショナルなゴールになったが後半から左を攻撃しつづけ、右からのアングルに慣れさせなかったところに、WBからWBへ攻撃。渦の理論におけるドリブルアットも含めて、非常にロジカルなゴールだったとも言える。

 

(2)ネガティブトランジション

 ネガティブトランジションの分析は、攻撃時に奥埜が良い立ち位置にいて、そのままネガトラで優位なポジションになっているので、攻撃とセットとし割愛。

 

■考察

(1)立ち位置サッカー、ここに極まる

 野津田が帰って来たことで、立ち位置サッカーの血の巡りが良くなった。ボールを持っていても、いなくても、味方の位置を調整できる、相手の位置を動かせることで、野津田がベガルタが帰ってきた。

(2)ペースを渡してしまう

 せっかくの立ち位置サッカーだったが、失点後は、清水のプレスに苦しんだ。もちろん、ボールを走らせて回避できれば一番いいが、それを極めるのと並行して、ロングボールの使用やビルドアップを工夫して回避手段としてた。日程的に厳しかった清水に攻撃的なプレッシングでペースを渡してしまうのは課題なのだと思う。

(3)どこまで進化できるのか

 役者はそろった。あとはどこまでこのサッカーを突き詰めらるのか。また、川崎から学んだのは、突き詰めたうえで、勝つための引き出しをより多く持つことだったはずだ。そうなると、優勝争い、トップ5はまだまだ遠い気もする。でも、だからこそ、どこまで進化できるか楽しみであるし、もっともっと上のサッカーができるはずだ。今、そう、思い込んでおこう。

 

■移籍する西村へ -おわりにかえて-

 日本のエース。CL出場クラブ、ロシアの強豪への移籍。今季11得点を上げる活躍。湘南戦でのファンタスティックなゴール。ルヴァン杯での躍進とニューヒーロー賞。とにかく外す。ゴールシーンが決定機に変わるFW。富山第一の高校生。それが、西村拓真というストライカーだった。

 何を言われてもどこ吹く風な感じは、本田圭佑というより久保裕也を思い起こさせた。20歳でスイスに渡った久保。21歳の西村。ボールを持った瞬間、ゴールを奪うことに夢中になる眼は、メッシやクリロナが持つ眼と同じだ。そう、ただのサッカー小僧なんだ。ちょっと他人よりゴールを奪うのが上手いだけの、ただのサッカー小僧だ。いつまでも小僧でいてくれ。それがサッカー選手として上手くなる秘訣かもしれない。多分。

 まあ僕たちにとっては、西村がいくつになっても小僧だ。あの子どもっぽさが残る表情でゴールシーンを決定機にしてしまい、数多くの信じられないゴールを残すんだ。今もそしてこれからも。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballistaRenato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2

footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「バルサのセットディフェンスに見るシャビのPG化」

footballhack(2010)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2010/12/pg.html

 「サッカー版『渦の理論』」

footballhack(2018)

footballhack.jp

 「ドライブに対する合わせ~『渦の理論』~」

NBAで凄いのはダンクだけ!?(2016)

nbanotdankudake.com

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

 「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com

Jリーグ 第24節 川崎フロンターレvsベガルタ仙台(1-0)「何度でも何度でもベガルタは生まれ変わっていく」

■はじめに

 さあさあ彼の地等々力での川崎フロンターレとのゲーム分析いきます!震災をきっかけに、クラブ以上の間柄となった友人のフロンターレ。優勝なんかしちゃったおかげですっかり大人びた雰囲気で、地元でつるんでた頃が懐かしくなった。そんな友人君に「あの頃のことはいい加減忘れろよ。俺たちいつまでも子どもじゃないんだぜ」とでも言われたような我らがベガルタ君。待ってろ、すぐ行くぜ。では、レッツゴー。

■オリジナルフォーメーションf:id:sendaisiro:20180826214433p:plain

 ベガルタは、3-1-4-2を採用したが、天皇杯のターンオーバーからメンバーを入れ替えている。CBには金、勤続疲労の奥埜に代わって椎橋が3センターの一角に、2トップにはジャーメインが入った。狙いはSB裏、CB脇を俊足FWが突く狙いだ。渡邉監督のコメントの通り、過去川崎と対戦するなかで同様の策で挑んでいる。他にもやり方は考えているようだが、メンバー構成からそれが最適解といったところか。

 川崎は、前節広島との首位決戦を制し、首位奪還の覇道を突き進んでいる。メンバー天皇杯明けだが王道メンバー。ボールを握って、殴って、奪って、握ってを繰り返す。いざとなれば齊藤学がリザーブでスタンバっている。川崎のブロック崩しが先か、ベガルタのカウンターが決まるか。あとは、予想される対抗策に対してどんな対抗策を持っているのか注目だ。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃 -ビルドアップ妨害を突破せよ-

 ベガルタは、3バックビルドアップから攻撃構築を図る。プラスして富田が加わることで、スクエア形成。相手の前プレに関して、ダンや富田が加わり擬似4バックになることでプレス回避に工夫を加えていた。

 川崎は、442でミドルゾーンでのブロック。ただ、ケンゴウのCBへのプレスを合図に、マンツーによるビルドアップ妨害に変形。さらにケンゴウは、GKダンへも深追いしていった。ポゼッション型チームのボール非保持時の標準装備であるゲーゲンプレスと同様、前プレによるビルドアップ妨害も必須項目だ。

 10分、3バック+富田のスクエア。前プレスイッチはケンゴウ。プレスVSビルドアップの火ぶたが切られた。

 17分、同じく3バックとアンカーによるポゼッション。川崎はミドルゾーンで442ゾーンを形成していたが、ケンゴウのチェックを合図に一斉に前プレを開始。ケンゴウはGKダンまで深追いする徹底振り。

 19分、ダン、大岩、ジョンヤから富田のアンカー落とし。右ウィングレーンに平岡がレーンチェンジし、プレス回避に工夫を加える。

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 ベガルタとしてもそれを剥がす術もいくつかあって、本当はそれを見せないといけなかったのだが、それ以前にミスしてしまった点が課題だった。まあミスを強いられたとも言える。あとはシンプルに、狙いであるSB裏にロングを蹴ることももっとあっても良かったのではと思う。

 

(2)守備 -532連鎖崩しを許すな-

 ベガルタ守備陣は532ブロックを形成。3センター+3バックで川崎に使われると厄介なエリアに人を割く算段だ。また、相手CBが前進してきたところを待ち構え、その裏にスペースを作る狙いだ。ここはある程度やれていたと思う。川崎相手に論理的に崩されたシーンは少なく、ゲームプラン通りだったかと思う。やはりこの守備を攻撃のために使いたかった。

 22分のシーン、小林が降りてきているが3センターが閉鎖。

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(3)ポジティブトランジション -コレクティブカウンターへの道のり-

 ベガルタの狙いは、ここ、ポジトラだ。いかに前がかかりになったSB、CBの裏を俊足FWがアタックするかが勝負の分かれ目だ。にもかかわらず、あまり効果的ではなかった。というより、きちんと狙ってやっていたのか少し分からなかった。奪うエリア、奪ってから展開するエリア、走りこむエリアとかとかとか。どちらかというと、ジャーメイン、西村のクオリティに任せていた部分があったと思う。ま、それがカウンターの質を決めるといえば、そうでもある。

 13分、ジャメがCBと1対1に。これがベガルタの狙いだ。

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 32分、椎橋がボールカットし、西村、中野へ。CB脇に走りこむジャメにボールが出るが、谷口にディレイされ、カウンタースピードを殺された。

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 36分、ボールを奪い、ポジトラ開始。椎橋からジャメに。

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*狙い通りミドルゾーンで。しかも、左から攻める川崎の攻撃を防ぎ、裏を狙う理想的な展開だ。

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*ジャメがCB脇で受ける。谷口と1対1だ。行け!ジャメ行け!だったが、鬼のトランジションで戻って来た大島にボールを回収されてしまう。このシーンだけ見れば、完全に川崎の失点シーンなのだが防がれてしまう。そうなると、ちょっと今日の狙いはうまくいかない様子だ。

 

■後半

 ベガルタは、ジャメに代えて石原投入。後半開始からの投入は、事前に予定されていたものかは不明だが、どこかで石原が投入されることは予想できていた。やはりジャメの出来具合が影響か。

(1)攻撃 -ケンゴウがいてもいなくなっても-

 後半も変わらず、ケンゴウがプレススイッチだ。CBからCBへのパスを見るや、チェックをかけてきた。ダンへの深追いも健在だった。ペップバルサでメッシ、シャビがGKまでチャージしたのを思い出す。ただ川崎の凄みは、ここからだった。ケンゴウが下がると442のゾーンディフェンスに移行。CB同士のパスにも442は崩さない。CBのドライブには、差し金のチャレンジ&カバーでディフェンスしてきた。ベガルタは、これを崩せなかった。例えケンゴウがピッチにいなくても、いない時の守備ができていたし、やれていた。中村憲剛という存在が作り出した守備体系と言っても良いと思う。

 *概念図

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(2)ネガティブトランジション -攻撃できないゲーゲンプレス-

 ベガルタのネガトラ。相変わらずだが、即時奪回ではなくリトリートを採用。ただ、まるで即時奪回のようにボールホルダーに対して、エリアを密集するような動きを取った。当然、同点、逆転を狙ってのことだとは思うがちぐはぐさは否めなかった。

 66分、敵陣でボールを奪われ、ネガティブトランジションに移行。

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*川崎は7枚、ベガルタは4枚だが、ボールホルダーに対して3枚。

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*ロンドでかわそうとする川崎。石原、奥埜、蜂須賀がエリア密集でプレーを限定させる。リトリートまでの時間を稼ぐ。まあ分かる。

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*平岡がヘルプ、西村が気持ち寄って来た。5枚がこのエリアにいるにもかかわらず、エリアの凝縮率は高くない。そして取られる背中。取ったのは誰?大島だ。

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*嫌な予感しかしない。ほとんどノープレッシャーでボールを蹴りだす大島。よく見ると、中野、富田も寄ってきている。リトリートは?

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*大島から降りてきた小林へ。マークする大岩、後ろのスペースが怖いのか潰し役になり切れていない。そして用意されたレイオフをするためのスペース。レシーバーは、大島だ。我らベガルタプレス部隊、ハーフコートに8枚を集めるがボールにはほぼプレッシャーがかかっていない。パスカット狙いでしょうか、いいえ、引き付けられたのです。

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*大島から、右サイドでアイソレーションの家長へ。教科書通りのオーバーロードアイソレーションだ。結局、ベガルタは、ハーフコートに9枚を送り込んでいた形だったが、右への展開を許している。プレー原則なのか、ゲームプランなのか修正する術はなかったのだろうか。

 

(3)守備 -鎖でつながれ3センター-

 ベガルタは引き続き3センターでブロック形成。最近は、541ブロックではなく、試合を通して532での中央閉鎖を選択している。この試合でも川崎相手にもかかわらず効果を発揮。ただ、後半になるとプレー強度が落ちるのかスライド、チャレンジ&カバーが間に合わないシーンが目立っていった。

 64分、川崎の3+1ビルドアップに対して、2トップ+3センターで構えるベガルタ。そこを神出鬼没のトーマス・ミュラーではなく、小林悠に、車屋から楔パスが入る。

 69分、今度は、大島にたった1人で、ベガルタの選手3枚が無力化された。

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*ハーフスペース入口に立つ大島。ここは通さないよと門番の中野が立ちはだかる。ただし、富田、奥埜が中野が空けたエリアを埋め切れていない。

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*大島は、一度谷口に出そうとするがキャンセル。石原のポジションをいじり、中野をひきつけた。

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*右サイドにつける大島。ボールが自分の足から離れ、サイドの選手につくまでの間、中野はボールウォッチャーになった。中野がセントラルをやる限界がここだ。後方のスペース管理ができていない。それを見逃す10番ではない。プレジャンプでスペースランの準備。

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*あっさりハーフスペース侵入を許した。中野は必死に追いかけるが、西村は逆方向に体が向いているし、蜂須賀はマークを捨てられない。富田、奥埜は相変わらず中央に。大島はプレジャンプ1本で3枚のディフェンスを無力化に成功した。このあと小林のシュートにつながっている。

 

(4)ポジティブトランジション -残念、そこは-

 この試合を通しての狙いは、ポジティブトランジション時のカウンターだ。珍しくというか、なかなか立ち振る舞いが決まらないベガルタだったが、この試合はある意味やることが決まっていたためか、出してと受けてが意思統一されていた。ただ試合を通して存在感を増したのは、西村や石原、ジャーメインではなかった。そう、川崎の2セントラルだった。

 53分、自陣で平岡がボールをカットし富田へ。カウンター待機だったが、守田がパス予測しカット。カウンター予防となる。

 64分、ボールを奪い狙いの右SB裏へ西村が走る。でも、大島がピタリとつきカウンターの速度を殺した。

 65分、ミドルゾーンでボールをカットし西村。石原とクロスランを絡めてカウンターを完結させたかったが、そこには大島が。2人とも縦に走るしかなく、チャンスをつぶしている。

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■考察

(1)強固なボックス6

 川崎相手に6枚でバイタルエリアをロックしたベガルタ。川崎相手にロジックで失点しなかった事実には自信をもっていいと思う。あとは、試合通しての強度をどこまで保てるか、スペースを人で埋めるので、動かされた時に自動的にスペースができる構造的な問題をどう解消するか。どちらも立ち位置で解決できるものと思っている。

(2)消えたスクエアアタック

 消えた。気づけばファイナルサードでスクエアを形成するシーンがほとんどなかった。82分に椎橋、奥埜、中野、西村で形成するシーンぐらいだったか。当然、この試合のゲームプランは、CB脇・SB裏へのカウンターが第一優先だったこともあるが、二次・三次攻撃でスクエアを作って攻撃に厚みを作るシーンは少なかった。メンバー構成もある。疲労もある。川崎相手だ。ポジションに人をつけて、狙いで選手をセレクトするベガルタだ。でも色々あるけれど、誰もが息を吐くように作れるようにはなりたい。ひいてはボールを持ち続ける手段なのだから。

(3)主導権

 自分たちの狙いを出して、相手の狙いを潰すのは、だれが監督だろうとまずは考えることだ。そのなかに、相手の良さを消すやり方だってある。ただ、もっとベガルタの良さを出しても良いのではと思う。湘南やガンバ、川崎もそうだが、相手に合わせ過ぎてペースを握られ、そこを跳ね返さなければならない状態になっていた。この試合もそうだ。今回ははじき返せなかった。相手が首位争いしているチームだからだ。いかに自分の土俵に引きづり込むか、ポジショナルワールドに引き込めるかトライしていきたい。

■おわりに

 攻守、トランジション、ポジション、選手の質、ゲーム運びいずれをとっても一味も二味も違かった川崎君。ディフェンス裏へのカウンターを防がれ、2手目、3手目を出せなかったベガルタ君。たしかにディフェンスはやれた。でもそれだけでは勝てないし、それで満足するような時期は遠の昔に過ぎ去っていると思う。紙のようなディフェンスと言われた川崎が重厚長大な442ブロックを構築しているところを見ると、勝つために何が必要かを何個も何個も持っているのように思える。やりたいことをやるために、やり方を変える。やりたいことと試合ごとの狙いとは、違うように思える。その狭間に今やるべきことがある気がする。気がするだけ。また、友人に課題を与えられてしまった。

 「僕は毎日朝起きると新しい自分に生まれ変わるんだ」こう言ったのは、リチャード・ギアだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

 footballistaRenato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」footballhack(2012)

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフ?あまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com

Jリーグ 第23節 ベガルタ仙台vsガンバ大阪(2-1)「ピッチ上の選択は。そして手にした勝利」

■はじめに

  ではではガンバ戦のゲーム分析いきます!すでにゲーム分析の前に天皇杯が行われており(マリノス戦)、果たしてこの分析にどのくらいの価値があるのか疑問だが、 Jリーグ屈指のイケメンショナルプレー対決、攻撃面で良いシーンが見られた我らがベガルタ。更新しないわけにはいかない。今回は、ゲーゲンプレスをかわされ、必死に80mのロングランで何とか書き上げました。もしよかったら、見ていってください。では、レッツゴー。

 

■オリジナルフォーメーション

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  ベガルタの3-1-4-2は、4-4-2系のチームに対してテンプレートになっている。2トップのコンビは、西村、アベタクの元気いっぱいコンビだ。狙いは、5レーンを意識して、粛々と立ち位置を取り続け、ゴールを奪うことだ。

 ガンバは、移籍してきた渡辺をFWに入れ4-4-2に。中央でガチャピンが攻撃のタスクを握る。監督は、ツネ様こと宮本恒靖監督になっている。ガンバはクラブOBに修羅場を経験させて監督としての経験を積ませる育成方針なのか。

 

■概念・理論、分析フレームワーク

 ポジショナルプレー概念における「5レーン理論」を援用して分析とする。これは、ベガルタが「レーンを意識して良い立ち位置を取って攻撃・守備をする」がプレー原則にあるためである。また、分析フレームワークは、Baldiの「チーム分析のフレームワーク」(2018)を採用する。

 

■前半

(1)攻撃 -スクエアアタックとチャンネルラン-

 ベガルタの攻撃のキーは、チャンネルとスクエアだ。ガンバの守備意識は高かった。SBもSHも献身的にボールにプレスをかける。けれど、自分が立っていた場所から動けば、そこは空く。当然、味方が入れば、埋めに入った選手が立っていた場所が空く。立ち位置攻撃の特性をガンバは対応しきれていなかった。ベガルタは、そこを突いた。

 

 17分ごろ、渡邉監督が外した1本とコメントした西村の決定機。GKを始点にチャンネルラン、スクエアを織り交ぜた攻撃。機能美あふれたトータルアタックだった。

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*始まりは、ダンのキック。

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*中央のアベタクがポスト、中野にボールがつく。そして左ハーフスペースへ。ガンバは、ネガトラ時だが自陣への戻りが遅い。

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*中野は、左ウィングレーンの関口に展開。そのまま、左ハーフスペースを駆け上がる。マーク役の小野瀬は、そのまま中野につき、結果チャンネルを埋める形になる。

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*関口の選択は、カットイン。チャンネルランにボールを合わせる選択もあるが、関口はレーンチェンジを選び、マーク役の三浦、ボランチの高に対して、「選択」を迫った。

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*ガンバ三浦はついていった。高は、何を守るか曖昧になった。結果は、ガチャピン1人でバイタルケア、富田が前を向いた。

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*富田は、右ウィングレーンの蜂須賀への展開を選択。倉田が対応する。ボックス内、ベガルタ4枚に対して、ガンバは6枚。ベガルタ+2枚だ。どこかでだれかが余っている。そう、左ウィングレーンの関口だ。アイソレーション、ステンバイ。

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*右ウィングレーンの蜂須賀のフォローに入ったのは、ハーフディフェンダー平岡。蜂須賀は、ボールを渡し、倉田の背中を取るランニング。倉田は、オジェソクに蜂須賀のマーク受け渡しを指で指示している。引き続きボックス内を見るが、マークがズレている。圧縮しているはずなのに、圧縮していない。西村が、浮いている。小さなズレが大きなズレを生み出す。平岡の選択は。(ちなみに、蜂須賀のランは、平岡、富田、中野でスクエア形成になる)

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ベガルタ、ガンバ、それぞれの選手がそれぞれの「選択」をした結果、平岡は、フリーでルックアップしてクロスを上げることに。倉田は「そこ」にいるが、平岡のクロスを防げていない、中央を中野へのパスコースを防げていない、蜂須賀も見切れていない。平岡のフォローが倉田を迷わせ、蜂須賀のランが頭をパンクさせ、「そこ」にピン留めさせた。

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*審判の時が来た。選択の結果、アベタクと奥埜がディフェンス2枚に、中野は、ファビオ、オジェソク、遠藤の頂点に。そして、ハーフスペースに西村が。ボックス内、5対4だ。奥埜のポストから、西村へ。その時が来た。ゴールシーンが決定機になった。

 

 決まっていたら先制点だったシーン。ダンのキックに始まり、中央→左→中央→右と振って、チャンネルラン、スクエアを織り交ぜて、平岡のクロスから西村のシュートが。特に、中野のチャンネルラン・スクエア頂点作りと関口のレーンチェンジ、平岡のフォロー・蜂須賀の背中取り、小さなズレは、大きなズレとして、ゴール前にフリーの西村を作り上げた点が素晴らしかった。大岩、椎橋以外が直接絡んだトータルアタックは、ベガルタの選手にとっても選択の連続だったが、同時に、ガンバの選手にも選択を迫った。決まっていれば、今季ベガルタのベストゴール!は言い過ぎだと思うけれど、立ち位置攻撃の極みだった。

 

 31分、右ウィングレーンで蜂須賀がボールを持ち、ここでも平岡がフォローに入る。オジェソクが食いついたタイミングでアベタクがチャンネルラン、ローポスト侵入。左ウィングレーンから入ってきた関口にマイナスクロス、シュートに繋がる。

 32分、右ハーフスペースを平岡がドライブ、倉田に仕掛ける。右ウィングレーンの蜂須賀につけ、リターンを受ける。平岡、蜂須賀、富田、西村でスクエア形成。平岡は下がってきた蜂須賀に預け、前へ。開けたスペースに富田が入り、蜂須賀からボールを受けるローテーション。

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 36分、奥埜が右ハーフスペースでボールを受けシュートを放つ。

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*始まりはやはり、クォーターバックのダンから。中央の富田につけ、右ウィングレーンの蜂須賀へ。倉田とオジェソクが対応する。オジェソクはWBへの食いつきが良かったが、チャンネルを広げる結果に。遠藤か倉田が埋めるか、逆サイドのSHがディフェンスラインに吸収されるかで圧縮を維持するが、倉田が頑張り過ぎるのかできていない。

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*それを見逃すデュエルマスター奥埜ではない。しっかりとチャンネルラン、右ハーフスペース、ボランチ背中でボールを受けることに。ちなみにボックス内は3対2だが、アイソレーションで関口がいる。

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*アベタクに楔パス、レイオフレイオフレシーブからのシュート。ガチャピンがアベタクのポストを潰しにいくが、結果、奥埜のシュートスペースを空ける。

 

(2)ネガティブトランジション -トランジションマン奥埜-

 ネガティブトランジションは、やはりデュエルマスター奥埜が主役。あとは3センターの距離を調整しているか。あとは、パスカットを狙うのか、パスレシーバーをマークするのか、奥埜のがんばりを昇華させる仕組みを構築したい。

 と言いつつ26分は、先制点を許したシーン。クリアボールを拾われた流れから、渡辺千真に移籍後初ゴールを許す。

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*ボールを持ったのは、ハーフスペースの高。前節一人ゲーゲンプレスを支えていた奥埜を振り切り、3センターの中心に侵入。渡辺はつかさず、バックドア。中野、奥埜はボールホルダーに絞り切れず、高のパスコースも切れていない。3人のレシーバーに対しても、マンマークでも、パスカットでもない気がする。エリア密集でもない。果たして、ゲーゲンプレスのタイプは。奥埜のがんばり+他の選手の立ち位置で調整か。

 

(3)守備 -5-3-2ブロック-

 ハイゾーンでは、マンマークでビルドアップ妨害。ミドルゾーンでは、5-3-2ブロックで進出を防ぐ狙い。3センターの脇をSBが進出するが、そこはスライド対応。

 9分、仙台のビルドアップ妨害。2トップと奥埜、中野、SBへは蜂須賀が準備。

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*ガンバは2バック+GK+ガチャピンでスクエア。ベガルタは、人につくで妨害を図っている。

 20分、ミドルゾーンでのビルドアップ妨害。

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*2バックポゼッションに対して、5-3-2-0の形でミドルゾーン圧縮・中央閉鎖。CBにフリーでボールを持たせて、ボランチを2トップ脇に落とさせる。落ちてきたところで、センターの一角が追いかける。ボールを下げさせて、ラインを上げる狙いだ。

 

■後半

(1)攻撃 -ポジショナルワールドへようこそ-

 同点、逆転を狙うベガルタの攻撃は、やはり、チャンネルラン、スクエアアタックだ。特に、オジェソクは蜂須賀へのチェック意識が高く、チャンネルを空けるケースが目立った。倉田も平岡への意識が強かったのか、埋める動きもなく、ガチャピン、高もケアしなかった。結果、奥埜のチャンネルランが決まった。また、スクエアも作れているので、ガンバは誰かにつくと誰かが空く、空けてもいいけれど、支出を回収する動き(最後はゴール前ではじき返す、サイドで奪う等)があまりできていなかった。

 *攻撃概念図。

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 49分、スクエア形成。蜂須賀が右ハーフスペース、奥埜が右ウィングレーン、平岡、富田の2センターのような形で立ち位置ローテ。倉田、オジェソクのポジションをズラすことに成功。

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 同49分、今度は、関口のカットインから、中残り、左ハーフスペース侵入。右サイドにボールがつくと今度は蜂須賀から西村、蜂須賀はハーフスペースにランニング。

 51分、ダンから富田へ。ここでも3バック+GKでスクエア。富田から蜂須賀へ展開し、蜂須賀にオジェソクを食いつかせることに成功。奥埜がチャンネルラン、ハイポストへのパスに繋がる。

 

(2)守備 -意地でも5-3-2ブロック-

 ベガルタは、試合通して5-3-2ブロックを敷く。対するガンバは、4-2-2-2で3センター攻略戦に挑む構図に。ベガルタは、スライドが間に合わないケースやサイドチェンジされたら明らかに決定機を迎えていたが、そこは何とか耐えた形だ。

 70分、5-3-2の痛点を突かれる。奥埜がサイドに釣られ、中央のガチャピンがリターン、間髪入れず楔パスを渡辺に打ち込んでいる。渡辺はサイドにレイオフ

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(3)ポジティブトランジション -迷っている間に行けるぜ-

  ベガルタは、奥埜、富田がポジトラのスイッチ役だった。これまでポジトラ時の立ち振る舞い、ポゼッション確保なのかカウンターなのか明確ではなかったが、この試合では、前に前に出ていった。ガンバのネガトラ時のポジション、動きとも関係すると思う。明らかに後ろのカバーを無視したボール奪取を試みて、外され、カウンターを受け続けた。西野ガンバを思い出させるような守備陣に、ディフェンスリーダーの宮本は、何を思ったのだろうか。 

 52分、パスカット型包囲?から、奥埜がカット。富田が左ハーフスペース脇に位置する西村へ。なぜか3人で奪いに行くガンバ。背中をアベタクが取る。奥埜、蜂須賀は、空いているバイタルエリアに向かう準備をする。奥埜にボールが入り、倉田が寄せるが、そこは引き付けて話す。アイソレーションの蜂須賀は、ボールを受けるとシュートまでいく。

 53分、富田がトランジションスイッチをオンに。西村に楔パスを入れた瞬間、ガンバ守備部隊は、9人がベガルタ陣に入ってきた。左ウィングレーンのアベタク、ボックス付近で中野にスイッチすると、ローポストで構える奥埜、そして西村の日本人トップタイのゴールで同点にすることに成功。

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*サイドで3枚がかわされるガンバ。むき出しのバイタルエリア。裸になった3枚のディフェンス。奥埜、蜂須賀が広大なエリアに向けてスプリント準備だ。

 56分、今度は奥埜がデュエル勝利。平岡、そして蜂須賀へ。ここでも平岡、蜂須賀、奥埜、西村でスクエア形成。蜂須賀の右ハーフスペースへのレーンチェンジから奥埜へ繋ぐ。左ハーフスペースで受けた奥埜は、レーンスキップで左ウィングレーンでアイソレーションの関口へ(渡邉監督の試合後コメント通り)。関口のアベタクへのクロスは、オジェソクのオウンゴールとなっている。オジェソクは、チャンネルを空ける、アイソレーションに対応するで苦慮していたところにオウンゴール。辛すぎる。ケガ明けの藤春と交代に。

  

■考察

(1)This is ベガルタ

 立ち位置を意識した良い攻撃ができたベガルタだったと思う。監督交代した、4-4-2系のチーム相手だったとはいえ、相手を見てどこが空いているのか、空いているところを攻撃することができていたと思う。今シーズンは、なかなか、相手にさせてもらえないケースが多く、質や数の力で勝ち点を得てきている。このタイミングで、きちんと立ち位置攻撃が出来るのだと証明できたことは大きい。

(2)調律するか、調律されるか

 やはり先制点を許したことはいただけない。渡邉監督の言うように、逆転する力はあるが逆転にはパワーがいるのだ。そのパワーをどこか別の場所で使いたい。ベガルタがポジショナルワールドに相手を引き込むか、相手がどんなワールドを展開するのか見てみようじゃないかなのか、それはもう将棋棋士の棋風に近い。でも、相手の手の内を知るために失点までする必要はないと思う。

(3)野津田がいなくても勝てるサッカーをしていれば、野津田が出てくる

 吉武博文が「10人のバロッテッリがいたら、1人は長谷部になる。その逆もしかり」と言っているが、今のベガルタは、野津田不在のなか、どうサッカーを進めていくか模索し続けていた。要するに野津田がいなくても勝てるサッカーを目指していた。結果はどうだろう、やっぱり野津田はでてきた。それが奥埜だと思う。当然、全く同じタイプの選手だと言いたいわけではなく、攻守・トランジション時において、タスクを持ち、相手の狙いを崩し、自分たちの狙いを実行できる選手になった。だから多分、今我々が目にしているサッカーは、選手の無限の可能性を引き出すサッカーなのかもしれない。

■おわりに

 「俺たちはゴールまで一度も間違えない。さあいくぞ」といった具合に、常に相手に対して選択を迫り続けたベガルタ。あとはそれを前後半の開始からやりたいし、もっと自分たちがやっているサッカー(プレー原則)に対して、自信を持つべきだ。そういう意味ではまだまだ伸びしろのあるチームだと思うし、個々の選手においても、まだまだ成長する余地もあると思う。誰かがいなくて自分たちのサッカーができないのであれば、それができるように、自分は何をするべきなのか。それを自分自身に問いかけ続けるサッカーだから、僕たちはどこまででも行けるのかもしれない。

 「恐れることを恐れるな、進め」こう言ったのは、イビチャ・オシムだ。

 

■参考文献

 「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」

footballista, Renato Baldi,片野道郎著(2018)

www.footballista.jp

 「怒鳴るだけのざんねんなコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」

footballista, 白井裕之(2017)

www.footballista.jp

 「footballhack 美しいサッカーのセオリー ビルバオ×ビエルサのコレクティブフットボール2」 footballhack(2012) 

http://silkyskills4beautifulfootball.blogspot.com/2012/08/blog-post_22.html

 「サッカー戦術分析 鳥の眼 カバーシャドウ?レイオフあまり知られていない戦術用語紹介」 とんとん(2018)

birdseyefc.com

「Counter- or Gegenpressing」 Rene Maric(2014)

spielverlagerung.com